【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●13
「傑さん! これ、頼まれていた前回の報告書です」
「あぁ、ありがとうございます。わざわざ教室まで持ってきていただいて」
一人の補助監督がやってきた。確か名前は黒岩志織……といったか。
「いえ、せっかくなら傑さんにお会いしたいなと思っていたから……最近、呪霊発生頻度も減ってますし」
「あ、呪霊が少ないのは良い事ですよね」
相手が少し考えながら言葉を口にする。そんな様子を頷きながら促す。
「そうそう私、次の土日はオフになりそうなんですけど──」
「そうですか。なら、ゆっくり休めますね。お互い良い週末を迎えましょう」
笑顔で手を振って、何度も振り返る姿が見えなくなるまで見送る。
──昔から人に好かれる事が苦手だった。
両親は共働きで、幼少時に懐いていた祖母も早くに亡くなってしまい、自分という存在は他者を理解するために作り上げた空っぽな器のように感じていた。
両親が言う、聞き分けの良い"いい子"であることを自分に強いて、自分はまず後回しにして他者を優先する。結果、他者から見れば居心地の良い環境を提供してくれる存在になり、容易く好意を持たれてしまうわけだ。
けれど私は、人から好かれたくて"そう"しているわけではない。人からの好意など、鬱陶しいとすら感じるものだった。他者を優先すればするほど、他者に対する興味を持てなくなっていた。
極論、どうでもいい──
「おーい。傑、どうした?」
自席に座ろうとしたところで、悟が既に教室に来ていたことに気付いて驚いた。
「今朝は早いじゃないか。おはよう、悟」
「はよー。そよかに図書室で勉強するぞって朝から起こされてさー。逃げてきたけど」
「なんで、そよかから逃げるんだよ……」
「傑は?」
「補助監督に前回の報告書のたたき台が出来たから、直接渡したいと言われてね。教室なら面倒がないかと思って持ってきてもらったんだ」
正直、メール添付で良かった。
「へー。報告書の代筆を頼むなんて、珍しいじゃん」
「──頼んだつもりはないよ。おそらく彼女は、好意のつもりでやってくれたようだけど、いつの間にか私から頼まれたと置き換えをされるのは……面倒だね」
内心さほど面倒だとも思っていない。人付き合いなんて、呼吸をする方法ぐらい馴染んでしまったものだったから。
「そろそろか」
「?」
廊下を走るしなやかな猫のような気配。勢いよく教室のドアが開いた。
「おっはよー!! すぐるー!! 会いたかったよー!!」
ドアを開けたままにして、一目散に腕の中に飛び込んでくるせいら。
「せっかく今朝もきちんと髪をセットしたのに、ぐしゃぐしゃになるよ?」
「いいんだもーん! すぐるのにおいを貰うまでがセットなの!」
やれやれとせいらの頭やら身体を撫でていく。
「…………」
なにしてんの? という表情で悟がこちらを見ていた。
「あれ? さとるいたの?」
ちょっと恥ずかしそうにするも、やめる様子のないせいら。
「せいらっ!? あんたって子は、はしたないわ!! そんな子に育てた覚えはないわよ!!」
悟が立ち上がり、普段使わないオネェ言葉でブチ切れている。
「えー!? はしたない!? はしたないって何ぃ!?」
「うーん。悟にとって、目の毒ってことだよ」
「目の毒ぅー? つまり、さとるもそよかにこうしてほしいんでしょー? だったら問題なーし!」
ぐぬぬと着席する悟。そこにそよかがやってきた。
「悟! また逃げ出して! なんで勉強しないの!」
そこに七海もやってくる。
「そよかさん。おはようございます。以前いただいた自作ワークシートがとてもわかりやすくて、続きはありますか?」
「あ、建人さん。おはよう……もう前に渡した分、終わったの?」
「はい。わかりやすくてどんどん進めました。高専では飛び級はありませんが、大学への編入は同学年に出来ないかな──なんて考えていますよ」
「そんな、建人さんったら。でも建人さんなら出来そうね」
そんな七海にガン飛ばしながら、勢いよく立ち上がり近付く悟。
「おぉい、七海よぉ……ここは二年の教室だから、とっとと一年の教室に行けよぉ」
「わかっていますよ、そんなことは。それではそよかさん。また図書室で──」
六眼をギラつかせる悟を挟んで、微笑み合う七海とそよか……ここは地獄かな?
●14
ある山間部の村から依頼がきた。
せいらと二人都心の大きな駅で、郊外に向かう電車を待っている。
「めずらしいよね。いつもは窓が調査してから依頼がくるじゃない?」
「たまにあるよ。特に古くからある閉鎖された村とかだと、呪霊とか呪術を知ってはいる人が多かったりするからね」
「すぐると二人の任務なんて楽しみ!」
「私もだよ」
──しかし、男女二人が担当するような任務が入るはずもなく。
「後から補助監督の人がくるんだよね? それまでは二人きりだね!」
「そうだね──。そういえば、インタビューの時に上手くいかなかったって話してくれた補助監督って……もしかして黒岩さん?」
「さ、さぁどうだったかなー」
視線を泳がせるせいら。話したままつい掲載してしまったけど、本人が見たらすぐわかってしまっただろう。もう少し配慮すべきだったかな。
「文化祭の後、何か言われたりしてない?」
「何もなかったよ!」──たぶん。と言葉を濁す。
私の予想通りなら、せいらと上手くいっていない補助監督は十中八九黒岩さんだろう。そしてこの任務に同行するのも黒岩さんだ。何か二人の関係がわかるかもしれないと思っている。
ほどなくして電車が到着した。
郊外行きの朝早い電車の利用客は少なく、席はたくさん空きがある。
「どこに座る? すぐるは〜、はじっこに座りなよ!」
……普段、私が人に譲ることの多い端の席に促され着席する。せいらはニコニコと私の隣に座った。
「何しようか?」
「すぐるが何かしたいなら付き合うけど、せっかく座れたんだし、うとうとしてもいいんじゃない?」
「……そうだね」
せいらは何もしない私でも肯定してくれる。
車内で寝るのはあまり得意ではなかったけど、せいらの心地良い温もりと優しい気配が緩やかな眠気を誘った。
「──あ、しおりさん。おはようございます」
「……おはよう。傑さんは……眠っているのね……ふふ、可愛い」
「だめですよ。寝顔の写真を勝手に撮るなんて」
「なんであなたに注意されないといけないの?」
「だって自分の知らないところで写真撮られたら嫌じゃないですか」
「私は傑さんになら、いくらでも写真を撮ってもらって構わないわ」
「すぐるは、そう思ってないと思う」
「傑さんを呼び捨てにして、あなたこそ何様のつもり? 五条って呼んだらややこしいから名前で呼んであげてるけど、勘違いしないでよ」
「私はあなたみたいに、外面だけ取り繕ってるタイプが一番嫌いなの」
「…………」
「同級生だから距離が近いだけ、傑さんみたいに大人の対応が出来る人は、歳上との交際の方が絶対いいんだから」
「変に色目使って近付くのをやめなさい。自分が一番可愛いなんて思い上がりよ」
「…………」
「反論しないってことは、私が言っていることは正しいってことかしら?」
「──そう思われているのなら、仕方ないです。言い合いしたって、信じてもらえるわけじゃないから……私は別の方法を考えます」
「フン──そういえば、あなた私とも仲良くしたいって言っていたわね。なら、その席を私に譲ったらどう?」
「嫌です。他にも席は空いているので、そっちに座ってください」
小さく舌打ちが聞こえて、黒岩さんの気配は遠ざかっていった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。