【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後の物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
エンディング後のお遊び編です。
●7
「しのぶちゃん! おはよ〜」
「おはようございます。蜜璃さん」
お台場近郊のシティホテル。
朝のビュッフェ会場にメンバーが揃いつつあった。
「一人で寝るとゆっくり眠れるかなーって思ってたけど全然だったわ」
「そうですね。今頃我が子はどうしているかとつい私も考えてしまいました」
二人の言葉には、普段は見せない“母親”としての素顔が滲んでいた。
色とりどりの大皿料理が並んでいる。
「わー! 凄いわ! こんなに沢山!」
「このお盆にお皿をのせて取っていくそうですよ」
大きな窓から朝の光が差し込み、白いクロスのテーブルが柔らかく照らされていた。
焼き立てのパンの香りと、コーヒーの湯気がゆっくりと混ざり合い、まだ眠気の残る客たちのざわめきが低く響いている。
和洋折衷の料理が並ぶビュッフェ台は、朝の活気と静けさが同居していた。
その少し奥、窓際のテーブルでは、すでに朝食が始まっている。
「うまい!!」
低く、しかしよく通る声。
白米を一口、焼き魚を一口。
一品ごとに丁寧に味を確かめ、噛みしめるたびに力強く頷く。
「うむ! 朝の食事というものは、身体に染み渡るな!」
「そんなに勢いよく食べなくても……」
向かいでユリは苦笑しつつも、同じように食事を進めている。
小さな器に盛られた和惣菜を、少しずつ、確かめるように。
「この煮物も美味しいわ」
「おお! ではそれもいただこう!」
皿が増えるたび、煉獄の表情はますます晴れやかになる。
その姿は、まるで修行の成果を確かめる時のような集中ぶりだった。
「よう! 朝から元気だな!」
そんな声と共に現れたのは宇髄天元だ。
装飾を外してもなお、歩いてくるだけで周囲の空気がわずかに華やぐ。
トレイを肩に担ぐように持ち、豪快に笑った。
「朝食ってのはこうじゃねぇとな!」
「音がうるせぇ」
続いて、不機嫌そうに現れたのは不死川実弥。
だが皿にはしっかりと山盛りの料理が乗っている。
「宇髄さん! 不死川さん!」
蜜璃がぱっと顔を上げる。
「おはようございます!!」
「おう」
「……おはようございます」
自然と柱たちが同じ一角に集まり、テーブルは一気に賑やかになった。
「朝飯がうまい街は良い街だ!」
煉獄が朗らかに言うと、
「それ、どんな理屈だよ」
実弥が言いながらも、箸は止まらない。
そこへ。
「おっはよーございまーす!」
「……おはようございます」
少し遅れて、会場の入口から二人が姿を見せた。
せいらはまだ少し眠そうに目をこすりつつも、柱たちの姿を見つけると一気に表情を明るくする。
そよかは周囲を一瞥し、人の流れと配置を自然に把握してから、静かに歩み寄った。
混雑の中でも、誰がどこに座れば動きやすいかを無意識に計算しているようだった。
「おはよう。二人とも」
ユリが気づいて小さく手を振る。
「もう食べてたんですね!」
「えぇ、杏寿郎がずっと“うまい!”って言っているわ」
「当然だ!!」
即答だった。
(──ふふっ、本当。お口に合ったようで良かった)
朝から響き渡る迷いのない声に、そよかは心の中で小さくガッツポーズをした。
料理の質に定評のある宿を選んだ自分の判断は、どうやら大正解だったらしい。
「でも……いいですね、この空気」
柱たちの賑やかさに思わず笑いながら、そよかは肩の力がふっと抜けるのを感じた。
柱、呪術師、そして異世界の来訪者。
本来交わるはずのない面々が、同じ朝食を囲んでいるという事実が、どこか不思議な温かさを生んでいた。
朝の光が差し込む中で、
誰もが一瞬、肩書きも役割も忘れていた。
「今日の予定は?」
「今日は、同人誌即売会とコスプレイベントに参加します!」
「どうじん……こすぷれ……? なんだか分からないけれど、とっても可愛らしくて楽しそうな響きね!」
蜜璃は頬を桃色に染め、指先を口元に当ててソワソワと身を震わせた。未知の世界への扉が開く予感に、彼女の胸の鼓動はすでに早鐘を打っている。
「ま、祭りの一種か。聞いたこともねぇが、派手なことが起きる予感だけはするぜ。俺様の祭りの神としての勘が、これは“化ける”って言ってるからな」
宇髄は片眉を上げ、不敵な笑みを浮かべた。
混乱を恐れるどころか、新しい『派手』をどう自分流に乗りこなすかを、すでに脳内で品定めしているようだ。
「前田さーん!」
せいらが元気な声で呼ぶと、前田まるこが大きな段ボールを台車で運んでやってきた。
静かな朝の光とは裏腹に、胸の奥では小さなざわめきが芽生えていた。
●8
コスプレ広場は、色とりどりの布とウィッグの波で満ちていた。
陽射しに照らされた刀がきらりと光り、揺れる羽織が風をはらみ、決めポーズの連鎖が途切れない。
人の熱気とカメラのシャッター音が、会場全体をひとつの舞台のようにしていた。
「なんだなんだぁ? 派手なのか地味なのか分からねぇ格好の奴ばかりじゃねぇか……意外と俺たちと似た格好の奴らも多いな」
宇髄を先頭に、コスプレ会場を練り歩く一行。
「はい! それはもう鬼滅の刃は大人気作品ですから!」
前田まるこが眼鏡を光らせ、カメラを手に撮影したがっている人の波を制御しようとしていた。
その指先はわずかに震えており、目の下には薄い影が落ちている。
(この囲みは過去一です! 違う。立体感が違う。写真じゃ足りない……!)
「皆さんの格好は“柱風アレンジ衣装”として事前告知してありますので!」
前田まるこが眼鏡を押し上げる。
宇髄がちらりと前田を見て、眉をひとつ上げた。
「おい、前田。だいぶ疲れてんじゃねぇか。無理すんなよ」
「だ、大丈夫です! これくらい……!」
声は張っているのに、足取りだけがほんの少し重かった。
「前田さんって、もしかしてお兄さんとかいるの?」
「蜜璃さん、私もあのゲスめ──いえ隠の前田さんを思い出してましたが、流石に無関係ですよ」
にっこりと微笑む胡蝶しのぶは、どこか何かを思い出して少し怒っているような様子だった。
「……え、待って」
「ちょっと、あれ見て」
「レイヤーさん? え、完成度やばくない?」
ざわり、と空気が一段低く揺れる。
最初に視線を奪ったのは、不死川実弥。
鍛え上げられた体躯に、嘘のない傷痕。
そして、姿勢が違う。立っているだけで“戦い慣れた者”の重心をしている。
「うわ……本物感すご……」
「目が合ったら斬られそうなんだけど」
「はっ、誰が斬るか」
ニヤと口の端だけ上げる。
何人かが、その場で崩れ落ちた。
宇髄は腕を組み、視線だけで周囲を一巡する。
「派手だなァ。悪くねぇ」
その声音に、近くのレイヤーが小さく悲鳴を上げる。
「声まで天元様なんだけど!?」
蜜璃が手を振ると、周囲のスマホが一斉に上がった。
「きゃー!! 可愛い!」
「え、スタイルどうなってんの!?」
「なんかいい香りがする!!」
しのぶが微笑む。
柔らかいはずの笑みなのに、なぜか数歩分の距離が自然と空く。
その静かな圧に、周囲の空気がわずかに引き締まった。
「撮影は順番にお願いしますね?」
「は、はい……!」
実弥は面倒そうに舌打ちしながらも、カメラの前に立つと無意識に顎を引いた。
その一瞬の鋭さに、シャッター音が連打される。
「……やべぇ、これ公式超えてない?」
「公式より生々しいって何?」
前田まるこは震える手でカメラを構える。
(光の当たり方まで完璧……いや違う、立体感が違う……“存在”が違う……!)
会場スタッフは一歩下がった位置から全体を俯瞰し、人の流れとカメラの角度を見極めながら、混雑が広がらないよう静かに誘導していた。
「……これ、ちょっと囲まれすぎてないか?」
緊張と高揚のバランスが、ぎりぎりで保たれる。
遠巻きに見ていた一般参加者がぽつりと呟く。
「なんかさ……コスプレなのに、コスプレじゃないみたい」
その言葉に、誰も反論できなかった。
衣装は“風”。
だが立ち姿は、本物の重みを知っている。
太陽の下、
笑い声とシャッター音が混ざる。
戦場ではない。
だが、誰かが息を呑んだ瞬間、空気は確かに“構えた”。
その緊張と熱気の狭間で、太陽だけが変わらず照りつけていた。
ED:Aimer『残響散歌』
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。次は55になると廻星編のあとがきではない何かが公開されます。