【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●15
「──んっ」
ゆっくりと目を覚ますと、建人さんが顔を覗き込んでいた。保健室のベッドの上に寝かされていた事に気付く。
「良かった。目が覚めて──多少は休めましたか?」
「あ、あの……私──」
「疲れて意識を失っていたんですよ。喫茶店は夜蛾先生の傀儡操術による助力もあって、今は安定しています。そよかさんたちの細やかな給仕は魅力的でしたが、工程を丁寧にする分、そよかさんが犠牲になってしまっていましたね」
建人さんの言葉に、思うところもあり目を伏せて口を噤んでしまう。
「あぁ、いや……責めてるわけではありません。私だってこんな文化祭の運営に詳しいわけでもなかったですし──上手くいかなかったところを分析して、明日に備えましょう」
微笑む建人さんに視線を向けると猫耳執事姿であることに気付いてしまい、驚くと同時に笑いが込み上げてきてしまった。
「そんなにこの姿がおかしいですか?」
「いえ……よく似合ってるなって思って……」
笑いながら指先で涙を拭う。
「……笑いすぎです」
かぁと頬を赤らめる建人さんを見て、彼は私より一学年下の男の人だということを久しぶりに思い出した。
ふと建人さんは保健室の外を気にしたようだった。
「そよかさんは今日この後どうしたいですか?」
「私を指名してまで、わざわざ来てくれる人もいるようだから──」
ほんの少し考えて言葉を返す。
「……他者を気遣っての判断もまた、あなたの意思ですね。尊重します。ただ閉店後に明日からの経営について話し合う余力は残しておいてください」
先に帰ろうとする建人さんの背中を追いかけて、ベッドから降りようとしたが後ろ手で止められる。
「あの人もあなたが倒れたと聞いて、ひどく心配していましたから──」
「え?」
保健室のドアを開け「盗み聞きですか? 勝手にシフトを抜けて……仕方のない人ですね」私を振り返り困った様子で。
「あなたを心配して猫が一匹迷い込んでます。少し相手をしてあげてください……私は先に戻ります」
建人さんが保健室を出て行った。開いたままの保健室のドアの端にちらちらと白い毛が見える。
「──悟」
白い毛がビクリと揺れた。
「来ないの?」
「行っていいのか?」
「……私に会いに来てくれたんじゃないの?」
「……そうだけど」
「声が遠くて話しづらいわ。こっちに来てくれる?」
「……」
渋々悟が姿を見せてくれた。俯きがちにゆっくりと歩いてくる。
「俺、そよかの呪力がいつもより乱れてて疲れてるってわかってた」
ベッドの近くでしゃがみ上目遣いに小さく話し始めた。目と鼻が少し赤いのは泣いていたからかしら?
「でも──そよかは無理してまでしないって思い込んでて……ごめん」
「なんで謝るの? 私が勝手に疲れきって倒れてしまっただけなんだから」
「それでも──俺、そよかと一番長く一緒にいるのにそよかのこと全然わかってなくて……よくわかんないけど苦しいんだ。七海がそよかを抱き上げて保健室に連れくところとか、まるで見せつけられたみたいで」
「悟は私を信じてくれたんでしょ? 私にとって信じてもらえることは嬉しいことだからいいのよ」
「そよか……」
ベッドに座る私の腰に悟が抱きついてくる。
「俺、そよかのことが好きなんだ。もうどうしょうもないぐらい。そよかが俺の側からいなくなったらなんて、考えただけで不安になる。そよかも俺のこと好きだろ? なぁ、同じ気持ちでいてくれなんて言わないから。これからも俺の側にいてくれるよな?」
……悟が私を好きだと言ってくれる。本来ならとても嬉しい事のはずなのに。
悟の側にいること、それは五条家でお世話になっている私やせいらにとっては当然のこと。心の内側がひんやりと冷やされたような気持ちになっていた。
猫耳をつけた悟の頭を優しく撫でる。
「大丈夫よ。悟。私はずっとあなたの側にいる」
●16
猫耳喫茶〜クレイジーキャット〜の店内
「ようやく会えたにゃ♪ 嬉しいにゃん♪ 君と君とー♪」
狭いステージを所狭しと走り回り、ファンサに余念のないせいらにゃん。
「完成度たっか。マジぱないですな」
「ぬふふー。そうでしょうそうでしょう。前田女史からの事前情報通り、いやそれ以上のものを我々は今目撃しているのです」
ネルシャツにバンダナ、そしてメガネ。オタクの正装に身を包み我々は今天国に……否、なんとか高専の文化祭へと潜入していた。土日のみ校外者受け入れなんてけしからん。是非とも行かねばなるまい!
「始発で来ても整理番号3桁とか」
「徹夜組はルール違反で整理券配布時に最後尾に並ばせられたそうですぞ」
せいらにゃんの歌声を邪魔せず、合いの手を返しつつ私たちは今この瞬間を心から楽しんでいる。
「──にゃんにゃーん! みんなー! ありがとにゃーん!」
「はふはふ。せいらにゃんの香りに包まれた空間……たまらない」
「猫耳メイドに猫耳執事……顔面偏差値でここまで他の追随を許さない集団は見たことがないですぞ!」
「まぁまぁお客様、落ち着いて」
「「前田女史!!」」
ぬるりと気配なく隣の席に座ったのは、紛れもなく旧知の前田まる子であった。常に己の癖に忠実で、変態的なアンテナの感度は常にビンビンのど変態と自ら豪語するだけのことはある。私たちは時々彼女の性別の認識すらあやふやになる……彼女からは私たちより遥かな高みにいる、誰よりも濃い雄みを感じるのだ。
「ねぇねぇ、恵。どうかな? 似合ってる?」
猫耳とエプロンを着けてふわりとまわってみせる少女。
「に、にあ──」
「似合ってるって。早く言ってやれよ恵ぃ」
「うるせーよ! クソ親父! 今言おうとしてたんだよ!」
伏黒甚爾が子供を二人連れて喫茶にやってきていた。甚爾は息子の元気な物言いにニヤリと笑う。
「関係者チケットを無理矢理買わされたからな。お前ら好きなだけ食ってけ」
「言われなくても──」
「ふふふ」
「津美紀? どうした?」
「なんだかとっても楽しいなぁって思って」
「可愛いらしいお嬢様、こちら猫耳サービスですにゃ」
すっと"すぐる"と名札をつけた猫耳執事がドリンクを提供していく。
「わぁ! ありがとうございます。すぐるさん、良ければ一緒にお写真いいですか?」
「はい。もちろん。喜んで」
「にゃんにゃーん! ご注文のせいら特製オムライスですにゃん!」
「せいらにゃん!」
「猫耳にあってるね! おっそろーい!!」
津美紀とせいらは楽しそうにハイタッチしている。
「おーい。撮るぞ」
「甚爾さん、良ければ私が」
スッとインスタントカメラに手を伸ばす七海。
「よせよ。そんなガラじゃねぇ」
「いえ、写真に写らないこともまた思い出ですが、やはり写真に写ってこその思い出でしょう」
七海の手にインスタントカメラが移る。
「みんなでポーズ! あ、しょーこもおいでよー!」
せいらが家入を大声で呼んだ。
「私もー? はいはい、いまいくー」
息子の頭に手を置いて、軽く息を吐く甚爾。
「やれやれ、文化祭なんて──やかましいところだな。
……けどまぁ、悪くねぇか」
ここまでご覧いただきありがとうございました。