【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●21
──海沿いの古い工場。
建物の壁は半壊し、鉄骨がむき出しになっていた。
黒い呪力の残滓が空気を焦がし、
奥ではまだ、傑とルーグルが呪霊と死霊をけしかけて暴れている。
その一帯には、すでに帳が降りていた。
「……ここまで派手にやるかねぇ」
悟が肩をすくめる。
「五条さん、感心している場合ではありません」
七海が呆れたように言った。
「いやいや、ほら。
あの二人、息ぴったりじゃん。仲良しかな?」
「五条さん──」
七海の声が低くなる。
そのとき──
工場の入口に、一台の車が静かに滑り込んできた。
ブレーキ音は控えめ。
砂煙も最小限。
“目立たないように”気を遣った運転だと分かる。
運転席から前田まるこが顔を出した。
「着きました! そよかさん!」
後部座席のドアが開き、そよかが飛び出す。
「悟! 建人さん! GPSの反応、ここね!?」
「そよかさん、ご無事でよかった」
七海が安堵の息をつく。
「前田さんの運転、凄く速かった。
助かりました……ありがとうございます……」
「ふふふ、この前田まるこ。推しのためなら年中無休!!
“静かに最速”は大得意なのです!!」
まるこが丸メガネを光らせながら親指を立てる。
「……で、ここは?」
そよかが工場を見上げる。
「海人さんが言っていた“呪詛師のアジトかもしれない場所”です」
七海が答える。
「だから帳が降りてても、ある程度は誤魔化せるってわけね」
そよかが頷く。
「そういうこと」
悟が笑う。
「海人さんと直哉くんは?」
「別行動中。そっちはそっちで動いてる」
そよかは工場の奥を見つめた。
黒い影が暴れ、呪霊の咆哮が響く。
死霊の影が鉄骨を引き裂く。
「……あれ、傑とさっき合流した人魚さんですよね」
「そう。
せいらを攫った連中の“売り込み先”を、
今まさに壊滅させてるところ」
悟が軽く笑う。
「じゃ、俺たちも行こうか、そよか」
パチンとウインクして悟はそよかの手をとった。
──
──その頃、二人より一足早く、壊滅しかけた工場の最奥へと滑り込んでいた影があった。
鉄骨が折れ曲がり、床には割れた水槽の破片が散らばっていた。
その中に──まだひとつだけ、形を保った大型の水槽が残っていた。
直哉は足を止めた。
「──っ」
水槽の中の水は濁っていて、中がよく見えない。
だが、かすかに揺れる影がある。
胸の奥がざわついた。
(まさか……)
直哉は一歩、近づく。
濁った水の向こうで、
細い腕が、ゆっくり沈んでいくのが見えた。
「……せいら?」
返事はない。
水は酷く濁り、底に何が潜んでいるかも分からない。罠の可能性すらある。
──だが、直哉の身体は、考えるより先に動いていた。
「……アホか。迷う理由なんか、どこにもあらへん」
直哉は拳を握りしめ、水槽を叩き割った。
ガシャァン!!
濁った水が一気に溢れ、
せいらの身体が崩れ落ちるように流れ出てくる。
「っ……!」
直哉は両腕でしっかり抱き止めた。
人魚の尾は力なく垂れ、
せいらの瞳は閉じたまま。
「こんな姿でおるからあかんねん……」
直哉は震える指で、
せいらの胸元に結ばれた小さなポーチを探る。
中には──
人間に戻るための飴がひとつ。
しかし、せいらの唇は固く閉じられ、
自力で食べられる状態ではなかった。
「──しゃあないな」
直哉は飴を自分の口に含み、
せいらの唇にそっと触れさせる。
これは“救助”だ。
呼吸を繋ぐための行為と同じ。
飴がせいらの口に落ちるよう、慎重に、丁寧に──熱が、重なる。
その瞬間、触れ合った唇の隙間から溢れるように、せいらの身体が淡い光を放ち始めた。
人魚の尾が解け、眩い鱗が消え去っていく。
光が収まるにつれ、
人としての足が戻り、
肌の色が温かい人のものへと戻っていく。
「……てん」
直哉は、腕の中で人の温かさを取り戻していく少女を、祈るように見つめた。
せいらはまだ目を閉じていたが、
その胸は確かに上下していた。
「ようやっと、戻ってきたな……」
直哉はそっと息を吐く。
遠くで、呪力と水流の爆発がピタリと止んだ。二人の怪物が、彼女の“無事”を察知したかのように。
●エピローグ
──呪術高専、科目準備室。
たこ焼き用の鉄板の上で、じゅうじゅうと丸いたこ焼きが焼き上がっていく。
ソースの甘い匂いが部屋いっぱいに広がり、
せいらは椅子の上でぴょこんと跳ねるように身を乗り出した。
「正直、もうダメかと思いました……」
そよかがぽつりと呟く。
「ふふ。でも、なんとかなったでしょう?」
たこ焼きを器用に返しながら、ユリが微笑む。
その横顔は、いつも通り穏やかで──
けれど“全部見通していた”ような静けさがあった。
せいらは鉄板の上をわくわくと見守っている。
「ほら、せいら。出来たわよ」
「わーい! あーん!」
ユリは目を細め、
焼きたてのたこ焼きをひとつ、ふわりとせいらの口へ飛ばした。
「はふっ!? あひひ!!」
熱さに目を細めながらも、
せいらはソースとマヨを雑に口に入れ、
あむあむ、ごくん。
「でもおいしー! タコさんがこりこりで美味しい!」
そよかは「よく食べられるわね……」という目で見ていた。
ユリはくすりと笑い、
焼き上がったたこ焼きを皿に移しながら言った。
「コネクションが増えることは良いことよ。
助け合える仲間なら、その関係が長く続くといいわね」
「……はい」
そよかは素直に頷いた。
今日の出来事が胸に残っている。
ユリは鉄板の火を落とし、
そよかの方へゆっくりと向き直る。
「選別の魔女は対価を払ったわ。
その薬を、彼女に渡してあげて」
そよかの視線の先──
幾つかの赤と青の飴玉が入った瓶が、静かに置かれていた。
「……大丈夫なんですか?」
そよかが眉を寄せる。
ユリは、まるで“当然のこと”のように微笑んだ。
「気になるなら──あなたが管轄なさい」
そよかは息を呑んだ。
ユリの言葉は優しい。
けれどその奥には、
“責任を持ちなさい”という確かな重みがあった。
「……はい。わかりました」
そよかが答えると、
ユリは満足そうに目を細めた。
鉄板の余熱が、まだじゅうじゅうと音を立てている。
ユリは更に空の皿を並べながら、ふと思い出したように言った。
「新鮮なタコが手に入ったのだもの。
今日は作れるだけ作りましょうか。せいらも喜ぶでしょうし」
「えっ、まだ作るんですか……?」
そよかが目を丸くする。
「ええ。せっかくの“新鮮な素材”だもの。
無駄にはできないでしょう?」
ユリは微笑んだ。
その笑みは穏やかで──けれど、どこか底が見えない。
「配るのはそよか。あなたが担当してね」
「……わ、わかりました……」
そよかは返事をしながら、
ほんの少し顔をくしゃっと歪めた。
(タコ……新鮮……素材……?
いや、考えない方がいい……考えたらダメ……)
ユリはそんなそよかの表情を見て、
くすりと小さく笑った。
「大丈夫よ。
“対価”はきちんと払われているから。
あとは、あなたが繋いであげるだけ」
「……はい」
そよかは胸の奥に小さなざわつきを抱えたまま、
皿を運ぶ準備を始めた。
せいらはそんな二人の空気など知らず、
焼き上がったたこ焼きを嬉しそうに頬張っている。
「おいしー! タコさん、大きくてぷりぷり!」
その声に、ユリは満足げに目を細めた。
旅する物語 五条悟との邂逅 碧淵編 終幕
──
●碧淵編あとがき
──呪術高専・廊下。
陸の空気は、いつ来ても落ち着かない。
それでも今日は、断れなかった。
『わたしのお師匠様が、お礼を言いたいそうです!!』
せいらにそう言われたとき、いつがいいかと尋ねられたが──
魔女を名乗る相手から「お礼を言いたい」などと言われて、
はいそうですかと日程を合わせるほど、私は甘くない。
会って礼を言われただけで恩を返したと思われるなんて、とんでもない。
魔女同士のやり取りなら、対価は必ず発生する。
むしろ、こちらが搾り取れるものがあるなら、いくらでも搾り取るべきだ。
……そう思って、陸に上がるついでに顔を出しただけのはずだった。
……なのに。
「ふにゃー! お師匠! ルーグルに教えてもらったんだけどね!」
科目準備室内、せいらが勢いよく振り返る。
その笑顔は、深海の暗がりでは絶対に見られない種類の光だ。
「わたしが網で捕まった時に助けようとしてくれたラストさん!
深海で魔女してるんだってー! なんだっけ? えっと、煎餅? だっけ?」
……煎餅。
思わず変な声が出そうになった。
「選別よ……」
私は小さく訂正する。
声が震えているのは自覚していた。
「そっか! 選別の魔女さん〜」
せいらはにぱっと笑う。
無邪気で、まっすぐで、怖いほど純粋だ。
その横で──
せいらが師匠と呼ぶ人物が、ゆっくりとこちらへ視線を向けた。
「そう。それはそれは……優しい魔女と知り合えて良かったわね」
微笑んでいる。
優しい声。
柔らかい表情。
……なのに、背筋が冷える。
「ひっ……」
私は思わず足を引いた。
膝ががくがくと震える。
深海の圧力より、ずっと重い。
彼女は一歩、私に近づく。
「せいらが世話になったわね。顔色が悪いわよ。お茶でもいかが?」
その声音は、まるで“逃げ道など最初からない”と言っているようだった。
「いえっ、いえっ……! お気持ちだけで十分です……!」
私は慌てて頭を下げる。
声が上擦る。
呼吸が浅くなる。
「当然のことをしただけですからっ……!」
私の反応を見て、ふわりと微笑んだ。
その笑みは、深海の魔女である私には──
“選別の魔女が対価を払った”という事実を、静かに思い出させるものだった。
せいらはそんな空気など知らず、
私と自身の師匠との邂逅を嬉しそうに見つめている。
私はそっと視線を逸らした。
陸の空気はやっぱり落ち着かない。
けれど──
せいらの笑顔だけは、深海よりずっと温かいと感じた。
その時、ユリがふっと目を細め、静かにこちらへ向き直った。
私の背筋には、深海より冷たいものが走る。
「私が作った薬に興味があるのでしょう? 欲しいの?」
彼女の声は柔らかい。
けれど、その柔らかさが一番怖い。
私は慌てて首を振った。
「いえっ、恐れ多い……!
むしろ、何かご入り用のものがあれば……なんでもご用意させていただきます……」
言いながら、自分でも情けないと思った。
深海の魔女であるはずなのに、声が震えている。
彼女は少しだけ目を細めた。
「そう? そうねぇ……」
その“間”が怖い。
深海の暗がりより、ずっと。
「せいらは焼き立てのたこ焼きをまた食べたいと言っていたわね」
「たこ焼き!? そうそう!」
せいらがぱっと顔を輝かせる。
「お祭りの時に食べたたこ焼き美味しかった〜。また食べたいと思ってたんだー!」
無邪気な声が、ラストの胸に刺さる。
──新鮮なタコ。
──素材。
──対価。
彼女の言葉が脳裏でつながっていく。
私は思わず喉を鳴らした。
彼女は、そんな私の反応を見て、
まるで“すべて分かっている”ように微笑んだ。
「そういうことよ、ラスト。
あなたが選別したものは、ちゃんと役に立っている。そうでしょう?」
その言葉は優しい。
けれど、優しさの形をした刃物のようだった。
私は深海の魔女としての本能で悟った。
──この人には逆らえない。
「……っ、はい……」
返事をすると、彼女は満足げに頷いた。
せいらは夏祭りの時に食べたたこ焼きを思い出しながら、
嬉しそうに笑っている。
その笑顔が眩しくて、
私はそっと視線を落とした。
深海の暗がりより、
この準備室の方がずっと怖い。
けれど──
せいらの笑顔だけは、守りたいと思った。
せいらの師匠が、ふと視線を上げた。
「せいら、それじゃあたこ焼きの材料を用意してもらえる?」
「ふにゃっ!? いまっ!? わかった〜!」
せいらがぱたぱたと準備室を出ていく。
たこ焼きの材料を取りに行くためだ。
科目準備室には調理器具など何もない。
だから、今はただの静かな部屋だ。
その静けさの中で──
彼女がこちらへ向き直った。
「私はね。何かを犠牲に何かを成すようなことが、あまり好きではないの」
柔らかな声。
けれど、その柔らかさの奥にある意味は、深海の魔女である私には痛いほど分かる。
同胞たちはもう陸に上げておくべきではない。
一日でも早く深海へ帰させなければ──その焦りを、彼女は全て見透かしている。
彼女は一歩、私に近づく。
「この言葉の意味が──あなたになら、わかるわよね」
微笑んでいる。
優しい顔。
けれど、逃げ道はどこにもない。
私は喉がひゅっと鳴るのを止められなかった。
「──はい」
返事をすると、彼女は満足げに目を細めた。
その表情は、
“あなたが払った対価は、私が正しく使ってあげるわ”
と静かに告げているようだった。
おしまい
──
《特報》
(電車の走行音……遠くでガタンゴトンと響く。構内のざわめきが薄く混じる)
シェアハウスのリビング。
食器を片付ける音がまだ残る中、それぞれが食後のまったりとした時間を過ごしている。
「そーよかっ、何聞いてんの?」
そよかに声をかける悟、しれっと隣に座る。
「うるさいわね……邪魔しないで」
ジト目で悟を睨みつけるそよか。
視線を手にした携帯に戻す。
『──それでは今回の放送最後のビッグイベントをお伝えします!』
ごくり……そよかが無意識に喉を鳴らした。
『今度のコラボは、なんと全国各地!!』
「ど、どういうこと?」
「?」
『その名も、じゅめつ行脚がスタートします。
最初の開催地は愛知県の名古屋です!』
そよかの呼吸が一瞬止まり、視線が携帯の画面に吸い寄せられる。
『三ヶ月間開催しておりますので、是非現地でのイベントをお楽しみください!!』
「名古屋!? そんな──」
「そよか?」
「遠すぎるわ……」
寂しそうに窓の外を見るそよか。
(ざ……という駅構内のノイズ)
妄想劇場版作品、再び──
文字が静かに浮かんでは消える。
名駅編 そよかの尾張奔走記
(電車の音)
画面は真っ暗。
ただ、駅の蛍光灯のような白い光だけが、ゆっくりと揺れている。
Coming Soon
(最後に──名駅の人混みの中で、
じゅめつ行脚のポスターが風にふわりとめくれた気がする)
暗転。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
8月はゲリラ的に一週間ぐらい毎日更新するかもでーす。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
85は七海建人2026誕生日に挿絵付き追加公開しました。
次は90です。