【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●19
──深海が揺れていた。
沈没船の奥で、私は静かに目を細める。
外の水流が荒れ、呪力の波がぶつかり合う音が水を震わせていた。
「呪霊操術……? しかもこの規模──。
外の術師にしては、ずいぶんと“濃い”わね」
沈没船の影に身を潜めながら現場へ向かうと、ルーグルと敵対する見慣れない人魚がいた。
「──あれが、呪霊操術使い……?」
異形の呪霊たちを引き連れた、全身が黒い鮫の尾を持つ人魚。深海の掟から完全に逸脱したその禍々しさに、私は息を呑む。
彼の放つ黒い影が、容赦なく深海の渦を切り裂いていく。
対するルーグルは、死霊操術で呼び出した“深海の亡霊”をまとわせ、
水圧を操りながら応じていた。
「ふふ……ルーグルも負けていない。
深海の民の術式を、外の術師が簡単に上回れると思わないけれど」
私は腕を組み、まるで観戦するように二人の動きを追った。
──だが、黒い人魚の動きが変わる。
戦闘の最中にもかかわらず、呪霊を一体だけ呼び戻した。
その呪霊は、小さな防水ポーチを抱えている。
猫の顔が描かれたポーチ。
紐は途中で切れ、急いで結び直された跡があった。
「あ、ラスト。あれオレが噛みちぎったやつだ」
「──GPS入りだったようなので……回収していたようですね」
ウツボたちが私に寄り添っていた。
どうやらあの黒い人魚も声を出せないらしい。
呪霊はせいらのもとへ泳ぎ、そっとポーチを差し出した。
せいらは驚きながらも受け取り、胸に抱きしめる。
その瞬間、黒い人魚の呪力がわずかに揺れた。
言葉はなくても、二人の間に確かなものが通ったようだ。
──しかし。
せいらが二人の間に割って入ろうとした瞬間、
水流が激しく巻き込み、せいらの身体を翻弄する。
人魚化した身体は軽く、渦に巻かれやすい。
せいらはぐるぐると回転しながら流され、
止めようとしたはずが、逆に戦闘の渦へ吸い込まれていく。
「おやおや、あの様子ではどこか流されてしまいそうですね」
「あはは、あっぶなーい」
ウツボたちがケラケラと笑っていた。
──『…………』
誰かが耳元で囁くように──。
──『見ているだけでいいの?』
ぞくりと全身が震えた。
それは『魔女の囁き』──自身の想像や想定をこえさせようとする誰かの導き。
古からの言い伝え。
「仕方がないねぇ」
私が動こうとした、そのとき。
上から巨大な影が落ちてきた。
金属のきしむ音。
深海用の捕獲網が広がり、沈没船の周囲を覆う。
「……あれは捕獲網!? 一体、誰が……」
渦に巻かれたせいらは、意識を手放しかけていた。
そのまま網の中へ吸い込まれていく。
「それは──貴重なサンプル!!」
私は反射的にせいらへ飛び込んだ。
腕を伸ばし、せいらの身体を抱き寄せる。
だが次の瞬間、網が私たちを包み込んだ。
水流が乱れ、視界が白く泡立つ。
「お前たちはルーグルに──!」
私は網の向こうの影に叫びかけたが、声は水に溶けて消えた。
そのまま、せいらと私は海上へと引き上げられていく──。
──
──海上。
「兄ちゃん兄ちゃん!!」
弟の呪詛師が網を引き上げながら叫んだ。
「人魚が獲れたよ!! 本物だよ!!」
「はぁ!? マジか!! うおっ……二匹もいる!!」
兄の呪詛師が網の中を覗き込み、目を輝かせる。
「やったなぁ!! ここ禁漁海域だって聞いてたし、絶対なんかあると思ってたんだ!!」
「兄ちゃん兄ちゃん、なんか下でタコみたいなのが暴れてるけどどうする?」
弟が海中を指差す。
海の下では、ウツボの護衛たちが網に噛みつこうと暴れていた。
しかし兄弟はそれが“ウツボ”であることすら分かっていない。
「タコなんか知るか! とりあえずこの人魚二匹を水槽にぶち込め! 金山になるぞ!」
「兄ちゃん兄ちゃん! 後ろからなんかヤバそうなクルーザーと漁船が追ってくる!!」
「漁協か!? 監視船か!? 構うな、アクセル全開だァ!!」
兄弟は相手が術師だとは露ほども思っていない。
「と、とりあえず水槽にぶち込め!! ずらかるぞ!!」
エンジンが唸り、舟が急加速する。
網の中で、せいらとラストの身体が揺れた。
深海から追い上げる黒い影──
傑とルーグルが、同時に海面へ向かっていた。
●20
──海上。
「……動いたな」
海人が舵を握り直し、低く呟いた。
先ほどまで停泊していた小舟が、急に方向を変えて逃げ始めたのだ。
「兄ちゃん兄ちゃん!! なんか追ってくる!!」
「うるせぇ!! こっちは“改造済み”だ!! 漁船なんかに負けるか!!」
小舟のエンジンが、常識外れの唸りを上げる。
違法改造された推進機が海面を削り、白い尾を引いた。
「なんやあれ!? 速っ……!?」
直哉が目を見開く。
「海人さん、あれ……普通の舟じゃないですよね」
「違法改造だ。あんなの、漁協に見つかったら一発で免許取り消しだぞ……!」
「つまり、速いってこと?」
「めちゃくちゃ速いぞ!!」
海人の舟も加速するが、距離は縮まらない。
「チッ……逃げ切る気か知らんが、舐めやがって……!」
直哉が苛立ちを露わにスロットルを押し込む。
「七海ぃぃ! あの船に間違いなくせいらの反応あるんやろうな!?」
「微弱ですが……間違いなくあの舟にあります!」
「んー……あっちは逃げ切る気満々だねぇ」
甲板で悟の六眼が細く光る。
「兄ちゃん兄ちゃん!! なんか光ってる!! あれ何!?」
「知らねぇ!! 見んな!! 気にすんな!!」
兄弟は、追ってくる舟が誰なのか理解していない。
「……あいつら、本当に何も分かってないな」
海人が苦笑する。
「分からなくていいよ。止めよう」
悟が甲板の前方へ歩き、海面を見据える。
「七海、直哉。俺があの舟の進路を塞ぐ。
海人はそのまま真っ直ぐ。
そよかは陸から位置誘導を」
「了解」
「了解です」
(通信機越しに)『わかったわ!』
海上組が一斉に動き出す。
波が高く跳ね、海風が唸り、
逃げる舟と追う舟が一直線に並ぶ。
しかし──
「──速い。追いつけません」
建人が歯を食いしばる。
「兄ちゃん兄ちゃん!! 逃げ切れる!! このまま行ける!!」
「当たり前だ!! この舟にどんだけ金かけたと思ってんだよ!!」
そのとき──
「……深海から、何か来ます!」
建人の声と同時に、海面が盛り上がった。
黒い影が二つ、海を割って飛び出す。
傑とルーグルだった。
「兄ちゃん兄ちゃん!! なんか後ろから化け物みたいなの来てる!!」
「うるせぇ!! 見んなって言ってんだろ!!」
兄弟が振り返るより早く──
傑の呪霊が海面を滑るように迫り、網の端を掴もうと伸びる。
同時に、ルーグルの死霊が海中から巻き上がり、
舟の下を通って推進機を絡め取ろうとした。
「兄ちゃん兄ちゃん!! なんか黒い手ぇ伸びてきた!!」
「知らねぇ!! 避けろ!!」
兄弟の舟が急旋回する。
呪霊の腕が海面を裂き、死霊の影が水柱を上げる。
だが──
「──ギリギリで避けましたか……」
建人が息を呑む。
「兄ちゃん兄ちゃん!! もう無理だって!!」
「バカ野郎!! こうなったら──」
兄が舵を蹴り上げ、床板を外す。
「とっておきだぁぁぁぁ!!」
小舟の後部がガコンと音を立てて開き、
内部から違法改造の追加推進機がせり上がる。
「兄ちゃん兄ちゃん! それ、使っちゃダメなやつ!!」
「黙れ!! 今使わずいつ使うんだ!!」
次の瞬間──
爆音。
小舟が海面を跳ね飛ばし、
まるで弾丸のように加速した。
「なんや!? 更に加速しおった……!?」
直哉が目を見開く。
「海人さん、速度が……!」
「バカみたいに上がってる!! あれ、船体もつんか!?」
傑の呪霊が追いすがるが、
舟は水を切り裂き、白い軌跡だけを残して遠ざかる。
「……チッ、あの速度じゃ下手に俺の術式をぶち込んだら、せいらたちの乗る船体ごと消し飛びかねない」
悟が珍しく苦々しく指先を下げる。
瞬間移動で距離を詰めることもできるが、あの違法推進機の急加速と急旋回では、接近した瞬間の風圧だけで船体が粉々に砕け、せいらたちを巻き込む──五条悟ゆえに踏み込めない状況だった。
ルーグルの死霊が海中から伸びるが、
推進力が強すぎて追いつけない。
「兄ちゃん兄ちゃん!! オレたち逃げ切った!?」
「当たり前だ!! これがオレたちの“とっておき”だ!!」
兄弟の舟は、海上組も深海組も振り切り、
水平線の向こうへ消えていった。
残されたのは──
海上に浮かぶ泡と、深海から上がった二つの影だけだった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは大体また来週!
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
85は七海建人2026誕生日に挿絵付き追加公開しました。
次は90です。