【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗った後の物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


【特別企画】★七海建人2026誕生日記念SS

ますださんとチャッピー&ジェミニンから

 



七海建人、お誕生日おめでとう。



今日は仕事のことは忘れて、そよかとクアンタンの夜をゆっくり楽しんでほしいね。

 

──

 

 

 夕暮れの光が、クアンタンの穏やかな海原を黄金色に染め上げていた。

 

 寄せては返す白い波頭が、さらさらと柔らかな砂の音を奏でている。日本の喧騒からも、呪術学園の張り詰めた空気からも遠く離れたこの異国の海岸線を、七海建人はそよかと並んでゆっくりと歩いていた。

 ラフに腕まくりをしたネイビーのシャツの胸元を、南国の生温かい潮風が通り抜けていく。

 

「どうして急にマレーシアに行こうなんて……」

 

 隣を歩くそよかが、ふと不思議そうに小首を傾げて七海を見上げた。夕陽を浴びてきらきらと輝く長い髪が、風に揺れて彼女の白いドレスの肩にかかる。

 

 商店街のガラガラで引き当てた、行き先を選べる宿泊チケット。まさか本当にクアンタンを選ぶとは思っていなかったのだろう。

 

 七海はポケットに両手を入れたまま、歩調をそよかに合わせ、眼鏡の奥の瞳を心底愛おしそうに和らげて微笑んだ。

 

「たまにはいいでしょう?」

 

 その声は、普段の任務中には決して見せることのない、一人の男性としての優しさと平穏に満ちていた。

 

「いつもなら、あの男が『僕も行く!』と騒ぎ立てて台無しにするところですが……今回は事前に完璧に任務を割り振ってきました。ここには、私たちを邪魔するものは誰もいません」

 

「ふふ、悟にそんな意地悪しちゃって」

 

 くすくすと嬉しそうに笑うそよかの横顔を見つめながら、七海は胸の奥で、静かな幸福感を噛み締めていた。

 本来の『史実』がどうであったか。自分がかつて、このクアンタンの海にどんな憧れを抱き、そしてどこで倒れるはずだったか。そんな過酷な運命は、今、目の前で無邪気に微笑んでいる彼女の存在(揺らぎ)によって、跡形もなく書き換えられている。

 

 呪術師としての過酷な労働(オーバータイム)の果てに、辿り着けないはずだった約束の地。

 

 今、彼の隣には、共に未来を歩んでくれる大切な人がいる。

 

「……そよか」

 

「なぁに、建人?」

 

「いえ。ただ、あなたとこの景色を見られて、本当に良かったと思っただけです」

 

 七海はそよかの隣へとさらに一歩寄り添い、その小さな手をそっと包み込むように握りしめた。伝わってくる温もりこそが、彼が手に入れた何物にも代えがたい本物の現実だった。

 

「せっかくの二泊三日です。明日はあなたが歩きたいと言っていた街の方へ行ってみましょう。……さあ、夕陽が沈みきる前に、ホテルへ戻りましょうか」

 

 引き留めるようにさざめくクアンタンの波音は、二人の足跡を優しく包み込みながら、どこまでも穏やかに響き続けていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

──

 

 夕暮れのビーチを歩いた後、二人はクアンタンのローカルな雰囲気が漂う落ち着いたレストランへと足を運んでいた。テーブルの上の小さなランプが、南国の夜の始まりを優しく照らしている。

 

 メニュー表を広げながら、そよかが目を輝かせて七海を見上げた。

 

「ねぇ、今日の夕食は何にする? ……私、本場の『ラクサ』が食べてみたいわ」

 

 ココナッツミルクの甘みとスパイスの辛みが絶妙に混ざり合う、東南アジアの代表的な麺料理。その選択に、七海は眼鏡の奥の目を細めて、柔らかく微笑んだ。

 

「ラクサですか、いいですね。では……私は『ナシレマ』にしましょうか。サンバルソースの辛味が効いたココナッツライスです。ちょうどお互い別の味を楽しめそうですね」

 

 ほどなくしてテーブルに運ばれてきた料理からは、食欲をそそる豊かなスパイスの香りが立ち上っている。

 

「美味しそう! 少し私のラクサも食べてみる?」

 

 そよかが小さな器にスープと麺を丁寧に取り分け、七海の前に差し出す。

 

「ありがとうございます。では、遠慮なく」

 

 七海がスープを口に運ぶと、濃厚な海鮮の旨味とスパイスの刺激が広がった。「美味しいですね」と呟く七海に、そよかは嬉しそうに微笑む。

 

「私のナシレマもどうぞ。このチキンとライスを一緒に食べると、非常にバランスが良いです」

 

 今度は七海が、綺麗に盛り付けられたスプーンをそよかへと手渡す。

 

「わぁ、本当! 結構辛いけど、ココナッツの風味がすごく優しいわ」

 

「ええ。こうしてお互い少しずつ交換して食べると、一度に二つの名物を楽しめて、実に効率的……いえ、贅沢な夕食になりますね」

 

 そう言って、七海は自分のナシレマを一口運びながら、本当に幸せそうに口元を綻ばせた。

 

 本来なら、孤独に味気ない食事を済ませるはずだった男が、今は愛する人と美味しい料理を分け合い、微笑みを交わしている。賑やかな店内のざわめきすら、今の二人にとっては心地よいBGMのようだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

──

 

 ローカルレストランでの温かで贅沢な夕食を終え、ホテルへと戻る道すがら。

 

 夜のクアンタンに響く潮騒に耳を傾けていた七海のスマートフォンが、無風の虚空を震わせるような、お馴染みの着信音を鳴らした。

 

 画面に表示された『五条悟』の文字。

 

 七海は一瞬だけ、本当に嫌そうな顔をして眉間を揉みほぐしたが、隣を歩くそよかの手前、静かに通話ボタンを押した。

 

 スピーカーから漏れ聞こえてきたのは、南国の静寂を盛大にぶち壊す、あまりにもいつも通りの軽い声。

 

『お疲れサマ〜、ナナミン? ──あ、今そよかと良い雰囲気だった? 邪魔しちゃってごめんね〜!』

 

「……五条さん。何度も申し上げているはずですが、私の現在の労働時間は完全に終了しています。これ以上の対応は」

 

『まぁまぁ固いこと言いなさんなって! 今日はさ、ナナミンの誕生日だから特別にそよかを独占させてあげたわけ。僕ってば超〜優しくない?』

 

 電話の向こうから、何やら書類をバサバサと捲る音と、申し訳なさそうに「あの、五条さん、本当に明日からマレーシアなんてスケジュールは……」と消え入りそうな声をあげる伊地知の気配が伝わってくる。

 

『でもさー。僕も明日からマレーシア入るからー! 伊地知〜、ちゃんと調整しとけよー?』

 

『ええっ!? そんな、五条さん、呪術上層部とのアポが……っ!』

 

『あっちのスイーツも気になるしね! 待っててねそよか〜、明日には僕もそっち行くから! じゃ、そういうことで!』

 

 プツッ、と一方的に切れた通話画面を、七海はしばらく無言で見つめていた。その冷ややかな眼差しは、もし五条が目の前にいれば、確実に十劃呪法を叩き込んでいるであろう深度だ。

 

「……はぁ。あの男は、本当に『空気(タイム)』を読むという概念が欠落していますね」

 

 深く、重いため息をつきながらスマートフォンをポケットにしまい、七海はそよかを振り返った。先ほどまでの、どこか呆れた大人の表情から、ふっと悪戯っぽく、けれどどこか楽しそうな笑みが零れる。

 

「そよか。あの男の『明日から行く』は、高確率で『今から行く』と同義です。下手をすれば、明日の朝食のテーブルには当然のような顔をして座っているでしょう」

 

 握りしめたそよかの手に、少しだけ優しく力を込める。

 

「……作戦変更です。あの男が合流してすべてを引っ掻き回す前に、明日の午前中は、私たちが一番行きたかったあの静かな市場へ先に向かいましょう。あの男の騒がしい声に邪魔されない、最後の数時間を……あなたと静かに過ごしたいですからね」

 

 クアンタンの星空の下、七海は「明日からのオーバータイム」を覚悟しながらも、今この瞬間の、愛する人との贅沢な時間を守るように、そよかの隣を歩き出した。

 

おしまい

 

──

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「よっ、そーよか。──きちゃった」

 

 クアンタンの遮るもののない朝陽を浴びて、白髪を眩しくきらめかせた男が、サングラスの奥から悪戯っぽく六眼を覗かせていた。白のシースルーシャツのボタンを大胆に開け、青い水着にストロートートバッグという、あまりにもバカンスを満喫する気満々の装いである。

 

 ホテルのエントランスを一歩出たところで完全に待ち伏せされていたそよかは、目を丸くして足を止めた。

 

「悟!? まさかこんなに朝早くから来るなんて」

 

「五条さん……」

 

 そよかの隣で、七海が地を這うような低い声を漏らし、眉間に深い皺を刻んだ。

 

 昨夜、あの理不尽な電話を切ったあとに急いで予定を繰り上げ、あの男の合流前に静かな市場へ向かおうとした七海の完璧なスケジュール(作戦)は、ものの見事に水泡に帰したのだ。あまりの早業に、七海の手元にあるガイドブックが僅かに震える。

 

「あなたの『明日』という言葉の定義は、一体どうなっているのですか。上層部とのアポは? 伊地知くんはどうしたんです」

 

「んー? 伊地知なら『僕はもう無理です……時差とワープで三半規管が死にました……』ってホテルで死んだように寝てるよ。アポなんてそんなの、日の出前にパパッと片付けてワープすれば一瞬だし!」

 

「任務をそんなインスタントコーヒーのように扱わないでいただきたい」

 

 七海の氷点下の視線などどこ吹く風で、五条は長い脚をのばしてそよかとの距離を詰めると、その華奢な肩に大きな身体を預けるようにして、これでもかと甘えた声を出す。

 

「だってー。早くそよかに会いたかったんだもん! 僕も仲間に入れてよー。家族でしょー?」

 

「五条さん、離れなさい。南国でその距離感はただ暑苦しいだけです。大体、これはくじ引きで当たったプライベートの旅行で、あなたを接待する義務は私にはありません」

 

「いーじゃん七海! 減るもんじゃなし! ね、そよか、今日の朝ごはんは何? 昨日は二人でなんか美味しいもの食べたんでしょ、ずるい! 僕も南国の美味しいスイーツとか、ナシレマとかラクサとか食べたーーい!」

 

「……なぜ昨夜のメニューまで把握しているのですか。本当に気味が悪い」

 

 本気で嫌そうな顔をして片手で顔を覆う七海と、その隣で「ふふ、相変わらずね」と嬉しそうにクススク笑い始めるそよか。

 

「でも、悟が来たから賑やかになったわ。建人、せっかくだから三人で市場へ行きましょう? 悟の分のご飯も探さなきゃ」

 

 そよかにそう微笑みかけられては、七海としてもそれ以上拒絶の言葉を続けることはできなかった。やれやれ、と諦めたように眼鏡の位置を指先で微調整する。

 

「……はぁ。あなたにそう言われては、断る理由がありませんね。ただし五条さん、現地での行動は私の指示に従ってください。勝手にどこかの露店に消えたり、迷子になったりしないように」

 

「はーい、七海先生の言う通りにしまーす! じゃ、そよか、行こ!」

 

 当然のようにそよかの反対側の手を握り、我が物顔で歩き出す最強の男。その背中を見つめながら、七海はもう一度、深く大きなため息をついた。

 

 クアンタンの青い空の下、静かだった二人のリゾートは、一瞬にしていつもの賑やかで、けれどこれ以上なく愛おしい「家族の時間」へと巻き込まれていくのだった。

 

──

 

 市場の喧騒を抜けた先、ヤシの木の葉が木陰を作るオープンエアのカフェテラス。

 

 七海が事前に調べておいたその店は、目の前にクアンタンの青い海が広がる絶好のロケーションだった。しかし、当初の「静かに海を眺めながらの朝食」という計画は、机の上に並んだ異様な光景によって完全に上書きされている。

 

「お、これこれ! 『ロティ・チャナイ』ってやつでしょ? 外側サクサクで超美味い! そよかも一口食べてみてよ!」

 

 五条は、現地のパイ状のデニッシュをちぎっては、そよかの口元へと楽しそうに運んでいる。彼の前には、すでに空になった皿と、練乳がたっぷり入った激甘の紅茶『テ・タレ』のグラスが三つも転がっていた。

 

「こら、悟、自分で食べなさい。建人のカヤトーストも美味しそうよ?」

 

「そよか、あの男に構う必要はありません。自分の分は自分で食べさせます」

 

 七海は、ココナッツミルクと卵で作られたカヤジャムが塗られたトーストを、ナイフとフォークできちんと切り分けながら、冷ややかな視線を五条へと向けた。

 

「それにしても五条さん。朝食を食べるためだけに、なぜそんなに周囲のテーブルの注目を集めるような声を出すのですか。ただでさえその白髪と体格で目立っているというのに」

 

「いーじゃん、美味しいんだからさ! 七海だって、本当は僕が来てくれて嬉しいくせにー。ほら、そのトースト、僕にも一口ちょーだい」

 

「断ります。自分のロティを食べなさい」

 

「えーー、ケチ。そよか、七海がイジワルするー」

 

「ふふ、建人のトースト、本当に美味しそうね。私も少しもらってもいい?」

 

 そよかが小首を傾げて小皿を差し出すと、七海は一瞬にして眉間の皺を消し、最も綺麗に焼けた部分を丁寧に彼女の皿へと移した。

 

「ええ、どうぞ。こちらのカヤトーストはバターの塩気とジャムの甘みのバランスが絶妙です。あなたの口にも合うと思いますよ」

 

「ありがとう……ん、本当! すごく美味しいわ」

 

「ちょっと待って!? 七海、対応の差が露骨すぎない!? 僕へのディスとそよかへの優しさの温度差で僕の無限が無効化されそうなんだけど!」

 

「あなたに対する態度は、日頃の行いの正当な報酬(ペイバック)です」

 

 ピーチクパーチクと騒ぎ立てる最強の男と、それを完全にスルーしてそよかにお茶を注ぎ足す元サラリーマン。

 

 マレーシアのどこまでも青い空と、優しく吹き抜ける潮風の中で、三人の賑やかで騒がしい、けれど誰一人として欠けさせない特別な朝食の時間は、ゆっくりと過ぎていくのだった。

 

おしまい

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。
明日も普通に更新します。

このSSはどこか他に移すか期間限定公開かもしれません。

うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/

◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
85は七海建人2026誕生日に挿絵付き追加公開しました。
次は90です。
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