【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。

名駅編では再び高専時代に戻ってます。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを劇場版って感じで加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画の劇場版が再生されたらいいなぁと。宜しくお願いします!


145名駅編 19・20:脳髄が予報する晴れ間と、金箔ソフトを揺らす不意打ちの一口

●19

 

【回想──呪術高専 科目準備室】

 

 遠征出発の直前。

 そよかは準備室の重い扉を押し開け、静かな室内へ足を踏み入れた。

 柔らかな灯りが落ち着いた影をつくり、上質な木製の家具と紅茶の香りがほのかに漂う。

 執務室でありながら、どこか貴族の応接室めいた気配が満ちていた。

 

「お師匠様! 今から旅行……じゃなかった任務に行きます!」

 

 デスクに座る彼女たちの師は、書類から視線を上げないまま、紅茶の湯気を指先で軽く払ってから、部屋の片隅へ問いかける。

 

「そう。羂索、名古屋の天気は?」

 

 そよかが思わず目を向ける。

 そこには、怪しく微光を放つ培養液の中で、ぷかぷかと浮かぶ“脳みそ”があった。

 

 水槽から伸びたコードは、デスク上の外部スピーカーへと繋がっている。

 

 次の瞬間──

 スピーカーが柔らかく点灯し、慇懃で雅な声が響いた。

 

「今日の名古屋の天気は晴れ時々曇り、明日は一日雨だよ」

 

「あ、雨……」

 

 そよかは肩を落としかけ──ふと、水槽横の機械を見つめた。

 

「スピーカー……外さないんですか?」

 

「今は話す自由を提供しているのよ。羂索も嬉しいわよね?」

 

 この部屋の主が妖艶に微笑むと、水槽のインジケーターが激しく明滅し、スピーカーから震えるような声が響き渡った。

 

「ああ、世界の理さえも嫉妬する我が至高の光よ。貴女様のその冷徹にして甘美なるお慈悲に、この哀れな脳髄はただただ震えるばかりです……」

 

 脳みそだけの状態でも衰えない忠誠。

 そよかは、紅茶の香りに包まれた優雅な空間と、

水槽の中で脈動する脳髄の異様さの落差に、静かに戦慄した。

 

(……どこに行くと言ってないのに名古屋ってわかってるお師匠様も流石だけど、

 この状態でネットにアクセスして天気予報を調べてる羂索も流石というか……本当に恐ろしいわ)

 

「いいじゃない。上野天満宮にも行くのでしょう?

 神様とやらが泣いて喜んでくれてると思えば面白いわ」

 

「そんなことを考えて、もし晴れたら?」

 

「その時は晴れにしてほしいというお願いをきいてもらったことに感謝すればいいのよ。ふふ……」

 

 そんな濃密な空気を切り裂くように、ドアが勢いよく開いた。

 

「ふにゃー! そよかいたいたー。何持ってくー?

 やっぱりあひる隊長はいるよねー?」

 

 せいらが両手で掲げたのは、黄色いプラスチック製のあひる人形。

 

「いる? 本当にそれ持っていくの?」

 

 脳みそがぷかぷかと浮かぶ水槽の横で、無邪気にあひる隊長を掲げるせいら。

 高級紅茶の香りが漂う濃密で妖艶な空気は、その一瞬でせいらの「ぽわぽわ空間」へと完全上書きされた。

 

【回想、終わり──】

 

 

◯雨の境内と、姉妹の温度差

 

 雨の上野天満宮。

 そよかは手元の木彫りのうそ鳥を見つめながら、小さく微笑んだ。

 

(……お師匠様の言う通り、神様が喜んでくれてるわね)

 

 そして──

 せいらのカバンの中に本当に仕込まれている「あひる隊長」の存在を思い出す。

 

(あの水槽の横であひる隊長を掲げられるのは、世界広しといえどもせいらだけよ……)

 

 遠征先でも変わらない姉妹の温度差に、そよかの胸はふっと和らいだ。

 

 そよかの柔らかな表情が雨の光にふわりと浮かんだ、その瞬間──

 悟がすかさず横から顔を差し込んできた。

 

「ねえそよか、さっきから何思い出して笑ってんの? もしかして、さっき僕に頭ぽんぽんされたの思い出してニヤニヤしちゃって──」

 

「違うわよ!!」

 

 そよかは即座に悟の顔を押し返す。

 

「悟、そこ動かないで。今からその顔になで牛の呪力を流し込むわよ」

 

「えっちょっと待って!? なんで!? 俺なんか悪いことした!?」

 

 悟が慌てて後ずさる。

 七海はその様子を横目に、静かにため息をついた。

 

 雨の境内に、そよかの笑い声と悟の悲鳴が混じり合い──

 遠征の空気は、再び温かく賑やかなものへと戻っていった。

 

 

●20

 

 久屋大通庭園フラリエのテラス席。

 緑と花々に囲まれた都会のオアシスで、一行は少し遅い昼食を楽しんでいた。

 雨上がりの光がテラス席の木目を柔らかく照らし、風が運ぶ花の香りが、遠征の疲れをそっとほどいていく。

 

 そよかは、テーブルの端に整然と並べた戦利品を前に、静かに頬を緩めていた。

 遠征の軌跡が一つひとつ形になって並んでいるようで、胸の奥がじんわり温かくなる。

 

 スタンプラリーコンプ特典──人数分。

 新幹線乗車特典のアクキー──人数分。

 そして、リベンジのつもりで買った赤味噌キャラメルのおまけ。

 

「ふふふ」

 

 そよかが嬉しそうに声を漏らすと、悟が横から覗き込んだ。

 

「そよか、良かったなー」

 

「ふふ。赤味噌キャラメルのおまけで悟次郎は出なかったけど……それはそれで……もういいわ」

 

 最推しのおまけは引けなかった。

 けれど、コラボアイスの特典で悟次郎はすでに入手済み。

 遠征の熱気と満足感がそよかの表情を柔らかくしていた。

 

 

◯白百合の前で

 

 その横で、せいらはテラス脇の花壇へトコトコと歩み寄っていた。

 

「きれいなお花いっぱーい。これお師匠様みたーい。持って帰れないかなー」

 

 せいらが覗き込んだのは、大輪の真っ白な百合。

 雨上がりの光を受けて、透き通るように咲いている。

 

「流石に生花は持ち帰るのは難しいよ、せいら」

 

 傑が穏やかに笑う。

 

「わかってるよ〜。

 お花さんだって、キレイだよとか、かわいいねって言われると嬉しいかなって。

 話しかけたかったんだ〜」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「植物も人の言葉がわかるという説もありますね。

 優しい言葉をかけられた薔薇の方が長持ちするという実験結果もあります」

 

 七海が淡々と補足する。

 

「なるほどー! さすが七海、物知りだな。

 にしても、こんな都会の真ん中にこんな場所があるとは……

 まるでおとぎ話の庭園に迷い込んだようですね〜」

 

 灰原がきょろきょろと周囲を見回す。

 その様子にそよかも思わず微笑んだ。

 

 

◯午後の予定と、静かな火花

 

 七海は手元の時計に視線を落とし、静かに告げた。

 

「さ、ここで軽くランチを済ませて、名古屋城観光に向かいましょう。

 帰りの新幹線まで気は抜けませんよ」

 

「チェッ……結局七海が仕切るのかよ。今日は俺がそよかをエスコートするんだからさー」

 

 悟が不満げに口を尖らせる。

 七海は雨でまだ乾ききらない前髪を指先で整えながら、冷ややかな視線を向け、迷いなく言い放った。

 

「そよかさんは推しの管理でお忙しいんです。

 あなたのようにスケジュールを無視してアイスを食べ歩く男に、

 彼女の貴重な遠征の時間を預けるわけにはいきません」

 

 そよかは推しのアクスタをポーチに仕舞いながら、静かに頷いた。

 

「建人さん。ありがとう、よろしくね」

 

「そよかっ!? 俺は!? 俺のこともちゃんと管理して!!」

 

 悟が半ば本気で叫び、灰原が吹き出し、傑が肩を震わせる。

 せいらは百合の花に向かって「かわいいね〜」と話しかけている。

 

 美しい庭園、美味しいランチ、そして相変わらずの男たちのバチバチな空気。

 

 遠征2日目の午後、一行は名古屋城へ向かうのだった。

 

──

 

「それでは移動しまーす! みんなで手を繋いで……ぴょーんとジャンプ!」

 

 せいらの掛け声に合わせて、一行が一斉に足を浮かせる。

 

 ふわり──

 視界が白い光に包まれた次の瞬間、一行はすでに名古屋城のふもとに立っていた。

 

「場面切り替えの映像技法ですね」

 

 七海は襟元を軽く整えながら、

 極めて冷静にその“スキップ”を解説する。

 

「それにしても、地下鉄結構混んでましたねー!

 無事に着けて良かったです!」

 

 灰原がふぃ〜と額の汗を拭う横で、せいらはいつの間にか両手にアイスを持っていた。

 

「食後のアイスー!!

 はい、すぐるー! さっきの特典そよかに渡して!」

 

 せいらが満面の笑顔で差し出すと、傑はそのアイスに付いていた限定ノベルティをそよかへそっと手渡した。

 

「えっ……? 特典付きの方が、普通のアイスより高かったでしょうに」

 

 そよかが驚いて目を見張る。

 しかし、せいらは「にぱー」とさらに笑顔を輝かせた。

 

「いいのいいの!

 そよかが一喜一憂してるの見る方が、私は楽しいんだもん!」

 

「せいら……」

 

 姉の深い愛情に胸が熱くなるそよか。

 見かねた傑がそっと手を差し伸べた。

 

「せいら、アイスを両手に持ったままだと食べづらいだろう。

 ひとつ私が預かるよ」

 

「すぐる、ありがとう!」

 

 せいらは嬉しそうにアイスを頬張り、そよかは受け取った特典を愛おしそうにポーチへ仕舞った。

 

 

◯金箔ソフトの不意打ち

 

 そんな二人のやり取りを、少し離れたところで、豪華な金箔ソフトを持った悟がニヤニヤと眺めていた。

 

「そーよか」

 

「……何よ?」

 

 少し警戒するような目を向けるそよかに、悟はソフトクリームをすっと差し出した。

 

「俺の金箔ソフト、一口食べない?」

 

「…………」

 

 いつもなら即座に拒否するところだった。

 しかし──天神様への宣言を終え、せいらの優しさに触れ、心がふっと解きほぐれていたそよかは、ほんの一瞬だけ視線を泳がせる。

 

 そして、そよかは小さく身を乗り出した。

 

「……あむ」

 

 悟の手元から、上品に一口。

 

 その瞬間──悟の心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった。

 

「……えっ、本当に食うの!? えっ、めちゃくちゃ可愛いんだけど、何これ、ご褒美!?」

 

 サングラスの奥の目を丸くし、完全に動揺する悟。

 

「……美味しいわね。

 さ、建人さん、早く名古屋城に行きましょう」

 

 そよかは淡々と歩き出す。

 悟は慌てて追いかけた。

 

「ちょっと待ってそよか!

 今の『あむ』もう一回!

 もう一回動画に撮らせて!!」

 

「五条さん、見苦しいですよ。早く行きます」

 

 七海が冷ややかに悟を切り捨てる。

 

 その横で灰原が金箔ソフトを羨ましそうに見つめた。

 

「五条さん、僕も一口欲しいです!」

 

「灰原はダメー!

 これはそよか専用だから!!」

 

 悟の叫びが名古屋城の外堀に響き、

 一行は黄金に輝く天守閣を目指して、さらに賑やかに歩き出した。




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週〜

うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/

◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
90は碧淵編のおまけを追加しました。次は95です。
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