【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

153 / 154
【呪術廻戦/五条悟】
世界を越えて、悲劇に抗った後に続く物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。

note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画で再生されたらいいな。宜しくお願いします!

本編はおとぎ話のような雰囲気にしたくて改行多めです。


152幻灯編 11・12:降臨した最凶の魔王と、最強王子たちの奇跡の共闘

●11

 

 古い鏡の表面が。

 

 ふっと、揺れた。

 

 暖炉の火が、ぱちりと跳ねる。

 

 先ほどまで笑いに包まれていた広間から。

 

 少しずつ。

 

 音が消えていった。

 

『……ですが』

 

 鏡の奥から。

 

 低い声が響く。

 

『古の王族を蘇らせることには、もうひとつの意味があります』

 

 魔女が振り返った。

 

「……もうひとつ?」

 

『かつて、この世界には魔王が存在しました』

 

 兵士たちの間に。

 

 ざわめきが走る。

 

『その名は――伏黒甚爾』

 

「……伏黒甚爾?」

 

 魔女が呟く。

 

 鏡の表面に。

 

 ゆっくりと、一人の男の姿が浮かび上がった。

 

 黒い髪。

 

 鋭い目。

 

 そして。

 

 人間とは思えないほど、禍々しい気配。

 

『魔王・伏黒甚爾』

 

『かつて、この世界を滅ぼしかけた災厄です』

 

 広間の兵士たちが息を呑む。

 

「魔王……」

 

「まだ生きていたのか……?」

 

「いや、封印されていたはずだ」

 

 理子姫が青ざめる。

 

「そうじゃ……」

 

 震える声で。

 

 理子姫は呟いた。

 

「古い記録に残っておる」

 

「かつて、古の王族たちが……あの魔王を封印したのじゃ」

 

 鏡が続ける。

 

『古の王族たちは、命を賭して魔王を封じました』

 

『そして、その封印を維持するためには』

 

『古の王族の血が必要だったのです』

 

 魔女の顔から。

 

 血の気が引いていく。

 

「……では」

 

『はい』

 

 鏡の声は。

 

 淡々としていた。

 

『古の王族がいなくなった今』

 

『封印は、少しずつ弱まっています』

 

 その瞬間。

 

 広間の床が。

 

 ごく小さく揺れた。

 

「……!」

 

 兵士たちが身構える。

 

 暖炉の火が、大きく揺らめいた。

 

『魔王は、いずれ復活します』

 

 魔女は。

 

 拳を握りしめた。

 

「……私だけでは」

 

 小さな声だった。

 

「古の王族の血を引いているのは、私だけ」

 

『その通りです』

 

「でも……」

 

 魔女は唇を噛む。

 

「私一人では、封印できない」

 

『ええ』

 

 鏡は否定しなかった。

 

『古の王族たちが揃わなければ』

 

『魔王を再び封じることはできません』

 

 王子の表情から。

 

 笑みが消えた。

 

「……つまり」

 

 静かに。

 

 王子が口を開く。

 

「魔王が復活したら、この国はどうなるの?」

 

『滅びます』

 

 即答だった。

 

「……」

 

 兵士たちが凍りつく。

 

『この世界は、魔王の手によって滅ぼされるでしょう』

 

 魔女は。

 

 目を伏せた。

 

「……だから」

 

 その声は。

 

 ひどく静かだった。

 

「私は、あなたを殺さなければならない」

 

 王子が魔女を見る。

 

「……俺を?」

 

「あなたは五条王家の血を引いている」

 

 魔女は苦しそうに言った。

 

「あなたの命を奪えば」

 

「古の王族を蘇らせることができる」

 

「そして」

 

 魔女は。

 

 ぎゅっと目を閉じた。

 

「魔王を封じる力を取り戻せる」

 

 沈黙。

 

 王子は。

 

 しばらく魔女を見つめていた。

 

 先ほどまでの軽さは、もうなかった。

 

 やがて。

 

「……そっか」

 

 ぽつりと呟く。

 

 そして。

 

 王子は顔を上げた。

 

「じゃあ」

 

 魔女を見る。

 

「俺が魔王を倒せばいいじゃん」

 

「……え?」

 

 魔女が目を見開く。

 

「そうすれば、俺を殺す必要もないし」

 

「あなた……」

 

「世界も滅びない」

 

 王子は笑った。

 

「だったら、それでいいだろ?」

 

「そんな簡単な話では……」

 

「でも、他に方法ないんでしょ?」

 

「……」

 

「だったら、やってみるしかないじゃん」

 

 魔女は。

 

 何も言えなかった。

 

 まただ。

 

 この王子は。

 

 自分の命を差し出すしかないと思っていた道に。

 

 平然と、別の道を作ろうとしている。

 

 その時。

 

 広間の扉が。

 

 ゆっくりと開いた。

 

「――その戦い」

 

 低い声が響く。

 

 兵士たちが振り返る。

 

 黒い旅装束をまとった男が。

 

 静かに広間へ入ってくる。

 

「私も加わろう」

 

「……旅人?」

 

 理子姫が目を細めた。

 

 旅人は。

 

 王子の隣まで歩いてくる。

 

 そして。

 

 小さく笑った。

 

「魔王が復活して世界が滅んだら」

 

 旅人は、広間の奥に浮かぶ魔王の禍々しい姿を冷ややかに見つめる。

 

「美味しい魚も手に入らなくなるだろう?」

 

 王子が思わず吹き出した。

 

「やっぱり、それが理由かよ」

 

「もちろん」

 

 旅人は真顔だった。

 

「せいらが悲しむからね」

 

「お前、本当にそれだけ?」

 

「それだけだよ」

 

 王子は。

 

 楽しそうに笑う。

 

「まあ、いいけど」

 

 そして。

 

 旅人の肩を軽く叩いた。

 

「行こうぜ、傑」

 

 その瞬間。

 

 旅人の目が、わずかに細くなった。

 

「……いつまで私を旅人扱いするつもりだい?」

 

「だって今、旅人なんだろ?」

 

「君だけは知っているだろう」

 

「知ってるよ」

 

 王子が笑う。

 

「お前が別の国の王子だってことくらい」

 

 兵士たちが。

 

 一斉にざわめいた。

 

「え!?」

 

「王子!?」

 

「別の国の……!?」

 

 旅人――傑は。

 

 肩をすくめた。

 

「やれやれ」

 

「じゃあ行こうぜ。王子様」

 

「君に言われると腹が立つな」

 

「お互い様だろ」

 

 二人は。

 

 並んで歩き出した。

 

 魔女は。

 

 その背中を見つめる。

 

「……本当に」

 

 小さく。

 

 呟いた。

 

「変な人たち……」

 

 けれど。

 

 その瞳には。

 

 ほんの少しだけ。

 

 光が戻っていた。

 

 ――その頃。

 

 視聴覚室。

 

「…………」

 

 誰も喋らなかった。

 

 スクリーンには。

 

 魔王・伏黒甚爾の姿が映っている。

 

 虎杖が。

 

 ゆっくりと隣を見る。

 

 そこには。

 

「…………」

 

 伏黒が。

 

 ものすごく複雑な顔をしていた。

 

「……恵?」

 

 虎杖が声をかける。

 

「…………」

 

 伏黒は。

 

 しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「ちょっと待て」

 

「うん?」

 

 伏黒がスクリーンを指差す。

 

「なんで俺の親父が魔王なんだよ」

 

「そこ!?」

 

 釘崎が思わず叫んだ。

 

「いや、そこだろ!」

 

 伏黒が即座に返す。

 

「世界が滅びるとか、古の王族とかより先に、なんで親父なんだよ!」

 

「確かに……」

 

 順平もスクリーンを見る。

 

「伏黒のお父さん、魔王役なんだ……」

 

「しかも、めちゃくちゃ強そう」

 

 虎杖が感心したように言う。

 

「いや、感心するな」

 

「ごめん」

 

 釘崎が腕を組む。

 

「でも」

 

 じっとスクリーンを見る。

 

「確かに、よりによって伏黒甚爾なのが妙に納得できるのが腹立つわね」

 

「納得するな」

 

「だって魔王っぽいじゃない」

 

「知らねぇよ……」

 

 伏黒は額を押さえた。

 

「俺、これから親父が出てくるたびに、どういう顔して見ればいいんだよ」

 

 頭を抱える伏黒に。

 

 虎杖が、ものすごく真面目な顔で振り返った。

 

「……恵」

 

「何だよ」

 

「やっぱり親父さん応援すんの?」

 

「…………」

 

 釘崎と順平が。

 

 同時に伏黒を見る。

 

 その顔には。

 

『マジか』

 

 と書いてあった。

 

「しねーよ!!」

 

 伏黒の叫びが。

 

 視聴覚室に響き渡った。

 

「いや、だって親父さんじゃん」

 

「親父だからって魔王を応援する理由になるか!」

 

「ならないね」

 

 虎杖は素直に頷いた。

 

「じゃあ王子側?」

 

「当たり前だろ!!」

 

「よかった」

 

 虎杖が、ほっとした顔をする。

 

「俺、ちょっと心配になった」

 

「何でだよ!!」

 

 釘崎が吹き出す。

 

「いや、でも恵ならありそうじゃない?」

 

「どこにだよ!」

 

「『親父だから応援します』とか言い出したらどうしようかと思った」

 

「言うわけねぇだろ!!」

 

 順平まで笑いを堪えながら頷く。

 

「よかった……」

 

「お前まで何なんだよ!」

 

 視聴覚室に。

 

 笑い声が広がった。

 

 最後列では。

 

 悟が腹を抱えて笑っていた。

 

「恵、人気者だねぇ」

 

「五条先生は黙っててください」

 

「はいはい」

 

 悟は笑いながら。

 

 再びスクリーンを見る。

 

 そこには。

 

 魔王となった伏黒甚爾の姿が映っていた。

 

「……でも」

 

 虎杖が。

 

 今度は少し真面目な顔になる。

 

「親父さん、強そうだな」

 

「……」

 

 伏黒は嫌そうな顔をしながらも。

 

 スクリーンから目を逸らさなかった。

 

「……まあな」

 

 そして。

 

 物語は。

 

 王子と旅人。

 

 そして魔王。

 

 三人の待ち受ける戦いへと進んでいく。

 

 最後列。

 

 現在の悟が。

 

 にやにやしていた。

 

「いやー、いい配役だよね」

 

「五条先生」

 

 伏黒が振り返る。

 

「なんでそんな嬉しそうなんですか」

 

「だって伏黒のお父さん、魔王役似合ってるし」

 

「本人に言えよ」

 

「それは嫌だなぁ」

 

「なんでだよ」

 

 虎杖が笑いを堪える。

 

「でもさ」

 

 スクリーンを見る。

 

「魔女一人じゃ魔王を封印できなくて、王子を殺して古の王族を復活させなきゃいけないって……」

 

「かなりヤバい話になってきたわね」

 

 釘崎の表情が少し真剣になる。

 

「さっきまで結婚とか猫とか言ってたのに」

 

「急に世界の命運がかかってきたな」

 

 順平が呟く。

 

 伏黒も。

 

 渋々ながらスクリーンへ視線を戻した。

 

「……それで」

 

「ん?」

 

「王子は本当に魔王を倒せるのか?」

 

 虎杖が呟く。

 

 その瞬間。

 

 スクリーンの中で。

 

 王子が。

 

 白いマントを翻した。

 

 その手のひらに。

 

 青白い光が集まり始める。

 

「……」

 

 視聴覚室の全員が。

 

 画面へ釘付けになった。

 

 現在の悟だけが。

 

 にやりと笑った。

 

「ここからが、本当の『主演・五条悟』の本番だよ」

 

 スクリーンの中で、青白い術式の光が激しく爆ぜる。

 

 最強の王子と、異国の王子。

 

 そして魔王──運命をブチ破る戦いが、いよいよ幕を開ける。

 

 

●12

 

 城の地下深く。

 

 誰も近づくことのない、古い祭壇。

 

 そこには。

 

 巨大な石の棺が置かれていた。

 

 幾重にも張り巡らされた封印。

 

 古い文字。

 

 そして。

 

 その中央に刻まれた、一つの名。

 

 ──伏黒甚爾。

 

 長い年月。

 

 誰も、その封印に触れることはなかった。

 

 けれど。

 

 今。

 

 その封印に。

 

 ひびが入った。

 

 ぴし。

 

 小さな音。

 

 続いて。

 

 ぴし、ぴし、と。

 

 ひびが広がっていく。

 

 その時。

 

 城の大広間で。

 

 魔女が、ふと振り返った。

 

「……今の」

 

 床の下から。

 

 低い振動が伝わってくる。

 

 王子も眉を寄せた。

 

「……何?」

 

 旅人が周囲を見回す。

 

「これは……」

 

 大鏡の表面が。

 

 激しく揺れた。

 

『封印が、破られます』

 

「え?」

 

 魔女の顔が強張る。

 

『魔王が、目覚めます』

 

 次の瞬間。

 

 轟音。

 

 城全体が、大きく揺れた。

 

「うわっ!」

 

 兵士たちがよろめく。

 

 暖炉の火が消える。

 

 窓ガラスが震える。

 

 そして。

 

 城の地下から。

 

 凄まじい衝撃が突き上げた。

 

 どおん!!

 

「きゃあっ!」

 

 理子姫が悲鳴を上げる。

 

 王子は。

 

 すぐに魔女の前へ出た。

 

「そよか、下がって」

 

「でも……!」

 

「いいから」

 

 その声には。

 

 もう、いつもの軽さがなかった。

 

 王子が天井を見上げる。

 

「……来る」

 

 その瞬間。

 

 城の中央。

 

 石造りの床が。

 

 爆発するように砕けた。

 

 大量の瓦礫が舞い上がる。

 

 煙。

 

 土煙。

 

 そして。

 

 その向こうから。

 

 一人の男が。

 

 ゆっくりと歩いてくる。

 

 黒い髪。

 

 鋭い目。

 

 鍛え上げられた身体。

 

 その身にまとっているのは、古びた黒い衣。

 

 けれど。

 

 何より恐ろしいのは。

 

 その男が。

 

 何の武器も持たず。

 

 何の魔法も使わず。

 

 ただ歩いているだけで。

 

 周囲の空気そのものが震えていることだった。

 

 兵士の一人が。

 

 震える声で呟く。

 

「……あれが、魔王」

 

 男が顔を上げた。

 

 その目が。

 

 広間を見渡す。

 

 誰も。

 

 動けなかった。

 

『魔王・伏黒甚爾』

 

 大鏡が、静かに告げる。

 

『かつて、古の王族たちが総出でなければ、封じることすら叶わなかった世界最凶の災厄……』

 

 瓦礫の真ん中で。

 

 男が。

 

 ゴリッと音を立てて首を鳴らした。

 

「……随分と長く寝かせてくれたじゃねぇか」

 

 低い声。

 

 それだけで。

 

 兵士たちが後ずさる。

 

 理子姫も。

 

 魔女も。

 

 息を呑んだ。

 

「……伏黒甚爾」

 

 魔女が、その名を呟く。

 

 魔王の視線が。

 

 魔女へ向いた。

 

「……お前が」

 

 一歩。

 

 甚爾が歩く。

 

「古の王族の血を引く女か」

 

「……そうよ」

 

「なるほどな」

 

 甚爾は。

 

 魔女を見つめる。

 

「封印が弱くなった理由は、それか」

 

 魔女が拳を握る。

 

「私は……あなたを再び封印する」

 

「一人で?」

 

「……」

 

 甚爾の口元が。

 

 ほんの少しだけ歪んだ。

 

「無理だな」

 

 魔女の瞳が揺れる。

 

 その時。

 

 王子が一歩前へ出た。

 

「だったら、俺が倒す」

 

 甚爾の視線が。

 

 王子へ向いた。

 

「……王子か」

 

「そう」

 

「五条の血」

 

「そうだけど」

 

 王子は笑った。

 

「そよかが俺を殺す理由になる魔王だっていうなら」

 

 一歩。

 

 王子が前へ出る。

 

「俺が倒しちゃえばいいわけ」

 

 魔女が目を見開いた。

 

「……あなた」

 

「だって」

 

 王子は。

 

 いつものように笑い、魔王を指差して言う。

 

「君が俺を殺さなきゃいけない理由が、こいつなんでしょ?」

 

 魔女は。

 

 答えられなかった。

 

「だったら」

 

 王子は魔王を見る。

 

「こいつを倒せばいい」

 

 甚爾の口元が。

 

 ゆっくりと上がった。

 

「……面白ぇな」

 

「よく言われる」

 

「随分と簡単に言ってくれるじゃねぇか」

 

「簡単かどうかは」

 

 王子の手のひらに。

 

 青白い光が集まり始める。

 

「やってみれば分かるでしょ」

 

 魔王が。

 

 腰を落とした。

 

「なら」

 

「証明してみろ」

 

 次の瞬間。

 

 消えた。

 

「──!」

 

 王子の目が見開かれる。

 

 轟音。

 

 甚爾の拳が。

 

 王子の立っていた場所を粉砕した。

 

 王子は。

 

 間一髪で飛び退く。

 

「うわっ!」

 

 石床が砕ける。

 

 巨大な亀裂が走った。

 

 兵士たちが悲鳴を上げる。

 

「速い!」

 

 王子が空中で体勢を整える。

 

 しかし。

 

 甚爾は。

 

 すでに目の前にいた。

 

「──っ!」

 

 王子の手から。

 

 青白い光が弾ける。

 

 閃光。

 

 爆発。

 

 広間が光に包まれた。

 

 けれど。

 

 その中から。

 

 甚爾が飛び出した。

 

「嘘だろ!?」

 

 王子が叫ぶ。

 

 甚爾の拳が迫る。

 

 その瞬間。

 

 巨大な獣が横から飛び込んできた。

 

 どんっ!!

 

 甚爾の身体が弾き飛ばされる。

 

 獣は。

 

 熊のような姿をした巨大な着ぐるみ。

 

 けれど。

 

 その動きは。

 

 まるで本物の獣そのものだった。

 

 低く唸り。

 

 床を蹴り。

 

 魔王へ飛びかかる。

 

「……!」

 

 兵士たちが目を丸くする。

 

 その背後から。

 

 旅人がゆっくりと歩いてくる。

 

「やれやれ……」

 

 旅人が肩をすくめた。

 

「君、一人で戦うつもりかい?」

 

「傑!」

 

 王子が笑う。

 

「遅い!」

 

「君が勝手に始めたんだろう」

 

「そうだっけ?」

 

「そうだよ」

 

 旅人は呆れたように息を吐く。

 

 そして。

 

 指を軽く動かした。

 

 今度は。

 

 狼。

 

 巨大な鳥。

 

 蛇。

 

 猿。

 

 次々と動物たちが現れる。

 

 どれも。

 

 着ぐるみだ。

 

 けれど。

 

 魔王を前にしたその動きは、あまりにも生々しい。

 

 まるで。

 

 絵本の中から、本物の動物たちが飛び出してきたようだった。

 

「……何だ、あれは」

 

 兵士が呟く。

 

 旅人は。

 

 にこりと笑った。

 

「私の可愛い仲間たちだよ」

 

「仲間!?」

 

「そう」

 

 旅人は。

 

 魔王を見る。

 

「魔王が復活したら、せいらが今みたいに美味しい魚を食べられなくなるからね」

 

「理由、それ!?」

 

 王子が叫ぶ。

 

「重要だよ」

 

「世界の命運より魚!?」

 

「せいらにとっては重要だからね」

 

 旅人は大真面目だった。

 

 甚爾が。

 

 瓦礫の中から立ち上がる。

 

 その身体には。

 

 傷一つない。

 

「……二人か」

 

 王子が手を掲げる。

 

 青白い光が。

 

 その周囲に集まっていく。

 

 旅人の周囲では。

 

 獣たちが低く唸る。

 

「あぁ」

 

 王子が笑う。

 

「二人で行くよ」

 

「分かっている」

 

 旅人が答えた。

 

 二人が。

 

 同時に踏み込む。

 

 王子の光が。

 

 一直線に走る。

 

 その左右から。

 

 獣たちが飛びかかる。

 

 甚爾は。

 

 それを正面から迎え撃った。

 

 轟音。

 

 閃光。

 

 獣の咆哮。

 

 石床が砕ける。

 

 柱が揺れる。

 

 王子の光が。

 

 何度も魔王を追う。

 

 けれど。

 

 甚爾は。

 

 そのすべてを紙一重で躱していく。

 

 獣たちが左右から襲いかかれば。

 

 その巨体を蹴り飛ばす。

 

 狼を躱した直後には。

 

 王子へ向かって跳ぶ。

 

「うわっ!」

 

 王子が光の壁を作る。

 

 轟音。

 

 魔王の拳が。

 

 光の壁を叩き割った。

 

「マジか!」

 

「王子!」

 

 旅人が叫ぶ。

 

「分かってる!」

 

 王子が笑う。

 

 次の瞬間。

 

 巨大な鳥が。

 

 上空から急降下する。

 

 甚爾が顔を上げた。

 

 その一瞬。

 

 王子の青白い光が。

 

 真正面から走った。

 

 閃光。

 

 爆発。

 

 広間全体が白く染まる。

 

 けれど。

 

 煙が晴れると。

 

 そこには。

 

 まだ魔王が立っていた。

 

「……!」

 

 王子の笑顔が。

 

 初めて消える。

 

 旅人も。

 

 静かに息を呑んだ。

 

 甚爾は。

 

 肩を回した。

 

「……なるほどな」

 

 そして。

 

 笑う。

 

「これが今の五条国の力か」

 

 その目に。

 

 初めて。

 

 明確な殺意が宿った。

 

 魔女は。

 

 その光景を見つめていた。

 

「……勝てない」

 

 思わず。

 

 声が漏れる。

 

 あれほどの力を持つ王子ですら。

 

 魔王には届かない。

 

 古の王族たちが。

 

 命を懸けてようやく封じた存在。

 

 それが。

 

 今。

 

 目の前にいる。

 

 魔女の指が。

 

 震えた。

 

「……だから」

 

 魔女は。

 

 胸の前で手を握る。

 

「私は、王子を殺すしかないの……?」

 

 その呟きに。

 

 王子が振り返った。

 

「何言ってんの」

 

 笑っている。

 

 まだ。

 

 笑っている。

 

「俺、これくらいじゃ死なないよ」

 

「……」

 

「それに」

 

 王子は魔女を見る。

 

「言ったでしょ?」

 

 再び。

 

 魔王へ向き直る。

 

「そよかが俺を殺す理由になる魔王なら」

 

 青白い光が。

 

 王子の手の中で。

 

 さらに強く輝く。

 

「俺が倒すって」

 

 旅人が。

 

 隣に並ぶ。

 

「なら、私も付き合おう」

 

「傑」

 

「せいらの魚のためだ」

 

「まだ言ってるの?」

 

「大事なことだから」

 

 王子が。

 

 吹き出した。

 

「ははっ」

 

 そして。

 

 笑ったまま。

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

 二人が。

 

 魔王へ向かって駆け出す。

 

 魔王も。

 

 ゆっくりと拳を構えた。

 

 光と獣。

 

 そして。

 

 人ならざる災厄。

 

 三者が。

 

 再び激突する。

 

 ──その頃。

 

 視聴覚室。

 

「…………」

 

 全員が。

 

 スクリーンを見つめていた。

 

 虎杖が。

 

 ぽつりと呟く。

 

「……すげぇ」

 

 釘崎も。

 

 珍しく言葉を失っている。

 

 順平は目を丸くしていた。

 

「これ……本当に着ぐるみ?」

 

「いや」

 

 伏黒が真顔で答える。

 

「動きがおかしい」

 

「だよな」

 

 虎杖が頷く。

 

 そして。

 

 王子が手のひらから放った青白い光を見て。

 

 虎杖が目を細めた。

 

「……待って」

 

「何?」

 

「これ」

 

 虎杖が。

 

 最後列を見る。

 

「……もしかして、特撮とかCGじゃなくて先生が全部『リアル呪力』で撮影してんの!?」

 

 最後列の悟が。

 

 口元をにやりと歪める。

 

「さぁてね?」

 

「絶対そうでしょ!!」

 

 虎杖が叫ぶ。

 

「今の光、先生の呪力じゃん!」

 

「映画は夢を見せるものだからねぇ」

 

「いや夢っていうか現実!!」

 

 釘崎が頭を抱える。

 

「予算の使いどころと撮影規模がおかしいのよ、この映画!!」

 

 伏黒も。

 

 スクリーンを見る。

 

 そこには。

 

 王子と旅人を相手に。

 

 一人で戦う魔王の姿があった。

 

「……親父」

 

 伏黒が呟く。

 

「……本当に魔王役やってんのかよ」

 

 虎杖が。

 

 伏黒を見る。

 

「恵」

 

「何だよ」

 

「やっぱり親父さん、強いな」

 

「……」

 

 伏黒は。

 

 嫌そうな顔をしながらも。

 

 スクリーンから目を逸らさなかった。

 

「……まあな」

 

 けれど。

 

 その視線は。

 

 少しだけ心配そうだった。

 

 スクリーンの中では。

 

 王子と旅人が。

 

 再び魔王へ向かっていく。

 

 光。

 

 獣。

 

 圧倒的な力。

 

 視聴覚室の誰もが。

 

 その先に待っているものを。

 

 まだ知らない。

 

 ただ一つだけ。

 

 分かっていることがあった。

 

 ──この魔王。

 

 強すぎる。

 

 そして。

 

 王子たちの戦いは。

 

 まだ。

 

 始まったばかりだった。




ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週。

うちの禪院直哉が活躍(?)する関連作品も一旦完結
『あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。』
https://syosetu.org/novel/409273/

◆TAILESでオリジナル作品公開中
https://tales.note.com/masuda028

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
95は名駅編のあとがきを追加しました。次は100です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。