【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗った後の物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。

エンディング後のお遊び編です。


118遊興編 11・12:信じる奇跡と、兄貴の眼光

⚫︎11

 

 大人たちの足が自然と止まる中、ひとりの小さな影だけが、迷いなく前へ進んだ。

 

「……あっ」

 母親が慌てて手を伸ばすが、届かない。

 

 その小さな影の正体は、悟次郎のコスプレをした子どもだった。

 白い目隠しは紙製で、少し曲がっている。

 手には、折り紙で作った花。

 

 幼い悟次郎は、その花を胸に抱えたまま、白い存在の前で立ち止まった。

 

 ユリが、ゆっくりと視線を落とす。

 

 その瞬間だけ、空気の密度がふっと緩む。

 

「あの……これ──」

 子どもは、胸の前で花をぎゅっと握りしめたまま見上げる。

 

 ユリは、ほんのわずかに目を細めた。

「いただけるのかしら?」

 

 世界が、その微笑みに合わせて色の階調をひとつ変えた。

 

「うん!」

 差し出した花がまだ畳まれたままなことに気付き、

「──ちょっと待って!」

 と慌てて言いかけたその瞬間──

 

 ユリが微笑むと、折り紙の花は自分から花弁を広げてみせた。

「!?」

「ありがとう。嬉しいわ」

 少年の手から花を受け取る。

 

 せいらとそよかが、思わず互いの目を見合わせた。

その瞳には、言葉にできない驚きと温かさが同時に宿っていた。

 その瞬間、三人の白が重なり合い、柔らかな光の輪が足元に広がった。

 

「……かわいい」

 せいらが小さく呟く。

 

 そよかの呼吸が、ひとつだけ静かに深くなった。

 

 

「悟次郎が好きなの?」

「うん! 優しくて強いから! でも──」

 言葉の続きが喉の奥でほどけて、子どもは小さく俯いた。

 

 その仕草だけで、悟次郎の行く末を知る者たちは、息をひとつ呑み込むように、表情がわずかに揺れた。

 

 

「……大丈夫よ」

 

「あなたが彼らを強く信じれば、必ず道は開けるわ」

 

 

「あなたは本当に……お師匠様?」

 

 ざわめきが、一瞬だけ止まった。

 

 ユリのまなざしが、そっと子どもに焦点を結ぶ。

 その動きだけで、空気が柔らかく揺れる。

 

 

「さぁ、どうかしら?」

 

 声は、風よりも静かで、光よりも近い。

 

 子どもは、少しだけ考えるように首を傾げた。

 

「……ぼくは、そうだと思う」

 

 ユリは、ほんのわずかに目を細めた。

 その微笑みは、世界の色をひとつ明るくする。

 

「あなたが信じてくれるなら──」

 

 折り紙の花にそっと触れる。

 風もないのに、花の折り目がふわりと揺れた。

 

「そうかもしれないわ」

 

 子どもの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「やっぱり……!」

 

 その瞬間、周囲の観客が一斉に息を呑んだ。

 誰もが“見てはいけない優しさ”を見てしまったような顔をしていた。

 

 悟次郎コスの子どもは、胸の奥からじんわり湧き上がるような喜びを抱えたまま、顔をほころばせていた。

 

──

 

「……え、ちょっと待って。僕の……ちっちゃいの……?」

 悟が完全に固まる。

 

「悟、落ち着け。あれは君のミニチュアではない」

「いや無理、可愛い、尊い、死ぬ」

 

 子どもはそんな大人の混乱など気にせず、

 ユリに花を渡せたことだけを宝物みたいに抱え込んで、にこにこと笑っていた。

 

 

「ちょ、ちょっと待って……悟次郎ちびっ子……尊……っ!!」

 前田まるこ、涙目で崩れ落ちる。

 

 

●12

 

 前田屋──東ホールの一角にある、前田まるこのスペース。

 

 新刊の山、差し入れのペットボトル、普段は補助監督をしている売り子二名。

 その前に、そよかとせいらが並んで立っていた。

 

「いらっしゃいませー! 新刊ありますー!」

 せいらは元気いっぱい。

 そよかは、前田の代わりにお釣りの計算を手際よくこなしている。

 

 前田まるこは、椅子に沈み込むように座り、両手でエナドリを抱え込んでいた。指先が少し震えていて、缶の表面に残った結露がぽたぽたと落ちている。

 目の下のクマは、もはやメイクのように定着している。

 

「……前田さん、少し休んでていいですよ」

「だ、大丈夫です……! 私は……スケブも描かなきゃ……」

 声だけは強気だが、手元のペンはぷるぷる震えていた。

 

「……全員ここにいるには、ちと狭ぇな」

 宇髄が周囲を一巡し、低く呟いた。

 前田屋の前は、ただでさえ人の流れが激しい。そこに柱と呪術師が固まれば、通路が詰まるのは当然だった。

 

「確かに……この人数で固まってると、前田さんのスペースが埋もれちゃいますね」

 そよかが小声で言うと、前田まるこがエナドリを抱えたまま必死に頷く。

 

「じゃあ、現地案内できる組と、見て回りたい組で分かれましょうか」

 ユリが穏やかに提案した。

 

「ふむ、それが良いな。人の流れを乱すのは本意ではない」

 杏寿郎が朗らかに頷く。

 

 こうして自然に、いくつかの小さなグループができあがった。

 

 灰原の隣には杏寿郎とユリ。

 少し離れたところで、七海がしのぶと蜜璃に何か説明している。

 悟と傑は、宇髄と肩を並べて歩きながら、すでにどこかへ向かう気満々だ。

 

 そして、そよかと不死川実弥。

「……行くぞ」

「は、はい!」

 実弥はどこか不機嫌そうな表情のまま歩き出した。

「そよかー!! 僕も行くー!」

「お前はこっちだ!」

 ニヤっと笑った宇髄に、首に腕をかけられて阻まられる。

 

 四つの小さな一行は、それぞれの方向へと散っていった。

 

 東ホールの熱気は、午後になっても衰えることを知らなかった。

 人混みの中で、そよかと不死川実弥は並んで歩いていた。気づけば、この二人だけが並んで歩く形になっていた。

 

(……この人、やっぱり威圧感が凄いわね)

 そよかは隣を歩く実弥の横顔を盗み見る。

 鍛え上げられた肩幅と、歩くだけで周囲の空気がわずかに引くような鋭い眼光。

 周囲の一般参加者が無意識に道を開けるのを感じながら、そよかは少しだけ緊張していた。

 そんな時だった。

 

「……あ」

 前方から歩いてきた一人の青年が、実弥を見て立ち止まった。

 その青年は、隊服に独特の髪型……不死川玄弥のコスプレをしていた。

「あ……あの……っ」

 青年は、目の前の「本物すぎる実弥」の迫力に圧倒され、震える声で絞り出した。

「……あ、兄貴……ッ!」

 

 そよかは息を呑んだ。

 実弥がどう反応するか、一瞬怖くなったからだ。怒鳴るのか、あるいは無視するのか。

 

 だが、実弥は足を止め、青年をじろりと一瞥した。

 一瞬だけ、何かを思い出すように目が細くなる。

 それから、ふっと短く鼻で笑った。

 

「……フン。不格好な髪型してやがるが──」

 実弥の手が、青年の頭に荒っぽく、けれどどこか温かさを孕んだ動作で置かれる。

「……似合ってんじゃねぇか。しっかりしろよ」

「……っ!! はい!! ありがとうございます、兄貴!!」

 青年は顔を真っ赤にして、泣きそうな、けれど最高の笑顔で頭を下げて走り去っていった。

 

 そよかは、呆然とその光景を見ていた。

(……今、この人、笑った……?)

 怖くて、荒々しくて、近寄りがたい人だと思っていた。けれど、今の短いやり取りの中にあったのは、不器用すぎるほどの「兄」としての情愛だった。

「不死川さん……意外と優しいんですね」

「あぁん? どこがだ。ただの気まぐれだろォが」

 実弥はすぐにいつもの不機嫌そうな顔に戻ったが、そよかには分かった。

 

(……この人は、思っているよりずっと、怖くない人なんだわ)

 そんな穏やかな空気を破るように、実弥の目がふいに鋭くなった。

 

「おい、そよか。あれを見ろ」

 実弥が顎で示したのは、少し先にあるサークルの前だった。

 一人の男性客が、新刊を一冊手に取り、その“下に別の本を重ねて”会計を済ませた。そして流れるような動作で鞄に入れる。

「不死川さん? どうしました?」

 

「……今の動き、怪しいな」

 実弥は迷いなく大股で歩み寄り、その男性の肩を背後から掴んだ。

「おい」

「えっ……? な、なんですか……っ!?」

 振り返った男性は、実弥の「本物の殺気」を至近距離で浴びて、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。

「お前が今さっき買った新刊。その下に、もう一冊別の本が張り付いてたみてぇだなァ?」

「あ……えっ!? いや、これは……気づかなくて……!」

「気づかねぇなら、次は目ん玉ひん剥いて確認しろ。今のままじゃ“持ってった”ことになるぞ。……返してこい」

 実弥の声は低く、淡々としていた。

 怒鳴りもせず、ただ「事実」という刃を突きつける。

「す、すみません……っ! 本当にすみません!!」

 男性は平謝りしながら、慌てて重なっていた本を戻しに走っていった。

 周囲にいた売り子や参加者たちが、何が起きたかを理解してざわつき始める。

 

「……不死川さん、よくあんな一瞬で気付きましたね」

 そよかが追いついて声をかけると、実弥は面倒そうに後頭部をかいた。

「見りゃ分かるだろ。手の動きが不自然だったんだよ。

一冊だけならそんな持ち方はしねぇ。

 “隠す時の癖”ってのは、どいつも似てる」

(……動体視力だけじゃない。この人は、常に周りの『異変』に気を配っているんだ)

 

 そよかは、改めてこの男の「柱」としての本質に触れた気がした。

「それに、目線が泳いでたしな。ああいう奴は、触っちゃいけねぇ場所を触った時だけ、妙に肩が固まるもんだ」

「不死川さん……今の、すごくかっこよかったです」

「……チッ。別に普通だろォが」

 実弥はふいっと顔を背けたが、耳の端がほんのり赤い。そよかは、その小さな変化に気づいて、胸の奥が少しだけ温かくなった。

 

 その後ろから、エナドリを片手にふらふらと現れた前田まるこが、震える声で呟く。

「……さ、さすが不死川さん……!! イベント会場の治安維持まで……!! 公式のSPより頼もしい……!!」

「騒がしい奴だな……。おい、そよか。次行くぞ」

「は、はい……!」

 そよかは、実弥の少し後ろを歩きながら、ふっと微笑んだ。

 強くて、鋭くて、けれど誰よりも繊細で優しい。

 

 この『遊興』の時間は、まだ始まったばかりだった。




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
先日55になって廻星編のおまけが公開されました。
60はどうしようかなーと思ってますが、黎明編のおまけパート2を書き下ろしました。
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