【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後の物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
エンディング後のお遊び編です。
●17
無限城、第三階層・逆さ畳の廊下。
そこには、実家帰省中に強制ログインさせられた、禪院直哉の姿があった。
「なんやこの悪趣味きわまる内装……京都の古い屋敷かと思たら、重力までひっくり返っとるやないか」
先ほど足元に、何もなかったはずの“襖”が音もなく現れ、白い紙面が左右にスッ……と開き── 着地した瞬間、視界がぐるりと反転した。上下が逆さまになり、無数の襖が迷路のように連なる異様な空間が広がっていた。
「誰の仕業や? 五条の奴の新しい嫌がらせか?」
直哉は不機嫌そうに、高価な着物の裾を払う。
ふと、視界の端で“24フレームだけズレたような”奇妙な軌道が揺らいだ。網膜に焼き付いた無限城の幾何学模様が、一瞬だけ、実家の見慣れた居間の畳と重なって見える。
(……あかん。またアイツの顔がチラつきよる)
脳裏で、誰よりもお節介で、誰よりも無邪気に自分を慕ってくれている少女の声が再生される。
『なおちゃーーーんんん!!! 鬼滅の刃みよーよ!!』
『鬼滅の刃ぁ? まぁええけど、どっから見よるん?』
『もちろん最初からだよ!!』
『最初ねぇ、立志編からやったっけ?』
『違うよぉ、最初は出逢い編からだよ』
『は?』
『ん?』
『俺の知っとるやつと、なんかちゃうねんけど……』
──ドンッ!! バーンッ!! 空気そのものが裂けるような衝撃音が廊下を揺らした。
耳をつんざく衝撃音と共に、直哉の真横の壁が爆ぜ飛んだ。
粉塵が一気に舞い上がり、直哉の横合いへ木片が“雨粒のような速度”で降り注いだ。襖と木材が四散し、硝煙と木屑の中から、一条の「青」が飛び出してきた。
「術式展開・破壊殺──」
低く響く声が、粉塵の奥から這い出すように漏れる。
「……ほう。俺の初撃を、紙一重でかわすか」
粉塵の奥から、刺青を刻んだ鬼が“闇を押し分けるように”ゆっくりと姿を現した。
「柱とは違う、奇妙で、けれど研ぎ澄まされた闘気を感じる。……面白い」
姿を現したのは、全身に刺青を刻み、闘気そのものを纏った鬼──猗窩座(のコピー)だった。猗窩座は、獲物を見つけた猛獣が喉を鳴らすような、底冷えする笑みを浮かべ、直哉の“速さ”そのものに、まるで値踏みするような視線を定めた。
「俺は猗窩座。……お前、名はなんという?」
直哉は舌打ちしながら、肩に積もった破片を乱暴に払った。しかし、その瞳には、恐怖を塗りつぶすほどの、冷徹なまでの傲慢さが宿っていた。
(……待てや? ここ、もしかしてあの『無限城』ちゃうんか。そんで時々聞こえる琵琶の音……あれ鳴女やろ? っちゅうことは……目の前におるこの刺青の化けもん、ホンマもんの上弦の参、猗窩座か!?)
「どうした? さぁ、名を名乗れ。構えもしないのが、お前の流儀か?」
「……誰が、お前みたいな『化けもん』に名乗るかアホ。俺が認めとるのは甚爾君みたいな『本物』だけや。お前みたいな気色の悪い刺青男と、仲良うお喋りするつもりはないねん」
直哉の瞳の奥で、24フレームの軌道が鋭く、速く、明滅し始める。猗窩座が放つ威圧的な闘気すら、彼にとっては「止まったも同然」のノイズに過ぎない。口元には、弱者を嘲笑う時にだけ浮かべる、歪で美しい弧が刻まれた。
「……俺の“速さ”になぁ。ついてこれる思うとるんか? 」
直哉が瞬きをした。その瞬間、彼の網膜上で24分割された世界の全てを、猗窩座の足元に展開された「羅針」の術式が、磁石のように正確に捉え直していく。
「──格の違い、教えたるわ。化けもん」
──
琵琶の音が『ベェェェン!!』と甲高く弾けた瞬間、呪術学園の校庭が“裏返るように”地獄へと反転した。
伊地知潔高の足元に、アスファルトを割って“襖”が現れ、白い紙面がスッ……と左右に開く。
「えっ──!?」
「伊地知さん、足元!!」
新田明が叫ぶが、彼女の足元にもまた、深淵へと通じる襖が開いていた。
重力がねじ切れたように方向を失い、悲鳴と共に全員が“底のない落下”へと吸い込まれていく。
踏みとどまる足場など存在しない。ただ、落ちる。
その絶望の渦中で、ただ一人だけ“遊園地に来た子供のように”爆笑している男がいた。
「あはははは!! ユリさん、やっぱり最高だわ!! こんな面白いところに連れてきてくれるなんて!!」
落下の渦の中、重力すら“遊び道具”に変えてしまい、姿勢ひとつ乱さない。
「ご、五条さん!! ……これ、各所への報告……どうすれば……『本日、東京校および京都校の全職員・生徒が、異次元の無限に続く城へ不法侵入いたしました』……なんて、誰が信じてくれるんですかぁぁ!!」
落下の最中だというのに、伊地知の脳内では“報告書の文面”だけが高速で組み上がっていく。
悟は、隣で泣き叫ぶ伊地知と新田の襟首を、まるで子猫でも掴むようにガシッ!!と両手で捕まえると、
空中で器用に身を翻した。
「ほらほら、二人とも、そんなに泣かないの。せっかくの『お楽しみ』なんだからさぁ!」
悟は、無限城の歪んだ梁(はり)の上へと軽々と着地し、その勢いのまま伊地知と新田を“雑に”放り置いた。
「五条さん!? これは一体どういうことですか!?」
伊地知が、腰を抜かしたままガタガタと震え、新田が「ここ、何がどうなってんすか!? なんなんすかここ!!」と号泣しながら叫ぶ。
「え? 見ればわかるじゃん。ユリさん考案の特訓だよ」
悟は、二人の絶望的な表情をよそに、不敵に笑いながら、城の深淵から漂ってくる「殺気」と「呪力」を六眼で楽しそうに解析し始めた。
「……五条さん、一応確認ですが、ここで殉職した場合の労災申請……相手先は『盤星教』ですか? それとも『上層部』ですかぁぁ!?」
「あはは! 両方に内容証明付きで送っといて!」
「へぇ……空間の座標が一定じゃない。呪力で編まれた迷路ってより、『意思を持った建築物』だねこれ。……しかも、あっちこっちから危険な匂いがする。……ユリさん、これ全体の調整とかに羂索(アイツ)も使い潰してるでしょ。贅沢だなぁ!」
五条悟は、アイマスクをずらして六眼を輝かせる。
「あ、そうそう伊地知さん、新田ちゃん。……ここ、『死ななきゃセーフ』がルールだから。……うっかり首が飛ばないように、僕の背中に必死でしがみついてなよ? まぁ、振り落とされても責任は持たないけどねっ!」
──
無限城の歪んだ構造が、不気味な静寂に包まれた。
先ほどまでの落下による悲鳴も、建物のきしむ音も消え、ただ、圧倒的な「致死量の圧」だけが、城の深淵から静かに、けれど確実にせり上がってくる。
その「圧」の源泉は、三つ。
・地点A:虚空の回廊(東側エリア)
合わせ鏡を覗き込んだように、どこまでも反復する蒼い回廊の中心で、五条悟(コピー)が、目隠しをゆっくりと外した。
その瞳は、六眼特有の蒼を湛えながらも、内側から滲み出す呪力が、空間そのものの“骨格”をきしませ、形を変え続けていた。
『……設定完了。無下限呪術、完全トレース。出力、現世での使用分を基準に、120%へ引き上げ。目標、全生命体の根絶』
感情のない声。
彼が指先をわずかに動かすだけで、回廊の壁が音もなく「蒼」に吸い込まれ、空間そのものが「無」へと回帰していく。
それは、誰も近づくことのできない、そこに立つだけで、誰も触れられない“絶対領域”そのものだった。
・地点B:呪霊の深淵(地下層)
天井とも床ともつかない場所に、重力を裏切るように畳の海がうねり、逆さにぶら下がったまま蠢いていた。その中心で、袈裟姿の夏油傑(コピー)が、まるで深海の底に沈んだ遺跡のように、微動だにせず静止している。
彼の周囲からは、ドロリとした、穢れた呪力の匂いが立ち上り、畳の隙間からは、数万の呪霊の「呻き声」が地鳴りのように響いていた。
『……選択完了。ラインナップ、原作(離反後)の呪霊群を採用。物量による圧倒。目標、異なる価値を持つ者の殲滅』
彼が袂に手を入れると、畳の海が割れ、そこからおどろおどろしい呪霊の軍勢が、津波となって溢れ出した。
それは、かつて彼が世界に向けて吐き出した“呪いの総量”が、形を持って蘇ったものだった。
その口元は、微かなノイズを吐き出すように、『猿め』という単語を音節ごとに機械的に繰り返し続けている。
・地点C:炎の祭壇(西エリア)
燃え盛る炎の柱が林立する中、その中心に、揺るぎない背筋で立つ男がいた。煉獄杏寿郎(コピー)。
日輪刀は抜かれていない。けれど、彼の全身から放たれる「闘気」は、周囲の空気を陽炎のように揺らし、木造の城を焦がすことなく、ただ“生の熱量”だけを際限なく増幅させ、空気そのものを震わせていた。
『……構成完了。使用可能技、道中にて見せし「精神の極致(不知火、煉獄)」目標、魂の燃焼、および生存本能の選別』
彼が深く呼吸をすると、城の全域へ、心が燃え尽きるほどの「熱」が伝播した。
それは、彼がこの世界に刻みつけた“生きることそのものの輝き”が、刃の形を取ったかのような熱だった。
あまりの闘気の熱量に、周囲の襖が炭化して剥がれ落ち、迷宮の奥へと続く廊下そのものが、巨大な火葬炉の喉元のように赤黒く変貌していった。
●18
──ふわっ。
音ですらなかった。
それは、澱んだ無限城の空気の中に、突如として混じり込んだ「春の吐息」のような揺らぎ。
重苦しい呪力と殺気が渦巻く迷宮に、場違いなほど清浄な光の粒子が、雪のようにしんしんと降り注ぐ。
その光の正体は、二種類の、掌に乗るほどの極小の妖精たちだった。
同じような光を纏った妖精たちが、無限城の各階層へと散っていくのが見えた。どうやら彼女たちは、それぞれ別の場所で同時にサポートに入っているらしい。
「はわわわ!! みんな、大丈夫ー!?」
せいら妖精が、淡いピンク色の光の羽をパタパタと羽ばたかせ、伊地知さんや生徒たちの頭上を飛び回る。
その身体は、人差し指ほどの小ささ。まるで壊れ物のような華奢な四肢に対し、背中には、彼女の身体を優に超える手のひらサイズの羽が広がっていた。それは絹のように滑らかで、動くたびにプリズムのような虹色の光彩を放つ。
その羽が羽ばたくたび、傷ついた心を癒やし、精神を安定させる、温かい「救いの鱗粉」が、夜空の星を撒き散らすように振り撒かれた。
「……間に合ったわね。みんな、落ち着いて聞いて」
そよか妖精が、青白い光を纏いながら、悟や七海の肩にちょこんと座る。
彼女の身体もまた、人差し指ほどの、息を呑むほど小さなサイズ。
妖精たちの声は小さいのに、不思議と空間全体に澄んだ響きで届く。どうやら妖精の声は、姿の小ささに反して“よく通る”らしい。
その瞬間、無限城の複雑怪奇な構造と、三人のボスの座標が、そよか妖精の脳内で瞬時に読み解かれ、脳内に立体地図として展開された。
「お師匠様──ユリさんからの『譲歩』よ。……私たちは、この姿で貴方たちのサポートをする。……この姿は異なる場所、沢山の人数にも対応できる最適化なの。でも、手までは貸せない。……作案は、貴方たちがちゃんと考えて」
小さな、ちんまい口から放たれる、凛とした声。
その鈴を転がすような音色は、最強たちの殺気だった心に、一筋の静謐な「地図」を描き出す。
「……それと、もう一つだけ大事な“制限”があるわ。
鬼やデビルハンターの人たちは、この世界で“致命傷”を負うと、強制的に元の世界へ帰還させられる。
鬼なら首か頭部への一撃。デビルハンターも同じ。……この無限城の“安全装置”みたいなものね」
そよか妖精は、青白い光を揺らしながら続ける。
「もちろん、鬼は本来なら日輪刀じゃないと首が落ちても再生するけれど……ここでは例外。
“死なせないための仕様”よ。
だから、彼らが消えたら死んだわけじゃない。元の世界に戻るか別の場所に転移するだけ。……安心して戦って」
せいら妖精が、慌てて手を振りながら補足する。
「そ、そうそう! 消えちゃっても大丈夫だからね!
ちゃんと帰ってるだけだから! だから、みんなも怖がらずに……でも無茶はしないでね!?」
せいら妖精が、震える伊地知さんの鼻先にちょこんと降り立つ。
「伊地知さん、大丈夫! わたしが守ってあげる……のは無理かな? きっとみんなが守ってくれるから!」
そう言って彼女がはにかむと、周囲に漂っていた焦げ臭い殺気が、一瞬だけ陽だまりのような甘い香りに塗り替えられた。
「……それと、もう一つだけ“重要な警告”があるわ」
そよか妖精の羽が、ひりつくような青白い光を放つ。
「三体のボスたちは、さっきの場所に留まっているわけじゃない。
無限城は“人の密度”を感知して、そこに強敵を引き寄せる性質があるの。
だから──どれか一体に全員で挑もうとすると、残りのボスも“合流”してくる」
そよか妖精は、空中に小さな光の線を描き、三つの座標がゆっくりと移動する様子を示す。
「つまり、各エリアのボスは“徘徊型”。
あなたたちが集まれば集まるほど、向こうも“狩りに来る”。
……これが無限城の本当の危険性」
せいら妖精が、慌てて手を振りながら補足する。
「そ、そうなの! だから、みんなで固まると逆に危ないよ!
でも大丈夫! そよかが全部見えてるから、ちゃんと誘導するからね!」
そよか妖精が、目隠しを外し、ひりつくような殺気を放つ悟くんの耳元で囁く。
「悟。……あっちのボス悟の無下限、座標がまだわずかに安定していないわ。……狙うなら、そこよ」
悟が、肩のちんまいそよか妖精を見て、ニヤリと笑った。
「へぇ……ユリさん、ニクイ演出するじゃん。……僕の可愛い妖精さんが言うなら、信じるしかないよね。……あ、待って、その羽、ちょっと触らせて……」
実弥が、髪の中に掌サイズのせいら妖精を感じて、舌打ちしながらも刀を構え直す。
「……チッ。邪魔だ。……そのデカい羽、うっかりぶつけんじゃねぇぞ、チビ」
傑が、仲間たちの周りを飛び回るちんまいせいら妖精を見て、穏やかに微笑む。
「……そうだね。私たちには、守るべき『光』が二人もいるんだ。……コピーの私。……君の物量は、彼女たちの愛の光で、焼き払わせてもらうよ」
東堂くんが、ちんまいせいら妖精の光を受け、ソウルをさらに滾らせる。
「ブラザー!! 見たか、この『超絶(マーベラス)』な妖精さんの輝きを!! これは、勝利の女神が俺たちに微笑んでいる証拠だ!!」
最強たちと、二種類のちんまい妖精。
この絶望的な迷宮で、彼らはどのようにして「因果」を書き換え、誰も嘘をつかずに生きる未来を掴み取るのか。
無限城大演習、第一関門。
「合流」という名のタイムリミットを背負い、最強たちの、本当の「遊興」が、今、始まりかけた。
「ねぇ、そよか!! まずはくんくんしていい!? 妖精さんってどんなにおいがするの!? どんな匂いなの!? お花系!? それとも甘いバニラ!? ……っていうか、その服の下!! 服の下はどうなってんの!!?? 羽の付け根とかどうなってんの!! ちょ、見せて、ちょっとでいいから!!」
虚空の回廊に、現代最強の絶叫が響き渡った。
五条悟は、人差し指サイズの「そよか妖精」を両手で包み込み、もはや「六眼」を原子レベルの顕微鏡モードに切り替えんばかりの勢いで顔を近づける。その瞳には、世界の真理を暴こうとする求道者のような、それでいて救いようのない変態の輝きが宿っていた。
「ちょ、見てよこの造形! 細胞一つ一つが光の結晶みたいだよ!? 毛穴とかないの!? 質感はどうなの!? 触感はシルク? それともマシュマロ!?」
「パチィィィン!!」
乾いた音が、静まり返った回廊にこだまする。
人差し指サイズの小さな、けれど鋭いビンタが、悟の鼻先を完璧に捉えた。
あまりの衝撃に、悟の無下限呪術がコンマ数秒、驚きで揺らぐ。
そよか妖精は、羞恥と怒りで羽を震わせていた。その羽から舞い散る光の粒は、怒りの電圧を帯びたようにバチバチと火花を散らしている。
「嗅ぐな!! 見ようとするな!! このっ……ド変態!!」
そよか妖精は、手のひらサイズの大きな羽を怒りでバサバサと震わせ、悟の指先から脱出を試みる。その小さな顔は羞恥心で真っ赤に染まり、羽からは怒りの火の粉のような光の粒が舞っている。
「痛いっ!! でもご褒美!! 痛いけど、ちっちゃい手で叩かれるの最高にアメイジング!! ……で、結局どうなってんの!? 妖精さんにも『アレ』はあるの!? それとも光でできてるの!!??」
「「「「最低だ……!!!!」」」」
遠くのエリアで呪霊と対峙していた、伏黒恵、吉野順平、そして冥冥までもが、重なり合うような「嫌悪感」の声を上げた。
「……五条さん。貴方のその『探究心』、一秒以内に消し去らなければ、私が貴方の『下半身』を物理的に解明(切断)しますよ」
背後から響く、地獄の底から這い上がってきたような七海の低音。
肩に乗せた「もう一人のそよか妖精」が、羞恥で顔を覆っているのを見て、七海の放つ殺気は、十劃呪法の枠を逸脱し、冷たい圧として空間そのものを軋ませていた。
「えーっ!? だって七海だって気になるだろ!? 僕らの愛する嫁の妖精さん姿だよ!? ファンタジーじゃん!? ちんまくなって羽が生えてるんだよ!? 確認しなきゃいけないこと、山ほどあるでしょ!!」
「……悟。……死にたいの?」
そよか妖精が、小さな指をパチンと鳴らす。
その瞬間、悟の周囲の重力が「そよか仕様」にねじ曲がり、彼の顔面が強制的に床へと叩きつけられた。
「……ふぐっ!? ……あ、あはは……床に押し付けられるのも……悪くない……ね……」
「もういい、建人さん。この人は放っておきましょう。……さっさとアイツ(コピー)を片付けて、早く元のサイズに戻るわよ。そうしないと、私の身が持たないわ」
しかし、床へと叩きつけられてもなお、悟はにやにやと笑っていた。
──
戦闘中に飛んできたせいら妖精が、直哉の頭に必死にしがみついている。どうやら「安全な場所」を探した結果、ここに落ち着いたらしい。
猗窩座の頬に、細い線が走った。
一滴の血液が、逆さ畳の空間にふわりと浮かぶ。
──その瞬間。
無限城の奥底で、何かが“カチリ”と噛み合う音がした。
猗窩座の身体を中心に、淡い朱色の紋様が円形に広がり、畳の海がざわりと揺れる。
「……ほう。これは──」
猗窩座が言い終えるより早く、足元に“襖”が音もなく出現した。
白い紙面が左右にスッ……と開き、朱色の光が彼の足首を呑み込む。
直哉は指先を軽く弾き、鼻で笑った。
「はい、アウトや。
この無限城、日輪刀なしで鬼の顔や首あたりに一撃入れたら、強制的にどっかへ飛ばされるんやて。
……知らんかったんか? 化けもん」
猗窩座は、消えゆく足元を見下ろしながら、わずかに目を細めた。
「……面白い。
お前の“速さ”──確かに、武の領域に踏み込んでいる」
「褒めんでええわ。気色悪いねん」
猗窩座の身体が、朱色の光に完全に包まれる。
「次は殺す。なおちゃん──」
「なおちゃんて誰やねん!! ……って、お前、さっきてんが呼んどったん聞いとったんかい!!」
直哉は思わず足を滑らせ、畳をガタッと鳴らした。
「──次は“ついてこれたら”な」
襖が閉じる音が、静かに響いた。
猗窩座(コピー)は、無限城の別の場所へと転移していった。
「──はぁ、なんやねん今の……心臓止まるか思たわ」
直哉は乱れた前髪を無造作にかき上げると、頭頂部でプルプル震えているせいら妖精を、壊れ物を扱うような手つきでそっと摘み上げた。
「なおちゃーーーん!! 頑張ったねぇ!!」
せいら妖精は、両手を動かしてわしゃわしゃと直哉の頭を撫でている。
「……頑張ったんちゃうわ。あんな化けもん、まともに相手してられるか。
っていうか自分、いつまで頭の上におるつもりや。……危なっかしくて見てられへん」
直哉は文句を垂れ流しながらも、着物の合わせを少しだけ緩める。そして、迷うことなくせいら妖精を自分の懐の中へと滑り込ませた。
「……自分、羽が光っとるから目立ってしゃあないねん。隠れとけ」
そう毒づきながらも、指先でせいら妖精の羽が折れないよう、慎重に布の隙間を広げてやる直哉。
懐の中から「はーい!」という元気な声と、小さな体温が胸元に伝わってくる。
直哉はフンと鼻を鳴らし、服の上からトントンと軽く叩いて居心地を確かめると、再び冷徹な表情に戻って迷宮の先を見据えた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!
◆ノベマ!にて毎日更新中!
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)良ければご覧ください。
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
先日65になっていたので書き下ろしの静謐編おまけパート2が公開されてます(タイトルの★がふたつになってます)
次の70は余燼編のおまけパート2として美々子菜々子がやってきたあたりの話書いてます。