【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗った後の物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。

エンディング後のお遊び編です。


119遊興編 13・14:不滅の情熱と、職人が抱えた危うい火種

●13

 

「ギョロちゃん!! いえ、煉獄さん!! その節は大変お世話になりました!! ありがとうございました!!」

 灰原雄は、人混みも構わず深々と頭を下げた。その姿は、かつて死の淵から自分を救い上げた「炎の柱」への、揺るぎない敬愛に満ちていた。

「うむ!! しかし、今の結果まで辿り着いたのは間違いなく君が努力した結果だ!! 顔を上げるんだ、灰原少年!!」

 ガシッ、と力強く肩に手を置かれ、灰原はその熱に目を細める。

「はいっ!! 僕、煉獄さんに教わった事と、言ってもらった言葉……一日たりとも忘れたことはありません! 僕の心は、今も燃えています!!」

 二人の周囲だけ、空気がひときわ温かく澄んでいく。

「ところでユリさんは?」

「うむ! 元々彼女は人目に触れる事を好まないところもあってな。今は気配を消している! なに! すぐそこにいるぞ!」

「そうなんですか?」

「この時間は、彼女が贔屓にしている喫茶店が近くにあると言うから、君とはこれからそこに行こうと思う!!」

「わかりました!!」

「その店は今の季節、絶品の『さつまいも』のタルトを提供しているそうだ! 灰原少年! 君にもぜひ食べさせたい!!」

「さつまいもですか! 良いですね、僕も大好きです! しかも煉獄さんと一緒に食べられるなんて、最高に幸せですよ!!」

「時間には限りがあるからな! 急ぐぞ灰原少年!」

「はい!!」

『イベント会場内では走らないでくださーい』

 スタッフの制止の声が響く。

 二人は、確かに走ってなどいなかった。

 灰原は背筋を伸ばし、煉獄は堂々と背筋を伸ばし、一歩一歩、地面を力強く踏みしめている。

 

 だが、その一歩が刻む距離が、常人のそれとは決定的に違っていた。

 すれ違う人々が、突如として頬を撫でた「温度を帯びた風」に、思わず服の裾を押さえる。

 

『会場内では──はやっ!? 歩いてるのに!?』

 スタッフが目をこすった瞬間には、二人の背中はすでに遠い人混みの向こう、陽炎のように揺れていた。

 

「急ぐぞ、灰原少年! 限定のタルトが我らを待っている!!」

「はいっ! どこまでもついていきます、煉獄さん!!」

 残されたのは、掃き清められたかのような道と、どこからか漂う微かな「燃えるような情熱」の残り香だけだった。

 

 一方、西ホールのハンドメイドブース。

「なるほど。これが『こすぷれ』における『じぇんだーれす』な解釈、というわけですか……」

 胡蝶しのぶが、感心したように一冊のイラスト本(※健全な衣装設定資料)をめくっていた。

「ええ、しのぶさん! この衣装のライン、とっても素敵だわ! 私たちの隊服も、こういうアレンジがあったら可愛いかも……!」

 蜜璃が目を輝かせ、自分の胸元を少し気にするようにしながら呟く。

「お二人とも、あまり熱心に見すぎると、周囲の男性方の心臓が持ちませんよ」

 七海建人が冷静に(けれど視線は逸らして)告げた。

「あら、七海さん。あなたはさっきから『そよかさんに似合いそうなアクセサリー』ばかり熱心に見ていませんでしたか?」

「……。それは……日頃の感謝の気持ちとして、後で何か渡したいと思っていて……」

「ふふふ……良い心がけですよ」

 しのぶの毒のある(けれど茶目っ気たっぷりの)微笑みに、七海は珍しく言葉を詰まらせ、眼鏡の位置を直して誤魔化した。

「……これなどは、いかがでしょうか。この蒼い石が、彼女がふと笑った時に見せる、あの静かな光に近い」

 七海が選んだのは、決して派手ではないが、一度見れば目を逸らせなくなるような、静かな主張を宿した耳飾りだった。

「あら、七海さん。そんな素敵なもの、他の男性たちも放っておきませんよ? ……そよかさんを見つめる視線が、今より増えてしまうかもしれません」

 しのぶの確信めいた問いかけに、七海は僅かに目を細めた。そして、低く、重みのある声で返す。

「……その時は、私が彼女の前に立つだけのことです。それ以外に、何か必要でしょうか」

 職人のような峻烈な目つきで、七海は再び深い蒼を見つめる。

「ええ。彼女は仕事中、髪を結い上げることが多いですから。この色は、肌によく映えるはずだ」

 愛おしそうに宝石の縁をなぞる指先。

 その場に彼女がいなくとも、彼の思考の半分は常に『妻』の喜ぶ顔で占められている。

 大人の男としての余裕と、隠しきれない深い執着。

 それは、アスファルトに音もなく降り積もる雪のように深く、そして静かに、彼女の日常を包み込んでいた。

 

 その頃、新作フィギュアの展示ブース。

「見ろよこれ、そよかが好きそうな新作フィギュアの展示!!」

 五条悟が、人混みを六眼で掻き分けながら、スマホのカメラを構えていた。

「あァ? お前、せっかく別行動してんのに、結局そよかに送る写真ばっか撮ってんじゃねぇか」

 宇髄が呆れ顔で笑うが、悟はどこ吹く風でニヤリと自撮りモードに切り替える。

「当たり前じゃん!! 僕が今見てる“いちばん心が弾む時間”は、全部そよかに届けたいの!!」

「──悟、声が大きいよ。周りの人が驚いているじゃないか」

 呆れ混じりに、けれど穏やかな声で制したのは夏油傑だ。彼は、親友の相変わらずな惚気を「やれやれ」と受け流しながら、自身もまた展示品に優しい視線を送っている。

「『そよかー! 今、派手な忍びと一緒にいるよー! 早く会いたい、愛してる!』……よし、送信!!」

「……お前、相変わらず派手に重てぇ旦那だなァ」

 宇髄の言葉に、傑はふっと目を細め、どこか遠くを慈しむように微笑んだ。

「全くだ。悟の愛は、時に呪いより重いからね」

 傑にとって、そよかはただの友人の妻ではない。

 最愛の妻である「せいら」と魂を分かち合った、もう一人の大切な家族ともいえる存在だ。

「……そよか、今頃はせいらのいる前田屋に戻っているかな」

 悟の瞳には、愛する女性を独り占めしたいという、子供のような純粋な渇望。傑の微笑みには、妻の半分を慈しむような、穏やかで深い義兄としての守護。

 最強たちの騒がしい昼下がり。その中心にはいつも、二人の大切な「そよか」という光が、優しく輝いていた。

 

 

●14

 

 着替えも終わり、

 前田屋の片付けがひと段落した頃、

 そよかのスマホが震えた。

「……あら? 手配してた車、遅れてるみたい」

「渋滞かな?」

 夏油傑が眉をひそめる。

 

「──いえ、違うわね」

 ユリが静かに周囲を見渡した。

 その目は、ただの“視線”ではなく、

 場の気配そのものを掬い取るような深さがあった。

「ここで待つより、駅までバスで移動しましょう」

「バス?」

「えぇ。あのルートなら、混雑を避けられるわ」

 ユリの声は落ち着いていた。誰も反対しなかった。

 

「……ねぇ、天元。うちの婿はかなり手広く商いの素質もあるようなの。良い機会だから、色々教えてあげてちょうだい」

 ユリは、手にした扇で口元を隠し、ふっと目を細めた。その視線は、ただ楽しんでいるようにも、あるいは盤上の駒を進める瞬間の鋭さを孕んでいるようにも見える。

「なんだお前ら、そっちもいける口か!? よぉしここはひとつこの宇髄様が、お前らに商売のなんたるかを教えてやる!!」

 天元が豪快に笑い、悟たちの肩を叩く。

 祭りの神を自称する男の勢いに、周囲の空気が一気に「獲りにいく」熱を帯びた。

 

 

 昼下がりの路線バス。

 イベント帰りの人々がまばらに座っている。

 バスの扉が開くと同時に、宇髄が軽く鼻を鳴らして何かに気付いて目配せする。実弥は宇髄と一緒に。

 

 杏寿郎は他全員を、さりげなく後方座席に誘導した。

 

 宇髄と実弥は、運転席近くのスペースに立つ。

 そこには、ひとりの中年男性が座っていた。

 

 手は大きく、節が太い。

 長年の仕事が刻まれた、確かな技を持つ者の手だった。

 

 だが、その手は膝の上で固く握られ、

 肩はわずかに震えていた。

 

 宇髄が、何気ない調子で声をかけた。

「よぉ、旦那。景気はどうだい?」

 

 男性は驚いたように顔を上げる。

「……え? あ、いや……その……」

 

「その手、働きもんの手だな」

 宇髄は軽く笑った。

「苦労してきた男の手だ。俺たちはそういうの、すぐ分かる」

 実弥も横目でちらりと見る。

「あんた……最近、まともに寝てねぇだろ」

 

 男性は一瞬だけ目を伏せた。

「……まぁ、抱え込んじまったものが多くてな」

 

「色々あるのは、みんな同じだ」

 実弥は淡々と言う。

「だが、あんたの手は真面目な職人の手だ。

 壁にぶち当たっても、また立てる手だよ」

 男性の肩が、わずかに揺れた。

「……そんなふうに言われたの、初めてだ」

 

「そりゃそうだろ」

 宇髄が笑う。

「普通は見ねぇよ、手なんて。だが俺たちはそういう手に支えられて生きてきたからな」

 男性は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……あんたら、何者なんだ?」

 

「ただの通りすがりの派手な奴だよ」

 宇髄が肩をすくめる。

 

「……そうか」

 男性は小さく笑った。

 その笑みは、さっきより少しだけ柔らかかった。

 

 

 そよかは、前方の空気の変化に気づいていた。

 杏寿郎も同じ方向を見ている。

「……大丈夫そうね」

「うむ。宇髄と不死川がいる。心配無用だ」

 せいらは小声でそよかに囁く。

「ねぇ、そよか……あの人、ちょっと泣きそうだったね」

「えぇ。でも、宇髄さんたちが話しかけてくれてよかったわ」

 

「──もう一手、必要ね。……そよか」

「はい!」

 ユリが五条悟にちらりと視線を向ける様子に、そよかは全てを察した。

 

 バスが揺れた瞬間、そよかがそっと悟の袖を引く。

「悟。あなたの言葉が、今のあの人には届くわ」

 悟は一瞬だけ目を瞬かせ、それから静かに頷いた。

 その歩みは、いつもの軽さとは違い、どこか柔らかい決意を帯びていた。

 

 彼は前方へ歩き、宇髄と実弥の横に立つ。

「やぁ、はじめまして」

 

 男性は驚いたように顔を上げる。

「……あんたは、もしかして五条悟?」

 

 悟は頬をかきながら、少しだけ声を落とした。

「俺さ、こう見えて“表の仕事”のほうでも多少は融通が利くんだ。

 もし本当に困ってるなら……助けられる範囲で、手は貸せるよ」

 男性はぽかんとしたあと、ふっと笑った。

 

「……あんたら、本当に変な連中だな」

 その笑い声は、さっきよりずっと明るかった。

 

 

 駅の停留所に着き、ブレーキの音が響く。

 車内の緊張が、ゆっくりとほどけていく。

 

 全員がバスを降りる。

 

 

 男性が深く頭を下げた。

「……ありがとうよ。なんか、少し楽になった」

 

 宇髄が肩を叩く。

「派手にやれよ、旦那。次はいい仕事で会おうぜ」

 実弥も短く言う。

「また立てるさ。あんたの心は折れちゃいねぇ」

 

 男性は小さく笑い、駅へ向かおうとする。

 

 その背中を見送りかけた時──

 そよかは思わず声をかけた。

「あの!」

 

 男性が振り返る。

 

 そよかは名刺を差し出した。

「もし……本当に困っているなら。

 ここに連絡してみてください。私の職場です」

 

男性は驚いたように目を瞬かせた。

「……あんた、こういうのもやってるのか?」

 

「いえ、私はただの職員です。でも──」

 そよかは名刺を両手で差し出す。

「あなたの“手”を必要とする人は、きっといます」

 

 悟が横から軽く笑う。

「そうそう。うちの学園、腕のいい職人さんには目がないからね」

 

 男性は名刺を胸ポケットにしまい、深く頭を下げた。

「……神様って、いるんだなぁ」

 

 そよかは小さく首を振った。

「……神様なんて、何もしてくれませんよ」

 

 その隣で、傑の手にぶら下がりながらせいらがふっと微笑む。

「でもね──そっと手を差し伸べてくれる“魔女”なら、いるかもしれないよ」

 

 男性はなぜかユリの方を見た。

 

 ユリは何も言わず、ただ静かにその場の空気を整えていた。

 風もないのに、彼女の周囲だけが柔らかく揺れているように見える。

 

「……そうか。魔女、ねぇ」

 男性は小さく笑い、もう一度お辞儀をすると背を向けてゆっくりと歩き出す。

 

 男性の背中をユリが静かに見送っていた。

 そのユリの横顔を、杏寿郎が誇らしげに見守っている。

「これにて一件落着だな!」

 

 そよかは周囲のメンバーを見つめ、そっと微笑んだ。

 

(やっぱり……この人たち、“本物”だわ)

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!

ちょっとノベマ!の方でアップする用のオリジナルを8万文字ほど書いてました。書き終わったので来週の更新時にはご案内できるかと。

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
先日55になって廻星編のおまけが公開されました。
60はどうしようかなーと思ってますが、黎明編のおまけパート2を書き下ろしました。
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