【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●5
──知らなければ良かった。
そんなことは生きていれば山ほどある。
『あ、そうそう。五条さん、沖縄で告白したんだって!』
あの人が沖縄で告白した。そう聞いて思い浮かべる相手は一人しかいなかった。灰原は時折、私の心を見透かすように声をかけてくることがある。
『今、誰を想像してた?』
──図書室での静かな時間、交わす言葉は多くはないが……私にとってかけがえのない時間になりつつあった。
ある日、図書室を訪れてふと思っていることに気がつく──あぁ、今日は彼女はいないのか。それならこのまま図書室を離れようかとすら思っていることに、違和感を感じて赤くなる。
自分は何を考えていた。図書室に来て勉強をする。その当たり前の前提がいつの間にか変化していた。
──知らなければ良かった。
彼女はなぜあの人からの告白を受け入れなかったのか。その事を知ってしまったから、万が一にも自分と同じように、図書室での時間を大切に思ってくれているのではないかと思ってしまう。
「七海さん、話って何かしら?」
校舎裏に彼女を呼び出した。図書室にしなかったのは、これからも使う場所に嫌な記憶を残したくなかったから。
「そよかさん──」
ごくりと喉を鳴らす。
「沖縄で、五条さんに告白されたそうですね」
「えっ!?」
先ほどまでの落ち着いた雰囲気から一変する。どこかそわそわした様子の彼女。
「そ、そうなの。まったく困ったものよね。五条悟という自覚が甘いんじゃないかしら──」
頬をほんの少し赤らめ、顔の横にかかる髪を耳にかけた。
「そうですよね。彼は五条家の次期当主になる人だ。恋愛して結婚できる人ではありませんよね」
私は少しだけ大袈裟に彼女に共感してみせる。
「そう──そうなのよ」
彼女の表情が陰る。
私はきっと、誰よりもあなたを理解している。だからこそあなたに寄り添える。
──きっと最悪の形で。
「そよかさん、答えを保留にするよりもっと良い方法があります」
「え?」戸惑うように彼女は私に視線を向ける。
「私と付き合ってみませんか? ……ずっと憧れていたんです」
控えめに微笑んでみせた。
「──私」
「返事は……急ぎませんから。どうぞゆっくり考えてみてください」
被せるように答えを先送りにさせる。ゆっくり考えれば考えるほど、彼女の心は落ち着いて私に近付いてくる──。
「でも出来ればひとつだけお願いしたいんです。
どうか私のことを、今後は名前で呼んでくれませんか?」
「名前で?」
「はい」
「……建人さん?」
「はい。そうです。そよかさん」
僅かに欲が出た。名前で呼んでほしいなどと。
そんなことで嬉しいと、思ってはいけないのに。
──知らなければ良かった。
自分の内に眠る、ずっと目を背けていた感情を。
彼女の腕を引き、抱きしめる。
勉強中に彼女が髪の毛を耳にかける仕草、その真剣な横顔に私はきっと恋をした。
「──あなたが好きです」
耳元で静かに囁く。
まるで熱に浮かされるように。
──それが呪いの言葉だと、認めたくはなかった。
●6
1年2年夏の合同合宿。呪力強化と戦闘時の連携を高める目的で行われるという合同合宿……そして今は夜、三人一組で三箇所に設定された呪霊を祓いに行く。
私の隣にいるのは──。
「俺がいれば安心だろ? そーよか」
右に悟。
「五条さんがいると余計なトラブルが発生しそうで、安心とは真逆の心配をしてしまいます」
左に七海──建人さん。名前で呼んでほしいと言われたことを思い出して頭の中で訂正する。
……なんでこんなことに。
少しイライラした様子の悟が、おもむろに口を開いた。
「そういえばさー、そよかは俺以外の奴からも告白されたんだってー? なぁ、七海知ってる?」
「そうみたいですね。五条さんが振られることはほぼ確定なわけですし、当然では?」
「振られてねぇし! 恋愛バラエティ番組みたいなライバル登場とか求めてないわけ! 俺が告白してアピール期間中なんだからさ! 普通、遠慮しようって思わねぇかなぁ!!」
「はっ、遠慮? むしろアピール期間を設けないと付き合ってももらえない方に問題があるのでは? 実際付き合ってみると合わなかったという話はよく聞きますし、そよかさんのような知的な女性の判断としてはごく当然のことだと思います。むしろ変に五条さんと付き合って傷付くことになったらそよかさんが気の毒です」
「はぁ!? 俺がそよかを傷付けるわけねーし! 一生大事にするし!」
「そうですか? 五条さんは女性を振り回して喜ぶような悪癖が──」
「ねーよ!! そんな悪癖ねーから!! やっぱり七海、お前だろ!! 俺への嫌がらせにしても最低だぞ!!」
「…………」
「な、なんだよ」
「嫌がらせで五条さんは女性に告白するんですか?」
「しねーよ!!!」
「当然、私もです。
そよかさん、ご自身の将来を見据えてお付き合いする相手は選んだ方が良いですよ。私は共働きするにしても家事はきっちり分担する方がいいと思います。むしろ女性の方が繊細な身体ですから、私の方が家事を多く担当した方が暮らしやすいですよね。これからもこうして手を繋いで、お互いの意見を言いやすい関係を築いていきたいです」
「ずっる!! ずっる!! 何抜け駆けしてんだよ七海!!」
「抜け駆けなんてしていませんよ。むしろ五条さんは、こういう将来についての会話をされてないんですか? それでよくそよかさんに選んでもらおうなんて思えましたね」
「俺は……いざとなれば実家暮らし出来るし? 世話してくれる使用人だって──」
「はい。それは女性が最も息苦しさを感じる生活そのものですね」
「そよかだって高専入る前までは五条家で暮らしてたんだから! 実質そよかの実家でもあるんだからな!」
「そうはいっても結婚して二人きりで過ごせる時間を、わざわざ実家で過ごすんですか?」
「いざとなったら二人で暮らして──」
「でも五条さんは五条家の跡取りですよね?」
ぐぬぬと悟の怒りがピークに達しようとしていた。
いつの間にか両手も自由になっていたから、地図を確認する。さほど強くもない呪霊が、後ろの二人の口論にドン引きしていたので、さっさと祓ってしまおうと思った。私の呼び出した白猫呪霊が猫ぱんちをするとさらさらと消えていく。
……二人の口論はまだ続いている。
──このまま一人で帰ってもいいかしら。
「そよかーーー!!! 七海が正論で殴ってくるーーー!!!」
悟がわざとらしい泣き真似をしながら抱きついてくる。あ、暑苦しい。
建人さんに視線を向けると、顔にやりすぎたなと書かれていた。
正直、どっちもどっちとしか思えなかった。私がおかしいんだろうか……。
ここまでご覧いただきありがとうございました。