【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗った後に続く物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
note連載中の『チャッピー、またやったな。』でやったエピソードを加工してみました。
皆さんの脳内でMAPPAさん作画で再生されたらいいな。宜しくお願いします!
本編はおとぎ話のような雰囲気にしたくて改行多めです。
●13
魔王が、拳を振り抜いた。
どおん!!
巨大な衝撃が広間を走る。
「っ!」
王子が吹き飛ばされた。
床を何度も跳ね。
石柱の一本に激突する。
「王子!」
魔女が思わず声を上げた。
けれど、王子はすぐに立ち上がった。
「……いてて」
肩を回す。
「まだまだいける」
その顔には、
笑みが戻っていた。
「傑!」
「分かっている!」
旅人が手を掲げる。
狼が。
熊が。
巨大な鳥が。
一斉に魔王へ飛びかかる。
甚爾は。
そのすべてを真正面から迎え撃った。
獣の爪をかわし。
その身体を掴んで投げ飛ばす。
続けて襲いかかった狼を蹴り飛ばし。
頭上から迫った巨大な鳥を。
拳一つで弾き返す。
「うわぁ……」
兵士の一人が、恐怖に膝をガクガクと震わせながら呟いた。
「魔王……強すぎる……」
その言葉を、魔女は聞いていた。
強い。
知っていた。
古の王族たちが、
命を懸けてようやく封じた魔王。
自分一人では再び封じることができない。
それも。
知っていた。
だから。
王子を殺さなければならない。
それも、ずっと前から知っている。
なのに。
今。
目の前で戦っている王子を見ていると。
胸の奥が。
妙にざわついた。
「……」
魔女は、ぎゅっと手を握った。
なぜだろう。
どうして。
こんなにも落ち着かないのだろう。
その理由を、魔女は知っていた。
けれど。
知りたくなかった。
自分の中に。
今まで存在しなかった感情だったから。
──幼い頃から魔女は、
森の奥深くで育った。
友達はいなかった。
遊ぶ相手もいなかった。
外の世界を知らなかった。
ただ、大鏡だけが。
いつも近くにあった。
『あなたは古の王族の血を引いています』
『あなたには使命があります』
『いつか五条王家の者が現れたなら』
『その命を奪いなさい』
幼い魔女は、鏡の中の自分を見つめながら。
何度も頷いた。
「……分かった」
『それが世界を救うために必要なことです』
「うん」
『怖くありませんか?』
「……怖くない」
そう答えるしかなかった。
何度も。
何度も。
同じことを教えられた。
誰かの命を奪う。
そのために。
自分は生きる。
それが、魔女の人生だった。
だから。
覚悟はできていた。
自分が誰かを殺すことも。
その後に待っているものも。
全部。
受け入れていた。
──そのはずだった。
「……なのに」
魔女は。
今。
目の前の王子を見る。
「どうして……」
王子は、また魔王へ向かって走っている。
青白い光をまとい。
笑っている。
楽しそうに。
まるで。
世界を救うことさえ。
遊びの続きをするように。
そして。
自分を見る時だけ。
少しだけ優しい顔をする。
初めて会った時。
魔女は戸惑った。
この王子は、自分を恐れなかった。
警戒もしなかった。
自分が魔女だと知っても。
まるで普通の人間のように接してきた。
そして。
いつの間にか。
「そよか」
何のためらいもなく、
そう呼ばれるようになった。
自分の名前を。
何でもないことのように、呼んでくれる。
それだけでも。
不思議だった。
けれど。
もっと不思議だったのは。
「俺、君のこと好きだよ」
そう言われた時。
胸の奥が。
ふわりと熱くなったことだった。
「……」
魔女は。
自分の胸元へ手を当てる。
嬉しかった?
その事実を認めるのが。
怖いくらいに。
きっと、嬉しかった。
誰かに必要とされたことはあった。
使命のために。
血のために。
王族のために。
けれど。
自分自身を好きだと言われたことは。
一度もなかった。
魔女だから。
古の王族の血を引いているから。
世界を救う役目を持っているから。
そういう理由ではなく。
ただ。
自分だから。
「……変な人」
小さく呟く。
すると。
「そよか!」
王子の声が飛んできた。
魔女が顔を上げる。
「なに?」
「ここは危ないから、もう少し下がってて!」
「……あなたは」
「ん?」
「どうして、そんなに平気なの?」
王子は。
一瞬だけきょとんとした。
それから笑った。
「平気じゃないよ」
「……え?」
「普通に怖いけど」
王子は、魔王を見る。
「でもさ」
青白い光が、
再び手のひらに集まっていく。
「君と新しい生活を始められるって思えば」
一歩。
前へ出る。
「そこまで怖くない」
魔女は言葉を失った。
「だから」
王子が振り返る。
「そこで待ってて」
笑顔。
いつもの。
軽い笑顔。
「すぐ終わらせる」
「……」
魔女は、返事ができなかった。
王子が再び魔王へ駆けていく。
旅人もその隣を走る。
「悟!」
「任せろ!」
二人の攻撃が、長年の絆を感じさせる完璧なタイミングで同時に放たれる。
光と獣。
魔王が。
それを迎え撃つ。
轟音が。
再び広間を揺らした。
魔女は。
その場から動けなかった。
──勝って。
そう願いそうになった。
けれど。
まだ。
その言葉を口にすることはできなかった。
自分は。
この人を殺すために生きてきた。
その使命は。
まだ消えていない。
なのに。
この人に生きていてほしいと思ってしまう。
それが。
どういう意味なのか。
魔女には。
まだ分からなかった。
ただ。
初めて。
自分の人生に。
使命とは関係のないものが生まれている。
そのことだけは。
分かり始めていた。
──誰かを殺す覚悟は。
ずっと前からできていた。
けれど。
誰かに大切にされることへの覚悟なんて。
魔女は。
まだ一度も。
したことがなかった。
今はただ。
戦う二人を見つめている。
「勝って」と口にすれば、自分のこれまで生きてきた意味や使命を捨ててしまう気がした。
だから、まだ声には出せない。
(…………)
王子に生きていてほしいと願ってしまった自分の心だけは、
もう、どうしても誤魔化せなかった。
●14
魔王の拳が、王子の光を真正面から打ち砕いた。
どおん!!
「ぐっ……!」
王子の身体が。
大きく吹き飛ばされる。
床を転がり。
そのまま壁際まで弾き飛ばされた。
「王子!」
魔女が叫ぶ。
けれど。
王子は。
すぐには立ち上がらなかった。
「……」
魔女の胸が、大きく跳ねる。
その時。
『……今です』
大鏡の声が。
静かに響いた。
魔女の身体が。
びくっと震えた。
『王子を殺しなさい』
「……!」
魔女は。
動けなかった。
『今なら、容易いでしょう』
鏡の声は。
幼い頃から何度も聞いてきたものだった。
『あなたの使命です』
『古の王族の血を蘇らせるために』
『世界を救うために』
『五条王家の者を殺すのです』
「……」
魔女の手が静かに震える。
足が王子の方へ向こうとする。
一歩。
ほんの一歩。
前へ出かけて。
止まった。
「……嫌」
小さな声だった。
『……何を言っているのです』
「嫌よ」
今度は、はっきりと言った。
『使命を忘れたのですか』
「忘れてない」
魔女は鏡を見上げる。
「全部覚えてる」
幼い頃から、何度も教えられた。
誰かの命を奪う覚悟。
世界を救うために。
自分がその役目を果たすのだと。
「だからこそ」
魔女は、倒れている王子を見る。
「……私は、あなたの言う通りにはしない」
『なぜです』
「分からない」
魔女は胸元を握りしめる。
「でも」
王子の顔を見る。
あの人に名前を呼ばれた。
笑いかけられた。
好きだと言われた。
そんなこと。
今まで一度もなかった。
「この人を殺したくない」
『王子を殺さなければ、古の王族は蘇りません』
「それでも」
魔女は一歩、王子へ近づいた。
「嫌」
その瞬間。
「……そよか」
王子の声がした。
「!」
魔女が振り返る。
王子が。
瓦礫の中から。
ゆっくりと身体を起こしていた。
「……大丈夫なの?」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
王子は苦笑しながら立ち上がる。
「結構痛かったよ、今の」
「……」
魔女の目が潤む。
「王子……」
「何?」
「……どうして」
「ん?」
「どうして、立てるの?」
王子は自分の肩を回した。
「え? 俺、最強王子って呼ばれてて──」
「そうじゃなくて……」
魔女は唇を噛む。
「どうして、私を責めないの?」
王子はきょとんとした。
「何で?」
「私は……あなたを殺そうとしていたのよ」
「でも、殺してないじゃん」
「……」
「それに」
王子は魔女へ笑いかける。
「俺は、そよかに殺されるつもりないし」
「……王子」
「だから」
王子は再び魔王へ向き直る。
「俺が勝つ」
その瞬間。
魔王が再び踏み込んだ。
「──!」
王子が光を放つ。
けれど。
甚爾の拳が、それを正面から弾き飛ばした。
「王子!」
旅人が叫ぶ。
「分かってる!」
王子が飛び退く。
その背後から。
狼が駆け抜ける。
甚爾が狼を蹴り飛ばした。
巨大な身体が壁際へ吹き飛んでいく。
「せいら!」
旅人が叫ぶ。
「大丈夫!」
瓦礫の向こうから。
せいらの声が返ってきた。
旅人が、ほっと息を吐く。
けれど。
その直後。
天井の一部が大きく崩れた。
「危ない!」
せいらが兵士たちの方へ走る。
「逃げて!」
「姫様!」
「早く!」
落ちてくる瓦礫。
せいらは兵士達を押し倒すようにして。
その身体を庇った。
どおん!!
瓦礫がせいらのすぐ横へ落ちる。
「せいら!」
旅人が振り返る。
「大丈夫だよ!」
せいらは埃まみれになりながら。
笑った。
「みんなを守らないと!」
その姿を、
旅人は一瞬だけ見つめた。
「……まったく」
小さく笑う。
「そういうところなんだよね」
「旅人さん?」
「なんでもないよ」
旅人が指を動かす。
巨大な熊がせいらの前へ立った。
「え?」
「そこから動かないで」
「でも……」
「君が誰かを守ろうとするなら」
旅人は魔王へ視線を戻す。
「私は君を守るよ」
「……旅人さん」
せいらが小さく笑った。
「ありがとう」
そして再び。
魔王へ向かう二人。
王子の手に青白い光が集まる。
旅人の周囲では獣たちが唸り声を上げる。
「傑!」
「分かっている!」
二人が再び同時に踏み込む。
光と獣が魔王へ襲いかかる。
甚爾はそれらを迎え撃つ。
轟音。
閃光。
獣の咆哮。
広間が再び揺れる。
魔女はその光景を見つめていた。
そして。
自分の胸元へ手を当てる。
幼い頃から……自分は、
誰かの命を奪うために生きてきた。
けれど、
今。
自分の心は。
誰かの命を救いたいと願っている。
それが、自分の意思なのだと。
少しずつ。
分かり始めていた。
その時。
魔王の一撃が、王子を再び捉えた。
「──っ!」
王子の身体が。
大きく弾き飛ばされる。
「王子!」
魔女が駆け出す。
王子が床に膝をついた。
「……そよか」
「動かないで!」
「いや」
王子が苦笑する。
「まだ、動ける」
「駄目よ!」
魔女は王子の前に膝をついた。
そして。
自分の手を。
王子の胸へ当てる。
「……何してるの?」
「あなたを治す」
「治癒魔法?」
「そんなもの、使えないわ」
「じゃあ……」
「私の命を使うの」
「……え?」
魔女の手から。
淡い光が広がる。
王子の身体へ。
少しずつ流れ込んでいく。
「そよか!」
王子が慌てて魔女の手を掴む。
「やめろ!」
「嫌」
「何で!」
「だって」
魔女は。
初めて、迷いなく笑った。
「あなたに、生きていてほしいから」
王子が、言葉を失う。
魔女の命が、
少しずつ。
王子へ流れていく。
傷が、ゆっくりと癒えていく。
「……そんなことしたら」
「分かってる」
「そよかが……」
「それでもいい」
魔女は王子を見つめる。
「私の命を」
小さく。
けれど。
確かな声で。
「あなたに託す」
その瞬間。
王子の身体を。
青白い光が包んだ。
「……そよか」
「行って」
魔女が微笑む。
「あなたなら」
一瞬、言葉を探す。
「……きっと、勝てるから」
王子の目が見開かれた。
そして。
ゆっくりと立ち上がる。
「……分かった」
王子は魔女を見つめた。
「絶対に無駄にしない」
魔女は小さく頷く。
「うん」
王子が魔王へ向き直る。
その手に。
今までとは比べものにならないほどの光が集まり始める。
旅人もその異変に気づいた。
「王子……?」
「傑」
王子が笑う。
「決めようぜ」
「……ああ」
二人が再び並ぶ。
魔王がゆっくりと拳を構える。
せいらは兵士たちの前で、
熊に守られながら、
二人を見つめていた。
魔女はその後ろで、
自分の命を託した王子を見つめている。
そして。
王子が光を掲げた。
旅人の獣たちが一斉に吠える。
広間が青白い光に包まれた。
──戦いは。
いよいよ。
最後の局面へ入ろうとしていた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまた来週。
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お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、各編おまけ公開は地味に続けてます。
95は名駅編のあとがきを追加しました。次は100です。何を追加するか考え中……