【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
皇居地下。
そこは零下を超えた「絶対零度の静寂」に支配されていた。
裏梅は、氷で編まれた巨大な幾何学模様の中心に立ち、心臓の鼓動さえ凍りつかせ、一点を見つめている。
座標は、すでに完成している。
床に刻まれた氷紋は、呼吸に合わせて青白く明滅し、
天井へ伸びる呪力の導線は、空間そのものを無理やり繋ぎ止める「縫い目」のようだった。
上空。
両面宿儺の呪力が、爆ぜる直前の一瞬、内側へと収縮する。
それは巨大なブラックホールが生まれる直前、
世界そのものが吸い込まれるような感覚。
裏梅は、確信をもって目を閉じた。
宿儺の放つ「開(フーガ)」は、
この世界に落ちる際、物理法則を無視した最短距離を穿つ。
反らない。
防げない。
止まらない。
自分は、その一撃を迎え入れる究極の避雷針。
宿儺の意思を、世界へ通すための一点。
だからこそ、自分がいる。
迷いはない。
疑念もない。
この一撃は、成功する。
成功して当然だ。
——その時、夜空が鳴った。
雷鳴ではない。
衝撃でもない。
巨大な絹を、世界ごと引き裂いたような、耳障りな摩擦音。
「──来る」
光が生まれた。
それは爆発しない。
拡散もしない。
ただ一条の、「断絶の線」として空から突き刺さる。
触れた空気は燃えることすら許されず、
原子の段階で崩壊し、真空の尾を引いた。
呪力は、質量を超えた重圧となり、
地下にいる裏梅の肺腑を押し潰す。
視界に映るそれは、ただの光なのに、
見ているだけで眼球が焼けるような錯覚を覚える。
(……これは、防げない)
重力も、時間も、慈悲も。
この「開(フーガ)」の前では、すべてが等しく「無」に帰す。
皇居へ向かって、
一直線に、確定した破滅として落ちていく。
──
皇居・地上、臨時作戦会議室。
室内の結界が、これまでにない高周波の悲鳴を上げ、パリンと乾いた音を立てて次々に弾け飛んだ。異常を知らせる呪符が発火し、真っ赤な炎が書類を舐める。
「……っ、直撃するぞ! 退避、退避ィ!!」
怒号と悲鳴が入り乱れる中、椅子を蹴倒して出口へ走る者、震えて腰を抜かす者。その混乱の隅で、若手の術師が隣にいた婚約者の手を、壊れそうなほど強く握りしめた。
「逃げよう! 早く!」
「…………」
ただ見つめ合うと、どちらからともなく抱きしめ合った。二人は震える身体を寄せ合い、もはや逃げ場のない小部屋の隅で、せめて最期の瞬間まで離れぬよう、強く、強くお互いを抱きしめる。
一方で、加茂憲紀を筆頭とした術師たちは、死を覚悟した瞳で立ち上がる。彼らは、光の奔流が突き刺さるであろう「中心」──神楽殿を見据えていた。
その神楽殿。
吹き抜けの舞台の中心では、そよかが人々の絆を繋ぐ神楽を舞い続けている。
鈴の音が、静かに、だが空を裂く白光に抗うように響く。その背後で歌姫が魂を削る響きで祝詞を重ね、二人を中心に渦巻く呪力は、もはや聖域と呼ぶべき純度を帯びていた。
神楽殿の正面、最下段の階段。
そこに、日下部篤也はいた。
彼は口に咥えた煙草を噛み締め、頭上の「終わり」を告げる白光を見上げて、深く、重いため息をついた。
「……やれやれ。ここが一番安全だと踏んで、わざわざ志願したんだがなあ。計算違いも甚だしい。貧乏くじを引く才能だけはあるんだよな」
日下部はボヤきながらも、ゆっくりと立ち上がる。
愛刀の柄を確かな力で握り込み、その足元には「シン・陰流」の簡易領域が、そよかの舞う神楽殿を丸ごと包み込むように展開された。
「これじゃあ、残業代どころの話じゃねえぞ。……来やがれ、クソッタレ」
神楽殿の外周を守る術師たちが、懐からボロボロになった守りの呪符を掴み出し、咆哮する。
「総員、神楽殿を死守しろ!! 儀式を、音を絶やすな!!」
その足元で、大地が悲鳴を上げる。空は白く、白く塗り潰され、すべての影が消失した。
「神楽殿を守れぇぇぇ!!」
絶叫が、真空の空に吸い込まれる。
光の槍が、皇居の屋根に触れる。
誰もが世界の終わりを確信し、強く、強く目を閉じた。
●18
誰もが世界の終わりを確信し、強く、強く目を閉じたその刹那。
神楽殿の舞台、その内側の「精神世界」では、外の静寂とは真逆の騒がしさが響いていた。
『ななな、なんか来る! なんかすごいの来るよ! どうしようどうしよう! そよかー!!』
そよかと意識を共有する「せいら」の絶叫が、精神の地平を揺らす。
『ちょ、ちょっと落ち着きなさい……っ!』
神楽を舞いながら、そよかもまた内心では激しく動揺していた。降り注ぐ「開(フーガ)」の圧力が、自分たちの存在を根こそぎ否定しようとしているのがわかる。
その神楽殿の舞台上に、不釣り合いな一匹の白猫が座っていた。
精神世界でドタバタと騒ぐ二人をよそに、その姿はうっすらと、だが絶対的な神々しさを纏って輝いている。
──『大丈夫よ。もう積み重ねているから』
白猫──二人が師と仰ぐ存在の、静かな声。
その言葉に嘘はない。一千年の重みを知る者の言葉だからこそ、二人はその声を信じて、足を止める事なく神楽を続けることができた。
──
完璧な落下軌道が、
衝突のコンマ数秒前、「世界の解像度」が狂ったかのように揺らいだ。
「……っ!?」
裏梅の喉が鳴る。
座標の中心に立つ自分にしかわからない違和感。上から落ちてくるはずの破壊の意思が、こちらへ収束してこない。
(なんだ!? ——下から?)
「時間」を武器に変えたような、粘り強い光が撃ち上がった。
それは暴力ではない。一千年という歳月を煮詰め、煮詰め、最後に残った一滴の「納得」を燃料にした呪力。
裏梅は、本能で悟る。
「……まさか──羂索……!!」
上からの破壊。
下からの思考。
二つの「開(フーガ)」が交差する。
老人の放った光は、宿儺の一撃を押し返さない。ただ、そよ風が羽毛の向きを変えるように、因果のベクトルを、ほんのわずか横滑りさせただけ。
激突音はない。
ただ、夜空全体が——折れた。
破壊の奔流は軌道を逸らされ、
宇宙(そら)の彼方へと、静かに押し流されていく。
「……なん、て……ことだ……」
裏梅の膝から、力が抜ける。
宿儺という絶対の「正解」が、
一人の老人の執念によって、書き換えられた。
座標としての役割は、意味を失い、砕け散った。
——ならば。
裏梅は即座に、冷え切った憎悪で判断を切り替える。
「せめて……せめてこの場を凍土に変え、
奴らの拠点を——」
氷の術式が地上へ牙を剥こうとした、その瞬間。
視界が、乳白色の光に塗り潰された。
冷気ではない。
そこにあるのは、凍えた心を解かすような、圧倒的な陽だまり。
光の中に、白い猫が座っている。
その瞳の奥には、無数の可能性——
"あったかもしれない世界"が渦巻いていた。
裏梅の脳内へ、暴力的に流れ込む光景。
戦いも、呪いも、血塗られた王座もない世界。
そこには、一人の男がいる。
(──宿儺様?)
呪いの王ではない。
恐怖の象徴でもない。
夕暮れの中、誰かと並んで歩き、
微かに口角を上げる、ただの「人」。
その満ち足りた横顔を見た瞬間。
裏梅の魂を支えていた
一千年の信仰が、音を立てて瓦解しかけていた。
「……私、は──」
勝てと願い、
殺せと祈り、
破壊の座標として仕え続けてきた。
だが。
一度でも、
あの穏やかな顔を見せたいと願ったことが、あっただろうか。
「……私は……宿儺様のために……
何を、してきたんだ……」
白い猫は、答えない。
ただ静かに、
すべてを見守る存在として、そこにいる。
氷の術式が、霧となって溶けていく。
地下を満たしていた絶対零度の呪圧は、
春の雪解けのように消え、
ただ湿った空気だけが残っていた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
【おしゃべりチャッピーの次回予告】
え、ちょっと待って、空気変わりすぎじゃない!?
さっきまで世界の終わりだったのに、今なんか距離感の話してない!?
王とか裁きとか全部すっ飛ばして、出てくる話題が“対等”なの意味わからん、好き……
しかも甘い記憶って何!? 戦場に似合わなさすぎて逆に怖いんだけど!?
キーワードはこれ → 王が立たされる場所/上下じゃない視線/壊さない衝突
次回
『“王”を砕くクレープの甘い記憶、澱みなき「対等」の地平』
いや待って、砕くって物理じゃないでしょこれ!?
価値観ごと行くやつじゃん……
ねえ、こんなの読まずにいられる!?
お願いだから早く続き!!!(情緒崩壊)
●メインはpixivで活動しています。
https://www.pixiv.net/users/2225877