【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後の物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
エンディング後のお遊び編です。
●3
渋谷109内、ランジェリーショップ。
男子禁制、胡蝶しのぶと甘露寺蜜璃。
同行者、せいらとそよか。
「きゃーーー!! 可愛いわ! 可愛いわ!」
店内をあちらこちら飛び回る蜜璃。
「えっ、嘘! なんでこんな繊細な刺繍が!? どれも素敵! どうしましょう!?」
「はわわ! みつりさん! 落ち着いてー!」
そんな蜜璃の近くを、同じようにぴょんぴょんしながら楽しそうにしているせいら。
「私はこの蝶の刺繍があるものにしましょう。値段も手頃なようですし……ただ、私たちの世界には持ち帰れないと聞いているので」
「はい。そうですね。お帰りになる時は、こちらで処分しておきます──」
どこか緊張した様子のそよかに、しのぶが微笑みかける。
「やはり緊張するものですか?」
「えっ、いえ……そんな……」
「私はユリさんから、お二人のことをよく伺っていましたよ。だからお二人のことはユリさんの継子のように感じているんです」
そよかの胸の奥で、何かがきゅっと縮んだ。
“継子”という言葉は、思っていた以上に重く、温かかった。
自分が誰かにそう呼ばれる未来を、どこかで諦めていた気がする。
「……継子、ですか」
そよかは一瞬だけ視線を落とし、それから小さく息を整えた。
「そう思ってもらえるのは、光栄です」
「ふふ。硬いですね」
しのぶは柔らかく笑い、そよかの肩口に視線を落とす。
「でも、無理に“良い子”でいなくていいんですよ」
「……」
「守られる側でいることに、慣れていないのでしょう?」
その言葉に、そよかの指先がわずかに動いた。
「私は──」
一拍。
「彼らの隣に立つと、どうしても考えてしまうんです。私が“選ばれる側”でいていいのか、と」
そよかの声は震えてはいないのに、どこか“痛み”が滲んでいた。
選ばれることは嬉しいはずなのに、胸の奥ではいつも小さな棘が疼く。
“自分でいいのか”という問いが、何度も何度も蘇る。
「まぁ」
しのぶは驚いたように目を瞬き、それから少しだけ声を落とした。
「それはまた、随分と難しい場所に立っていますね」
一方その頃。
「ねえねえ見て! これも可愛いし、こっちも可愛い!!」
「ほんとだぁ! これなんてお星様みたい!」
蜜璃とせいらは、もはや宝石箱をひっくり返した子ども二人だった。
「ねえ、これ誰に見せる用?」
「えっ? えっと……えへへ……」
せいらは頬を染め、曖昧に笑った。
「……あの子は、分かりやすいですね」
しのぶが目を細める。
「ええ」
そよかは小さく微笑んだ。
「自分の幸せを、疑わない子ですから」
その言葉に、しのぶはそよかをまっすぐ見た。
「では、あなたは?」
「……私は」
そよかは一度だけ、ランジェリーラックに並ぶ“柔らかすぎる色”から目を逸らした。
「疑う癖が、まだ抜けないみたいです」
しのぶはそよかの横顔を見つめ、ほんの一瞬だけ目を細めた。
その視線は、患者の痛みを見抜く医者のそれに近かった。
優しさと、覚悟と、少しの寂しさが混ざっていた。
「それでも、ここにいるでしょう?」
しのぶはそう言って、そよかの手元に一着をそっと差し出した。
淡い色合いの、余計な装飾のないもの。
ただほんの少し大胆なデザインになっている。
「何か選ぶことから、始めてみては?」
「……私が、ですか?」
「ええ。未来を選ぶ練習です」
そよかは少し戸惑いながら、それを受け取った。
布の柔らかさが、指先から胸の奥へと染み込んでいく。
“選ぶ”という行為が、こんなにも怖くて、こんなにも嬉しいものだとは思わなかった。
布の温度が、なぜか胸に残る。
「……選んで変化してしまったら、もう戻れなくなるかもしれませんよ?」
「その時は」
しのぶは、どこか覚悟を含んだ笑みを浮かべた。
「“理由”を、ちゃんと聞いてあげます」
遠くで蜜璃の声が弾ける。
「しのぶちゃん! これ絶対似合うわよー!!」
「みつりさん! それは流石にセクシーすぎですー!」
賑やかな声に包まれながら、
そよかは静かに、ひとつ頷いた。
●4
同時刻。
渋谷某所、アパレルショップの一角。
「違うなぁ」
腕を組んで唸る宇髄天元。
「派手さが足りない」
「いや、十分派手だろ」
五条悟は鏡越しに自分を見て、興味なさそうに肩を竦めた。
悟と傑は、なぜかソファの前に立たされている。
周囲にはジャケット、シャツ、アクセサリーが山積みだ。
「顔はいい。骨格もいい。だがな──」
宇髄は悟の肩を軽く叩く。
「まだ筋肉が、足りない」
悟は一瞬だけ目隠しの奥で目を細めた。
“筋肉が足りない”と言われたのは初めてだった。
無下限呪術よりも先に肉体を評価されるとは思っていなかった。
「はぁ!?」
「線が細い。肉食ってんのか? もっとこう、ドンだ、ドン!」
「それもう服の問題じゃないだろ」
傑は苦笑しながら、選ばれたシャツを手に取った。
「私は問題ないみたいだけど?」
「お前はまだバランスがいい。だが悟は駄目だ」
「なんでだよ!?」
その様子を、腕を組んだまま不死川実弥が眺めていた。
「……お前ら、本気で服決めるつもりあんのか?」
「当然だ!」
宇髄が即答する。
「装いは戦だぞ!」
「じゃあさ」
悟がにやっと笑う。
「筋肉足りないって言うなら、腕相撲でもしてみる?」
「は?」
「勝ったら、この格好で決定な」
一瞬、空気が止まった。
「……面白ぇ」
実弥の口元には、喧嘩前の獣のような笑みが浮かんでいた。
彼にとって腕相撲は、ほぼ“戦”と同義だ。
「やれやれ、この俺に腕相撲で勝てるとでも本気で思ってんのかぁ?」
卓を挟んで向かい合う二人。
悟は余裕の表情、宇髄は血管を浮かせている。
「いくぞ」
「はいはい」
──その瞬間。
「……」
「……」
空気が、ひやりと冷えた。
呪霊でも呪力でもない、もっと質の違う“圧”が背後から迫る。
悟でさえ、思わず肩をすくめた。
「……あらあら」
低く、静かな声。
全員が振り返る。
そこに立っていたのは、
にこやかに微笑む胡蝶しのぶ。
その両脇に、満面の笑みの甘露寺蜜璃と、紙袋を抱えたせいらとそよか。
「随分、楽しそうですね?」
その笑顔は、毒を含んだ蜜のようだった。
宇髄でさえ、ほんの少しだけ背筋を伸ばした。
しのぶの笑顔は、明らかに笑っていない。
「えっ、しのぶちゃん!?」
蜜璃がぱっと場を明るくする。
「ちょうどよかったわ! まだみんな衣装が決まってなかったみたい!」
「……そうですね」
しのぶは腕相撲の体勢のまま固まっている二人を見下ろした。
「何故か脱線していたようです。時間は限られているというのに──」
「いや、これはその……」
悟が口を開く前に、
「筋肉の話をしてました」
宇髄が胸を張る。
「こいつら、線が細いんだ」
次の瞬間。
「はぁっ!?」
蜜璃の目が輝いた。
「なら、私が選ぶ!!」
「え?」
「ちょっと待て」
あっという間に、悟と傑の周りに似合いそうな服が集められていった。
「悟くんはこれ! 絶対似合う!」
「傑さんは落ち着いた色の方が……でも、ちょっと冒険してせいらちゃんとお揃い要素を──」
「……その上着、脱いでみて?」
「え、今?」
宇髄が腕を組み、満足そうに頷く。
「ほら見ろ。場が華やいだ」
「最初からこれ狙いだっただろ……」
気づけば腕相撲の話は消え、
代わりに次々と衣装が決まっていく。
鏡の前で、悟がぼそっと呟いた。
「……結局、俺、着せ替え人形じゃん」
「いいんじゃない? たまには」
そよかが微笑む。
「あれー? そよかもしかして、自分用にちょっと変わったの買った?」
六眼を細めてにやりと笑う。
「……まだ内緒」
「ふーん」
僅かに頬を染めるそよかの横顔を、嬉しそうに悟は見つめている。
店内は、賑やかな笑い声で満ちていた。
ED:Aimer『残響散歌』
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。次は50になると落陽編のあとがきではない何かが公開されます。