【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
名駅編では再び高専時代に戻ってます。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを劇場版って感じで加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画の劇場版が再生されたらいいなぁと。宜しくお願いします!
●15
名駅から電車を乗り継ぎ、雨のしとしと降る静かな住宅街を抜ける。
濡れたアスファルトが薄く光を跳ね返し、家々の軒先から落ちる雨粒が、ぽたり、ぽたりと一定のリズムで道に模様を描いていた。
遠くで車がゆっくり走る音がして、
そのタイヤが水たまりを踏む柔らかな水音だけが、静かな街に溶けていく。
そよかが先頭で地図を確認しながら歩き、せいらがそよかの傘にぴとっと寄りながら、不思議そうに首を傾げる。
傘の先についた雨粒が揺れるたび、せいらの髪もふわふわ揺れた。
「ふにゃー? 上野天満宮ってところに行くんだよね? なんで名古屋なのに『上野』っていうの?」
せいらが不思議そうに首を傾げると、傑が歩調を合わせながら穏やかに微笑んだ。
「それはね、この辺りの地名がかつて『上野村』と呼ばれていたからなんだよ」
傑は歩きながら、まるで旅のガイドのように穏やかに続ける。
雨の音を邪魔しない落ち着いた声が、参道へ向かう道に静かに溶けていく。
「京都の北野天満宮から菅原道真公の御霊を勧請して、この地に祀ったのが始まりだと言われているね」
「住宅街を歩くから、なるべく静かにね」
そよかが人差し指を口元に当てて周囲を気遣う。
雨音と傘の音だけが、参道へ続く道に控えめに響いていた。
「雨が降ってるからか、あまり人もいませんね。
おかげで落ち着いて参拝できそうです!」
灰原が嬉しそうに周囲を見渡す。
「静かに過ごせるのはいいことです」
七海が短く言い、ちらりと悟の方へ視線を向けた。
──“お前が一番うるさいから静かにしろ”。
そんな無言の圧が、雨より冷たく悟の背中に刺さる。
「おいなんだよその目は!
俺だってこの神社の関係者なんだから崇め奉れ!」
悟が胸を張ると、灰原は「えっ!?」と本気で驚き、
せいらは「ふにゃ!?」と傘を揺らし、そよかは無言で眉を寄せた。
「どういうことですか、五条さん!」
傑がやれやれと肩をすくめる。
「この天満宮に祀られているのは、学問の神様である菅原道真公さ。
そして、我が校の『最強』を自称するこの男の家系は、その道真公の子孫にあたるんだよ。つまり──」
「そう! つまり俺のご先祖様!
ほら、ナナミンも傑も、もっと俺を敬って──」
(パシッ!!)
「ご先祖様のお膝元だからって調子に乗らないの!!」
「あいたっ!?」
そよかの容赦ないツッコミ(物理)が、悟の後頭部にジャストミートで炸裂した。
静かな参道で大騒ぎさせないための、迅速かつ的確な制裁だった。
悟は頭を押さえながらも、どこか嬉しそうに笑う。
「そよか、手厳しいな〜」
そのやり取りを見て、七海はさらに冷ややかなため息を漏らした。
しかし、怒りというよりは──
“そよかが困っていないか”を確認するような、静かな心配の色だった。
雨に濡れた参道の空気が、七海の落ち着いた呼吸と同じリズムで揺れていた。
「……五条さんは放っておいて、先に手水舎へ向かいましょう」
七海はそよかの隣へすっと並び、濡れた石段へ視線を落とす。
「そよかさん、足元が滑りやすくなっています。気をつけてください」
そよかの歩幅に合わせるように、七海は半歩だけ横へ寄った。
「ありがとう、建人さん。……ちょっと悟! いつまで頭押さえてるの、置いてくわよ!」
「はいはい〜、待ってよ〜!」
悟は軽口を返しながら、そよかの後ろを追いかける。
その背中を、七海は静かに見守った。
雨の参道に、六人の足音がゆっくりと響いていく。
その足音は、上野天満宮へ続く石段の先へ、静かに朝の気配を運んでいった。
●16
屋根から落ちる雨粒が手水鉢の水面に小さな輪を広げ、境内の静けさをさらに深くしている。
手水舎の前に集まると、灰原が柄杓を持ったまま首を傾げた。
「僕、これの順番いつもわからなくなるんですよねー。右からだっけ? 左からだっけ? みたいな」
「わかるー。わたしはいつも水飲みそうになるー」
「お腹壊すわよ?」
生水を飲もうとするせいらに、そよかがジト目を向ける。
その横で、手際よく清め終えた傑が振り返った。
「ちゃんと出来た? 次に行くよ」
一行は本殿へ向かって歩き出す。
雨の境内には、天満宮ならではの特設コーナーが並んでいた。
濡れた石畳が薄く光を返し、
傘に当たる雨音だけが参道の静けさをゆっくりと満たしていく。
「へえ、水に濡らすおみくじとかもあるんだな。
雨が降ってたらそれだけで結果がわかりそうだけど」
「情緒がないこと言わないの」
そよかが軽く睨むと、悟は「へへ」と笑って肩をすくめた。
◯七海のエスコートと、悟の騒がしい嫉妬
石畳の段差に差し掛かったところで、七海がそよかの隣へスッと歩み寄った。
「そよかさん、床が濡れていて滑ります。引き続き手を」
「あ、ありがとう」
紳士的に差し出された七海の手を、そよかは少し照れながらそっと握る。
七海の指先は雨に濡れた石段の冷たさを知っているように、そよかの手をそっと支えるだけで余計な力を入れなかった。
その自然なエスコートは、ホテルでの不機嫌を完全にスマートへ昇華した七海らしい動きだった。
──当然、後ろを歩いていた男が黙っているはずがなかった。
「ちょっと七海!?」
悟が分かりやすく目を見開いて声を上げる。
「俺というものがありながら! そよかの手握ってんじゃねぇよ!」
悟は傘を持つ手をバタバタさせながら、まるで自分の存在をアピールするかのように二人の周りをうろうろと取り囲んだ。
「悟は黙って歩きなさい」
そよかが即座に切り捨てる。
悟は「えぇぇぇ」と不満を漏らしながらも、七海の手を振り払うことはできず、そよかの反対側へ回り込んで距離を詰めようとする。
七海は悟の動きを完全に無視し、そよかの手を軽く支えたまま歩調を合わせた。
雨の境内で、二人の視線が静かに──しかし激しく──ぶつかる。
◯なで牛の前で
「ふにゃー? 狛犬さんが牛さんだねー」
せいらが境内に鎮座する象徴的な石像の前で足を止めた。
「それはね、牛は天神様(菅原道真公)の御使いとされているからなんだ」
傑が穏やかに説明を続ける。
「道真公が亡くなった際、遺骸を運ぶ牛が途中で動かなくなり、そこを墓所(太宰府天満宮)にしたという由来があってね。
だから天満宮には狛犬の代わりに、こうして横たわった『臥牛(がぎゅう)』が置かれているんだよ。
自分の体の悪い部分をなでると、そこが治るとも言われているね」
雨粒が牛の背を静かに伝い、石肌に細い光の筋を描いていた。
「さすがですね傑さん! どこを撫でようかなー」
灰原が目を輝かせると、せいらも首をかしげる。
「わたし別に具合の悪いところとかはないよー?」
「ありきたりですが、もっと頭が良くなりますようにとかですかね!?」
楽しそうに悩む二人を見て、そよかがせいらへ優しくアドバイスを送る。
「せいら、風邪を引くと喉が痛いってよく言ってるじゃない。喉とか触っておいたら?」
「ふにゃー。そうするー! なでなでー」
せいらは素直に頷き、小さな手でなで牛の首元を優しく撫でた。
その微笑ましい光景に、傑も灰原も一気に目尻を下げる。
◯雨の境内で続く火花
一方その頃──
手を繋がれたそよかを凝視する悟と、そよかを静かにエスコートし続ける七海の視線は、雨の天満宮でバチバチと火花を散らし続けていた。
「はいはーい! 俺も滑ると危ないから、そよか、ほら!」
悟がそよかの反対側の空いている手を強引に握ろうと割り込んでくる。
「悟は無下限はれるんだから滑るわけないでしょ!!」
そよかの鋭すぎる正論ツッコミが雨音を切り裂いて響いた。
「えぇぇぇ、冷たっ!」
悟が撃沈して肩を落とす横で、七海はフッと鼻で小さく笑い、静かに勝利の(?)ため息をついた。
雨の境内で、そよかを中心にした奇妙な三角形が、ゆっくりと本殿へ向かって歩き出す。
濡れた参道に響く三人の足音は、
これから向かう本殿の静けさへと、淡く朝の気配を運んでいった。
ここまでの名駅編に一枚ずつ挿し絵を置いてきました。
良ければ一緒にお楽しみください。
今回もご覧いただきありがとうございました。
8月15日まで時間不定で毎日更新予定です。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
90は碧淵編のおまけを追加しました。次は95です。