【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
名駅編では再び高専時代に戻ってます。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを劇場版って感じで加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画の劇場版が再生されたらいいなぁと。宜しくお願いします!
●17
本殿の賽銭箱の前で、そよかとせいらは並んで目を閉じ、熱心にぶつぶつと何かを呟きながら手を合わせていた。
雨粒が本殿の屋根を静かに叩き、
その規則的な音が二人の祈りのリズムと重なるように境内へ広がっていく。
旅の安全か、推しの供養か、はたまた今日の遠征の成功か──
その真剣さは、周囲の空気を少しだけ張り詰めさせるほどだった。
「なーんであの二人は、ぶつぶつぶつぶつ長々と神頼みしてんのかねぇ」
悟が退屈そうに頬を膨らませる。
「まぁいいじゃないか。それだけ真剣に旅の安全や願い事を祈っているんだろう」
傑が穏やかに笑いながら答えた。
その横で、灰原が授与所の机上を覗き込み、声を弾ませる。
「わぁ、お守りが沢山ありますねぇ。どれか買おうかな!?」
濡れた参道から吹き込む風が、授与所の紙札をふわりと揺らし、墨の香りがほのかに漂う。
「いいかもしれませんね。何を買いますか?」
「足腰守りとか!?」
七海が一瞬だけ沈黙する。
灰原は慌てて手を振った。
「いや、ほら! 任務……じゃなくて、普段の移動とかで怪我しないようにとかそういう意味でさ!」
灰原は言いながら自分で慌てて口を押さえ、七海の反応をちらりと伺った。
七海はふっと表情を緩め、静かに頷いた。
「いいかもしれませんね」
授与所の札を一枚一枚丁寧に見比べながら、七海は落ち着いた声で応じた。
「おや、さっきせいらが買いたいと言っていた『うそ守り』はないみたいだ」
「売り切れ中? うそみくじはあるみたいだけどな」
そんな大人たちの会話の元へ、参拝を終えたそよかとせいらがトコトコと歩み寄ってきた。
「ふにゃー。お待たせー。……え、うそ守りないのー?
じゃあうそみくじ引いて、うそ人形を持ち帰ろうかな」
せいらはすぐに木彫りの可愛い「うそ鳥」のついたおみくじに目を輝かせた。
「そういえば、なんで『うそ鳥』がそんなに前面に出ているんですか?」
灰原はふと浮かんだ疑問をそのまま口にして、傑を見た。
「うそ鳥はね、古くから“災いを嘘(うそ)にする”という願いが込められているんだ。
正月の『うそ替え神事』では、木彫りのうそ鳥を交換して一年の厄を払う風習もある。
天満宮では道真公の御神徳と結びついて、こうして授与品として広く親しまれているんだよ」
「へー。そうなんだー」
せいらは、うそ鳥の木彫りを見つめながら、雨でしっとりした前髪を揺らして嬉しそうに頷いた。
「勉強になります!」
灰原は、授与所の札を見比べながら目をきらきらさせ、まるで新しい知識を吸い込むように傑の言葉を反芻していた。
「せいらはなんでそんなにうそ守りがほしかったの?」
雨に濡れた袖を軽く払いつつ、傑はせいらの目線に合わせて柔らかく問いかけた。
「えっとぉ、わたしのお師匠様は色んな可能性をみせてくれるからー。今は嘘でも現実にしちゃうぞ!みたいな感じで」
せいらはたくさんのうそ鳥の入ったおみくじ箱を覗き込みながら、誇らしげにふふんと胸を張った。
「ふふ……面白い解釈ですね」
七海が静かに頬を緩めると、傑も雨の境内の空気を楽しむように目を細めた。
「あぁ、私もそういう考え方は好きだな」
その後ろで、そよかも授与品の並びを見て、あるものに目を留める。
「私は鉛筆を買うわ。三本入ってるから……いる人」
天神様の神徳が宿る鉛筆。
勉強にも仕事にも、そよかの執筆にも使えそうな、素朴で実用的な授与品。
そよかが何気なくそう問いかけた──その直後だった。
(シュバッ!!!)
呪術師の常識を超える反応速度で、五条悟と七海建人の右手が同時に空を裂いて高く上がった。
「判断が早すぎる!?」
灰原の絶叫に近いツッコミが境内に響き渡る。
七海は上げた手をそのままに、濡れた前髪を指先でそっと払ってから、極めて平然とした声で言った。
「私が買いますよ」
「建人さん……」
そよかが目を瞬かせる。
自分のためにスマートにお金を出そうとする七海の紳士的な態度に、そよかは少しだけ頬を緩めた。
──当然、その横で黙っていられる男がいるはずがない。
「ちょ、待て! なら俺が買うし!!
そよかの分も傑の分も全員分俺がまとめて買うし!!」
「悟、うるさい!!
三本入りだから、私と建人さんと悟で一本ずつ分ければいいでしょ!!」
「えー! 俺だけ特別じゃないの!?」
悟がさらに騒ぎ出すのを、そよかが一喝する。
財布を取り出すそよかの横で、七海は静かに手を下ろし、悟は「むぅ」と唇を尖らせた。
ただの三本入りの鉛筆を巡って、最強の呪術師と高専の“理性担当”が、本気の反射神経を無駄遣いするという奇妙な光景。
雨に濡れた境内の静けさの中で、
その“無駄に高度な争奪戦”だけが妙に浮いて見えた。
傑は深い苦笑いでそれを見守り、せいらは楽しそうに「うそみくじ」を選んでいた。
鉛筆を無事に買い終えた一行は、そのまま授与所の軒先へと視線を戻し、
せいらのうそみくじ選びを見守る流れになったのだった。
●18
授与所の軒先で、せいらは透明なボックスの中にみっちりと詰め込まれた木彫りのうそ鳥たちを、真剣な眼差しで見比べていた。
雨に濡れた境内はしんと静まり返り、鳥居の向こうから吹く風が、木々の葉をさらりと揺らしている。
「ふにゃー? お師匠様にっておみくじ引いて、結果も今みちゃっていいのかなー?」
雨粒でしっとりした前髪を揺らしながら、せいらは300円をそっと投入した。
透明なボックスの奥で濡れた光を反射する木彫りのうそ鳥たちを、真剣な眼差しで見つめる。
「いいんじゃないのかな。
もし気になる内容なら、この神社に結んで預けて帰った方がいいわけだしね」
傑が穏やかに答える。
「お師匠様なら、おみくじの結果くらいどこかで見てるわよ」
そよかがぽつりと呟いた。
確かに、あの人なら──遠く離れていても、弟子の行動くらいはすべてお見通しだろう。
「じゃあこの子にしまーす!」
せいらは直感で選んだ一体を取り出し、両手の上にちょこんと乗せた。
「ふむふむ。お尻にぶすっとささってる感じ?」
せいらはうそ鳥をひっくり返して底を覗き込み、雨で少し濡れた指先でそっと触れた。
「ちょっと、言い方」
そよかは雨粒を払うように軽く眉を寄せ、せいらの手元を覗き込む。
うそ鳥の底に差し込まれたおみくじを素直に表現したせいらに、そよかが即座にツッコミを入れた。
「夏油さん……」
七海は授与所の様子をひととおり見渡してから、傑へジト目を向けた。
(あなたが普段からちゃんとした言葉遣いを教えないからですよ)──という無言の圧が、ひしひしと込められていた。
「えぇ……? 私が何か?」
傑はまったく動じず、優雅に微笑み返す。
灰原は「どうですかねぇ」とのんきにせいらの手元を覗き込んだ。
「わっ! すごい! 流石はせいらさん!」
「せいらは『大吉』だね。幸先が良いじゃないか」
「ふにゃー! 大吉〜!」
「あはは! 良かったですね!」
雨上がりの境内に、柔らかな光が薄く差し込み、
六人の笑い声がその静けさをゆっくりと満たしていった。
◯少女たちの宣言
「さっきは何をそんなにお願いしてたわけ?
内容によっては、俺が何でも叶えて──」
悟がニヤニヤとそよかの脇腹をつんつん突きながら距離を詰めてくる。
「何言ってるの?」
そよかは悟の手を軽く払い、静かに言った。
「神様にはね、お願い事をするんじゃないの。
宣言するのよ」
「は?」
悟の動きがぴたりと止まる。
「自分がこういうことをします。
頑張りますから、見守っていてください──ってね」
そよかの瞳は、雨上がりの光を受けて凛と輝いていた。
ただ神仏に縋るのではなく、己の足で立って未来を切り拓くという強い意志。
悟はサングラスをわずかにずらし、その瞳を少しだけ見開くと、小さく息を漏らした。
「……ふーん」
その横で、せいらが太陽のような笑顔を咲かせる。
「神様が味方してくれてるって思えば、心強いじゃんって話だよねー」
そよかの強さと、せいらの無邪気な優しさ。
その二人のあり方に、七海も傑も、静かに胸を打たれていた。
◯境内に落ちる静かな余韻
「そよかさん、めちゃくちゃ格好いいです!
僕もこれからは──『任務で全員守ります』って宣言することにします!」
灰原が目を輝かせる。
「……ええ。それが最も合理的で、正しい参拝のあり方かもしれませんね」
七海が静かに頷いた。
雨上がりの境内に、そよかの言葉がゆっくりと染み渡っていくようだった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
毎日更新期間はこれで終了です。
次の更新日は8月22日です。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
90は碧淵編のおまけを追加しました。次は95です。