【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
「はぁ? なんや、朝から騒がしいな」
「おねがーい! おねがいだよぉ!」
文化祭二日目、朝っぱらから顔を合わせたかと思えば、せいらが縋った声で頼み事をこじつけてきた。なんでも、そよかの様子が昨日からおかしいらしい。
「そよか……そよかねぇ……」
てん──せいらと再会した時に、せいらとついでとばかりにそよかの身辺も探らせていた。せいらとそよかは、かつて五条悟が呪霊から助け出した双子ということになっとる。だが、それだけではない。妙な引っかかりが、俺の胸中に燻っていた。
「──なんでわざわざ俺に頼むん? 夏油でも七海でも、他に頼みやすい相手はおるやろ?」
「え? なおちゃんは人より洞察力が鋭いし、人の内面を引き出すような話術が堪能だからだよ!」
「ま"──」
当たり前、とでも言うようにせいらはにこやかに微笑む。くそ、口車に乗せられた気分や。だが、悪い気はせぇへん。この、無邪気で真っ直ぐなとこが、昔から変わらんなァ……。
「まぁええわ。引き受けたる。ただし、人に頼み事するっちゅうことは、どういうことになるか分かってるんやろうなァ?」
「うん! 何かお礼するね! 何がいい?」
「……ほな、今度買い物にでも付き合えや」
「わかった! 楽しみにしてるねー!」
そう言って、せいらはぴょんぴょん跳ねながら猫耳メイドに着替えるために更衣室へ消えていった。やれやれ、面倒なことになりそうや。だが、少しばかり胸が高鳴っているのも否定できへんかった。
せいらから聞かされていた待ち合わせ場所へ向かうと、そよかがぼんやりと佇んでいた。癖のない長い黒髪と、清楚な雰囲気。まぁせいらも黙っとりゃあ似た雰囲気を纏っとるが。髪の色は違うても、双子っちゅうのは不思議なもんやな……周囲の声をかけようか迷うとる雑種共がいらん気を出さん内に合流しておくか。
「待たせたな」
「直哉さん……おはようございます」
「おう、おはようさん。ほないこか」
そよかの横に並んで腰に腕をまわして歩き出す。
「えっ? あの……」
「物欲しそうな顔で突っ立っとるから、周りの男共が期待した目で見とったで。相手がおると思わせた方が、静かに周れるやろ」
出店の前を通るたび、そよかはほんの少しだけ足を止めた。わたあめ、ヨーヨー釣り、写真部の展示──
興味はあるけれど、自分から何かを言うでもなく。ただ、周囲に馴染もうと努力しているような印象を受けた。
「──ほんま、真面目やなァ」
「え?」
「別に皮肉ちゃうで。そないな顔せんでもええ。せやけど、ずっと周りにばっか合わせとったら疲れるやろ」
そよかは、はっとしたように俺の顔を見る。反応があるというのは、やっぱり何か引っかかっとる証拠や。
「思ったことがあるんなら言えや。俺に良い顔しようなんて思わんでええぞ。お前は──五条悟の"女"なんやろ?」
「!?」
「なんや違うんか? お前は五条悟にあてがわれた女やって御三家では噂されとるんやが」
「悟は私を──友だちとして接してくれているわ」
「友だちぃ? ……ふぅん。せやけどな、そんなん友だちの顔ちゃうわ」
そよかの顎を掴んで顔を近付ける。
「お前の顔は何もかも諦めて受け入れた女の面をしとるぞ──見覚えがあるんや、その顔。禪院家の女も、同じような目をしとったわ。なにもかも諦めて、ただ耐えるだけの顔──」
ボソリとそよかの耳元で囁く。
「五条悟は高専に入るぐらい頭のいかれた奴やから、侍らす女もさぞイキのいい女を侍らすんやと思っとったが。やっぱり御三家の血ぃ引いとる、女を生かさず殺さずはお手のもん──所詮は御三家のお坊ちゃんだったっちゅーわけか!!」
勢いよく頬を叩かれた。
さっきまでの死んだような目をした女は目の前にはもうおらん。炎のような熱量の光が両目に宿っとる。ぞくりと背筋が震えた。
「やめなさい!! 悟は違うわ。
私を悪く言うのはいい。私は恋愛もろくにわからない半端者だから。でも悟は、こんな私でも好きだと言ってくれるの、そんな悟の悪口を言うことは許さない!!」
なんや、やっと火ィついたやんけ……てっきり“従順な五条の犬”かと思とったけど。
「ふーん」
「……」
俺が誰だったのかを思い出して、やってもうたという表情になりかけてはおるな。
「おもろいやん」
俺を平手打ちした手首を掴む。
「!?」
「恋愛もろくにわからない半端者。詳しく聞かせてもらおか? 禪院直哉様の頬を叩いたツケは高くつくでぇ?」
そよかの手のひらに頬擦りする「ヒィ」と小さく悲鳴を上げて可愛いいもんや。
●18
「はぁ……もう最悪」
五条さんの大きなため息と、繰り返される一人反省会。
そんなものに足止めされて、そよかさんを見失ってしまった。
「七海ぃ。俺、そよかにフラれるのかなー」
「いい加減にしてください。昨日、ずっと一緒にいるとは言ってもらえたんでしょう? さっきまでうきうきで、人の言葉には見向きもしなかったのに──」
「でもさー。どんなトーンで言ってたかとか、言ってた時の表情とかさ。七海の言う通り、両思いハッピッピの雰囲気じゃないんだよ!! なんでこんなことになってんの! 俺も好きで、そよかも好きならそれでいいじゃん! そよかは何を我慢してんの! 俺のこと好きなら好きでもっと甘えてくれればいいだろうがー!!」
「……やかましいですよ。気が散るのでどこか別の場所で発散してください」
「嫌だ!! 七海を一人にしたらそよかに会いに行くだろ!!」
肩を掴まれガクガクと揺さぶられる。
「……」
せいらさんがそよかさんの様子がいつもと違ったから、直哉さんに任せたと不穏なことを言っていた……早く見つけないとと思っているのに──。
「さっきのそよかにゃんだった?」
「やっぱり可愛いいなー」
そんな会話が耳に届いた。声のした方に視線を向け、声の主が向かってきた方に向かって走り出す。
「ちょ、七海!!」
私が走り出す勢いにつられて、五条さんも走り始めたようだ。
直哉さんの声が聞こえてくる。
「──やっぱり御三家の血ぃ引いとる、女を生かさず殺さずはお手のもん──所詮は御三家のお坊ちゃんだったっちゅーわけか!!」
乾いた音が響く。そよかさんが直哉さんの頬を叩いたようだ。
「やめなさい!! 悟は違うわ。
私を悪く言うのはいい。私は恋愛もろくにわからない半端者だから。でも悟は、こんな私でも好きだと言ってくれるの、そんな悟の悪口を言うことは許さない!!」
「……」
どうやら五条さんのことで口論になっている。隣を見ると、五条さんが目を見開いていた。普段なら軽口でも飛ばしそうな彼が、何も言えずに──ただ、呆然とそよかさんを見つめている。
「ふーん……おもろいやん」
直哉さんが、そよかさんの手首を掴む。
「恋愛もろくにわからない半端者。詳しく聞かせてもらおか? 禪院直哉様の頬を叩いたツケは高くつくでぇ?」
そよかの手のひらに頬擦りをしている!? 直哉さんはうっすらと舌を出そうとしているように見えて、慌てて五条さんが飛び込むように割って入った。
「さ、悟?」
そよかさんをぐいっと抱き寄せながら、直哉さんを睨みつける。
「五条さん、なにしれっとそよかさんに抱きついてるんですか」
「においを上書きしないと!!」
「……そんなことは後でやってください」
二人を背に直哉さんに向き直った。
「おーおー邪魔者共。俺はせいらに頼まれて、その女とわざわざ文化祭を周ってやってたんやで? そんな恐い顔で睨むんわ、お門違いやろ」
「だとしても、一方的にそよかさんを追い詰めるように見えましたので。待ったをかけさせていただきます」
「フン。まぁええわ。俺はわかったからな、お前らがわからんその女の心の内が」
直哉さんはニヤリと笑ってみせる。
「意外と俺みたいな男が、お前が好きになる男なのかもしれんぞ? ……だとしたらおもろいな?」
そよかさんの表情を確認すると、どこか怯えたような様子だった。
「あなたとのやり取りで、彼女が恋する乙女とは程遠い表情をしている事に気付いていないんですか?」
「アホか。恋する乙女の顔だけが、恋に落ちる時の表情だと思ったら大間違いや。ぐずぐすにどうにもならへん気持ちを抱えて堕ちる時の女の顔は、今のその女と大差変わらん顔しとるもんやぞ」
「そよかだって、恋する乙女の顔する!! 俺見たから!! 沖縄の夜に!! しっかりとこの目で!!」
サングラスを外して五条さんがはっきりとした口調で言う。まったくこの人は……しかし、その台詞はそよかさんが顔を赤らめさせ、直哉さんを黙らせる決定打となったのだった。
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