【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


静謐編 文化祭と産土神信仰
12静謐編 1・2:青春の猫耳喫茶と燻る恋の火種、星漿体の転入と真っ赤に染まった直哉様


●プロローグ

 

 白い髪に青い瞳。

 彼は変わった容姿をしていてよく目立った。

 私が近付くとむすっとした顔が少し笑顔になる。

 ──それが私も少しだけ嬉しい。

 私をお腹を空かせていると気付いて、食事を用意してくれることもあった。

「お前のこと飼ってやれたらいいのに──」

 彼は人間で私は黒色の猫。だけど私の方がずっとお姉さんだったし、束縛だってされたくない。

 食事のお礼として悟という少年に、私は世間の厳しさというやつを教えてあげた。気安く触れられると思わないでと猫パンチ。

 

 ある日、私は車に轢かれた。

 すぐに悟が気付いてくれて、反転術式の使える誰かのところに連れて行くと言ってくれた──けれど、それが叶う前に、私の意識は途切れた。

 

 ──輪廻転生。

 

 私は猫としての今生を再び始めた。

「あれ? 君、もしかして僕と会ったことある?」

 声のした方を見ると、目元の黒い帯を指でずらし青い瞳をした白い髪のヒョロ長い男がこちらを見ている。

 ──悟?

 それが2回目の出会い。

 

「あ、その黒猫また五条先生の背中に乗ってる!」

「先生の姿勢が悪いんじゃないですか?」

「いーのいーの! カワユイ猫ちゃんなんだから、かまってくれるだけでいいんだ」

「名前とかつけてるの?」

「うーん? そうだなー。前に飼いたいなって思ってた猫につけていた名前とかじゃ、失礼かな」

「何々? そんな猫いたの?」

「いたよー。この猫みたいにすらっとしたお姉さん猫で、ツン多めでごく稀にデレてくれるの。

……本当にそっくりで──」

 

 ──昔よりも居心地が良いと感じたのは、悟が丸くなったからかしら? 時々一人で寂しそうにしている彼の肩に乗る。

「また来てくれたのか」

 どうしたの?

「……親友のことを思い出してたんだ。俺があの頃、もう少し大人だったら今とは違う結果になっているのかもしれないなって」

 

 私はただの猫だから、人間のことなんて知らないことばかりだわ。でも悟がこんなにも寂しそうにするなら、もっと違う今になっても良かったんじゃないかしら。

 待っていなさい悟、私がその親友を探してきてあげる。

 

 そして私は再び車に轢かれ、意識を失った。

 

 

 ──ここは?

 起き上がり周囲を見回す。

 きっと私と同じように、今しがた命を落としたばかりのクリーム色の毛の長い子猫が近くで眠っている。

「目が覚めたのね。ここは死後の世界だと言えばわかりやすいかしら」

 二人の人間がいた。白い着物を着た女性と、炎のような羽織を羽織った男性。直視出来ない圧を感じて頭を下げる。

 あなた達は神様か何かですか?

「いいえ違うわ」

 ……違うのかと、少し気分が落ち込んだ。

「──でも、あなたが命をかけて成し遂げたい事があるのなら、その役割を与えてあげられる」

 どういうこと?

「ユリ、それでは彼女が混乱するだろう。さぁ、君も起きて話しを聞きなさい」

 男性が話しかけてくれていた女性をユリと呼び、クリーム色の子猫を起こす。

『ここはどこぉ? すぐるはー?』

「俺は煉獄杏寿郎! この女性は俺の妻のユリだ! 訳あって旅をしている! 旅といっても、物語としての世界を渡り歩くようなものだが──」

 私と子猫は顔を見合わせた。

「説明が雑すぎるわ、杏寿郎」

「それはすまなかった!」

「……ごめんなさいね。要点としては、あなたたちの“世界”とは別の場所を旅しているということなの。

あなた達には、助けたい人がいるでしょう? その人のために何かしたいと思うなら、私の手を取りなさい」

 取らなかったらどうなるの?

「定められた天命を繰り返すだけよ。あなたは何度も事故に遭って死に、その子は子猫のまま何かの理由で死んでいくのかもしれない。それはそれで良いことなのかもしれないけれど……」

『すぐるに会える? わたしはまた、すぐるに会いたいの! 合わせてくれるならそれでいい!』

 子猫はてしと手を置いた。しゃがんで私たちに手を差し出した女性の手の上に。

 そんな簡単に決められることじゃ──

『だって今まで何も変えられなかったのに、何か変えてくれるならそれでいいじゃない!』

 

 

『──俺があの頃、もう少し大人だったら──』

 そう言って寂しそうにする悟の横顔を思い出す。

 

 

 私も前足を女性の手の上に置いた。

「うむ。もう安心だ!! 心優しい彼女が、君たちを導いてくれるぞ」

「──私を信じてくれる? なんでも出来ると信じてくれるなら、どんな奇跡も起こしてあげる」

 優しく微笑むユリという女性。

 私たちは出会った。長い旅をしてきた彼女に、ずっと昔から知っていたような懐かしさを感じさせる人。 

 私たちもまたこの時はじめて、彼女たちの旅に加わった。

 

 彼女の言葉を借りるなら、そう──これはきっと私たちの“物語”のはじまり。

 

 

●1

 

 照りつける太陽の日差し、水を抜いたプールを掃除している。

「なんで今日こんなに暑いの? しかも今更プール掃除って、普通暑くなる前にやらない?」

「仕方ないだろ、悟。任務が続いてまともに時間が作れなかったんだから。そのかわりきちんと掃除しておけば、今年はこれから毎日水泳の授業をしてくれるってさ」

「俺、水泳嫌いなんだよねー。終わった後、妙に眠くなるし」

 手にしたデッキブラシに顎を乗せつつ、うんざりと俺は言う。

「前は好きだって言ってなかったか? ほら、話してないで手を動かそう。掃除が早く終われば日陰に入れるんだから……」

 傑は真面目にブラシを使って掃除をしていた。

「おーい。馬鹿共ー、お前ら水飲めよー」

 硝子が先ほど俺たちが飲みかけていたペットボトルを差し出してくる。

「ありがとう硝子」

「さんきゅー」

 言いながらペットボトルを受け取る。

 クーラーボックスの中にあったペットボトルの中の水はよく冷えていた。

「それから塩飴も舐めとけば? そよかー」

 硝子に声をかけられ、そよかが近付いてきて俺たちの口の中に飴の袋を開けてポイポイと飴を投げ入れる。

「サンキュー」

 沖縄でのあの夜のこと、思い出す度に胸が少し苦しくなる……これが恋──。

「ありがとう、そよか」

 傑が微笑む様子をみて、負けてられんと笑顔を向けるが無視される。そよかっ!?

「だいぶ掃除も進んだわね」

 そよかは今日、黒い髪を珍しくひとつに束ねていた。白いうなじについ視線を向けてしまう。ガン見ではない。決して。

「あと少しというところかな」

「あれ? なんか掃除しながら話そうって前言ってなかった?」

 硝子ふと思い出したように言葉を口にする。

「しょーこー! 文化祭だよー!」

 遠くで水の出てるホースを無邪気に振り回しながらせいらは言った。先ほどからずっとあんな調子だ。

「せいら! 気をつけて! 滑って転んだら危ないよ!」

 傑の呪霊がせいらのサポートをさりげなく請け負っている。いっそ呪霊に掃除させろよ!

「あー。今年もやんのかー。あれ面倒なんだよなー」

 はぁとため息をつく。企画は秋になる前に、夏のうちに決めとけって夜蛾が言ってたっけ……。

「そう言うなよ悟。大切な思い出の1ページになるんだから」

「去年は焼きそば作りまくってたっけ? 今年はどうすんの?」

「……猫耳メイド(ボソっ)」

「──猫耳メイドって、そんなマニアックな……おい、今誰が言った?」

 全員がキョロキョロと周囲を見回す中、気配なく背後からぬるっと声がした。

「失礼します! 私は前田まるこ! 先ほど七海さん灰原さんをお送りしたところ、青春の風に導かれ参上致しましたっ!!」

 振り返ると、そこにはいつからいたのか、茶髪の後ろ刈り上げ気味のおかっぱ頭、黒スーツ姿で背筋を伸ばした補助監督の姿が。まじめな服装とは裏腹に、その丸い眼鏡の奥の目はギラギラと何かを期待して光っていた。怖い。そのテンションが怖い。

「あー、補助監督の」

「いつもお世話になってます」

「アイデア出しにのっかるってことは、当然協力してくれるってこと?」

「はい! もちろんです! 実は私はコスプレ衣装などを作る趣味がありまして、採寸から作成、試着、当日のトラブル対応など手広くお任せください!!」

 猫耳メイドか、喫茶店とか? いいかもと話している傑たちを横目に前田が「ぐへへ」といやらしく笑っているのを俺は見逃さない。やっぱりこいつは変態だな。まぁ、面白いからいいか。

 まるこは具体的なイメージを俺たちに語り始める。まるで周囲が暗くなりスポットライトがまるこに当たっている様子で、微妙に早口なのがまたキモい。

「まず硝子さんはロシアンブルー、高貴な装いで差し詰め喫茶店のオーナー。気怠げなご様子すら拝みたくなる崇拝系おにゃんこ様です」

「そしてお次は元気な三毛猫せいらさん、アクティブに動き回る元気いっぱいなお姿。すらっとのびたおみ足、お胸もぽよぽ──んんっ、失礼しました。健気にご奉仕する様子に誰もが癒されるでしょう」

「ごほうしってなにー?」

「頑張るメイドさんってことだよ」

 すかさず傑がフォローする。レスポンスが早いな。

「そうなんだー! がんばるー!」

「最後にクールな黒猫そよかさん、冷静正確氷の微笑。他の追随を許さないパーフェクトメイド。君さえいればそれでいい──喫茶店運営の要になってくださる未来が見えます……」

 はふぅとため息をついて、まるこは頬を染めていた。いや、正直きもいわ。

「どうする?」

 硝子が引いていた。

「にゃんにゃん! 可愛い感じならいいんじゃない?」

 せいらはなぜか乗り気だ。傑はせいらがいいならと保護者顔で。

「じゃーまー、とりあえず衣装案持ってきてもらって、そよかがOK出すならいいんじゃね?」

 ちらりとそよかを見る。そよかは、え? 私? といった顔で驚いていたが。そよかの奴、絶対まるこ製のメイド服OK出さなさそー。全部燃やしそうだもん。

 それもそれで面白いかと、今年の文化祭はひとまず猫耳メイド喫茶ということになった。

 

 ──は? 俺らも猫耳執事になる……だと?

 

 

●2

 

 高専トレーニングルーム。私は灰原を探してやってきた。

「良かった。ここにいたんですね」

「あぁ、七海! どうした?」

 灰原はルーム内の椅子に座りダンベルを使ったトレーニングをしていた。

「夜蛾先生が教室に来るように、と。転校生を紹介するそうですよ」

「転校生!? わかった。すぐに行こう」

 ダンベルを置いて立ち上がる灰原。傍に置いてあった瓢箪が、ころりと転がる。

「その瓢箪は? 水でも入っているんですか?」

「違うよ! これは息を吹き込んで壊すんだ」

「は?」

「息を、吹き込んで! 壊す!」

 大袈裟に息を吸い込んで吐くジェスチャーまで。

「いや、一度聞けばわかりますよ。なんでそんなことを?」

「肺を鍛えるんだ!」

「はい?」

 灰原は私の理解出来ない方法でいつも身体を鍛えていた。丸太を担いでの山登り、大岩を押している姿を見て何故そこまでと常々思っている。どうやら彼はメンターとも呼びたくなるような内なる存在がいるようなのだが、それが彼の鍛錬と何か関係があるのか──。

「おーい! 行こうよ!」

 灰原に声をかけられて意識を戻す。

「──そうですね」

「あ、そうそう。五条さん、沖縄で告白したんだって!」

「──ッ。それがどうかしましたか?」

 あくまで平静を装う。彼女とは、なんてことはない……図書室でたまたま一緒に勉強することがある程度の付き合いで──。

「今、誰を想像してた? いや、七海が気にしてると思って。そよかさん……憧れてたろ?」

「な、何を言い出すんですか……!」

「このまま何もしないでいいのか? せめて自分の気持ちを伝えるとか」

「……」

「ここだけの話。五条さんは告白したけど、返事は貰えてないらしい。これって七海にもチャンスがあるってことじゃないかな!?」

 

 

 ──どうかしている。灰原が言った言葉を反芻しながら、胸の奥に何か燻っているものがあるような。自分の内面と改めて向き合ってみるべきなのか──そんなことを考えている内に教室に到着した。

「お待たせしましたー!」

 灰原が扉を開けて入っていくので、そのまま続く。

「おぉ! 灰原に七海! 久しぶりじゃな!」

 せいらさんや……そよかさんとやり取りしていた天内理子さんがこちらを見て言った。

「あぁ、天内さん! お久しぶりです!」

 軽く会釈をして、灰原と私は空いていた席に着く。

「皆面識はあるな。彼女は天内理子、天元様の星漿体として護衛の任務に着いてもらっていたこともあるが、天元様の眼としての天内を高専の生徒として迎え入れることになった」

「よろしくなのじゃ!」

「そして──」

 ──そして? 夜蛾先生の視線は先ほど私が閉めた教室の扉に向けられた。その扉を開けて入ってきたのは……

「へぇ、ここが呪術高専。思ったより地味やな。あんたらが俺の同級生? ふうん、雑魚ばっかやん……ま、ええわ。禪院家の直哉様が、わざわざこんなとこ来てやったんやから、感謝しいや」

 尊大な態度の男が入ってきた。禪院、直哉? 禪院はフンと鼻を鳴らして、

「特にそこの白髪頭。あんたが五条悟やろ? 噂通りの生意気そうな顔しとるわ。でも、まぁ、所詮は俺の足元にも及ばへんな。夏油傑とかいう奴も──大したことはなさそうや。それと女ども、俺の顔に見惚れるのは分かるけど、あんまりジロジロ見んといてくれる? 俺の美しさに耐え──」

「あー!!!」

 せいらさんの大きな声に禪院の言葉がかき消される。

「もしかして、なおちゃん? なおちゃんだー! 久しぶり〜っ!!」

 先ほどまでの自己紹介などまるで耳に入っていなかったかのように、せいらさんは満面の笑みで一目散に駆け寄り、禪院が反応する間もなく、彼の身体にぎゅーっと抱きついた。

「なおちゃん! 大きくなったねぇ!!」

「……は、ぁ……? お、お前……っ、な、なんでここに……っ!」

 彼は完全に固まった。そして顔が茹でダコのように真っ赤に。五条さんは口元を押さえて肩を震わせ、夏油さんは目を細め、射るような冷たい視線を禪院に向けていた。




ここまでご覧いただきありがとうございました。
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