【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
23余燼編 1・2:懐かしい未来の足音と裏側の調伏、繋いだ手の熱量と魔法に満ちた王国
●プロローグ
人間の姿でいることに、まだ違和感があった頃。
その日は朝から雨が降っていた。
しとしと、しとしと……白猫の姿をしたお師匠様が『これは涙雨よ』と教えてくれる。
「なみだあめ?」
なみだって悲しい時に目から出るものが、なんで空から降ってくるの?
『──そうね。素直に涙を流せない人の代わりに、降る雨なのかもしれないわ』
そう聞いて、わたしはなるほど! と思ったの。
そしてきっとこれは、すぐるの涙なのだわって! そう思ったら、いてもたってもいられずにわたしは飛び出して走り出した。
生まれ変わって、わたしは一度もすぐるに会えていなかったから。わたしはお師匠様の言う通り、その時というのを待っていたの。
すぐるが泣いてるなら助けてあげないと! 今がきっとその時だわ! と、わたしは方々を走り回った。
すぐるのにおいと面影を探して、見覚えが少しでもある場所を探した。
──しとしとと、雨が降ってくる。
またすぐるが泣きたい気持ちになっているとわかったから、わたしも泣きたくなったけど歯を食いしばって我慢した。
大丈夫よすぐる。必ずわたしが見つけてあげる!
たくさんたくさん走って、わたしは見覚えのある公園にたどり着いた。大きな土管が並んだ公園。子猫の頃、すぐるがわたしをここに連れてきてくれて一緒に遊んだの。
一番大きな土管の中を覗き込むと、小さなすぐるが驚いた顔をしてこちらを見た。
「──きみは?」
すぐるー!! 土管の中に飛び込んで抱きつく。
「きみ、びしょぬれじゃないか! だいじょうぶ?」
すぐるのにおいを夢中で嗅いで、わたしは──
「──って、そんなこともあったよねー」
わたしは今朝みた夢の内容をそよかと、人の姿をしたお師匠様に話していた。
「そんなこともあったよねーじゃないでしょう? あの時は突然せいらがいなくなるから、五条家では大騒ぎだったのよ?」
「だってー。すぐるに会いたかったんだもーん! そよかはいいじゃん! いきなりさとると再会スタートなんだから」
「べ、別に私は、悟とすぐ再会したいとか思ってなかったから! ただ悟はトラブルメーカーだし? 小さな頃から接点があった方が、ちゃんと躾ができると思っただけで──」
「そんなこと言ってー。わたし知ってるよー? 小さい頃とかよく悟の脱いだ着物のにおい嗅いでたじゃん!」
「!!」
──キーンコーンカーンコーン
「ほらほら、そのぐらいにして。チャイムが鳴ったわよ」
「お師匠! 放課後も来ていい?」
「いいけど、目的はおはぎでしょ? 今日はもう三個も食べたじゃない」
「ぶー! じゃあまた明日にする!」
「食べた分、しっかり身体を動かしてね」
「はーい!」
せいらが走って部屋を出ていく。続いて、そよかがお辞儀をしてから丁寧にドアを閉めていった。
『──いやはや賑やかな子らだな』
「賑やかすぎて相手をするのも大変よ」
当たり前のように先ほどまで彼女らと囲んでいたテーブルの近くに杏寿郎が佇んでいた。
『君が教えてくれていた、いずれ訪れる灰原雄最後の任務とやらは回避できたと判断して良かっただろうか?』
「えぇ、土地神との因縁を上手く解決できたじゃない。流石は杏寿郎が導いただけのことはあるわ」
『それは良かった! 導いたといっても、俺はただ鍛えただけだがな! しかし、当初は翌年の夏の終わり頃と聞いていた気がするが──』
「この世界の強制力が働いたのよ。死の運命を辿らせなければならない彼を、殺そうとするにはもう遅かったけれどね。この世界はとても安定しているわ──ただ来年に向けて、もう一手やるべきことが残っているの」
杏寿郎に手を差し伸べると、彼は直ぐに私の手をとった。
空間を転移して、魑魅魍魎が蔓延る世界の裏側へとやってくる。
『ここは?』
「世界の裏側よ。表の世界の災厄の元になる存在を閉じ込めて争わせていたの。だいぶ数も減ったみたいだから、そろそろ仕上げをしてもいい頃合いだと思って」
『なるほど、その仕上げをするのが俺の役割ということだな! 俺たちの世界の災厄と対面し戦ったことは今となっては数知れずだが、この世界の彼らはどういうものなのか興味深い!!』
「もうひとつ面白いことをしようかと思って」
杏寿郎が私の次の言葉を待つ。
──領域展開。
この世界を憎む彼らが、次々と人の姿になっていく。
「ほら見て面白いでしょう? 人を憎む彼らが実は人になりたい。人にとって代わりたいと思っているのよ──」
『よもやよもやだ! この世界独自の発想ということなのか……』
突然の姿の変化に彼らはどよめいているが、直ぐにその身体を使いこなしはじめる。
「さぁ、ほら身体を貸すわ。ユニゾンして彼らを調伏しましょう」
ダンスをするように身体を重ねると、私たちの意識は混ざり合いひとつの存在として顕現した。
●1
呪術高専食堂。お昼。
「おかしい……」
テレビのリモコンを手にチャンネルを変えまくる悟。
「ちょっとちょっとさとるー! お昼は"笑っていいかも"みるんだから! リモコンかえして!」
悟からテレビのリモコンを取り返そうとするせいら。
「ちょっと悟、テレビを見る時はもっと離れて見なさい!」
「叱り方がおかんなのじゃ」
「みなさーん! 野菜炒め定食できましたよー!」
灰原の元気な声が食堂に響き渡る。
「おー。美味そう」
「スープは例のテールスープです! ご飯は大盛にします? おかわりもありますよ!」
「私はご飯少なめで」
「おとーふにかけるかつぶしはおおもりー!」
──思い思いに席について、食事を開始する一同。
「さっきは何を気にしておったのじゃ?」
「時期的に災害とか起きやすい時期のはずなのに、ニュースがない──っていうか平和すぎんのよ」
「いいことじゃないか」
「ほんとほんと。反転術式を使わずにいれば変にストレスもたまらないし、禁煙も続くしー」
「どのぐらい禁煙してるの?」
せいらの質問に答える硝子。
「んー? 三ヶ月ぐらい?」
「凄いじゃないか」
「じゃあなんかごほうび考えよ!」
「ご褒美って──」
「なにがいい? なにがいい?」
「──ランド」
「あぁ、東京とか言っておきながら千葉にあるやつ?」
「あんなのに行きたいわけ?」
「茶化さないの!」
硝子の耳が赤くなっていることに気付いたそよかが、悟の両目に勢いをつけて指先を近付ける。
「目潰しはやめて!」
「どこかの土日で行く?」
「平日に授業ブッチして行くか!」
「また怒られるぞ」
「またって言うなよ! 最近怒られてないぞ!」
はっと何かに気付いた悟。
「……これは俺もご褒美?」
じっとそよかを見る。
「──悟。怒られないことは、当たり前の事なのよ……」
七海が静かに吹き出す。
「七海! 大丈夫か!?」
「……文化祭の振替休日があったのでは?」
一同「それだー!!」と、声を揃えた。
●2
時間になっても集合場所に現れない悟を心配して、寮のドアの前までやってきた。
「悟? まだ寝ているの?」
ノックするが返事はない。
……しかし、気配はする。
携帯にメールが、せいらからだった『先に向かってるよー 』
「悟! みんな先に向かうって! さと──」
おもむろにドアが開いた。
「なんだ。起きて準備も終わっていたんじゃない……」
にこにこと機嫌の良さそうな悟を見上げる。
──何を企んでいるの?
「じゃ、行こっか」
おもむろに悟は私と手を繋いだ。
普段は入らない男子寮の部屋の前。
『悟の奴、楽しみすぎて昨日は眠れなかったのかもしれない。そよか、申し訳ないけど呼びに言ってもらえないかな?』
傑に言われてここに来たけど──これは……
「……仕組んだのね?」
「えー? なんのことー? 俺わかんなーい」
悟はサングラスをかけ直してペロリと舌を出す。
「チケットだって傑が手配したって──」
「そうだっけ? まぁ、ここに学生二枚あるから問題なーし!」
「悟!」
やっぱり完全に仕組んでるじゃないの!
「いいじゃん、たまには二人で行動するのもさ。早く行こうぜ!」
──楽しみにしてた……にはしてたのよね。
「……わかったわ」
悟の好きってやつを見せてもらおうじゃないの。繋いだ手に少し力を込める。悟は嬉しそうに微笑んでみせた。
「うわぁ……なにこの人混み」
「悟……これがいわゆる開場待ちの列よ。キャッティーランドではこれが普通──らしいわ。ほら見なさい。ここに書いてある」
私は前田さんから貸してもらったキャッティーランドガイドブックを取り出して悟に見せた。
「せいらたちもどこかに並んでると思うけどー」
周囲を見渡そうとするが悟に両手で目隠しされる。
「だーめ」
「……わかったから」
少し間があって、悟の両手目隠しが外れた。
「あと十数分じゃない。どこから向かうかとか考えていればあっという間よ」
「はーいはい」
「悟はキャッティーランド、どのぐらい知ってる?」
「全然。こういう所、行った事ないのそよかも知ってるだろ? そよかだって初めてじゃないの?」
「……そうだけど。じゃあまずは"夢見る猫たちの王国キャッティーランド"についてガイドブックの内容を読んでみるわね? キャッティーランドは、物語と魔法に満ちた猫たちの王国よ。森に隠れた小さな集落から、煌びやかな猫の王宮、夢のようなお菓子の国まで、6つのテーマエリアに分かれてるの」
「ふんふん」
「どこを歩いても、猫たちの足跡やしっぽの揺れる気配があって、ふと見上げれば時計塔の上にウィッキーキャットがいたりして……。遊び心とちょっぴりファンタジー、それと“懐かしい未来”が混ざった不思議な場所『人間より先に夢を見つけたのは、猫だったのかもしれない』って、そんな風に思わせてくれるテーマパークなのよ。わかった?」
「うーんなんとなく」
「今日はランドとシー両方行けるチケットだった?」
「そうそう、両方行けるやつ」
「ならこのガイドブックに書かれてるけど、シーは夜景が綺麗らしいから後で行く方が良いかもしれないわね」
「シーってどんなとこ?」
「えぇと、シーは……」
ペラペラとガイドブックのページを進める。
「ここね"世界の果てと始まりの港キャッティーシー"は、海を越え、時空を越え、物語の起点と終点が集う港。猫たちがかつて旅した航路に沿って、5つの幻想的なエリアに分かれていて、どこも海風と謎めいた冒険の香りがするって書かれてる。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよぉ。そよか可愛いなーって思いながら」
頬に指先で触れられて、ガイドブックで遅れてガードしつつ。
「……空飛ぶ船が浮かぶ港町、沈んだ大図書館、星の海を目指す天文塔……どこか懐かしくて、でも見たことのない風景が広がってるって! 『誰かの記憶が海になった』と言われるくらい、不思議と胸がざわつく場所らしいわ!」
入り口の方に動きがあった。時計を見ると開園の時間だ。人の波に流されそうになり、咄嗟に悟を呼ぶ。
微笑んだ悟に後ろから抱き付かれた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。