【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後に続く物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画で再生されたらいいな。宜しくお願いします!
本編はおとぎ話のような雰囲気にしたくて改行多めです。
●11
古い鏡の表面が。
ふっと、揺れた。
暖炉の火が、ぱちりと跳ねる。
先ほどまで笑いに包まれていた広間から。
少しずつ。
音が消えていった。
『……ですが』
鏡の奥から。
低い声が響く。
『古の王族を蘇らせることには、もうひとつの意味があります』
魔女が振り返った。
「……もうひとつ?」
『かつて、この世界には魔王が存在しました』
兵士たちの間に。
ざわめきが走る。
『その名は――伏黒甚爾』
「……伏黒甚爾?」
魔女が呟く。
鏡の表面に。
ゆっくりと、一人の男の姿が浮かび上がった。
黒い髪。
鋭い目。
そして。
人間とは思えないほど、禍々しい気配。
『魔王・伏黒甚爾』
『かつて、この世界を滅ぼしかけた災厄です』
広間の兵士たちが息を呑む。
「魔王……」
「まだ生きていたのか……?」
「いや、封印されていたはずだ」
理子姫が青ざめる。
「そうじゃ……」
震える声で。
理子姫は呟いた。
「古い記録に残っておる」
「かつて、古の王族たちが……あの魔王を封印したのじゃ」
鏡が続ける。
『古の王族たちは、命を賭して魔王を封じました』
『そして、その封印を維持するためには』
『古の王族の血が必要だったのです』
魔女の顔から。
血の気が引いていく。
「……では」
『はい』
鏡の声は。
淡々としていた。
『古の王族がいなくなった今』
『封印は、少しずつ弱まっています』
その瞬間。
広間の床が。
ごく小さく揺れた。
「……!」
兵士たちが身構える。
暖炉の火が、大きく揺らめいた。
『魔王は、いずれ復活します』
魔女は。
拳を握りしめた。
「……私だけでは」
小さな声だった。
「古の王族の血を引いているのは、私だけ」
『その通りです』
「でも……」
魔女は唇を噛む。
「私一人では、封印できない」
『ええ』
鏡は否定しなかった。
『古の王族たちが揃わなければ』
『魔王を再び封じることはできません』
王子の表情から。
笑みが消えた。
「……つまり」
静かに。
王子が口を開く。
「魔王が復活したら、この国はどうなるの?」
『滅びます』
即答だった。
「……」
兵士たちが凍りつく。
『この世界は、魔王の手によって滅ぼされるでしょう』
魔女は。
目を伏せた。
「……だから」
その声は。
ひどく静かだった。
「私は、あなたを殺さなければならない」
王子が魔女を見る。
「……俺を?」
「あなたは五条王家の血を引いている」
魔女は苦しそうに言った。
「あなたの命を奪えば」
「古の王族を蘇らせることができる」
「そして」
魔女は。
ぎゅっと目を閉じた。
「魔王を封じる力を取り戻せる」
沈黙。
王子は。
しばらく魔女を見つめていた。
先ほどまでの軽さは、もうなかった。
やがて。
「……そっか」
ぽつりと呟く。
そして。
王子は顔を上げた。
「じゃあ」
魔女を見る。
「俺が魔王を倒せばいいじゃん」
「……え?」
魔女が目を見開く。
「そうすれば、俺を殺す必要もないし」
「あなた……」
「世界も滅びない」
王子は笑った。
「だったら、それでいいだろ?」
「そんな簡単な話では……」
「でも、他に方法ないんでしょ?」
「……」
「だったら、やってみるしかないじゃん」
魔女は。
何も言えなかった。
まただ。
この王子は。
自分の命を差し出すしかないと思っていた道に。
平然と、別の道を作ろうとしている。
その時。
広間の扉が。
ゆっくりと開いた。
「――その戦い」
低い声が響く。
兵士たちが振り返る。
黒い旅装束をまとった男が。
静かに広間へ入ってくる。
「私も加わろう」
「……旅人?」
理子姫が目を細めた。
旅人は。
王子の隣まで歩いてくる。
そして。
小さく笑った。
「魔王が復活して世界が滅んだら」
旅人は、広間の奥に浮かぶ魔王の禍々しい姿を冷ややかに見つめる。
「美味しい魚も手に入らなくなるだろう?」
王子が思わず吹き出した。
「やっぱり、それが理由かよ」
「もちろん」
旅人は真顔だった。
「せいらが悲しむからね」
「お前、本当にそれだけ?」
「それだけだよ」
王子は。
楽しそうに笑う。
「まあ、いいけど」
そして。
旅人の肩を軽く叩いた。
「行こうぜ、傑」
その瞬間。
旅人の目が、わずかに細くなった。
「……いつまで私を旅人扱いするつもりだい?」
「だって今、旅人なんだろ?」
「君だけは知っているだろう」
「知ってるよ」
王子が笑う。
「お前が別の国の王子だってことくらい」
兵士たちが。
一斉にざわめいた。
「え!?」
「王子!?」
「別の国の……!?」
旅人――傑は。
肩をすくめた。
「やれやれ」
「じゃあ行こうぜ。王子様」
「君に言われると腹が立つな」
「お互い様だろ」
二人は。
並んで歩き出した。
魔女は。
その背中を見つめる。
「……本当に」
小さく。
呟いた。
「変な人たち……」
けれど。
その瞳には。
ほんの少しだけ。
光が戻っていた。
――その頃。
視聴覚室。
「…………」
誰も喋らなかった。
スクリーンには。
魔王・伏黒甚爾の姿が映っている。
虎杖が。
ゆっくりと隣を見る。
そこには。
「…………」
伏黒が。
ものすごく複雑な顔をしていた。
「……恵?」
虎杖が声をかける。
「…………」
伏黒は。
しばらく黙っていた。
そして。
「ちょっと待て」
「うん?」
伏黒がスクリーンを指差す。
「なんで俺の親父が魔王なんだよ」
「そこ!?」
釘崎が思わず叫んだ。
「いや、そこだろ!」
伏黒が即座に返す。
「世界が滅びるとか、古の王族とかより先に、なんで親父なんだよ!」
「確かに……」
順平もスクリーンを見る。
「伏黒のお父さん、魔王役なんだ……」
「しかも、めちゃくちゃ強そう」
虎杖が感心したように言う。
「いや、感心するな」
「ごめん」
釘崎が腕を組む。
「でも」
じっとスクリーンを見る。
「確かに、よりによって伏黒甚爾なのが妙に納得できるのが腹立つわね」
「納得するな」
「だって魔王っぽいじゃない」
「知らねぇよ……」
伏黒は額を押さえた。
「俺、これから親父が出てくるたびに、どういう顔して見ればいいんだよ」
頭を抱える伏黒に。
虎杖が、ものすごく真面目な顔で振り返った。
「……恵」
「何だよ」
「やっぱり親父さん応援すんの?」
「…………」
釘崎と順平が。
同時に伏黒を見る。
その顔には。
『マジか』
と書いてあった。
「しねーよ!!」
伏黒の叫びが。
視聴覚室に響き渡った。
「いや、だって親父さんじゃん」
「親父だからって魔王を応援する理由になるか!」
「ならないね」
虎杖は素直に頷いた。
「じゃあ王子側?」
「当たり前だろ!!」
「よかった」
虎杖が、ほっとした顔をする。
「俺、ちょっと心配になった」
「何でだよ!!」
釘崎が吹き出す。
「いや、でも恵ならありそうじゃない?」
「どこにだよ!」
「『親父だから応援します』とか言い出したらどうしようかと思った」
「言うわけねぇだろ!!」
順平まで笑いを堪えながら頷く。
「よかった……」
「お前まで何なんだよ!」
視聴覚室に。
笑い声が広がった。
最後列では。
悟が腹を抱えて笑っていた。
「恵、人気者だねぇ」
「五条先生は黙っててください」
「はいはい」
悟は笑いながら。
再びスクリーンを見る。
そこには。
魔王となった伏黒甚爾の姿が映っていた。
「……でも」
虎杖が。
今度は少し真面目な顔になる。
「親父さん、強そうだな」
「……」
伏黒は嫌そうな顔をしながらも。
スクリーンから目を逸らさなかった。
「……まあな」
そして。
物語は。
王子と旅人。
そして魔王。
三人の待ち受ける戦いへと進んでいく。
最後列。
現在の悟が。
にやにやしていた。
「いやー、いい配役だよね」
「五条先生」
伏黒が振り返る。
「なんでそんな嬉しそうなんですか」
「だって伏黒のお父さん、魔王役似合ってるし」
「本人に言えよ」
「それは嫌だなぁ」
「なんでだよ」
虎杖が笑いを堪える。
「でもさ」
スクリーンを見る。
「魔女一人じゃ魔王を封印できなくて、王子を殺して古の王族を復活させなきゃいけないって……」
「かなりヤバい話になってきたわね」
釘崎の表情が少し真剣になる。
「さっきまで結婚とか猫とか言ってたのに」
「急に世界の命運がかかってきたな」
順平が呟く。
伏黒も。
渋々ながらスクリーンへ視線を戻した。
「……それで」
「ん?」
「王子は本当に魔王を倒せるのか?」
虎杖が呟く。
その瞬間。
スクリーンの中で。
王子が。
白いマントを翻した。
その手のひらに。
青白い光が集まり始める。
「……」
視聴覚室の全員が。
画面へ釘付けになった。
現在の悟だけが。
にやりと笑った。
「ここからが、本当の『主演・五条悟』の本番だよ」
スクリーンの中で、青白い術式の光が激しく爆ぜる。
最強の王子と、異国の王子。
そして魔王──運命をブチ破る戦いが、いよいよ幕を開ける。
●12
城の地下深く。
誰も近づくことのない、古い祭壇。
そこには。
巨大な石の棺が置かれていた。
幾重にも張り巡らされた封印。
古い文字。
そして。
その中央に刻まれた、一つの名。
──伏黒甚爾。
長い年月。
誰も、その封印に触れることはなかった。
けれど。
今。
その封印に。
ひびが入った。
ぴし。
小さな音。
続いて。
ぴし、ぴし、と。
ひびが広がっていく。
その時。
城の大広間で。
魔女が、ふと振り返った。
「……今の」
床の下から。
低い振動が伝わってくる。
王子も眉を寄せた。
「……何?」
旅人が周囲を見回す。
「これは……」
大鏡の表面が。
激しく揺れた。
『封印が、破られます』
「え?」
魔女の顔が強張る。
『魔王が、目覚めます』
次の瞬間。
轟音。
城全体が、大きく揺れた。
「うわっ!」
兵士たちがよろめく。
暖炉の火が消える。
窓ガラスが震える。
そして。
城の地下から。
凄まじい衝撃が突き上げた。
どおん!!
「きゃあっ!」
理子姫が悲鳴を上げる。
王子は。
すぐに魔女の前へ出た。
「そよか、下がって」
「でも……!」
「いいから」
その声には。
もう、いつもの軽さがなかった。
王子が天井を見上げる。
「……来る」
その瞬間。
城の中央。
石造りの床が。
爆発するように砕けた。
大量の瓦礫が舞い上がる。
煙。
土煙。
そして。
その向こうから。
一人の男が。
ゆっくりと歩いてくる。
黒い髪。
鋭い目。
鍛え上げられた身体。
その身にまとっているのは、古びた黒い衣。
けれど。
何より恐ろしいのは。
その男が。
何の武器も持たず。
何の魔法も使わず。
ただ歩いているだけで。
周囲の空気そのものが震えていることだった。
兵士の一人が。
震える声で呟く。
「……あれが、魔王」
男が顔を上げた。
その目が。
広間を見渡す。
誰も。
動けなかった。
『魔王・伏黒甚爾』
大鏡が、静かに告げる。
『かつて、古の王族たちが総出でなければ、封じることすら叶わなかった世界最凶の災厄……』
瓦礫の真ん中で。
男が。
ゴリッと音を立てて首を鳴らした。
「……随分と長く寝かせてくれたじゃねぇか」
低い声。
それだけで。
兵士たちが後ずさる。
理子姫も。
魔女も。
息を呑んだ。
「……伏黒甚爾」
魔女が、その名を呟く。
魔王の視線が。
魔女へ向いた。
「……お前が」
一歩。
甚爾が歩く。
「古の王族の血を引く女か」
「……そうよ」
「なるほどな」
甚爾は。
魔女を見つめる。
「封印が弱くなった理由は、それか」
魔女が拳を握る。
「私は……あなたを再び封印する」
「一人で?」
「……」
甚爾の口元が。
ほんの少しだけ歪んだ。
「無理だな」
魔女の瞳が揺れる。
その時。
王子が一歩前へ出た。
「だったら、俺が倒す」
甚爾の視線が。
王子へ向いた。
「……王子か」
「そう」
「五条の血」
「そうだけど」
王子は笑った。
「そよかが俺を殺す理由になる魔王だっていうなら」
一歩。
王子が前へ出る。
「俺が倒しちゃえばいいわけ」
魔女が目を見開いた。
「……あなた」
「だって」
王子は。
いつものように笑い、魔王を指差して言う。
「君が俺を殺さなきゃいけない理由が、こいつなんでしょ?」
魔女は。
答えられなかった。
「だったら」
王子は魔王を見る。
「こいつを倒せばいい」
甚爾の口元が。
ゆっくりと上がった。
「……面白ぇな」
「よく言われる」
「随分と簡単に言ってくれるじゃねぇか」
「簡単かどうかは」
王子の手のひらに。
青白い光が集まり始める。
「やってみれば分かるでしょ」
魔王が。
腰を落とした。
「なら」
「証明してみろ」
次の瞬間。
消えた。
「──!」
王子の目が見開かれる。
轟音。
甚爾の拳が。
王子の立っていた場所を粉砕した。
王子は。
間一髪で飛び退く。
「うわっ!」
石床が砕ける。
巨大な亀裂が走った。
兵士たちが悲鳴を上げる。
「速い!」
王子が空中で体勢を整える。
しかし。
甚爾は。
すでに目の前にいた。
「──っ!」
王子の手から。
青白い光が弾ける。
閃光。
爆発。
広間が光に包まれた。
けれど。
その中から。
甚爾が飛び出した。
「嘘だろ!?」
王子が叫ぶ。
甚爾の拳が迫る。
その瞬間。
巨大な獣が横から飛び込んできた。
どんっ!!
甚爾の身体が弾き飛ばされる。
獣は。
熊のような姿をした巨大な着ぐるみ。
けれど。
その動きは。
まるで本物の獣そのものだった。
低く唸り。
床を蹴り。
魔王へ飛びかかる。
「……!」
兵士たちが目を丸くする。
その背後から。
旅人がゆっくりと歩いてくる。
「やれやれ……」
旅人が肩をすくめた。
「君、一人で戦うつもりかい?」
「傑!」
王子が笑う。
「遅い!」
「君が勝手に始めたんだろう」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
旅人は呆れたように息を吐く。
そして。
指を軽く動かした。
今度は。
狼。
巨大な鳥。
蛇。
猿。
次々と動物たちが現れる。
どれも。
着ぐるみだ。
けれど。
魔王を前にしたその動きは、あまりにも生々しい。
まるで。
絵本の中から、本物の動物たちが飛び出してきたようだった。
「……何だ、あれは」
兵士が呟く。
旅人は。
にこりと笑った。
「私の可愛い仲間たちだよ」
「仲間!?」
「そう」
旅人は。
魔王を見る。
「魔王が復活したら、せいらが今みたいに美味しい魚を食べられなくなるからね」
「理由、それ!?」
王子が叫ぶ。
「重要だよ」
「世界の命運より魚!?」
「せいらにとっては重要だからね」
旅人は大真面目だった。
甚爾が。
瓦礫の中から立ち上がる。
その身体には。
傷一つない。
「……二人か」
王子が手を掲げる。
青白い光が。
その周囲に集まっていく。
旅人の周囲では。
獣たちが低く唸る。
「あぁ」
王子が笑う。
「二人で行くよ」
「分かっている」
旅人が答えた。
二人が。
同時に踏み込む。
王子の光が。
一直線に走る。
その左右から。
獣たちが飛びかかる。
甚爾は。
それを正面から迎え撃った。
轟音。
閃光。
獣の咆哮。
石床が砕ける。
柱が揺れる。
王子の光が。
何度も魔王を追う。
けれど。
甚爾は。
そのすべてを紙一重で躱していく。
獣たちが左右から襲いかかれば。
その巨体を蹴り飛ばす。
狼を躱した直後には。
王子へ向かって跳ぶ。
「うわっ!」
王子が光の壁を作る。
轟音。
魔王の拳が。
光の壁を叩き割った。
「マジか!」
「王子!」
旅人が叫ぶ。
「分かってる!」
王子が笑う。
次の瞬間。
巨大な鳥が。
上空から急降下する。
甚爾が顔を上げた。
その一瞬。
王子の青白い光が。
真正面から走った。
閃光。
爆発。
広間全体が白く染まる。
けれど。
煙が晴れると。
そこには。
まだ魔王が立っていた。
「……!」
王子の笑顔が。
初めて消える。
旅人も。
静かに息を呑んだ。
甚爾は。
肩を回した。
「……なるほどな」
そして。
笑う。
「これが今の五条国の力か」
その目に。
初めて。
明確な殺意が宿った。
魔女は。
その光景を見つめていた。
「……勝てない」
思わず。
声が漏れる。
あれほどの力を持つ王子ですら。
魔王には届かない。
古の王族たちが。
命を懸けてようやく封じた存在。
それが。
今。
目の前にいる。
魔女の指が。
震えた。
「……だから」
魔女は。
胸の前で手を握る。
「私は、王子を殺すしかないの……?」
その呟きに。
王子が振り返った。
「何言ってんの」
笑っている。
まだ。
笑っている。
「俺、これくらいじゃ死なないよ」
「……」
「それに」
王子は魔女を見る。
「言ったでしょ?」
再び。
魔王へ向き直る。
「そよかが俺を殺す理由になる魔王なら」
青白い光が。
王子の手の中で。
さらに強く輝く。
「俺が倒すって」
旅人が。
隣に並ぶ。
「なら、私も付き合おう」
「傑」
「せいらの魚のためだ」
「まだ言ってるの?」
「大事なことだから」
王子が。
吹き出した。
「ははっ」
そして。
笑ったまま。
「じゃあ、行こうぜ」
二人が。
魔王へ向かって駆け出す。
魔王も。
ゆっくりと拳を構えた。
光と獣。
そして。
人ならざる災厄。
三者が。
再び激突する。
──その頃。
視聴覚室。
「…………」
全員が。
スクリーンを見つめていた。
虎杖が。
ぽつりと呟く。
「……すげぇ」
釘崎も。
珍しく言葉を失っている。
順平は目を丸くしていた。
「これ……本当に着ぐるみ?」
「いや」
伏黒が真顔で答える。
「動きがおかしい」
「だよな」
虎杖が頷く。
そして。
王子が手のひらから放った青白い光を見て。
虎杖が目を細めた。
「……待って」
「何?」
「これ」
虎杖が。
最後列を見る。
「……もしかして、特撮とかCGじゃなくて先生が全部『リアル呪力』で撮影してんの!?」
最後列の悟が。
口元をにやりと歪める。
「さぁてね?」
「絶対そうでしょ!!」
虎杖が叫ぶ。
「今の光、先生の呪力じゃん!」
「映画は夢を見せるものだからねぇ」
「いや夢っていうか現実!!」
釘崎が頭を抱える。
「予算の使いどころと撮影規模がおかしいのよ、この映画!!」
伏黒も。
スクリーンを見る。
そこには。
王子と旅人を相手に。
一人で戦う魔王の姿があった。
「……親父」
伏黒が呟く。
「……本当に魔王役やってんのかよ」
虎杖が。
伏黒を見る。
「恵」
「何だよ」
「やっぱり親父さん、強いな」
「……」
伏黒は。
嫌そうな顔をしながらも。
スクリーンから目を逸らさなかった。
「……まあな」
けれど。
その視線は。
少しだけ心配そうだった。
スクリーンの中では。
王子と旅人が。
再び魔王へ向かっていく。
光。
獣。
圧倒的な力。
視聴覚室の誰もが。
その先に待っているものを。
まだ知らない。
ただ一つだけ。
分かっていることがあった。
──この魔王。
強すぎる。
そして。
王子たちの戦いは。
まだ。
始まったばかりだった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週。
うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/
◆TAILESでオリジナル作品公開中
https://tales.note.com/masuda028
お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
95は名駅編のあとがきを追加しました。次は100です。