【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
──ラストの結界に護られた太古の沈没船内は、とても静かだった。
外の海よりもさらに冷たく、
光が届かないはずなのに、
どこか淡い青が漂っている。
ラストが解いた“結界”の名残が、
まだ水中に薄く揺れていた。
せいらはルーグルの腕の中で、そっと両目を開けた。
さっきまでの速さに驚いていたのか、胸が上下している。
「……大丈夫?」
ルーグルは腕を緩め、ゆっくりとせいらを離した。
けれど、手はまだ彼女の肩に触れたままだった。
(……怖がらせたくなかった)
「ここが、僕が見せたかった場所」
せいらは周囲を見回し、
古い木材、崩れた壁、漂う光の粒に目を奪われている。
「怖くない……?」
せいらは首を横に振った。
その仕草に、ルーグルの胸がまた熱くなる。
(……よかった)
「ここはね、昔……“海と陸の境目”だった場所なんだ」
せいらが目を瞬かせる。
「僕たちの海の民が、
まだ地上の人と話していた頃の……最後の場所」
せいらの瞳が揺れる。
声は出せないのに、
“もっと聞きたい”と伝わってくる。
ルーグルは少し照れたように笑った。
「……せいらになら、話してもいいと思ったんだ」
せいらはゆっくりと周囲を見回した。
すべてが初めて見る景色だった。
「……ねえ、せいら」
ルーグルがそっと声を落とす。
「僕ね、ずっと思ってたんだ」
せいらが振り返る。
「知らないことを、知らないままでいるのって……怖いなって」
せいらの目が揺れる。
「深海の民は“地上は危険だ”って言う。
でも……見たこともないのに、どうして決めつけられるんだろうって」
ルーグルは沈没船の壁に手を置いた。
「知ってからじゃないと、判断できないことってあると思うんだ。
僕は……ちゃんと知りたい。
地上のことも、外の世界も」
せいらの胸がきゅっと熱くなる。
そして──
彼女は勢いよく首を縦に振った。
声は出ない。
でも、伝えたい気持ちが溢れていた。
「……え?」
せいらは胸の前で手を動かし、
必死に言葉を形にしようとする。
そして、ゆっくりと口を開いた。
──わたしのお師匠様も、同じことを言うの。
声は出ない。
けれど、唇の動きだけで十分伝わった。
ルーグルの目が大きく見開かれる。
「……本当に?」
せいらは嬉しそうに頷いた。
(……そっか。
せいらの周りにも、そんな人がいるんだ)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……なんだか、嬉しいな」
ルーグルは照れたように笑った。
せいらも、静かに微笑む。
沈没船の中に、
ほんの少しだけ温かい空気が満ちた。
──
海の底で速い水流に流されて、
胸がぎゅっと苦しくなった瞬間もあった。
(……でも)
ルーグルの腕に抱えられていた温かさが、
まだ身体に残っている。
(ここに来て……よかった)
沈没船は不思議だった。
怖い場所のはずなのに、
どこか懐かしくて、落ち着く。
ルーグルの声が静かに響く。
──知らないことを、知らないままでいるのって……怖いなって。
さっきの言葉が胸にすっと染みた。
(……わかる)
お師匠様も、同じことを言っていた。
──知らないまま遠ざけるより、知ってから選ぶ方が良いわ。
そして──
その言葉を、誰よりも優しく肯定してくれた人がいる。
(……すぐるも、きっとそう言う)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
ルーグルの姿が、
どこか自分たちに似ていて──
(……安心する)
怖かった気持ちが、
少しずつ溶けていく。
ほんの一瞬だけ、
“すぐる”のことを思い出して胸が痛くなる。
(……今は、会えないけど)
(ここに来て……ほんとうによかった)
そう思った瞬間──
水の流れが、ふっと変わった。
(……この気配)
忘れられるはずがない。
ぽわぽわと温かかった世界が、
緊張するように軋んだ。
●18
七海海人は舵を握ったまま、ふと眉をひそめた。
海面を渡る風が、さっきまでと違う“重さ”を帯びている。
「……潮の流れが変だな。ここ、止めるぞ」
舟がきしむように減速し、波の揺れが微妙に乱れる。
後方では、悟・建人・直哉の乗るクルーザーが、
海人の動きを読むように距離を保ってついてきていた。
「海人さん、どうしたんですか」
クルーザーから建人が声を上げる。
「この辺り……“沈没船がある”って言われとった場所なんだが──いつもより潮の揺れ方が違う」
海人が言い終えるより早く──
海面が、低く唸るように盛り上がった。
波が逆流し、白い泡が渦を巻く。
「……おい」
悟が顔を上げた瞬間、海全体が息を呑んだように静まり──
ドォンッ!!
爆ぜるような衝撃とともに、巨大な水柱が空へ突き上がった。
海人の舟が跳ね上がり、甲板が軋む。
後方のクルーザーも大きく揺れ、船体が波に叩かれる。
「なんやこれぇ!? 間欠泉か!!」
直哉が手すりにしがみつく。
「呪力反応、急上昇……!」
七海が計器を見て顔色を変える。
「こりゃあ深海で……傑が戦ってるな」
悟の六眼が鋭く光った。
その瞬間、通信機が鋭く鳴り響いた。
『悟!? 今の揺れ……こちらでも強く観測したわ!
計器が一瞬、振り切れたの!』
そよかの声は、陸の作戦室のざわめきと混じって震えている。
「位置は?」
『……せいらのGPS反応が途絶えた座標に、ほぼ重なる。
あの海域……やっぱり何か“隠されてる”』
海人が低く息を吐く。
「そうか……やはり、ここに何かあるのか」
海面がまだざわついている。
その揺れの奥に、深海からの“何か”が伝わってきた。
──視点は、海の底へ沈んでいく。
──
──深海は、静かすぎた。
傑は水中を漂う呪霊を操りながら、
何度も何度も周囲を探らせていた。
胸の奥で、焦りがじわじわと熱を持つ。
(……せいら。無事でいてくれ)
声は出ない。
“声を出すための呪霊”すら、今は捜索に回している。
喉が震えるのに、音にならない。
深海は呪力が乱れ、
せいらの気配はすぐに途切れてしまう。
そのたびに、胸が冷たくなる。
(どこだ……頼む、応えてくれ)
傑は水をかき分ける腕に力を込めた。
焦りが胸を締めつける。
そのとき──
呪霊が一体、急に動きを変えた。
(……見つけた)
傑は一気に深く潜る。
水圧が身体を押しつぶすように重くなる。
沈没船の影が見えた。
その奥に──
微かに、せいらの気配。
(……せいら)
胸が熱くなる。
傑は水を裂き、沈没船の入口へ向かった。
──
沈没船の入口に差し込む淡い光の中で、
せいらがゆっくりと振り返った。
その瞳が揺れ、息を呑むように見開かれる。
(……すぐる……?)
傑の胸が一気に熱くなる。
無事だ。生きている。いつも通りのせいらだ。
傑は思わず手を伸ばした。
声は出ない。喉が震えるだけだ。
それでも──せいらには伝わった。
──その瞬間。
水が揺れ、影がひとつ滑り込むように動いた。
ルーグルが、せいらの前へすっと身を差し入れる。
片腕でせいらの肩をそっと押し下げ、
尾びれで水流を変えて傑との間に壁を作る。
敵意ではない。
だが──深海の民としての本能が、せいらを守ろうと警鐘を鳴らしていた。
ルーグルの瞳が細くなり、傑をまっすぐ射抜く。
(……邪魔、するな)
言葉はない。
でも、傑には伝わった。
傑の呪力が揺れ、深海そのものが低く唸った。
圧力が一瞬で変わり、沈没船の壁が軋む。
ルーグルも身を沈め、尾びれで水を切る。
二人の間に、重い水圧が押し寄せては弾けた。
沈没船の周囲の水流が逆巻き、
まるで深海が二人を引き裂こうとするように渦を作る。
次の瞬間──
ぶつかり合った呪力と水流が爆ぜた。
その衝撃が、海上へ突き上がる。
ドォンッ!!
海上の水柱は、この瞬間の爆発だった。
──
傑は“せいらを取り戻すため”。
ルーグルは“せいらを守るため”。
互いに声が届かないまま、
深海でのすれ違い戦闘が始まる──。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
85は七海建人2026誕生日に挿絵付き追加公開しました。
次は90です。