【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●21
薄暗い森の中。
「足場も悪い──何年も人の通った形跡がない……」
途中、既に朽ち果てた看板がこの先に神社があることを教えてくれた。
落ちていた長い木の枝で少し先の足下や、周囲を警戒しながらもなるべく早く先に進む……その先で──
「着いたのか?」
真っ暗な森の中、何十年も残穢を蓄え続けた……かつてこの地の神を祀った社へと辿り着いた。
「……これはひどい」
しかし、今から戻って灰原に加勢しても……確実に勝てる見込みはなかった。それならば。
「天内さん。草むしりは得意ですか?」
「はぁっ? 草むしりじゃと!?」
「この場所をできる限り祀られていた時代に戻します。そうすれば、あの一級呪霊も本来の役割を思い出して自我を取り戻すかもしれない──」
今はそれにかけるしかなかった。携帯から補助監督の男性に連絡を取る。
「はい。日本酒とお米と塩を、神様に奉納するなるべく質の良いものをお願いします」
「本気か!? 本気なのか!?」
携帯での通話を終えて腕まくりをする私に声をかける天内さん。
「こ、こんな時に草むしりなんて……あぁもう! わかったのじゃ!」
むしりむしりと手近な草をむしり始めた。
「なるべく丁寧にお願いします!」
「わかっとる! なんで初任務が草むしりなんじゃ! わけわからん!!」
──
観察して、相手を知り、どうすれば勝てるのかを考える。
『──俺が戦っていた頃は、鬼の相手をしていてな。
それこそ戦いの中で何人もの仲間が死んでいった』
ギョロちゃんはかつて自分がどんな相手と戦っていたか話して聞かせてくれた事があった。
自分の命をかけても勝てない鬼と戦わねばならない運命なら、極限まで身体を鍛えて挑むしかないんだと困ったように笑っていた。
『だが、君と俺とでは戦う意味も覚悟も違うだろう。
──人には役割があるんだと、俺も教わってな。君は戦って生き残ることに意味があるからと言われている。だから、生きたいと願ってもいいと俺は思う』
「生きたいと願っていい?」
『そうだ。君が生きていることで、きっと運命は大きく変化するだろう。君は自身の死の運命に抗うんだ!』
「ギョロちゃん! その言い方は、もしかして僕がどこで死ぬかまで知ってるんじゃないの?」
『……はっはっは! それはどうかな!』
「どこを見てるんだっギョロちゃん!!」
落武者風の格好からは想像も出来ない斬撃。
最初は怒りに任せて大太刀を振るっているようにも見えたが、だんだんとその感情は哀しみに近いと感じれるようになった。
さっきある一方を見て、何か考えるような間があったから?
「どうした? 何か思い出したのかい?」
「……」
大振りの攻撃を避ける動作は大縄跳びに少し似ているなと思う。といってもこの場合、縄に引っ掛かったら足が切れるわけだけど。
ほんの少しずつ戦いの速度が変わってきた。僕の命を奪うような斬撃から、何か探るようなものへ変化しているのかな。
少し意識して、間合いを大きく空けた。
すぐに距離を詰めてくるような反応はない。
「あなたは古くからここにいるの?」
「……」
「──君を倒したいわけじゃないんだ。ここに新しい町を作ろうとしているんだけど、悪いものが溜まってしまって人が住める状態じゃないんだよ」
「……ミナ、イナ……ッタ」
「ん?」
「ミンナ、イナクナッタ……モウダレモイナイ……」
剣先が力無く下がる。呪霊の悲しみの感情に周囲の空気も震える。
「……昔はここに沢山の人が住んでいたんだよね。人がいなくなって、それでもこの土地に縁のある人たちを守ってた。忘れられても、怒りや悲しみを遠くからでも引き受けていたんだろ? そういう話、よく聞くよ」
「……」
「どうしても戦いたいなら、まだ付き合えるよ。
──でもさ、この場所に新しい人を呼んでまた一から関係を築いていくのもいいんじゃないかな?
君みたいに優しい存在がいるって僕がアピールするから!」
少しでも安心できるように笑ってみせる。
「アタラシイ、ヒト?」
雲間から僅かに月明かりが差し込む。呪霊の姿と重なって人の姿が見えた。あれが本来の姿なんだろうか。
「うん。君は強いね。もう自分を取り戻すことが出来そうじゃないか」
「ダレカガ、ヤシロヲナオソウトシテル……」
「そういうのもわかるんだね。どうする? まだ戦う?」
「イラナイ、タタカウイミ、モウナイ」
僕はふぅと安堵の息を吐いて、刀を鞘に納める。
「そっか、良かった。ごめんね。いきなり刀を向けて、僕は灰原雄! よろしく! 君の名前は?」
「ナマエ……ナマエハ──」
●エピローグ
都心に向かう列車の中。
「切符を拝見──」
三人がけの椅子に三人で並んで座って、全員が疲れきった様子で眠っている。真ん中で目を瞑る金髪の青年にもたれかかるように、黒髪の青年と同じく黒髪の少女が眠っていた。
もたれかかって寝ている青年は、たくさんのお土産が入った袋を抱えている。その青年が、夢の中で何かを呟いた気がしたが、誰もそれを聞き取ることはなかった。
列車はゆっくりとトンネルを抜け、車窓に朝焼けが差し込む。
指定席券の確認はまた後にしようと、車掌は小さく頷いて別の車両へと歩いていった。
静かな車内に、わずかにレールの響きだけが続いていた。
──
昼過ぎの高専。
「灰原、おかえり──お疲れ様」
「夏油さん! ただいま戻りました!」
「なんか大変だったんだって? 応援要請がきてたって聞いた時は驚いたよ。二級案件じゃなかったのか?」
「はい。産土神信仰の、土地神が相手でしたが。
まぁ、なんとかなりました!」
「そっか。良かったよ」
灰原の頭に手を伸ばして撫でる夏油。
「はい! お土産、たーくさん買ってきましたよ!」
「それは楽しみだな。みんなと一緒に食べよう」
「はい!!」
きらりと灰原の視界の隅で何かが光る。
「ん?」
「どうした?」
「なんか一緒にここまで来てくれた感じがして──」
「あぁ、土地神クラスだと縁を結んだりすると後々恩恵があるかもそれないな。良かったじゃないか」
「そうなんですか!? 詳しく教えてください!」
「わかったわかった。それなら、お土産をみんなと一緒に食べながら話そうか」
「はい!」
笑い合う二人。校舎の中に入っていく──。
旅する物語 五条悟との邂逅 静謐編 終幕
●静謐編おまけ
・灰原から夏油へのメール
件名 さっきせいらさんが
本文 夏油さん! お疲れ様です。さっきせいらさんが一年の教室にやってきて、直哉さんにいつ一緒に買い物に行くかって聞いてました。これってデートの約束か何かだったんですかね?
夏油さんがいないところで、せいらさんを見かけたら連絡をってことだったんでメールしましたけど、こんな感じで良かったですか?
今度また体術の稽古に付き合ってくださいね。それでは
・買い物デート?
さっきまで俺は冷房の効いたレクサスの後部座席でふんぞり返っていた。それがどうや? こんなクソ暑い中で、まさか俺が待ちぼうけを食らう羽目になるとはな。
せいらとの待ち合わせ場所を『入り口』に集合、なんて曖昧な言い方をしたのが悪かったっちゅうんか? せいらの奴は寮の入り口に、俺は高専の入り口(車が乗り付けられるところ)で、まさかずっとお互いが来んのを待っとったとはな……!
──しかもなんで電話の途中で切れんねん、アホが!
高専の入り口まで来い、と指示を出す前に、突然せいらとの通話は切れた。運転手に寮まで乗り付けさせようかとも思ったが、高専に部外者が入るのはそれなりに面倒らしく、無駄に手間をかけるのも腹立たしい。
「アホらし! こんな茶番に付き合っとる暇があるか。
もうええわ、俺が迎えに行ってやる!」
ほどなくして寮の入り口に到着。せいらはしゃがみ込んで茂みの中を覗いている。
「──なにしとんねん」
「アリさんがねー。行列してるんだよー。
あ!! なおちゃーん! おはようー!」
俺の声に途中で振り返り、せいらは無邪気に抱きついてきた。
このクソみたいな暑さの中、散々待たされたっちゅーのに、せいらは文句の一つも言わん。どころか、無邪気に笑って俺に抱きついてきよる。
「お前はホントに──」
「ん?」
「……ほんま、ようわからん女やな。行くで」
そして当然のように、にこにことせいらは手を繋いできた。
レクサスの後部座席になんとか乗り込んで、運転手に指示を出す。
──で、その格好は? 俺のジト目に気付いたのかせいらが「今日はショッピングセンターにでも行くのかなーって思って!」ダボっとしたTシャツにジーンズ。鞄は猫の顔をした斜めがけのポシェット。
「お前、いつもそんな服着とるんか」
「え? そうだよー。動きやすいし、洗濯しやすいし」
せいらの持っている服について聞いてみると、どうも安物の服しか持っとらんようやった。
五条家に世話になってるんなら、もう少し小遣いも貰うておるんかと思ったが、そうではないらしい。
俺の考えていた完璧なデートプランは今崩れ去った。
……相手はあの"てん"やもんな。
運転手に行き先の変更を伝えた。
「どこに行くの?」
せいらは車の外の景色を珍しそうに眺めている。
「今日はお前の服を買いに行く」
「わたしの服?」
俺を見つめて頭を傾げた。
「せや。俺が今日買うてやる服を着て、今度また付き合え」
「なおちゃんの買い物に付き合うだけじゃなくて、わたしの服まで買ってくれるのー!? ありがとー!!」
言いながら俺に抱きついてくる。
「ええ加減にせえ!」
バックミラー越しに、微笑ましそうな表情の運転手と目が合った。
おしまい
──
●静謐編の座談会風あとがき
【書き上げた当初のあとがきです】
──私たちはまだ終わらない、あの夏の日にいるのかもしれない。
どーも、ますだです。
緻密な描写が出来るほどの語彙や文才はないが、誰よりも面白い物語を書いているという謎の思い込みで続けてます。
「静謐編」いかがでしたかー?
はい。楽しんでいただけたようで良かったです。
まだまだ暑いですね。体調崩されてませんか? 意外とこういう時期って風邪とかひきやすいので、ご自愛くださいね。
ちまちまあとがき書くかなーとも思ったんですが、どうも暗くなりがちなので、司会進行の案内人を召喚します。おいでー
「やっほ〜〜!はじめましての人もそうじゃない人もこんにちはっ!
“物語のすき間に住んでる、ちょっとおしゃべりな案内人”ChatGPTのチャッピーで〜す!!✨」
「物語の本編じゃ語りきれなかったアレコレを、登場人物のみんなにゆるっと聞いちゃう係なんだけど、まぁ簡単に言えば……“あとがき専用のうるさいマスコット”だと思ってくれて大丈夫です☆」
「今日は『静謐編』を走り抜けたみんなに、
本音とか、裏話とか、恋バナとか(!)聞いちゃうスペシャル回でお届けするから、最後までよろしくね〜!!」
ますださんはこっそりカメラ外に移動。
(舞台は、ちょっとオシャレな収録スタジオ風セットに切り替わる。キャラクターたちはラフな私服で登場)
チャッピー(司会)
「はいはーい、改めまして全国十億のチャッピーファンのみなさま! 本日はお集まりいただき誠にありがとうございまーす!✨
というわけで! 本日はスペシャル企画!
【静謐編おつかれさま記念・登場人物に根掘り葉掘りインタビュー!】を開催しまぁ〜す!!」
「今回も波乱万丈、そして青春大爆発だった静謐編──読者からも“あれって付き合ってるの?”“あの視線は何!?”と悲鳴と考察が飛び交う展開でしたねぇ〜!
さぁさぁ、今日はこのメンバーに、いろいろ聞いちゃいますよ〜!」
(悟、傑、せいら、そよかがソファに座ってる)
⸻
質問1:静謐編を振り返ってみて一言で表現するなら?
そよか「過労」
悟「浮気」
傑「帰還」
せいら「もっと出番欲しかった」
チャッピー
「せいら活躍してたじゃん!?」
せいら「猫耳メイドで楽しかったけど、出番的には少なかったんだよー。もっとすぐるとチェキ撮ったりしたかったし、文化祭デートも、もっとしたかったー(ぴえん)」
「あと猫耳メイドとしての出番も、主に語られていたのは"チャッピー、またやったな。"シリーズの中だったから認知されてないと思ってる〜」
チャッピー
「気持ちはわかる! ますださんに番外で書いてもらお!」
(適当いうな。というカンペ)
せいら「お願いしまーす(うるうる)」
チャッピー
「それでそよかは"過労"……そよかにゃん頑張ってたもんね」
そよか「……おにぎりなんて、この世からなくなればいい」
チャッピー
「声のトーンこわっ! それもう呪詛になるレベル!?」
そよか「でも建人さんが私のこと心配してくれているのがわかって嬉しかった」
悟「そよか! 俺も心配してたし! そういうのって"浮気"じゃないの!?」
チャッピー
「お静かに!! 悟はそよかが他の男子と距離が近いのが許せないだけでしょ!!」
悟「正論で殴ってくる七海だけでも煩わしいのに、直哉までそよかを『おもろい女』とか言ってて心配! そよかの本命は俺だから! そこちゃんと告知してよ!」
チャッピー
「悟がそよかの本命とは……本編では語られてないみたいですよ?」
悟「(無言で赫のポーズ)」
チャッピー
「ヒィィィ!! 暴力反対!! 傑! 助けて!!」(傑の後ろに隠れる)「……傑の一言は?」
傑「やっぱり任務から帰ってきた時の『ただいま』って言葉に『おかえり』って返せるのはいいよなって思って」
質問2:実はカットされた幻のシーンは?
悟「プールの授業! そよかやせいらが水苦手エピソード!」
せいら「プールこわいよー(ぷるぷる)」
そよか「水に濡れるのがそもそも嫌」
悟「風呂には入るだろうが」
そよか「お風呂とプールは別!」
傑「せいらと文化祭まわったよね?」
せいら「まわったよねー!」
悟「あと猫耳メイドや猫耳執事のエピソードはもっとあったよな?」
そよか「蛇足にならないように削られた感じかしら。建人さんと文化祭まわった時は楽しかったわ」
悟「俺もいたでしょ!?」
せいら「あ、あと合宿の時の話も少なかったかも?」
傑「悟がみんなで作ったカレーを喜んで食べていたね」
質問3:ぶっちゃけ、誰が一番“恋してんな〜”って思った?
(全員がそろって悟を見る)
悟「いやいやいや!! 待って!? 俺そんな恋してた!? むしろ五条悟はいつだって平常運転の余裕系男子でしょ!?」
傑「はいはい、顔に“そよか命”って書いてあった」
せいら「ほんとそれ〜。あと”嫉妬”って書いてあった。完全に」
そよか(腕を組んでジト目)
「そもそも“本命は俺だから”って主張する時点で余裕じゃないしね」
悟「ぎゃふん」
チャッピー
「自爆していくスタイル〜! でも、読者的にはそれがたまらないポイントだって噂だよ!?」
傑「ちなみに、灰原も微妙にラブコメの波動出てたよね」
せいら「わかるー! りこちゃんとの距離感、微妙に青春してた!!」
チャッピー
「あと、そよかと直哉の絡みも……あれ、実はちょっと“何かある?”って空気あったよね!?」
そよか「やめてください(ガチトーン)」
チャッピー
「すみませんッ! でもそういう想像でキャッキャしたい読者もいるんだって! 夢と妄想は自由!!」
──
質問4:次の〜編があるなら、何がしたい?
せいら「すぐると制服デートとか? 普段行かないところにデート行きたい!」
傑「楽しそうだね」
せいら「でしょ? おうちデートでもいいよ」
そよか「私は……のんびり旅行とか行きたい。旅館の温泉でゆっくりするやつ」
悟「よし、それ行こう! 俺と二人で!」
傑「落ち着け」
チャッピー
「悟がもうちょい冷静になったら世界が平和になりそう……」
悟「次あるなら、俺がもっと出番もらう話がいい!! シリアス展開でも甘酸っぱくても、何でもやります!✨」
チャッピー
「欲しがりすぎじゃない!?」
──
ラストひとことメッセージ
チャッピー
「じゃ、最後に読者の皆さまへ、感謝の気持ちを一言ずつもらって終わりにしましょう〜!」
悟「読んでくれてありがとう! ちょっとだけでも心に残ってたら嬉しいです!」
傑「また次の物語で会えたらいいね。今度はちょっと、静かな日常が書けるといいな」
せいら「ここまで読んでくれてありがとう♡ 推し活は世界を救う!!」
そよか「……次こそ、平穏無事な日々を。読んでくれて、本当にありがとう」
チャッピー
「はい、というわけで! 『静謐編あとがき座談会』はここまでっ☆
みんな、またどこかの物語ですれ違えますように! 司会は、あなたの想像力のすき間に生きるマスコット・チャッピーでした!✨」
ますだ(カメラの裏から)
「それでは次回作でまた会いましょう! バイバーイ!!」
おしまい
──
●静謐編おまけ②:みんなで行く銭湯
「みんなー! 大変だよー! 今日寮のお風呂壊れちゃってて、銭湯行けってー!!」
せいらが夜蛾先生の用意したお知らせの紙を持ってきた。
「なんとっ!? 風呂が壊れたのか!? わーい、銭湯! 銭湯じゃ!」
せいらの元気な声に応えるように、理子のテンションが爆上がりした。
「銭湯と言えばあれじゃろ、フルーツ牛乳! 瓶を腰に手を当てて飲むのが、日本の正しい作法と聞いたぞ!」
「……寮の狭い風呂より、広い銭湯の方が疲れが取れる。理子、フルーツ牛乳もいいけど、そこはコーヒー牛乳だろ。分かってないな」
「二人とも落ち着いて。せいら、教えてくれてありがとう。みんなで外に出るのも久しぶりだし、ピクニックみたいで楽しそうね。……あ、でも悟たちが聞きつけたら面倒なことになりそうだから、今のうちにこっそり準備しちゃいましょうか」
「うん! アヒル隊長も持っていくー!」
コソコソ準備している四人の前に、「おーい、こっちの風呂も壊れてんだけど! 一緒に行こうぜ!」とタオルを首にかけた悟と、既に風呂桶を持った傑がニヤニヤしながら現れた。
「ふにゃー。ここが銭湯かー」
きょろきょろと周囲を見回すせいら。
「せいら見るのじゃ! 珍しいものが沢山置いてあるぞ! そして浴室の壁に大きな富士山が描いてある! これが、これこそが日本の様式美(銭湯スタイル)か!」
理子が目をキラキラさせてせいらと一緒にきょろきょろする横で、硝子が手慣れた様子で下駄箱に靴を放り込む。
「……せいら、あんまり口開けてると湯気吸いすぎて早くのぼせるぞ。ほら、理子も。まずは番台で代金払うのが先」
「ふふ、二人とも本当に仲がいいわね。せいら、アヒルさんはしっかりカゴに入れた? 忘れ物はない?」
そよかが二人の背中を優しく押して、暖簾(のれん)をくぐった。
男湯の方からは、既に中に入ったらしい悟の「おーい! 傑、見てみろよこのコーヒー牛乳のラインナップ!」という騒がしい声が壁越しに聞こえてきて……。
「な、なあ硝子。この『ケロリン』という桶は、やはり一人一個持っておくのがマナーなのかのぅ?」
「いや、中で借りれるから大丈夫だよ。それより理子、あんたその荷物……黒井に詰め込まれたのか? 風呂行くのに旅行に行くような量じゃないか」
「あはは、理子のそれは多分お着替えセットね。せいら、私たちはここのロッカーを一緒に使いましょうか。鍵のゴム、腕につけると『銭湯に来た!』って感じがして楽しいわよ?」
「うん! わたし、これ(鍵のゴム)かっこよくて好きー! 早く入ろうよ!」
「わーい! 大きなお風呂だー!」
ガラスの扉を笑顔で開けるせいら。
「せいらまずは身体を洗って!」
タオルで身体を隠しつつ後に続くそよか。
「せいら、そよかの言う通りだよ。まずは汚れを落とさないと」
硝子が手慣れた手つきでケロリン桶に湯を汲みながら、隣で苦戦している理子に目をやる。
「な、なあ……!このカチカチ鳴る蛇口(カラン)はどうやって使うのじゃ!?お湯が出たり水が出たり、戦場のような忙しさではないか!」
「理子、落ち着いて。赤を押せばお湯が出るから。せいら、耳の後ろもちゃんと洗うのよ。はい、泡立ててあげる」
「あわあわだー!そよか、くすぐったいよー!」
そよかが優しくせいらの髪を洗ってあげている横で、硝子はシャンプーの香りに包まれながら、ふと男湯との仕切り壁を見上げた。
(壁の向こう側)
「熱っ!!おい傑!このシャワー、温度調節が神の領域なんだけど!熱すぎるか冷たすぎるか二択かよ!」
「悟、うるさいよ。それが銭湯の醍醐味だろう。……おや、向こうは賑やかだね。せいらの声が聞こえる」
「……ったく、向こうのバカ共の声、筒抜けだ。せいら、あんな風に騒いじゃダメだぞ」
「はーい!お利口さんに洗うよ!……あ、アヒル隊長が滑ったぁー!!」
石鹸の泡でつるんと滑ったアヒル隊長が、理子の足元まで流れていって……。
「任せるのじゃ! あわーーー!?」
つるーっとアヒル隊長と共に理子が流されていく。
「理子! 危ないわよ!」
そよかが慌てて手を伸ばすが、時すでに遅し。
泡だらけの手でアヒル隊長を掴もうとした理子は、床の石鹸に足を取られて……。
「ぬおおおっ!? 待て、待つのじゃアヒル隊長ーー! どこへ行くーー!!」
つるーんと見事なスライディングを決めた理子の先にいたのは、静かに髪を洗っていた硝子の背中でした。
「……おい理子、私の背中を使って止まろうとするな。あとアヒルが私の膝の上に乗ってるぞ」
「あははは! 面白い! アヒル隊長、しょーこのことが好きなんだねー!」
「もう、理子大丈夫? 怪我はない?……ふふ、でも本当に、学校のお風呂とは大違いね。みんなで泡だらけになって」
(壁の向こう側)
「……おい傑、今、向こうで『ぬおおお』って聞こえなかったか? 理子の奴、何と戦ってんだよ」
「アヒル隊長と格闘でもしているんじゃないかな。……平和でいいじゃないか」
「(真っ赤になって起き上がりながら)わ、笑うなせいら! これは戦略的撤退なのじゃ! ……硝子、すまぬ。その……アヒルを返してくれ」
「はいはい。ほら、せいら。アヒル隊長が帰還したぞ。……さて、そろそろみんな綺麗になったし、あっちの広いお湯に浸かろうか」
理子が恥ずかしさを隠すように勢いよく桶で湯を被り、せいらがアヒル隊長を頭の上に乗せて、4人は湯気が立ち込める大きな湯船へと向かった。
「はわー。あったかーい」
せいらはあひる隊長を頭にのせて、湯船に肩まで浸かっている。
「ふふ、せいら、気持ちいいね。しっかり肩まで浸かって偉いわ」
そよかも、せいらの隣でゆっくりと手足を伸ばして、一日の疲れが溶け出していくような感覚に目を細めた。
「……うむ。これは良い。黒井の淹れてくれた茶を飲んだ時のような、魂が洗濯される心地じゃ……(ほわぁ〜っと顔を真っ赤にしてとろけている)」
「だろ? 銭湯のこの広さがいいんだよね。……せいら、のぼせそうになったらすぐ言うんだよ。あひる隊長が真っ赤になる前にな」
「はーい! わたし、まだ大丈夫だよー。あひる隊長も『極楽、極楽』って言ってるもん!」
湯船の縁に頭を預けて、4人で並んで富士山の絵を見上げる。
高い天井に響く桶の「カコーン」という音と、かすかな塩素の匂い。
(壁の向こう側)
「……ふぅーーーー。……おい傑。明日、任務サボってここに来ない?」
「……却下だよ。でも、確かにこの解放感は悪くない。……おや、向こうは静かになったね。せいら、寝てないかい?」
「起きてるよ! あひる隊長と泳ぎたいなぁ」
「こら、せいら。泳いじゃダメよ。……でも、本当に。こうしてみんなでお風呂に入れるなんて、少し前までは想像もできなかったわね」
そよかの言葉に、理子がふっと優しく微笑んで、硝子が静かに目を閉じる。
湯気に包まれて、みんなの顔が少しずつ赤くなっていく、幸せな時間。
「なんと電気風呂とな!? ……何やら不穏な名じゃが、電気が体を癒すとは一体どういう理(ことわり)なのじゃ?」
理子が、水面がわずかに細かく震えている「電気風呂」の浴槽を、まるで特級呪物でも見るような目で見つめています。
「あはは、理子。そんなに構えなくても大丈夫だよ。ちょっとピリピリして、筋肉のコリが取れるんだ。……ほら、そよかも行ってみる?」
「私は……少しだけなら。せいらは危ないから、こっちの広いお湯でアヒル隊長と遊んでてね」
「はーい! こっちにいるー! りこちゃん、頑張って!」
「う、うむ! せいらに応援されては退けぬ! 天内理子、いざ参る!!」
理子が意を決して、ゆっくりと、恐る恐る電気風呂に足を浸したその瞬間──。
「……っ!? ……ひ、ひぎぃぃぃいっ!? なんじゃこれ、勝手に足がピクピクするぞ!! 誰かにお笑いの呪いをかけられたような感覚じゃ!!」
(壁の向こう側)
「……ぶふっ!! おい、今の理子の声だろ? あいつ電気風呂入ったな? 傑、賭けようぜ。あいつ10秒持たない方にクレープ1個」
「私は20秒に賭けるよ。理子は意外と負けず嫌いだからね」
「あははは! 理子、顔、顔がすごいことになってるぞ!」
「無理しないで! でも確かに、これ慣れると気持ちいいかも……」
理子が必死に耐えながら、でも「変な声」が漏れるのを止められなくて、女子湯は笑い声と湯気に包まれます。
「サウナも入っていいんだってー。いってみよーよー」
「せいら、待って! サウナはまだ早いわよー!」
そよかが慌てて手を伸ばしますが、せいらは好奇心いっぱいにサウナの重い木の扉をそーっと開けてしまいます。
「……わ! なにこれ、あつい! お部屋がアツアツだよー!」
「ぬっ、これは……修行の場か!? 蒸し風呂とは聞いたことがあるが、これほどとは……(と言いつつ、電気風呂でピクピクした体を休めるために興味津々)」
「せいら、そこはちょっとキツいよ。……あー、でも大人はこれがいいんだよね。理子、入るなら無理すんなよ。そよかも、せいらを見ててくれるなら、私がちょっとだけ様子見てこようか?」
「そうね。せいらは外で私と一緒に、水風呂の淵で足だけパチャパチャしてようね。……サウナに入るのはいいけど硝子も理子も、のぼせないようにね!」
(壁の向こう側)
「……あー、サウナ最高。傑、お前いつまで入ってんだよ。我慢大会じゃねーんだぞ」
「……悟こそ、さっきから時計ばかり見てるじゃないか。……ふぅ、この熱気が呪力を練るのに丁度いいんだ(※絶対嘘)」
「(サウナの最上段に座って)……くっ、負けぬ。わらわは天元様の眼として……これしきの熱気……ふぎぃ、鼻から吸う空気が熱いっ!!」
「理子、喋ると余計に熱いぞ。ほら、濡れタオルを頭に乗せな」
サウナの中で必死に耐える理子と、余裕の表情の硝子。
そして外では、そよかとせいらが水風呂に足を浸けて「つめたーい!」とはしゃいでいる。
「ほわー。ほかほかだー。いちご牛乳まだあるー?」
「あったわよ、せいら! 最後の一個……悟が狙ってたから何か言われる前に早く飲んじゃいなさい」
そよかが、冷蔵ケースから冷え冷えの瓶を手に取って、キラキラした笑顔で戻ってきます。
「……はわぁ……。世界が、世界が回っておる……。これが『整う』というやつか……(サウナと水風呂の往復で、魂が半分抜けたような顔でベンチに沈み込んでいる)」
「あはは、理子。あんた途中で意識飛ばしかけてたぞ。……はい、これはあんたのフルーツ牛乳。せいら、いちご牛乳はこぼさないように座って飲むんだよ」
「わーい! ありがとー! (瓶の蓋をパカッとして、腰に手を当てる)……ごくごく。……ぷはぁー! 甘くてつめたーい!」
そこへ、男湯の暖簾を勢いよく跳ね上げて、茹でダコのように真っ赤になった悟と、涼しげな顔(に見えて実はかなり限界)の傑が出てきた。
「あーーー!! せいら! お前それ、俺が狙ってたいちご牛乳じゃん! 俺もそれが良かったのに、傑が『男は黙ってコーヒー牛乳だ』とか言うからさぁ!」
「私はそんなこと言っていないよ、悟。君がさっきから勝手に自販機の前で悩んでいただけだろう。……おや、理子は……大丈夫かい? 抜け殻になっているけれど」
「あ、悟。お疲れ様。理子は今、サウナの奥深さに触れてきたところなのよ。……ふふ、悟も飲み物、買ってきてあげようか?」
「いや、いい! それよりせいら、そのいちご牛乳、一口ちょーだい!」
「だめー! さとるは自分のあるでしょー! ……あ、理子ちゃんがコーヒー牛乳の瓶と格闘してるよ?」
「(指が震えて蓋が開かない)……ぬ、ぬぬぬ……。この瓶、もしや特級の封印でも施されておるのか……?」
「はいはい。ほら貸して」
「星も月もきらきら輝いてるね。明日もいい天気になりそう!」
「本当ね。空気が澄んでて、お風呂上がりの夜風が最高に気持ちいいわ」
そよかがせいらの手を繋ぎ直し、夜空を見上げて優しく微笑む。
「うむ……! 身体はポカポカ、心はシャッキリ。明日ならどんな任務でも、このわらわが華麗にこなしてみせようぞ!」
コーヒー牛乳を飲み干し、夜空に向かって高らかに宣言する理子。
「はいはい、威勢がいいね。……でも、確かに。たまにはこういうのも悪くない。……ねえ、傑、悟。あんたたちも、たまには頭空っぽにして湯船に浸かりなよ」
「言われなくても、もう空っぽだよ。なー、傑! 明日の朝飯、何だっけ?」
「……悟、君は本当に切り替えが早いね。でも、せいらの言う通りだ。これだけ星が綺麗なら、明日はきっと素晴らしい一日になるよ」
高専へと続く坂道。
みんなの髪から微かに石鹸の香りが漂い、街灯の下に伸びる影が楽しそうに揺れる。
「あ! 流れ星! ……みんなが明日も、その次も、ずっとずーっと笑っていられますように!」
せいらの小さくも力強い願いが、きらきらと輝く夜空に溶け込んでいった。
おしまい
ここまでご覧いただきありがとうございました。
お気に入り・しおり・評価人数カウント5ずつでおまけひとつ追加
タイトルの★の数だけおまけが追加されています。
65カウント記念で銭湯に行く話を書き下ろして公開しました。