【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


133碧淵編 17・18:沈没船に満ちた優しき共感と、深海を裂いて激突する二つの守護

●17

 

 ──ラストの結界に護られた太古の沈没船内は、とても静かだった。

 

 外の海よりもさらに冷たく、

 光が届かないはずなのに、

 どこか淡い青が漂っている。

 

 ラストが解いた“結界”の名残が、

 まだ水中に薄く揺れていた。

 

 せいらはルーグルの腕の中で、そっと両目を開けた。

 さっきまでの速さに驚いていたのか、胸が上下している。

 

「……大丈夫?」

 

 ルーグルは腕を緩め、ゆっくりとせいらを離した。

 けれど、手はまだ彼女の肩に触れたままだった。

 

(……怖がらせたくなかった)

 

「ここが、僕が見せたかった場所」

 

 せいらは周囲を見回し、

 古い木材、崩れた壁、漂う光の粒に目を奪われている。

 

「怖くない……?」

 

 せいらは首を横に振った。

 その仕草に、ルーグルの胸がまた熱くなる。

 

(……よかった)

 

「ここはね、昔……“海と陸の境目”だった場所なんだ」

 

 せいらが目を瞬かせる。

 

「僕たちの海の民が、

 まだ地上の人と話していた頃の……最後の場所」

 

 せいらの瞳が揺れる。

 声は出せないのに、

 “もっと聞きたい”と伝わってくる。

 

 ルーグルは少し照れたように笑った。

 

「……せいらになら、話してもいいと思ったんだ」

 

 せいらはゆっくりと周囲を見回した。

 すべてが初めて見る景色だった。

 

「……ねえ、せいら」

 

 ルーグルがそっと声を落とす。

 

「僕ね、ずっと思ってたんだ」

 

 せいらが振り返る。

 

「知らないことを、知らないままでいるのって……怖いなって」

 

 せいらの目が揺れる。

 

「深海の民は“地上は危険だ”って言う。

 でも……見たこともないのに、どうして決めつけられるんだろうって」

 

 ルーグルは沈没船の壁に手を置いた。

 

「知ってからじゃないと、判断できないことってあると思うんだ。

 僕は……ちゃんと知りたい。

 地上のことも、外の世界も」

 

 せいらの胸がきゅっと熱くなる。

 

 そして──

 彼女は勢いよく首を縦に振った。

 

 声は出ない。

 でも、伝えたい気持ちが溢れていた。

 

「……え?」

 

 せいらは胸の前で手を動かし、

 必死に言葉を形にしようとする。

 

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

 ──わたしのお師匠様も、同じことを言うの。

 

 声は出ない。

 けれど、唇の動きだけで十分伝わった。

 

 ルーグルの目が大きく見開かれる。

 

「……本当に?」

 

 せいらは嬉しそうに頷いた。

 

(……そっか。

 せいらの周りにも、そんな人がいるんだ)

 

 胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

「……なんだか、嬉しいな」

 

 ルーグルは照れたように笑った。

 

 せいらも、静かに微笑む。

 

 沈没船の中に、

 ほんの少しだけ温かい空気が満ちた。

 

──

 

 海の底で速い水流に流されて、

 胸がぎゅっと苦しくなった瞬間もあった。

 

(……でも)

 

 ルーグルの腕に抱えられていた温かさが、

 まだ身体に残っている。

 

(ここに来て……よかった)

 

 沈没船は不思議だった。

 怖い場所のはずなのに、

 どこか懐かしくて、落ち着く。

 

 ルーグルの声が静かに響く。

 

 ──知らないことを、知らないままでいるのって……怖いなって。

 

 さっきの言葉が胸にすっと染みた。

 

(……わかる)

 

 お師匠様も、同じことを言っていた。

 

 ──知らないまま遠ざけるより、知ってから選ぶ方が良いわ。

 

 そして──

 その言葉を、誰よりも優しく肯定してくれた人がいる。

 

(……すぐるも、きっとそう言う)

 

 胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

 ルーグルの姿が、

 どこか自分たちに似ていて──

 

(……安心する)

 

 怖かった気持ちが、

 少しずつ溶けていく。

 

 ほんの一瞬だけ、

 “すぐる”のことを思い出して胸が痛くなる。

 

(……今は、会えないけど)

 

(ここに来て……ほんとうによかった)

 

 そう思った瞬間──

 

 水の流れが、ふっと変わった。

 

(……この気配)

 

 忘れられるはずがない。

 

 ぽわぽわと温かかった世界が、

 緊張するように軋んだ。

 

 

●18

 

 七海海人は舵を握ったまま、ふと眉をひそめた。

 海面を渡る風が、さっきまでと違う“重さ”を帯びている。

 

「……潮の流れが変だな。ここ、止めるぞ」

 

 舟がきしむように減速し、波の揺れが微妙に乱れる。

 後方では、悟・建人・直哉の乗るクルーザーが、

 海人の動きを読むように距離を保ってついてきていた。

 

「海人さん、どうしたんですか」

 

 クルーザーから建人が声を上げる。

 

「この辺り……“沈没船がある”って言われとった場所なんだが──いつもより潮の揺れ方が違う」

 

 海人が言い終えるより早く──

 

 海面が、低く唸るように盛り上がった。

 波が逆流し、白い泡が渦を巻く。

 

「……おい」

 

 悟が顔を上げた瞬間、海全体が息を呑んだように静まり──

 

 ドォンッ!!

 

 爆ぜるような衝撃とともに、巨大な水柱が空へ突き上がった。

 海人の舟が跳ね上がり、甲板が軋む。

 後方のクルーザーも大きく揺れ、船体が波に叩かれる。

 

「なんやこれぇ!? 間欠泉か!!」

 

 直哉が手すりにしがみつく。

 

「呪力反応、急上昇……!」

 七海が計器を見て顔色を変える。

 

「こりゃあ深海で……傑が戦ってるな」

 

 悟の六眼が鋭く光った。

 

 その瞬間、通信機が鋭く鳴り響いた。

 

『悟!? 今の揺れ……こちらでも強く観測したわ!

 計器が一瞬、振り切れたの!』

 

 そよかの声は、陸の作戦室のざわめきと混じって震えている。

 

「位置は?」

 

『……せいらのGPS反応が途絶えた座標に、ほぼ重なる。

 あの海域……やっぱり何か“隠されてる”』

 

 海人が低く息を吐く。

 

「そうか……やはり、ここに何かあるのか」

 

 海面がまだざわついている。

 その揺れの奥に、深海からの“何か”が伝わってきた。

 

 ──視点は、海の底へ沈んでいく。

 

 

──

 

 

 ──深海は、静かすぎた。

 

 傑は水中を漂う呪霊を操りながら、

 何度も何度も周囲を探らせていた。

 胸の奥で、焦りがじわじわと熱を持つ。

 

(……せいら。無事でいてくれ)

 

 声は出ない。

 “声を出すための呪霊”すら、今は捜索に回している。

 喉が震えるのに、音にならない。

 

 深海は呪力が乱れ、

 せいらの気配はすぐに途切れてしまう。

 そのたびに、胸が冷たくなる。

 

(どこだ……頼む、応えてくれ)

 

 傑は水をかき分ける腕に力を込めた。

 焦りが胸を締めつける。

 

 そのとき──

 呪霊が一体、急に動きを変えた。

 

(……見つけた)

 

 傑は一気に深く潜る。

 水圧が身体を押しつぶすように重くなる。

 

 沈没船の影が見えた。

 

 その奥に──

 微かに、せいらの気配。

 

(……せいら)

 

 胸が熱くなる。

 傑は水を裂き、沈没船の入口へ向かった。

 

──

 

 沈没船の入口に差し込む淡い光の中で、

 せいらがゆっくりと振り返った。

 

 その瞳が揺れ、息を呑むように見開かれる。

 

(……すぐる……?)

 

 傑の胸が一気に熱くなる。

 無事だ。生きている。いつも通りのせいらだ。

 

 傑は思わず手を伸ばした。

 声は出ない。喉が震えるだけだ。

 それでも──せいらには伝わった。

 

 ──その瞬間。

 

 水が揺れ、影がひとつ滑り込むように動いた。

 ルーグルが、せいらの前へすっと身を差し入れる。

 

 片腕でせいらの肩をそっと押し下げ、

 尾びれで水流を変えて傑との間に壁を作る。

 

 敵意ではない。

 だが──深海の民としての本能が、せいらを守ろうと警鐘を鳴らしていた。

 

 ルーグルの瞳が細くなり、傑をまっすぐ射抜く。

 

(……邪魔、するな)

 

 言葉はない。

 でも、傑には伝わった。

 

 傑の呪力が揺れ、深海そのものが低く唸った。

 圧力が一瞬で変わり、沈没船の壁が軋む。

 

 ルーグルも身を沈め、尾びれで水を切る。

 二人の間に、重い水圧が押し寄せては弾けた。

 

 沈没船の周囲の水流が逆巻き、

 まるで深海が二人を引き裂こうとするように渦を作る。

 

 次の瞬間──

 

 ぶつかり合った呪力と水流が爆ぜた。

 

 その衝撃が、海上へ突き上がる。

 

 ドォンッ!!

 

 海上の水柱は、この瞬間の爆発だった。

 

──

 

 傑は“せいらを取り戻すため”。

 ルーグルは“せいらを守るため”。

 

 互いに声が届かないまま、

 深海でのすれ違い戦闘が始まる──。




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!

うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/

◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
85は七海建人2026誕生日に挿絵付き追加公開しました。
次は90です。
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