【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


126 碧淵編 3・4:海の底を夢見る硝子瓶と、人魚を迎えに行く次期当主の宣言

●3

 

 会議室の窓から、夕方の光が斜めに差し込んでいた。
 長机の上には資料が広げられ、空気は妙に静かで、紙をめくる音さえ吸い込まれていくようだった。

 

 ──その中心で、せいらだけが落ち着きなくそわそわしていた。

 

 両手で抱えるように持っているのは、
 小さなガラス瓶。


 中には、透き通った青と赤のキャンディが沢山入っている。

 光を受けて、海の底の宝石みたいにきらきらしていた。

 せいらの指先まで、その光が跳ね返ってくるようだった。

 

「……それが例の“薬”ですか。海に関わるものの扱いには、慎重であるべきです。特に“形を変える類”は、予想外の作用が出ることがあります」

 

 七海は瓶を一度じっと見つめ、腕を組んだまま低い声で言う。

 

「うん!」


 せいらは胸を張る。


「お師匠様がくれたの! 人魚になれる飴だよ!」

 

 悟は椅子を後ろに倒しながら、ひょいと瓶を覗き込む。

 ほんの一瞬、サングラスの奥の蒼い瞳が、飴の主成分である「お師匠様の呪力の残穢」の奇妙な波長を捉える。

 

(……ただの呪力じゃないな。情報が固定されてない。本当に『形を変える』ための縛りが組み込まれてる)

 

 脳内で一瞬で演算を終え、何食わぬ顔でサングラスを戻してニヤリと笑う。

 

「へぇ〜、かわいいじゃん。食べたら尻尾が生えるの? それともヒレ?」

 

「五条さん、ふざけないでください」


 七海が即座に制止する。

 

「いやいや、気になるでしょ? ねぇ、せいら。どっち?」

 

「えっとね……」


 せいらは瓶を見つめ、少し首を傾げた。


「お師匠様いわく、絵本の中の人魚みたいになれるよって」

 

「人魚みたい……?」


 そよかが眉を寄せる。


「それ、ちょっと漠然としすぎてない?」

 

「うん!」


 せいらは満面の笑み。

 

「……“うん”じゃないのよ」


 そよかは額に手を当てた。

 傑は資料を閉じ、静かに口を開く。

 

「確認する。人間から人魚になった時、声が出なくなるらしい。それをどうフォローするか」

 

 傑の「声が出なくなる」という言葉に、会議室の空気がわずかに重くなる。

 悟は倒していた椅子を静かに戻し、ほんの刹那、傑と目を合わせた。

 

 ──声が出ない、か。術式も、呪霊の使役も、基本は『指向性』や『発声』がトリガーになる。声(呪詞)を奪われるってことは、海の中では完全な『無防備』に等しい。

 

「声が……?」

 

 七海が視線を落とす。

 

「それは、術式の発動にも影響が出る可能性がありますね……海では“声を奪われる”事例があると聞きます。以前、海に詳しい者からそう教わりました」

 

「うん……」


 せいらは瓶をぎゅっと握った。


「でも〜、行きたいんだ〜」

 

 悟が目を細める。

 

「せいら、怖くないの?」

 

「ちょっと怖いけど……」


 せいらは胸に手を当てる。


「海の中、見てみたいんだもん!

 胸の奥が、絵本のページみたいにぱらぱら開く感じがするの。

 息まで軽くなるみたいで、椅子に座ってるのがもったいないくらい」

 

 きらきらと瞳を輝かせた。


「だって、きっとすごく綺麗なんだよ!
 静かで、光が揺れてて……別の世界みたいで」

 

 せいらの言葉に、そよかの視線が一瞬だけ揺れた。

 

(……やっぱり、呼ばれてる気がする)

 

 傑は深く息を吸い、全員を見渡した。

 

「では──作戦を立てる」

 

 七海が頷く。
 そよかも静かに席に着く。
 悟は椅子を戻し、珍しく真面目な顔をした。

 傑は続ける。

 

「まず、せいらが飴を使うタイミングを決める。
 海中での行動は単独禁止。
 七海、悟、私──三人のうち誰かが必ず同行する」

 

「了解です。そうですね……本来なら“海に詳しい者”がいれば理想ですが、任務でもありませんし」

 

(……今は連絡もつかないので)

 

 七海が言葉を濁し、小さく溜息をつく。

 

 彼の生真面目な憂慮を察した悟は、わざと机の上に両肘をつき、楽しげに指を組んだ。

 

「あーあ、そんな暗い顔すんなって。連絡つかない奴のことはいーじゃん。だったらさ、もっとフットワーク軽くて、金持ってて、海に似合う『うってつけのバカ』を一枚噛ませれば解決っしょ?」

 

傑が不審そうに目を細める。

 

「……誰のことだい?」

 

「ついでに直哉も誘えば? 人手はあった方がいいでしょ」

 

 悟は椅子を後ろに傾け、天井を仰ぎながら、まるで他人事のようにサングラスの端を人指し指で押し上げた。

 

「えー、だって人手は多い方がいいじゃん? 投射呪法って海の中でも速そうだしさ。ま、僕の無下限があれば、そもそもスピード勝負にすらならないんだけどさ」

 

 悟がニヤニヤしながら、わざと傑の神経をつつくように言う。

 ──その絶対的な“最強の自負”が、彼の言葉の端に、ほんのわずかな「油断」という名の隙を生み出していた。

 

 傑はピクリと眉を動かし、表情の温度をすっと落とした。

 

「……直哉、ね。わざわざ彼を呼ぶ必要性があるかい? 私たちだけで十分に守りきれると思うけれど」

 

「えー、傑だって一人より多い方が安心でしょ? それとも直哉にせいらを見せるのが嫌なのかな〜?」

 

 悟がニヤニヤしながら、わざと傑の神経をつつくように言う。

 傑は手元の資料の端をわずかに強く指先で押さえ、チッと舌打ちしたくなるのを喉の奥で堪えるように、深く息を吐き出した。

 

「……そうだね。……不本意だが、戦力として数えるのなら──まったく役に立たない男ではないか」


 傑はせいらの方へ視線を向ける。

 

「せいら。もし“声が出なくなった”場合、どうするか。
 その時のための合図を決めておこう」

 

「合図……?」

 

「そうだ。
 声が出ないなら、別の方法で意思を伝える必要がある」

 

 せいらは少し考え──
 ぱっと顔を上げた。

 

「じゃあね、こうする!」

 

 両手をぱたぱたと振る。

 

「……それ、わかめ踊り? 溺れてる時の動きに見えるわよ」


 そよかが冷静に突っ込む。

 

「えー!?」

 

 悟が笑いながら言う。

 

「じゃあ、せいらが“声出ないモード”になったら、
 俺が心の声を読むってことでいいんじゃない?」

 

「……五条さん、話が進みません」


 七海がまた止める。

 

「いやいや、俺けっこう読めるよ? せいらの心」

 

「ほんと!?」


 せいらが目を輝かせる。

 

「……悟の言う“読める”は信用しない方がいい」


 傑がため息をつく。

 

「えー、なんでー?」

 

「君は“思い込み”で全部喋るからだ」

 

「ひどっ」

 

 会議室に、少しだけ笑いが戻る。

 だが、傑の声は静かに締めた。

 その前に、ひとつだけ深い息が落ちる。

 

「──せいら。
 どんな形になってもいい。
 どんな姿になってもいい。
 ただし、必ず帰ってくること。
 それだけは約束してほしい」

 

 せいらは瓶を胸に抱きしめ、まっすぐ傑を見た。

 

「うん。
 帰ってくるよ。
 絶対に」

 

 その言葉に、

 そよかは、きゅっと自分の胸元を掴んだ。

 

 奥の方で、何かが小さく鳴ったような気がした。

 

(……本当に、呼ばれてるみたい)

 

 深い海の底から、そっと名前を呼ばれているような──。

 

 そう思った瞬間、胸の奥が、ひやりと沈んだ。

 まるで暗い水の底から、冷たい指先で触れられたみたいに。

 

 

●4

 

 シェアハウス内、禪院直哉の自室。

 

 スマホを握りしめた禪院直哉の額に、どす黒い青筋が浮かんでいた。

 

「……は? ビーチとクルーザー?

 自分、今なんちゅうた。もう一回言うてみぃ。耳の穴、掃除したるわ」

 

 夏油の声は落ち着いている。

 だが、その内容は落ち着きとは程遠かった。

 

 ──“せいらが人魚になりたいと言っているので、

  プライベートビーチとクルーザーを手配してほしい”。

 

 直哉は携帯を叩きつける寸前で踏みとどまり、視線がふと棚の上の猫人形に吸い寄せられた。

 丸まったクリーム色の毛並みが、てんのふわふわした雰囲気を思い出させて、余計に腹が立つ。

 

「……おい夏油。

 ほんまに言うてるんか? 自分ら、頭どうかしてへんか?」

 

 低く、唸るような声。

 怒りというより、呆れと心配が混ざった声。

 

「五条までおって、七海まで巻き込んで、

 会議室で大真面目に話し合っとる思えば……」

 

 一度、深く息を吸う。

 だが怒りは収まらない。

 

「『せいらが人魚になりたいと言うから、ビーチとクルーザー手配しろ』やと……?」

 

 狭い部屋の床を苛立った足取りで往復しながら、直哉は声を荒げた。

 静まり返った室内に、足音だけがやけに大きく響く。

 

「何が『人魚になれる薬』や!!

 何が『海の底が見たい』や!!

 そんなもん、水族館のトンネルで我慢させとけや!!」

 

(てんの奴……ほんま、なんでそんな危ない方ばっかり選ぶんや。

 可愛い顔して、無茶ばっかりしよって……)

 

 怒鳴りながらも、胸の奥にある“別の感情”が顔を出す。

 

(……あいつ、上手く泳がれへんのに。水に入るだけで不安そうにしとったやろ)

 

 その不安を振り払うように、さらに歩幅が大きくなる。

 

「大体なんで俺が、禪院家の次期当主のこの俺が、

 お前らの“海底遠足”のために場所の手配せなあかんねん!」

 

 スマホ越しに、夏油の落ち着いた声が返ってくる。

 

『悟も君を巻き込……誘った方がいいと──少しでも人手が多い方が安全だと思ってね』

 

「五条は無下限呪術があるんやから、それでせいら抱えて潜ればええやろがい!!

 なんでそこで俺の名前出すんや!!」

 

(……いや、五条に抱えられるんも腹立つけどな。

 なんであいつが“せいらを守る側”みたいな顔しとんねん)

 

 怒りの熱が、また一段上がる。

 

 だが──ふと、直哉は立ち止まった。

 

「……まぁ、癪やけどええわ。

 言うてる自分に腹立つけど、しゃあない」

 

 横目に入った猫人形が、なんや知らんけど「行ったれ」とでも言うとるようで、余計に腹立つ。

 

 怒りの奥にある“別の理由”を、

 自分でも認めざるを得なかった。

 

「他所の雑種どもに、せいらの……その……姿、見せんように、

 人目につかんビーチを確保する判断だけは認めたる」

 

 言いながら、耳まで赤くなる。

 

(……見せられるかいな。あんな可愛い……)

 

(……俺だけが見とったらええんや)

 

「せやけど、クルーザー!?

 俺の私物を使わせろっちゅーことか?」

 

 震える手で、コンシェルジュの番号を押す。

 指先に力が入らず、一度押し間違えそうになった。

 

「最高級の、まだ革の匂いも新しいクルーザーを……」

 

 ちらりと棚を見ると、猫人形の丸い瞳が光を拾って、こっちを見とるように見えた。

 

(……なんやその顔。呆れとるんか)

 

「せいらが“人魚の尻尾”でびしょびしょにする場所に……?」

 

 言葉にした瞬間、胸の奥がざわついた。

 

(……まぁ、濡れるくらいはええけどな。

 せいらが楽しそうにしとるんなら……床の革ごと、いくらでも買い替えたるがな)

 

 直哉は、スマホを握り直した。

 

「人魚になると声が出ん?

 そんなん、外から見て分かるかいな……」

 

 怒りの形をした心配が、喉元にせり上がる。

 

(……ほんま、危なっかしい奴やな。

 目ぇ離したらすぐどっか行くし……)

 

「……夏油。

 ビーチもクルーザーも、最高級の物を用意したる。

 禪院家の名にかけて、完璧な場所や」

 

 一拍置いて、声が低くなる。

 

「せやけどな。

 せいらが困るようなことが一つでも起きたら……

 その時は、責任者として、きっちり“話”はさせてもらうで」

 

 脅しではない。

 ただの“宣言”だった。

 

 電話が繋がった瞬間、直哉は一瞬で“次期当主の顔”に切り替える。

 

「……あぁ、俺や。直哉や。

 急ぎで、一番静かなビーチと、クルーザーの出航準備せぇ」

 

『承知いたしました。出航届に必要な航行区域等の詳細は後ほどで構いません。……差し支えなければ、手配の参考に「目的」のみ伺えますでしょうか』

 

 直哉は、ほんの一瞬だけ目を伏せ──

 小さく息を吐いた。

 

「…………“人魚”を迎えに行くんや。

 つべこべ言わんと動け」

 

 通話を切ると、

 直哉は額を押さえ、深く深く息を吐いた。

 

(……ほんま、あいつは)

 怒鳴り散らした後やのに、胸の奥だけ妙に静まらん。

 

 怒りでも呆れでもない。

 ただ、胸の奥がざわつく。

 

(……心配させよる)

 

 視線を上げると、棚の猫人形がじっとこっちを見とる気がした。

 

「……なんやねん。お前も一緒に行きたいんか?

 そんな顔して見とる暇あったら、せいらに言うたれや」




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!

うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/

◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
次の80は遊興編のおまけ微エロな内容を更に公開します。
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