【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
名駅編では再び高専時代に戻ってます。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを劇場版って感じで加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画の劇場版が再生されたらいいなぁと。宜しくお願いします!
●11
名古屋城駅前のオブジェで写真を撮り終えた二人を、雨上がりの柔らかな光が包み込んでいる。
濡れた石畳がその光を淡く跳ね返し、足元には小さな虹色の反射が揺れていた。
そよかは光を背に受けながら、次の目的地へ向けて弾むような足取りで歩き出した。
五条悟は満面の笑みを噛み殺しながら、その背中を追いかける。
「お、もう店あいてんじゃん」
「さっきの男女ペアも買いに来てるわね。並ぶわよ」
雨脚が少し強くなる中、二人は手際よく列に並び、すぐに自分たちの番が回ってきた。
そよかはメニュー表を睨み、注文口のスタッフへ声をかける。
「悟次郎と……」
「誰にすんの?」
悟がひょっこり覗き込んでくる。
そよかは迷わず次の名前を告げた。
「……セブンスさんを」
「セブンス!? 浮気!!」
「うるさい!!」
悟は通り全体に響くような大声で騒ぎ出し、そよかは即座に一喝して黙らせた。その様子に店員がくすりと笑う。
「ちょっと……笑われたじゃないの!」
そよかが顔を赤くして悟の脇腹へドムッと肘鉄を食らわせると、悟は「痛ぇ!」と大袈裟に悲鳴を上げ、おどけて身を捩る。
やり取りを見ていた店員さんが微笑ましそうにくすくすと笑い、ちょうど出来上がったトッピング付きのソフトクリームをにっこりと手渡してくれた。
「シャチホコ焼き、思ったよりでかーい。焼きたてでサクサクしてそう」
「先に写真を……ちょっと雨が強くなってきたわね……。はい、撮ったわ! 持って移動!」
「どこで食べるー?」
「大きな木の下で食べましょう。あとこれ!」
雨を避けて大きな木の下へ滑り込むと、枝葉に溜まった雨粒がぽたりと落ち、二人の足元に小さな輪を描いた。
その一瞬だけ、街の喧騒が遠くに感じられるほど静かだった。
そよかはカバンから例の“洗ったばかりのジェラートの空きカップ”を取り出した。
「こっちにシャチホコ焼きを移せば、ソフトクリームの水分が吸われなくてサクサクが多少長持ちすると思うわ」
前話で洗ったジェラートの空きカップは、まさかこのための『即席防湿シェルター』だったのか。
悟が目を丸くする前で、そよかは迷いなくシャチホコ焼きのお腹をガブリと豪快に一口でいった。
サクッ。
小気味いい音が雨音の中に響く。
「おぉ……ワイルドな食べ方〜! カップの再利用、ここで効いてくるわけね。天才じゃん」
悟は自分のソフトクリームを舐めながら、そよかの食べっぷりと遠征民としての知恵に、感心を通り越してすっかり見惚れていた。
雨の中でもブレないそよかの動線管理。
サクサクを守るための即席シェルター。
そして、迷いなく“セブンスさん”を選ぶ強気な推し判断。
悟は、胸の奥がむずむずするのを誤魔化すようにソフトクリームをもう一口舐めた。
◯雨宿りのひととき
「……美味しいわね。雨の日のソフトクリームって、なんだか特別だわ」
「そよか、天才じゃん? サクサクが最後まで生きてるし」
そよかはシャチホコ焼きをカップに避難させながら、満足そうに頷いた。
「狙い通りよ。こういうのは水分との戦いなの」
「へー……そよかって、ほんと頼もしいよな」
悟はぽつりと呟いた。
そよかは聞こえなかったふりをして、ホテルまでの帰りのルートを携帯で検索していた。
「ふむふむ。よし、食べ終わったら帰路につくわよ」
「へーい。そよか、ほんと元気だな〜」
ポツポツと傘を叩く音が、二人の隙間を埋めていく。
雨に濡れた大通りの奥に、宿泊先のホテルがかすかに見えた。
シャチホコ焼きを大切そうに食べるそよかと、その横顔を優しく見守る悟。
朝の静けさの中、淡く光る携帯の画面だけが、終わりに向かうルートを示す。
その光は、雨上がりの空気に溶けるように揺れていた。
●12
その頃、ホテルの食堂には、名古屋の雨音がかすかに届いていた。
窓の外を流れる細い雨筋が、朝の静けさをゆっくりと揺らしている。
温かい料理の湯気と、雨の匂いがほんのり混ざり合い、静かな朝の空気を満たしていた。
「……まだ戻らないね」
コーヒーを淹れながら傑が眉を上げた。
「遠くから『浮気!!』って悟の声が聞こえた気がするんだが……気のせいかな」
せいらは傑にきれいに整えてもらった髪をふわふわ揺らしながら、あっちの大皿こっちの大皿へとふらりふらり歩きながら、湯気の立つ料理を覗き込んでは目をきらきらさせている。
「ふにゃあ? そよか、ソフトクリームも買ったのかなあ……いいなあ……」
「あ、せいらさん! この玉子焼き美味しかったですよ!」
灰原がおかわり周回で山盛りのプレートを抱えながら、元気よくせいらに声をかけた。
「えー!? 本当? じゃあ食べてみよーっと」
隣では七海だけが、呆れたようなため息をつきながら雨の名古屋の街並みに視線を向けている。朝食ビュッフェの静かな空気の中で、その眉間の皺だけが妙にくっきりしていた。
◯大きな木の下の甘やかし
大きな木の下。
シャチホコ焼きを食べ進めていたそよかだったが、だんだんと次の一口に時間がかかるようになってきた。
枝葉に溜まった雨粒がぽたりと落ち、二人の足元に小さな輪を描いている。
街の喧騒が遠くに感じられるほど静かで、雨宿りの空気だけがふわりと二人を包んでいた。
強まる雨を避けながら、そよかはシャチホコ焼きのお腹に更にガブリと噛み付いた。
サクッ。
雨音の中に小気味よい音が響く。
焼きたての香ばしさと、ソフトクリームの冷たい甘さが絶妙に混ざり合う。
──美味しい。
美味しい、のだけれど。
「シャチホコ焼き、思ったよりずっしりきたな。大丈夫か?」
悟が自分のソフトクリームを片手に、そよかの手元を覗き込んだ。
さすがに、9時半のジェラート2個からの10時過ぎの巨大ソフトは、そよかの胃袋のキャパシティーを超えていた。
冷たさとボリュームに、そよかのスプーンがぴたりと止まる。
指先までじんわり冷えてきて、胃の奥が静かに悲鳴を上げていた。
「私はもう……無理かも……」
完全にギブアップを宣言した様子のそよかに、悟は呆れたように、けれどひどく優しい顔で笑った。
「はいはい。……ほら、あー」
「え?」
悟はそよかの持っていたシャチホコ焼きを自然に引き取ると、先端のサクサクしたところを小さくちぎり、そよかの口元へ差し出した。
「せめて美味しいところ、ひとくち食べてよ」
「……ありがと」
促されるまま、そよかがパクリと最後の一口を食むと、悟は嬉しそうに目を細めた。そして残りのシャチホコ焼きを大きな口で「もぐもぐにこり」と一気に平らげてしまう。
そして、空になったカップをそよかから受け取ると、空いた手でそよかの頭をぽんぽんと小さく叩いた。
「じゃあそろそろ帰るか。もう朝食ビュッフェも終わってるだろうし」
「そうね。雨も小降りになって良かったわ」
見上げれば、あれほど激しかった雨脚がいつの間にか和らいでいる。
ホテルで待つ傑たちのことを思い浮かべながら、そよかは携帯で今日のルートを確認しようとウェブページを開いた。
「チェックアウトしてからの目的地は?」
「まずは上野天満宮よ!」
合格祈願や厄除けで有名なその場所へ、手に入れたばかりのフリーきっぷを使ってどう向かうか──。
そよかの瞳に、ガチ遠征民としての頼もしい輝きがすぐに戻ってきた。
雨上がりの名古屋の街は、静かに二人の背中を押していく。
食べ歩きと雨宿りの甘い余韻を残したまま、二人は仲間たちが待つホテルへと、軽やかに歩き出した。
ここまでの名駅編に一枚ずつ挿し絵を置いてきました。
良ければ一緒にお楽しみください。
今回もご覧いただきありがとうございました。
8月15日まで時間不定で毎日更新予定です。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
90は碧淵編のおまけを追加しました。次は95です。