【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟】
世界を越えて、悲劇に抗った後に続く物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。

note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画で再生されたらいいな。宜しくお願いします!


149幻灯編 5・6:森に通い詰める最強王子と、照れ隠し魔女の苦いお茶

●5

 

 翌朝。

 

 夜闇の森には、いつもと変わらない静けさが戻っていた。

 

 黒い木々の隙間から朝の光が差し込み、昨夜まで降っていた露が葉先からぽたり、ぽたりと落ちている。

 

 森の奥。

 

 小さな家の中で、そよかは暖炉に薪をくべていた。

 

 ぱち、と火の粉が跳ねる。

 

 昨夜の出来事を思い出す。

 

 白いマント。

 

 軽薄そうな笑顔。

 

 そして、自分を恐れるどころか、妙に馴れ馴れしく話しかけてきた王子。

 

 そよかは薪を置きながら、小さく息を吐いた。

 

(昨日の来訪者は……何だったのかしら)

 

 自分の命を狙う人物が来る。

 

 そう聞かされていたから、多少の警戒はしていた。

 

 だが。

 

(まさか、あんな人が来るとは思わなかったわ)

 

 王子。

 

 五条国の悟王子。

 

 自信過剰で、態度が大きくて。

 

 何より──

 

(……妙に楽しそうだった)

 

 そよかは眉を寄せる。

 

「命のやり取りをする相手かもしれないというのに……」

 

 普通なら、もっと怯えるものではないのだろうか。

 

 そんなことを考えながら、朝食の支度を始める。

 

 森の魔女の朝は、意外と忙しい。

 

 薬草を煮て。

 

 薪を割って。

 

 小さな畑の様子を見て。

 

 森の動物たちと交流して。

 

 魔法で水を汲む。

 

 いつもと変わらない一日。

 

 そう。

 

 いつもと変わらない──

 

 はずだった。

 

「おーい」

 

「……」

 

 そよかの手が止まった。

 

「そよかー?」

 

 窓の外。

 

 森の小道から、白いものが見える。

 

 白いマント。

 

 白い髪。

 

 そして、昨日とまったく同じ笑顔。

 

「──また来た!?」

 

 思わず声が出た。

 

 窓を開ける。

 

「何しに来たのよ?」

 

「遊びに来た」

 

「……帰りなさい」

 

「えー、冷たいなあ」

 

 悟王子は悪びれる様子もなく、ひらひらと手を振りながら森の中を歩いてくる。

 

「だってさー。昨日、また来るって言ったじゃん」

 

「言ってないわ」

 

「言った」

 

「言ってない」

 

「俺の記憶では言った」

 

「あなたの記憶を基準にしないで」

 

 悟は楽しそうに笑った。

 

 そよかはため息をつく。

 

 昨夜は一度だけ。

 

 そう思っていた。

 

 だが。

 

 この男はどうやら、本当に来るつもりらしい。

 

 そしてそれから。

 

 悟王子は、毎日のように森へやって来た。

 

 

 薬草を摘んでいると、後ろから声がする。

 

「何してんの?」

 

「薬草を摘んでるの」

 

「へえ」

 

「邪魔しないで」

 

「手伝おうか?」

 

「結構よ」

 

「冷たいなあ」

 

 

 薪を割っていると、また声がする。

 

「今日も魔女っぽいことしているね」

 

「あなたは王子らしいことをしてないわね」

 

「俺は王子だから何もしなくてもいいの」

 

「威張らないで」

 

 

 森の小屋で本を読んでいると、窓の外から顔が覗く。

 

「そよかー」

 

「……」

 

「いる?」

 

「いるわよ」

 

「よかった」

 

「何がよ」

 

「今日も会えた」

 

 悟王子は、まるでそれが世界で一番大切なことであるかのように柔らかく微笑んだ。

 

「…………」

 

 そよかは視線を手に持った本へ戻す。

 だが、目の前の文字はさっきより少しだけ霞んで読みづらかった。

 

 隠すように伏せた口元が、ほんの少しだけ緩んでしまっていた。

 

⸻

 

 視聴覚室。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 一年生たちは、完全にスクリーンへ釘付けになっていた。

 

 虎杖が小声で言う。

 

「これ……」

 

「うん」

 

 釘崎も小声で返す。

 

「もう完全に通い詰めてるわね」

 

「王子、魔女に会いに来すぎじゃない?」

 

 伏黒は腕を組んだまま、真顔でスクリーンを見つめている。

 

「……暇なのか?」

 

「王子だから暇なんじゃない?」

 

 釘崎が即答する。

 

「王子ってそんな暇なの!?」

 

 虎杖は声を殺しながらも、ニヤニヤが止まらず肩を揺らしている。

 

 順平も口元を押さえながら、どこか優しく目を細めた。

 

「でも……なんか、すごくいいね」

 

「何が?」

 

「最初は少し怖い感じだったのに……」

 

 順平はスクリーンを見る。

 

 森の魔女と。

 

 毎日やって来る王子。

 

「少しずつ仲良くなってるみたいで」

 

「……まあ、それはそうね」

 

 釘崎も素直に頷いた。

 

 その後ろ。

 

 現代の悟は、腕を組んでスクリーンを眺めていた。

 

「いやー、懐かしいなぁ」

 

「先生、これ本当に毎日通ってたんですか?」

 

「うん。そういう設定ね」

 

「王子なのに?」

 

「王子だから」

 

「意味わかんない……」

 

 虎杖が笑う。

 

 

●6

 

 それから、数日が過ぎた。

 

 悟王子は、本当に毎日やって来た。

 

 朝から来る日もあれば、昼過ぎにふらりと現れる日もある。

 

 何をしに来るのかと聞けば、

 

「そよかに会いに」

 

 と、あまりにもあっさり答える。

 

 最初のうちは、そよかもまともに相手をしていなかった。

 

 森の魔女としての仕事は多い。

 

 薬草を乾かし、薬を調合し、森の動物たちの様子を見て、必要なら魔法で水を汲む。

 

 その合間に王子が何をしていようと、気にしなければいい。

 

 そう思っていた。

 

 だが。

 

「そよか」

 

「何?」

 

「これ、何の花?」

 

「見ればわかるでしょう。白い花よ」

 

「名前は?」

 

「知らないの?」

 

「知らないから聞いてるんだけど」

 

「……アルビナ草」

 

「へえ。何に使うの?」

 

「熱冷まし」

 

「じゃあ、これも?」

 

「それは毒草」

 

「へえ」

 

「触らないで」

 

「もう触った」

 

「……王子様なんだから、少しは自分を大事にしなさいよ」

 

「大事に? 平気平気。俺、最強だから。それに何かあれば、そよかが助けてくれるでしょ?」

 

「助けないわよ」

 

「えー」

 

 そんな会話が、いつの間にか日常になっていた。

 

 

 ある日の午後。

 

 そよかは森の小さな広場にいた。

 

 木漏れ日の下で腰を下ろし、膝の上には一匹の白い兎。

 

 その足元には二匹のリス。

 

 少し離れた木の枝には小鳥たちが並び、さらに奥では小鹿がこちらを見つめている。

 

 森の動物たちは、魔女を恐れてはいなかった。

 

 むしろ、そよかの周りにはいつも自然と動物たちが集まってくる。

 

 白い兎の背を撫でながら、そよかは穏やかに目を細めた。

 

「……今日は随分と集まったわね。もう怪我は大丈夫?」

 

 小鳥が、ぴ、と鳴く。

 

 リスたちがそよかの靴の上に前足を乗せる。

 

 小鹿もゆっくりと近づいてきた。

 

 その光景は、まるで絵本の一場面だった。

 

 その時。

 

「そよかー!」

 

 森の向こうから、聞き慣れた声が響いた。

 

 そよかが顔を上げる。

 

「あら……」

 

 白いマントを翻しながら、悟王子がこちらへ歩いてくる。

 

 悟は広場に入るなり、目を輝かせた。

 

「わー」

 

 そして、そよかの周りを見回す。

 

「動物たちに囲まれて、まるでプリンセスみたーい」

 

「……」

 

 そよかが瞬きをする。

 

 その瞬間。

 

 悟が広場へ足を踏み入れた途端、空気がわずかに揺れたように見えた。

 

 小鳥たちが一斉に飛び立ち──バサバサバサッ!

 リスたちが木へ駆け上がり──トタトタトタッ!

 白い兎が草むらへ飛び込み──ピューッ!

 小鹿まで素早く森の奥へ逃げていく。

 

 ほんの数秒前まで、そよかを囲んでいた動物たちは。

 綺麗さっぱり、姿を消していた。

 

「…………」

 

 悟がぽつんと立っている。

 

 そよかはゆっくりと悟を見る。

 

「……ちょっと」

 

 ジト目。

 

「え?」

 

「あなたが来た途端、みんな逃げたんだけど」

 

「えー?」

 

 悟は周囲を見回す。

 

「なんで?」

 

「私が聞きたいわよ」

 

 悟は少し考えたあと、にこっと笑った。

 

「照れたんじゃない?」

 

「動物が?」

 

「俺が来たから」

 

「…………」

 

 そよかは無言で悟を見つめた。

 

「……何よ」

 

「なんでもない」

 

 そよかは小さくため息をついた。

 

 森にはもう、小鳥の声すら聞こえなかった。

 

 

 そしてまたある日の午後。

 

 そよかは小屋の外で、洗った薬草を木の台に並べていた。

 

 森を渡る風が、乾きかけた葉をわずかに揺らす。

 

「いい風だね」

 

 隣から声がした。

 

「……いつからいたの?」

 

「さっき」

 

「気配を消さないでよ」

 

「王子の登場としては地味だった?」

 

「そもそも登場しなくていいから」

 

 悟は笑いながら、木の台に並んだ薬草を覗き込んだ。

 

「これ、食べられる?」

 

「食べられないわ」

 

「じゃあ、これは?」

 

「それも駄目」

 

「じゃあこれは?」

 

「全部食べ物じゃないわよ」

 

「魔女の家って食べ物ないの?」

 

「あるわよ」

 

「何?」

 

「……パンとかスープ」

 

「それなら最初から言ってよ」

 

「別にあなたに出すために用意してるわけじゃないもの」

 

「でも俺、毎日来てるじゃん? お腹なってるのも気付いてるでしょ?」

 

「知ってるわよ」

 

 そよかは淡々と答えた。

 

 言ってから、少しだけ手を止める。

 

 悟がこちらを見る。

 

「……今、俺のこと改めて意識した?」

 

「意識してない」

 

「絶対意識した!」

 

「意識してない!」

 

「じゃあ、なんで今ちょっと嬉しそうだったの?」

 

「してないわよ」

 

「した」

 

「してない」

 

「したって」

 

「……うるさいわね」

 

 そよかは薬草を一枚、悟の額にぺたりと貼った。

 

「何これ」

 

「黙る薬」

 

「効いてる?」

 

「少しはね」

 

 悟は額に薬草を貼ったまま、楽しそうに笑った。

 

「じゃあ、明日も来る」

 

「勝手にすれば」

 

「うん。そうする」

 

 その返事があまりにも自然で。

 

 そよかは、なぜか何も言い返せなかった。

 

──

 

 更にある日、

 

 そよかは朝から森の奥へ薬草を採りに出ていた。

 

 戻ってきたのは、いつもより遅い時間だった。

 

 小屋の前まで来たところで、ふと足を止める。

 

「……」

 

 誰もいない。

 

 当然だ。

 

 ここは森の奥なのだから。

 

 誰かが来るほうがおかしい。

 

 そよかは小さく首を振った。

 

「何を考えているのかしら、私……」

 

 小屋の扉を開ける。

 

 薪を置き、薬草を整理する。

 

 暖炉に火を入れる。

 

 いつもと同じ。

 

 何も変わらない。

 

 ただ。

 

 気づけば、何度も窓の外を見ていた。

 自分でも理由がわからず、そよかはそっと眉を寄せた。

 

 森の小道。

 

 木々の向こう。

 

 白いものは見えない。

 

「…………」

 

 そよかは自分でも不思議そうに眉を寄せた。

 

 その時だった。

 

「そよかー!」

 

「!」

 

 森の向こうから、聞き慣れた声が響いた。

 

 白いマントが木々の間から現れる。

 

「今日も来たよー!」

 

 悟が手を振っている。

 

 そよかは胸の奥の仕えが下りたように、思わず息を吐いた。

 

「……遅い」

 

「え?」

 

「……なんでもないわ」

 

 悟は一瞬だけ目を丸くしたあと、すべてを察したようににやっと笑った。

 

「もしかして待ってた?」

 

「待ってない」

 

「でも遅いって言った」

 

「あなたが勝手に毎日来てるだけでしょう」

 

「じゃあ、来ない日があったら寂しい?」

 

「ならないわよ」

 

「ほんと?」

 

「ほんと」

 

「じゃあ明日、来なかったら?」

 

「……」

 

 そよかは少しだけ考えた。

 

「……知らないし、気にしないわ」

 

「ふーん」

 

 悟は嬉しそうだった。

 

「じゃあ、明日も来るよ」

 

「勝手にしなさい」

 

「うん」

 

 二人の間を、森の風が通り抜ける。

 

 そよかは薬草の籠を抱え直した。

 

「……お茶くらいなら出してあげる」

 

「やった」

 

「とびきり苦いやつ」

 

「はいはい」

 

 悟は笑いながら、小屋へ入っていった。

 

 その後ろ姿を見送って。

 

 そよかは、ほんの少しだけ笑った。

 

──

 

 視聴覚室。

 

 スクリーンには、森の小屋で並んでお茶を飲む二人の姿が映っていた。

 

 虎杖は完全に画面へ釘付けになっている。

 

「……なんかさ」

 

「何よ」

 

 釘崎が隣を見る。

 

「これ、思ってたのと違うな」

 

「私も」

 

 伏黒も腕を組んだまま、スクリーンを見ていた。

 

「森の魔女と戦う話だと思ってた」

 

「私もアクション映画だと思ってたわ」

 

 釘崎が頷く。

 

「もっとこう、派手に魔法を撃ち合ったり、剣で戦ったりするのかと」

 

「それが毎日遊びに来てるだけだもんな」

 

 虎杖が笑う。

 

「しかも、なんか普通に仲良くなってるし」

 

 順平も小さく笑った。

 

「最初は魔女と王子って、もっと敵同士なのかと思ってたけど……」

 

 スクリーンの中では、そよかが呆れた顔で悟に何かを言っている。

 

 悟は楽しそうに笑っていた。

 

「……恋愛ものなんだね」

 

 順平がぽつりと言った。

 

「ラブコメね……」

 

 釘崎も納得したように呟く。

 

 伏黒は少し考えてから、

 

「意外だな……」

 

 とだけ言った。

 

 虎杖もスクリーンを見つめる。

 

「討伐とかいうから、完全にアクション映画か冒険ファンタジーだと思ったけど……」

 

 少し間を置いて。

 

「これはジャンル違うわ……」

 

 虎杖は思わず前のめりになり、スクリーンへ食い入るように視線を向けた。

 

「意外だ……」

 

 四人の視線が、揃って再びスクリーンへ吸い寄せられていく。

 

 その後ろで。

 

 現代の悟は何も言わず、ただ満足そうに腕を組んでいた。

 その口元だけが、あの頃と変わらない得意げな笑みを浮かべていた。




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週。

うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/

◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
95は名駅編のあとがきを追加しました。次は100です。
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