【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後に続く物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画で再生されたらいいな。宜しくお願いします!
●9
城の大広間は、朝の光に満ちていた。
高い窓から差し込む光が白い石床を照らし、赤い絨毯の上には、長い影が伸びている。
その静かな広間を、ずかずかと歩いてくる男がいた。
白い髪。
白いマント。
そして、その後ろには。
黒いドレスをまとった、森の魔女。
そよかがいた。
兵士たちの間に、ざわめきが広がる。
「……え?」
「王子……?」
「後ろにいるの、森の魔女じゃないか?」
「拘束もせずに?」
「なんで城にまで──」
「まさか……」
悟王子は周囲の視線など気にも留めず、赤い絨毯の上を進んでいく。
その足取りには、何の迷いもなかった。
やがて玉座の前まで辿り着くと。
悟は、ぴたりと足を止めた。
そして……
びしっ、と人差し指を立てる。
「というわけで!」
嫌な予感がした。
広間にいた全員が、なぜか同時に。
嫌な予感がした。
「俺、森の魔女と結婚します!」
「…………」
「…………」
「…………」
静寂。
次の瞬間。
「はぁ!?」
理子姫の声が広間に響き渡った。
「結婚!?」
兵士たちも一斉にざわめく。
「討伐は!?」
「魔女を倒しに行ったんじゃなかったのか!?」
「連れて帰ってきたぞ!」
「いや、見れば分かる!」
理子姫が悟を指差す。
「お主! 森の魔女を討伐してくると言うておったではないか!?」
「しない」
「しない!?」
理子姫が思い切りずっこけた。
「そこを堂々と否定するでない!!」
「だって、する必要なくなったし」
「何がどうなってそうなったのじゃ!」
「結婚することになったから」
「なってないわよ」
横から、そよかが冷静に訂正した。
「まだなってない」
「え?」
悟がそよかを見る。
「なってないの?」
「なってないでしょう」
「そっか」
悟は一瞬考え。
「じゃあ、今からなる」
「そういう問題じゃないわ」
理子姫が頭を抱えた。
「妾の知らぬところで話がどんどん進んでおる……!」
しかし。
しばらく呆然としていた理子姫は。
ふと、そよかを見た。
そして。
悟を見た。
もう一度、そよかを見る。
やがて。
「……まあ、よいか」
「切り替え早くない?」
悟が言う。
「妾はそもそも、お主と結婚したくなかったのじゃ!」
「ひどくない?」
「森へ帰れ!」
「帰る!」
即答だった。
悟はまったく未練がない様子だった。
「じゃ、そよか行こ」
「ちょっと待ちなさい。私はまだ認めてないし!」
「大丈夫、大丈夫」
「何が大丈夫なのよ」
そよかがため息をつく。
その様子を見ていた兵士たちは、困惑した顔を見合わせた。
「……討伐って、何だったんだ?」
「さあ……」
「結婚で解決した……のか?」
「王子がそう言ってるから、たぶん……」
そんなざわめきが広がる中。
視聴覚室では。
「……」
しばらく、誰も何も言わなかった。
やがて虎杖が、ぽつりと呟く。
「……これ、森の魔女討伐の話だったよな?」
「そうだったはずよ」
釘崎も腕を組む。
「いつの間にか、魔女を討伐するどころか、城に連れて帰って結婚宣言してるけど」
「しかも本人、ものすごく自然だったな」
伏黒が真顔で言う。
「『討伐しない』『帰る』の判断が早すぎる」
「五条先生らしいけど……」
順平が苦笑する。
「でも、これで終わりなのかな」
「終わりじゃないでしょ」
釘崎がスクリーンを指差した。
「あんな大鏡まで出てきたんだから、絶対まだ何かあるわよ」
「だよなぁ」
虎杖が頷く。
少し考えてから。
「でもさ」
虎杖が首を傾げた。
「……恋愛映画だったんだな」
「いや、最初は討伐映画だと思ってた」
「私も」
「俺も……」
その後ろから。
「まあ、ここまではね」
現在の悟が、楽しそうに言った。
「ここまでは?」
虎杖が振り返る。
悟はスクリーンを見たまま、にやりと笑う。
「うん」
「ここから、ちょーっと話が変わるんだよね〜」
「……」
虎杖が釘崎を見る。
釘崎が伏黒を見る。
伏黒が順平を見る。
四人とも、なんとなく嫌な予感がした。
スクリーンの中では。
まだ悟王子が、そよかを連れて歩いている。
だが、その先に。
暖炉の横に置かれていた、古い鏡があった。
不意に。
鏡面が、ふっと揺れる。
淡い光が走った。
広間の空気が変わった。
先ほどまでの騒がしさが、嘘のように引いていく。
『……ですが』
低い声が響いた。
そよかが振り返る。
「……大鏡」
鏡の表面には、誰の姿も映っていない。
ただ、奥深くから声だけが響いてくる。
『本来の計画は、そうではありません』
悟が眉を上げる。
「まだなんかあるの?」
『あります』
「多いなあ」
理子姫が小声で呟く。
「この童話、設定が重すぎるのじゃ……」
鏡は淡々と続けた。
『森の魔女の使命は、五条国の王子を殺すこと』
そよかの表情から、笑みが消えた。
『それによって、古の王国の王族を蘇らせる』
兵士たちが息を呑む。
かつて、この地にはひとつの王国があった。
古の王国。
長い歴史を持つ王家。
そして、その国を滅ぼしたのが。
今、この地を支配する五条国だった。
五条国は滅ぼした王国の土地を治めるため、王家の血を引く者たちを残した。
それが、後の天内国。
王国を直接支配するよりも。
血の繋がった分家を置いたほうが、民を統治しやすかったからだ。
だが。
古の王家の血そのものが、完全に途絶えたわけではなかった。
その血を。
そよかは受け継いでいた。
『王子の血と』
鏡の声が静かに響く。
『古の王族の血』
そよかは目を伏せた。
『その二つが必要なのです』
悟の表情から、わずかに笑みが消えた。
そよかは静かに唇を噛む。
「……だから」
声は小さい。
けれど、広間にははっきりと届いた。
「私は、あなたを殺さなければならない」
悟が、そよかを見る。
そよかは顔を上げない。
「私は古の王国の血を引いている」
「……」
「あなたは、その国を滅ぼした五条国の王子」
自分の運命を語る声は、不思議なほど穏やかだった。
「だから、私があなたの命を奪えば」
そよかは一度、息を吸う。
「古の王族を蘇らせられる」
沈黙。
今度こそ。
誰も何も言えなかった。
長い間、そよかが背負ってきたもの。
森でひとり暮らし。
魔女として国境を守り。
自分の血筋を隠し。
そしていつか。
自分の手で、五条国の王子を殺す。
その使命のために生きてきた。
そのはずだった。
悟は、そんなそよかをしばらく見つめていた。
視聴覚室。
「……やっぱり」
虎杖が、小さく呟いた。
釘崎も、スクリーンを見つめたまま黙っている。
「……王子、殺されちゃうの?」
その言葉に。
さっきまで笑っていた空気が、すっと消えた。
伏黒が眉を寄せる。
「……この流れなら、そうなるはずだ」
「でも……」
順平がスクリーンを見る。
「さっきまで、あんなに楽しそうだったのに」
誰も答えなかった。
スクリーンの中では。
悟王子が、ただ黙ってそよかを見つめている。
その先に待っている運命を。
まだ誰も知らない。
虎杖が、後ろを振り返る。
「五条先生……」
悟は。
スクリーンを見たまま。
にやにやしていた。
「……」
「何その顔」
釘崎が怪訝そうに見る。
悟は、ほんの少しだけ笑みを深くした。
「さぁ」
そして。
「どうだろうねぇ」
スクリーンの中では。
悟王子が、ゆっくりと口を開こうとしていた。
●10
王子は、そんな魔女をしばらく見つめていた。
やがて。
「……でもさ」
「?」
王子が頬をぽりぽりと掻く。
「俺の命が必要なんだよね?」
「……ええ」
「具体的にどう必要なの?」
「どう、必要?」
魔女がちらりと鏡を見る。
「王子の命が魔女の手によって奪われると、古の王族たちが復活します」
鏡が答える。
「魔女はどうなるの?」
「古の王族たちと、新たな歴史を始めることになります」
「じゃあ」
王子は、まるで夕飯の献立でも決めるような気軽さで言った。
「俺とそよかの子供が、新しい王族になればいいんじゃない?」
「…………」
「…………」
「…………」
広間が完全に凍りついた。
理子姫が口をぐぐっと開けたままフリーズする。
兵士たちも石のように固まっている。
そして。
あの大鏡すら、数秒間の絶句ののち──
『…………理論上は、可能です』
「認めるのか!?」
理子姫の全開の叫びが、広間に響き渡った。
王子は満足そうに頷く。
「ほら」
「ほら、じゃないわよ!」
魔女が、ようやく声を上げた。
「あなた、何を言ってるの!?」
「何って」
王子は首を傾げる。
「王族を復活させたいんでしょ?」
「そうだけど!」
「じゃあ、殺す必要なくない? 新しく始めれば」
「……」
魔女が言葉を失う。
王子は、本当に分からないという顔をしていた。
「王族の血が必要なら、俺たちの子供には両方の血が入るし」
「……」
「それで新しい王族を作ればいいじゃん」
あまりにも単純だった。
あまりにも真っ直ぐだった。
そして。
あまりにも、この王子らしかった。
視聴覚室。
「…………え?」
虎杖が固まった。
「今、何て言った?」
釘崎も目を見開いている。
「いや、聞き間違いじゃないわよね?」
「俺もそう聞こえた」
伏黒が真顔で答える。
「……子供って言ったな」
「言ったね」
順平が呆然と頷いた。
「王子、そっちの方向で解決するの……?」
「すごいな」
虎杖がスクリーンを見つめる。
「殺されるかもしれないってところから、いきなり子供作る話になった」
「振れ幅がおかしいのよ!」
釘崎が頭を抱えた。
「童話よね、これ!?」
その後ろでは。
悟が、面白そうに笑っていた。
「まあ、ここはこうなるよね」
「五条先生、知ってたの?」
虎杖が振り返る。
「知ってたっていうか、僕の思い付きだし」
「何で!?」
「この王子なら、なんて言うかなーって考えたら出てきた」
「その答え意味分かんない!」
悟は楽しそうに笑いながら、再びスクリーンへ視線を戻した。
その先では。
「誰かが死ぬより、そっちのほうがいいでしょ?」
魔女の瞳が揺れていた。
「……あなた」
「ん?」
「そういうことを」
魔女は困ったように眉を寄せる。
「そんな顔で言うの?」
「普通じゃない?」
「普通じゃないわよ」
「そう?」
「そうよ」
王子は少しだけ考える。
そして。
「でも、君さ」
一歩。
魔女へ近づいた。
「どうせ一人で全部抱えて、最後は自分が消えればいいとか思ってたんでしょ」
「……」
図星だった。
魔女の指が、わずかに震える。
「……そんなこと」
「考えてた」
「……」
「顔に書いてある」
「書いてないわよ」
「書いてる」
「書いてない」
「俺には分かる」
王子の声が、少しだけ柔らかくなる。
「だから全面却下」
「……何をよ」
「君が一人で全部背負って、勝手に消える未来」
そよかは、思わず息を呑んだ。
「そんなの、俺が絶対に許さない」
軽い口調ではなかった。
王子としての宣言でもない。
ただ。
一人の人間として。
王子はそう言った。
視聴覚室の空気も、少しだけ変わった。
「……」
虎杖が黙ってスクリーンを見る。
さっきまでの『子供』という衝撃とは違う。
王子が本当に言いたかったことが、少しずつ見えてきた。
「……なんか」
順平がぽつりと呟く。
「王子は、魔女を助けたいんだな」
「うん」
虎杖が頷く。
「自分が助かりたいっていうより」
「魔女の不幸を止めたいんだろうな」
伏黒が静かに続けた。
釘崎も、しばらく何も言わなかった。
やがて。
「……まあ」
腕を組んだまま、小さく息を吐く。
「これは、ちょっと格好いいわね」
「ちょっとなんだ」
虎杖が笑う。
「うるさい」
釘崎が睨む。
スクリーンの中では。
魔女が、小さく笑った。
「……変な人」
「今さら?」
王子も笑う。
その笑顔を見て。
魔女は、ほんの少しだけ目を細める。
古の王国。
五条国。
復讐。
王族復活。
自分に課された使命。
ずっと一本に繋がっていたはずの運命が。
たった一人の王子によって、あっさり別の道へ書き換えられていく。
しかも。
本人は、それを大したことだと思っていない。
まるで。
「じゃあ別の方法にすればいいじゃん」
それだけのことのように。
その時だった。
「おさかなー!」
場違いなほど明るい声が、広間の奥から聞こえた。
「……?」
全員が振り返る。
城の厨房。
そこでは。
一匹のクリーム色の猫が、焼き魚を抱えていた。
「わーい! お城ごはん!」
「……」
旅人の傑が、その横で困ったように猫を見ている。
「せいら」
「なーに?」
「どうして君は、もう王城の厨房に住み着いているんだい?」
「居心地がいいから!」
「そうか……」
傑は諦めた。
猫は自由だった。
しかも。
すでに厨房の料理人たちと完全に打ち解けている。
「もう一個!」
「はいはい」
傑が焼き魚を差し出す。
「わーい!」
せいら猫が嬉しそうに尻尾を振る。
王族復活を巡る重大な陰謀のすぐ横で。
ほのぼの動物絵本が始まっていた。
視聴覚室。
「……なんで猫がいるの?」
虎杖が呟いた。
「そこ!?」
釘崎が振り返る。
「いや、だって!」
虎杖はスクリーンを指差す。
「さっきまで王子が殺されるかもしれないって話だったじゃん!」
「それはそうだけど」
「急に猫!」
「しかも、ものすごく馴染んでるな」
伏黒が言った。
「旅人の傑も普通に厨房にいるし」
「この世界、自由すぎない?」
順平が苦笑する。
「童話って、こんな感じだっけ?」
「知らないわよ」
釘崎が呆れたように答える。
スクリーンの中では。
王子が、厨房の様子を眺めていた。
「……なんでそっちは、もう王城生活に馴染んでるの?」
傑が振り返った。
「私に聞かれてもね」
「俺なんて今、人生の重大な決断してるんだけど」
「そうだね」
「そっちは魚食べてるだけじゃん」
「せいらは今、重要な仕事をしているんだよ」
「何の?」
「厨房の平和維持」
「魚食ってるだけだろ!」
「おさかな、おいしいよ?」
せいら猫が首を傾げる。
「……」
王子はしばらく猫を見る。
そして。
「猫って、やっぱり可愛いな」
魔女が眉を寄せた。
「……何よ」
「いや?」
王子は猫を見ながら。
ちらりと、魔女を見る。
「俺の猫も可愛いなって」
「だから人を猫扱いしないで。どこが猫なのよ」
「ツンツンしてるところとか」
「私は猫じゃないわ」
「知ってる」
「じゃあ何で言うのよ」
「猫っぽい人間だから」
「意味が分からないわ」
「まだ懐いてない猫」
「……」
魔女が黙る。
「放っておくと森の奥で一人で危ないことしてるし」
「それは猫じゃなくてもするでしょう」
「でも猫っぽい」
「しつこいわね」
「だから俺がちゃんと見てないと」
「……何でそうなるのよ」
「猫って、放っておけないじゃん」
「私は猫じゃない!」
広間に、笑い声が広がった。
その横では。
「せいら、もう一匹食べるかい?」
「食べるー!」
「はいはい」
傑が焼き魚を差し出している。
せいら猫は嬉しそうに尻尾を揺らした。
王子はそれを見て。
「……まあ、猫っていいな」
そして。
隣にいる魔女を見る。
「でも俺の猫はこっち」
「だから猫じゃないって言ってるでしょう!」
「はいはい」
「はいはいじゃない!」
再び、広間に笑い声が広がった。
視聴覚室でも。
虎杖が吹き出した。
「結局そっちなんだ!」
「五条先生、絶対それ言いたかっただけでしょ」
順平も笑う。
「せいら猫を見て猫が欲しくなったのかと思ったら、魔女に戻ってきた」
「最初からそのつもりだったんじゃない?」
釘崎が呆れた顔で言う。
「五条先生だし」
「そういうこと」
最後列の悟が、満足そうに頷いた。
「そよかは俺の猫だからね」
「本人に否定されてるけどな」
虎杖が笑う。
「そこは気にしない」
「気にしろよ」
伏黒が淡々と突っ込んだ。
笑い声が収まっていく。
けれど。
スクリーンに映る二人を見つめながら。
虎杖の表情が、少しずつ変わった。
さっきまでの笑いとは違う。
何かを考えるような顔。
「……でも」
「ん?」
「結局さ」
虎杖がスクリーンを見る。
「王子って……殺されちゃうの?」
釘崎も黙った。
順平も。
伏黒も。
誰もすぐには答えなかった。
画面の中では。
魔女が小さく笑っている。
王子も笑っている。
まるで、何も問題など残っていないかのように。
物語の最初から提示されていた使命は。
まだ消えていない。
森の魔女は、王子を殺さなければならない。
その運命だけは。
まだ。
スクリーンの向こうに残っていた。
「……」
虎杖が、もう一度呟く。
「王子、殺されちゃうのかな」
最後列。
現在の悟が。
にやりと笑った。
「さあ」
楽しそうに。
ものすごく楽しそうに。
「どうだろうね」
その顔を見た瞬間。
視聴覚室の全員が。
揃って嫌な予感を覚えた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆ノベマ!にて公開中 完結済
https://novema.jp/book/n1778713
→オリジナル作品(現代ファンタジージャンルの不思議な学園ホラー)
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
95は名駅編のあとがきを追加しました。次は100です。