【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
名駅編では再び高専時代に戻ってます。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを劇場版って感じで加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画の劇場版が再生されたらいいなぁと。宜しくお願いします!
●21
名古屋城の天守閣。
最上階の扉を押し開けた瞬間、雨上がりの澄んだ空気がふわりと流れ込み、高い場所特有の静けさと、名古屋の街を一望する広がりが一行を包み込んだ。
「ふにゃー!! 天守閣ー!!」
せいらがバーン! と両手を広げて展望窓へ駆け寄る。
眼下には緑豊かな城跡、その向こうには高層ビル群がきらきらと輝いていた。
「良い眺めね」
そよかは心地よい風に髪を揺らしながら、静かに目を細める。
その隣へ──悟がすかさずピトッと寄り添った。
反対側では、七海が無言で立ち、そよかとの距離を絶妙に保ちながら、悟の動きを冷静に牽制する“静の壁”となっていた。
金箔ソフトの「あむ」を巡る静かな火花は、天守閣の最上階でもまだ消えていない。
「風が気持ちいいですねー!
頑張って階段を登ってきた甲斐がありました!!」
灰原が嬉しそうに深呼吸する。
「せいら、手を繋いでおこう。
ここで走ったら危ないからね」
「走らないよ〜。……昔のお殿様も、こんな景色を見てたのかなー。
昔ってどんなだったんだろう?」
せいらは手すりに顎を乗せ、ふんわりと遠い目をした。
その瞬間──悟がガタッと肩を震わせた。
「おい傑! せいらがそんなこと言い始めると、また時空の狭間に迷い込むぞ!! 歴史改変のフラグが立った!!」
過去の“SF事件”を思い出して本気で焦る悟。
そよかが呆れた視線を送る横で、傑は少しも慌てず、せいらの小さな手を優しく握り直した。
「せいら、それはまた下に降りてから話そうか?
どんなだったか気になるよね。──でも、きっと昔の名古屋城にも、
せいらみたいに可愛くて素敵な『お姫様』がいたかもしれないよ?」
「ふにゃー! わたしみたいなお姫様〜?」
せいらが嬉しそうに「にぱー」と笑顔を咲かせる。
傑の甘くてスマートな言葉は、せいらのロマンチックな妄想を完璧に満足させる。
悟の警戒をさらりと受け流し、
七海の冷静な空気を乱すことなく、
そよかの心も穏やかに保つ──
傑の保護者としての手腕は、まさに天守閣の風のように柔らかく、そして強かった。
◯おひつを囲む笑顔と、オレンジジュースの誓い
名古屋城観光を終えた一行は、名駅周辺の格式高い老舗の暖簾をくぐった。
香ばしいタレの香りが満ちる個室に案内されると、灰原が歓声を上げる。
案内された個室は、落ち着いた木の香りが漂う和モダンの空間だった。
人数分の席がきちんと整えられ、中央には大きなお櫃と薬味の器が美しく並んでいる。
旅の終わりをゆっくり味わうための、上質な静けさが満ちていた。
「それでは名古屋旅行最後の夕食は、五条さんの奢りで高級ひつまぶしとなりました!
ご馳走様です!」
創業百年を超える老舗の最高級ひつまぶしを人数分。
五条がカードを切りながら「好きなだけ食え〜」と宣言したのだ。
「ふにゃっ!? さとるの奢り!? さとる腹ふといね!!」
「せいら、それじゃあただの言い間違いを通り越して悪口だよ」
「太っ腹」と言いたかったせいらの大天然発言に、傑が苦笑しながらツッコミを入れる。
個室全体がドッと温かい笑いに包まれる中、灰原が嬉しそうにグラスを持ち上げた。
「それでは五条さんから一言、乾杯の音頭をー!」
「なんで打ち上げ飲み会風なんですか……我々はまだ高校生ですよ」
七海が呆れたようにため息を漏らすが、その手にはしっかり冷たいお茶のグラスが握られている。
「ねぇねぇ、すぐるー。なんでひつまぶしっていうの?
鰻重とは何が違うの?」
「ひつまぶしはね、細かく刻んだ鰻をお櫃のご飯に“まぶす”ことからその名がついたんだよ。
最初はそのまま、二杯目は薬味を添えて、三杯目はお出汁をかけて茶漬けにする──
3通りの食べ方があるのも特徴だね」
せいらの素朴な疑問に、傑が流れるようなうんちくで答える。
その温かいやり取りを見守りながら、そよかが隣の男の袖を引いた。
「悟、ほら乾杯ですって。みんな待ってるわ」
「えー? しょーがないな〜」
五条は照れ隠しのように肩をすくめ、オレンジジュースのグラスを手に立ち上がった。
サングラスを少し指で下げ、一同の顔を一人ずつ見渡す。
「えー、休み返上で働かされることはあるし、上層部はクソですが」
「こら。お行儀の悪い言葉を使わない」
「いいじゃん本当のことだし(笑)。
……でもさ、そよかは可愛いし、みんなとの旅行は本当に楽しかったです。
硝子用のお土産もちゃんと買ったし……
今度は全員で、また旅行に行けたらいいなと」
普段は傲慢で我が道を行く最強の男が、少しだけ声を落として語った本音。
悟の不器用で真っ直ぐな本音が胸にそっと触れ、そよかは驚いたように目を丸くしてから、ゆっくりと愛おしむような笑みを浮かべた。
傑も七海も、その言葉の余韻を噛み締めるように静かに優しく微笑む。
「──それじゃ、かんぱーい!!」
「かんぱーい!!」
(カチン!)とグラスの触れ合う音が個室に響く。
そよかから手渡された三本入りの鉛筆をカバンに仕舞い、
せいらのお守りの大吉を喜び、
七海のエスコートに火花を散らし、
金箔ソフトの「あむ」に心臓を跳ねさせた──
濃厚すぎる名古屋の二日間。
香ばしい鰻を頬張るみんなの笑顔の真ん中で、
五条はそよかの隣に座りながら、世界で一番幸せそうな顔で笑っていた。
◯新幹線口へ
「じゃあ、そろそろ新幹線に向かいましょうか」
傑が声をかけると、一行はゆっくりと歩き出した。
名駅のコンコースには、旅の終わりを告げるアナウンスが響いている。
「そよか」
悟が少しだけ声を落として呼びかけた。
「……また旅行しような」
そよかは驚いたように目を瞬かせ、それから静かに頷いた。
「ええ。みんなでね」
その言葉に、悟は世界で一番嬉しそうに笑った。
名駅の夜風が、遠征の余韻をそっと包み込んでいた。
●エピローグ
新幹線のなめらかな振動が、遠征の疲労をゆっくりとほどいていく。
車内に満ちる静かな空調音が、旅の終わりをそっと告げていた。
東京へ向かう車内、それぞれ2人掛けのシートに分かれた一行は、それぞれ旅の余韻に浸っていた。
灰原とせいらはすでに夢の中。
傑は静かに読書し、七海は車内販売のコーヒーを飲みながら窓の外を眺めている。
そよかは窓側の席で、スマホと戦利品──スタンプラリー特典、アクキー、そして三本入りの鉛筆──を愛おしそうに見つめていた。
「慌ただしかったけれど、みんなで名古屋に行けて良かったわ」
ふと漏れたその言葉に、隣の席をばっちりキープしていた五条が、サングラスを外して優しい目を向けた。
「良かったな」
いつになく全肯定で、低く心地よい本物の五条悟の声。
そよかは少しだけ胸をときめかせつつ、カバンからイヤホンを取り出した。
「帰りも悟次郎の音声を聞いて脳内に焼き付けるから」
「ちょっと待ってそよか!? 本物の俺が隣にいるのに、なんでスマホの中の悟次郎聞くの!? リアルの俺と喋ろうよ!」
「静かにして悟。今から音声が再生されるんだから。……あ、この低音、本当に最高ね……」
「声優さんのパワーに俺の顔面が負けてる!? 納得いかねぇ!!」
「本物は喋りすぎ。悟次郎は必要なことしか言わないから良いの」
「理不尽!!」
そよかはイヤホンを耳に当て、幸せそうにそっと目を閉じた。
五条は悔しがりながらも、愛おしそうにそよかの横顔を見つめ、彼女が眠りやすいようにそっと自分の肩を寄せて体勢を整えた。
眠くなったら寄りかかっていいよ──
そんな無言の申し出のまま、そよかはイヤホンをつけたまま静かに眠りに落ちた。
五条は一歩も動かず、そよかの頭が揺れないようにそっと支え続けた。
車窓の外を流れる都会の光が、そよかの持つ悟次郎のホログラムカードをきらきらと照らす。
名駅編の幕は、新幹線のなめらかな加速とともに、温かい幸福感に包まれて静かに下りていった。
◯科目準備室
夜の高専は静かだった。
そよかとせいらは荷物を片付けると、名古屋で引いた「うそみくじ」を手に、科目準備室へ向かった。
扉を開けると、柔らかな灯りが上質な木製の家具を照らす、静かな準備室が広がっていた。
紅茶の香りがほのかに漂い、まるで貴族の応接室のような落ち着いた空気が満ちている。
丸くなっていた白猫が、閉じていた目を開いて背筋を伸ばした。
「戻ったのね。おかえりなさい」
「おっ師匠! ただいまー!」
「はい。ただいま戻りました……これ、せいらが引いたおみくじです」
せいらが嬉しそうに前へ出る。
「お師匠様っ! 上野天満宮でね、うそ鳥さんのくじを引いたの! ブスってお尻にささってる感じだった!」
「……言い方」
そよかが小声でツッコミを入れると、白猫はふっと目を細めて微笑んだ。
淡い光がひとひら舞うように揺れ、まるで花が開くかのように、その姿は静かに人へと移ろっていく。
着物の袖をさらりと揺らし、両手で木彫りのうそ鳥を優しく受け取った。
「ありがとう。可愛いらしいわね。
──ここに置いておきましょう」
うそ鳥をそっとデスクの端に置く。
脳みそぷかぷか水槽──羂索が静かに浮かぶ、そのすぐそばに。
小さな影が、机の灯りに柔らかく揺れる。
部屋の主が、静かに言った。
「これからも続く虚構の物語を、しっかり見守ってもらわないとね」
水槽のインジケーターが、かすかに明滅した。
まるで羂索が、うそ鳥の到着を歓迎しているかのように。
そよかはその光景を見つめながら、胸の奥に温かいものが広がるのを感じた。
名古屋での二日間が、確かにここへ帰ってきたのだと。
◯ラストカット
科目準備室の灯りが静かに机を照らす。
その上には──
木彫りのうそ鳥が、ちょこんと佇んでいた。
名古屋の空気をまとったまま、机の灯りに小さな影を落とし、
まるで旅の続きを静かに見守るように。
こうして、『名駅編』は静かに幕を閉じた。
旅する物語 五条悟との邂逅 名駅編 終幕
ここまでご覧いただきありがとうございました。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
90は碧淵編のおまけを追加しました。次は95です。