【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後に続く物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画で再生されたらいいな。宜しくお願いします!
●7
スクリーンの中では、悟王子が今日も森の家の前に立っていた。
「ねえ、そよか」
「何?」
「俺のこと好きでしょ?」
「は?」
「昨日もそういう顔してたし」
「してないわよ」
「したって」
「してない」
「じゃあ今する?」
「何をよ」
「好きって顔」
「しないわよ」
「じゃあ俺がする」
「勝手にしなさい」
そよかが家の中へ戻る。
悟王子はその背中を見送りながら、満足そうに笑った。
「……やっぱ俺のこと好きじゃん」
「どこをどう解釈したらそうなるの!?」
視聴覚室で釘崎が爆笑した。
「この王子、うっっっざ!!」
「でも五条先生っぽい!!」
虎杖も腹を抱えている。
「これ、そよかさん大変だったんだろうなぁ……!」
伏黒だけが静かに呟いた。
「……でも、本当に嫌なら追い返してるだろ」
「……」
一瞬。
釘崎も虎杖も黙った。
スクリーンの中。
そよかは森の家の窓から、帰っていく悟王子の背中を見ていた。
そして。
誰もいなくなったところで、小さく呟く。
「──明日も来るのかしら」
そよかは窓の外を見つめたまま、ほんの一瞬だけまばたきを忘れた。
その表情は、昨日までとは少しだけ違っていた。
スクリーンが、ゆっくりと暗転した。
先ほどまで映っていた夜闇の森が、深い闇へと溶けていく。
やがて。
かすかな炎の揺らめきが、画面の中央に浮かび上がった。
ぱち、と薪の爆ぜる音。
画面が少しずつ明るくなる。
そこは、森の奥深くに建つ小さな家だった。
黒々とした木々に囲まれた、小さな家。
窓から差し込む月明かりは細く、室内を照らしているのは暖炉の炎だけ。
その正面に。
ひとつの大きな鏡が立っていた。
城に置かれていたものと、よく似た形。
けれど、その装飾はどこか古い。
金とも銀ともつかない金属で縁取られた枠には、見たことのない紋章が刻まれている。
そよかは、その鏡の前に静かに立っていた。
鏡面には何も映っていない。
ただ、淡い霧のような光だけが、ゆっくりと揺れている。
やがて。
鏡の奥から、低く静かな声が響いた。
『──森の魔女、そよか』
「……何?」
『時が来ました』
そよかは黙って鏡を見つめる。
暖炉の炎が、彼女の横顔を赤く照らした。
『五条国の王子が、再び森へ入ります』
「……そう」
そよかの表情に、大きな変化はない。
けれど。
指先が、わずかに動いた。
昨夜の白いマント。
軽薄そうな笑顔。
そして、森の魔女である自分を前にしても、まるで恐れる様子のなかった青年。
五条国の王子。
悟。
『あの者は、五条国の王子』
「分かっているわ」
『そして──』
鏡面に、淡い光が走る。
『かつて、あなたの国を滅ぼした王家の血を引く者です』
そよかは目を伏せた。
その言葉に驚きはない。
知っている。
幼い頃から、何度も聞かされてきたことだった。
かつて、この地には古の王国があった。
長い歴史を持つ国。
けれど。
五条国との戦いに敗れ、国は滅びた。
王族は散り、城は焼け、領土は奪われた。
そして五条国は、奪った土地を治めるために新たな王家を置いた。
それが、天内国。
古の王国に代わって作られた、新しい国だった。
けれど。
古の王国の血は、完全には途絶えなかった。
最後に残された王族の血を、そよかは受け継いでいる。
だからこそ。
彼女はこの森にいた。
古の王国の血を引く者として。
そして、いつの日か王国を取り戻す者として。
『あなたの使命を忘れてはいけません』
鏡の声が静かに響く。
『古の王国が真の力を取り戻すためには──五条国の王子の命が必要です』
そよかは目を閉じた。
「……分かってるわ」
声は静かだった。
迷いはない。
少なくとも、そう見えた。
『王子の心を奪い』
「……」
『そして──』
鏡面の光が、ひときわ眩しく爆ぜる。
『その命も、奪うのです』
「…………」
静寂。
暖炉の薪が、ぽつりと寂しげな音を立てた。
そよかは自分の胸の奥の痛みを隠すように、じっと鏡を見つめた。
「……それが、古の王国を取り戻すために必要なのね」
『そうです』
「なら……やるわ」
そよかは静かに、けれど震える声で答えた。
その横顔には、魔女としての冷静さが戻っている。
けれど。
握りしめた指先だけが、ほんの少し震えていた。
カメラは、その小さな動きを捉える。
そして──
画面が切り替わった。
視聴覚室。
「…………」
「…………」
「…………」
一年生たちは、完全に固まっていた。
最初に口を開いたのは虎杖だった。
「……えぇっ!?」
思わず身を乗り出す。
「殺す側なの!?」
釘崎も目を見開いた。
「ちょっと待って!?」
「森の魔女って、もっとこう……魔法で人助けするとかじゃないの!?」
「いや、かなり重いな」
伏黒も珍しく驚きを隠していない。
順平はスクリーンを見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「古の王国……五条国に滅ぼされた……?」
「そういう設定だったの!?」
虎杖が後ろを振り返る。
「先生、聞いてないんだけど!」
視聴覚室の一番後ろ。
悟は腕を組んだまま、楽しそうに笑っていた。
「そうそう。ここからなんだよね」
「先生は知ってたんですか?」
「いや」
悟は即答した。
「俺も知らなかった」
「えっ?」
「この劇、俺だけ結末教えてもらってなかったから」
虎杖が目を丸くする。
「主演なのに!?」
「そう」
「なんで!?」
「さあ?」
悟は楽しそうだった。
「だから当時の俺も、この場面で初めて知ったんだよね」
その瞬間。
スクリーンの中で――
バアァン!!と扉が蹴破られ、悟王子が画面の端からものすごい勢いで駆け込んできた。
「ちょっと待って!?!?!?」
そよかが目を丸くして振り返る。
「……え?」
大鏡の前へハァハァと息を荒げて飛び込んだ悟王子が、勢いよく鏡を指差した。
「俺、そんな話一切聞いてないんだけど!?」
『…………』
「いやいやいや!!」
悟王子は鏡を覗き込む。
「俺を殺すって何!?」
そよかも困惑した顔で悟王子を見る。
「あなた……聞いていたの?」
「今聞いた!」
「なら、どうしてここにいるのよ」
「いや、だって!」
悟王子は大鏡とそよかを交互に見る。
「俺、そよかの家に遊びに来ただけなんだけど!?」
視聴覚室が爆笑に包まれた。
「遊びに来ただけって何!?」
虎杖が腹を抱える。
「最初魔女討伐なんて楽勝って言ってたのに!?」
釘崎も笑いながらスクリーンを指差す。
「しかも自分から入ってきてるじゃない!」
伏黒は額を押さえた。
「護衛……本当に何してるんだ……」
順平まで笑っている。
「でも……五条先生、本当に知らなかったんだ」
後方の悟は、懐かしそうにスクリーンを眺めていた。
「うん。あの時の俺、めちゃくちゃびっくりしたよ」
「今も楽しそうですけど」
「だって面白いじゃん」
悟は笑う。
スクリーンの中では、そよかが大鏡へ向き直っていた。
「……大鏡」
『何でしょう』
「彼は……」
そよかがちらりと悟王子を見る。
白いマント。
白い髪。
五条国の王子。
そして。
自分が殺さなければならない男。
「……本当に、私が殺すの?」
『それが、あなたの使命です』
悟王子が即座に割り込む。
「いや、待って!?」
「あなたは黙ってて」
「俺の命の話なんだけど!?」
虎杖がまた吹き出した。
「そよかさん、冷静すぎる!」
釘崎も肩を震わせている。
「悟先生、完全に巻き込まれ事故じゃない!」
伏黒は呆れながらスクリーンを見つめる。
「……これ、本当に恋愛ものになるのか?」
順平が苦笑した。
「最初は森の魔女討伐の冒険ものかと思ってたけど……」
「うん」
虎杖もスクリーンを見る。
「なんか、すごい話になってきたな」
その一方で。
スクリーンの中の悟王子は、まだ大鏡を睨んでいた。
「ちょっと待てよ」
そして。
ふと、そよかを見る。
「……ねえ」
「何?」
「俺のこと殺すの?」
「……」
「本当に?」
「使命だもの」
「そっかぁ」
悟王子は少し考える。
けれど、その顔にはいつもの軽さがほんの少し消えていた。
言葉を選んでいるような、そんな一瞬の静けさ。
指で唇を触りながら、悟王子はほんの少しだけ視線を落とし──。
「じゃあ──結婚する?」
次の瞬間には、何事もなかったかのように満面の笑みで言い放っていた。
「…………」
視聴覚室。
「「「「は?????」」」」
静まり返る部屋の中で、四人の怒号にも似たツッコミがハモった。
物語は。
またしても、誰も予想できない方向へ転がり始めた。
視聴覚室の一年ズは、脳の理解が完全に追いついていなかった。
●8
そよかが顔を上げた。
「……?」
「結婚する?」
沈黙。
視聴覚室も。
スクリーンの中も。
完全に停止した。
「「「「は?????」」」」
一年生四人の怒号混じりの声が、きれいに重なった。
「何でそうなる!?」
虎杖が勢いよく立ち上がる。
「なんでそこで結婚なのよ!?」
釘崎がスクリーンを指差して叫ぶ。
「話の流れどこ行ったわけ!?」
伏黒まで珍しく声を荒らげた。
「いや、待て。意味がわからない」
順平は口を開けたまま固まっている。
「……え?」
スクリーンの中でも、そよかは完全に動きを止めていた。
「……今、なんて?」
悟王子は、何でもないことのように答える。
「だから、結婚」
「……」
「殺すなら、殺しやすいようにそばにいるのはどう?」
そよかが瞬きをする。
「よくないわよ」
即答だった。
視聴覚室から笑いが漏れる。
「そよかさん強ぇ!」
虎杖が笑った。
しかし悟王子は気にしない。
「だって君さ」
一歩、そよかへ近づく。
「世界とか使命とか背負うと、絶対無茶するだろ」
「……」
「だから俺が支えるよ」
そよかが、じっと悟王子を見る。
その表情から、わずかに険が消えた。
「……支えるって」
「うん」
「殺させるのに?」
「そうだけど?」
「もっと他に言い方があるでしょう」
「俺かなりロマンチックじゃない?」
「どこがよ」
視聴覚室の釘崎が即答した。
「それな!!」
虎杖が腹を抱えて笑う。
「五条先生、ロマンチックの意味わかってる!?」
伏黒も肩を震わせていた。
「……命を狙う相手に求婚する王子は初めて見た」
順平は苦笑しながらも、どこか楽しそうにスクリーンを見ている。
「でも……五条先生らしいな」
スクリーンの中では、そよかが小さく息を吐いた。
「……王子様って、もっとロマンチックなものじゃないの?」
「俺、十分ロマンチックだと思うけど」
「そう思ってるのは、たぶんあなただけよ」
「えー」
悟王子が不満そうに口を尖らせる。
その顔を見て。
そよかは、ほんの少しだけ笑った。
「……変な人」
「よく言われる」
その瞬間。
音楽が静かに戻ってきた。
今度は、先ほどまでより柔らかな旋律。
暖炉の光。
森の夜。
二人の影が壁に並んで映る。
魔女と王子。
本来なら敵同士であるはずの二人が、同じ場所に立っている。
そよかはまだ笑っていた。
けれど、その瞳には小さな迷いが残っていた。
──この人を殺さなければならない。
そう命じられていたはずなのに。
なぜだろう。
今は、その運命そのものを疑い始めている。
⸻
そして。
画面の端。
命がけの重大な攻防が繰り広げられている場面から、少し離れた森の木陰。
「おさかなー!」
一匹のクリーム色の猫(せいら)が、パタパタと尻尾を振って嬉しそうに鳴いていた。
「はいはい、今あげるよ」
旅人の傑が、骨を取った魚の切り身を優しく差し出している。
せいら猫は両前足で魚を抱えると、夢中になって食べ始めた。
「あむあむあむあむ!!」
「おいしい?」
「おいしい!」
「それはよかった」
「もう一回!」
「はいはい」
また魚が差し出される。
せいら猫が嬉しそうに尻尾を揺らす。
その二人の背後では、魔女と王子が運命を変えようとしていた。
完全に別の物語だった。
悟王子が画面の端から叫ぶ。
「ちょっと待って!?」
傑が振り返る。
「何?」
「なんでそっちはもう新婚生活みたいになってんの?」
「新婚?」
傑がせいら猫を見る。
せいら猫は魚をくわえたまま、幸せそうに尻尾を振っている。
「……そう見える?」
「見えるよ!!」
悟王子が叫ぶ。
「俺なんて今、命狙われてたんだよ!?」
「それは大変だったね」
「温度差!!」
視聴覚室。
虎杖がとうとう笑い声を上げた。
「なんだよこの映画!」
釘崎も笑っている。
「本編より猫のほうが安定してるじゃない!」
伏黒は呆れながらも、画面の端から目を離せない。
「……でも、せいらさんの猫役は妙に似合ってるな」
「うん」
順平も笑った。
「すごく幸せそう」
スクリーンの中。
傑はせいら猫の頭を優しく撫でていた。
「寒くないかい?」
「だいじょーぶ!」
「そう」
傑は微笑む。
そして、また魚を一切れ差し出す。
「はい」
「わーい!」
その光景を見ながら、悟王子が遠くでぼそっと呟いた。
「……俺も猫飼おうかな」
「……は?」
あまりにも唐突だった。
そよかは瞬きをする。
「勝手に飼えば?」
「飼っていいの!?」
「ええ。あなたのお城なら、好きにすればいいでしょう」
「やった」
悟王子は妙に嬉しそうに笑った。
そよかは眉を寄せる。
「……ちょっと待って」
「ん?」
「猫って誰のこと言ってんのよ」
悟は、きょとんとした顔をした。
そして。
何でもないことのように。
「君」
「…………」
そよかの思考が止まった。
「…………私?」
「うん」
「私は猫じゃないわよ」
「知ってる」
「じゃあ何で猫なのよ」
「だって可愛いし。いつもツンツンしてるし」
「…………」
そよかは絶句した。
悟はそんな彼女を見て、楽しそうに笑う。
「それに、放っといたら一人で森の奥まで行って、危ないことしそうじゃん」
「それは……」
「だから俺が飼う」
「飼うな」
「えー」
「私は人間よ」
「じゃあ猫っぽい人間?」
「意味が分からないわ」
再び笑い声。
視聴覚室も、スクリーンの中も。
いつの間にか、同じ空気に包まれていた。
ただ一人。
後方の悟だけが、黒い目隠しの奥で、スクリーンに映るあの頃の魔女そよかをじっと見つめていた。
その横顔からは、先ほどまでのふざけた笑みが消えている。
ほんの少しだけ、愛おしそうに、そしてどこか切なさの混じった眼差しだった。
そしてスクリーンの中では──
魔女と王子の物語が、静かに次の幕へ進み始めていた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
95は名駅編のあとがきを追加しました。次は100です。