【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●13
場所は呪術界本部の奥深くにある、薄暗い和室。目の前のモニターには、夏油傑の宣言の録画が静かに流れていた。居並ぶ老齢の呪術師たちの顔には、焦りと怒り、そして恐怖が浮かんでいる。
「……五条悟の同期、夏油傑。まさか呪詛師まがいの行動に出るとは」
「『百鬼夜行』だと? ふざけるな! 東京と京都で同時に千の呪霊を放つなど、前代未聞の愚行だ!」
「──そもそも、夏油傑にそこまでの力を持たせた『宗教法人』を野放しにしたのは誰だね? まず彼の資金源を断つべきだったのではないか!」
「何を今さら! その宗教法人を『問題なし』と判断し、『非公式の呪霊処理窓口』として利用してきたのは、他ならぬあなた方ではなかったか!」
「うるさい! 重要なのは責任の所在だ! もし本当に呪霊の存在が公になれば、一般社会のパニックは避けられん。その時、誰がこの『隠匿』失敗の責任を負うことになる!」
「待て! 我々は呪術界の秩序を守るため、やむなく動いた! 責任は全て、あの宣戦布告をした夏油傑にある! 彼を指名手配し、テロリストとして討伐すれば済む話ではないか!」
「甘いぞ! 我々がこの件で動けば、夏油傑の主張する『呪術師の犠牲の上に成り立つ世界』という構図を、世間に自ら示すことになる! それこそ我々の存在意義に関わる! 総ては『五条悟の監視体制の不備』のせいだ! 奴が夏油傑を正しく導けなかった責任だ!」
「何を言うか! 夏油傑を危険視しつつ、その力を利用しようとした判断の甘さが招いた事態だ! まずはあの五条の婚約者、五条そよかを問い詰めよ! 彼女は高専と外部の情報を握っているだろう! なぜこの場に呼ばなかった!?」
「五条そよかをこの場に呼べば、まともに話し合いなど出来ないだろう! それよりも五条悟だ!」
「ふん。五条悟が総大将になれば、夏油傑との個人的な絡みで何をするか分からん。彼を抑えるためには、乙骨に任せるのが最良ではある。五条を表に出すよりはマシだ」
「では、あの『総大将の活動停止で即敗北』というルールは容認するのか? 我々の総大将がもし敗れ、夏油の主張が通れば、この数百年の『呪術界の闇の歴史』を我々が晒すことになるのだぞ!」
「静かに! ひとまず、夏油傑の言う『書面』を受け取り、細部のルール確認という名目で、彼の真意を探るべきだ。勝手に動いて、我々が『呪いを隠し続けた悪』として世に晒されるのだけは避けねばならん!」
「ちっ……面倒なことになりおって。どうせ五条悟と夏油傑がグルになっているに決まっている! 全てあの二人のせいにすれば良い! とにかく、我々の潔白を証明できる資料を先に整えろ!」
「ひとまず、隠匿組総大将・乙骨憂太に、我々の意向を伝えねばならん。そして、五条悟は……極力動かさない方が──」
醜く罵り合う室内に、美しい鈴の音がひとつ静かに鳴った。全員が口を噤み、室内の気配を一心に探りはじめる。
「何? せっかく面白いことが起きているのに、あなた達は責任逃ればかりね」
本来、五条そよかが座るべき席に一人の白い着物姿の女が座っていた。いや、女などという言葉で片付けられるものではない。彼女は天元に取り入り、この幾重にも張られた守りを抜けて造作もなくこの場に現れることが出来てしまう者だ。
彼女の姿を前に、居並ぶ老呪術師たちはただ呼吸を忘れていた。光が当たらぬはずの室内で、彼女だけが淡く光を放つように見える。
「先日は私の提案を受けてくれてありがとう。そよかを上層部に招いて正解だったでしょう? 五条悟を厄介者扱いするあなた達からすれば、話の通じる相手を手札に加えるのは悪くないと思って」
ゆっくりと我々を見つめる彼女の視線、まるで心の奥まで丸裸にされたような気分だ。己が秘めてきた数々の不正が、呪具の横流しや二重帳簿が暴かれるかもしれない……と脳裏をよぎる。女は我々の思考を見透かしたようにふと微笑む。
「夏油傑にただ鏖殺を目的とした百鬼夜行をさせても良かったのよ。その意図があなた達ならわかるでしょう?
──でも、そうしなかった。人命を優先し……勝敗を設けたのは──遊び心ね。
あなた達だって人より楽をして暮らしたい気持ちはあるでしょうに? もし仮に呪霊の存在が世界中に知れ渡ったら、世界中で発生する呪霊事件が一時的に増えてしまうかもしれない。でもその事件解決のイニシアチブをあなた達が取れるのよ? それってあなた達にとってはすごく魅力的なことじゃないかしら?」
我々は顔を見合わせる。
「12月24日までには、まだ日はあるわ。ゆっくり内容を吟味なさい。私はいつでもあなた達のことを見ているから」
その言葉の意味は容易く理解できた。女の声はとても柔らかいのに、耳に残って離れない。
瞬きの間に女の姿が消える。老呪術師の何人かが思わず女のいた場所に頭を下げてしまい、周囲から睨まれて我に返る。
気付いた時にはこの盤面が出来上がっていた。我々は最初から、譲歩を前提に歩み寄ることしか出来なかったのだ。
●14
校舎の中を歩いていても、誰とすれ違うこともなくひたすらに静かだった。
「なーんか、とんでもないことになっちゃったなー」
一人教室で椅子に座って天井を見上げる。
──突然ガラと教室のドアが開いて驚いた。
「真希さん」
「何してんだ。今週は休講だろ」
「いや、なんか落ち着かなくて……寮の人達も全然いないし」
大祓大会。もう始まってるんだよね……ちらりと時計を見る。
呪霊たちの動きを活性化させる夏油さんの百鬼夜行は12月24日の日没からって話だったけど、前哨戦はお昼から始まっているはずだ。
「2年は前から京都遠征中だしな、棘もパンダも3年4年と一緒に今頃新宿だろ」
「そっかぁ」
「──せっかく総大将になったのに、隠れてろなんて言われてなんとも思わないのか?」
「え? だって僕は、総大将っていってもお飾りみたいなものだし」
はははと力無く笑う。真希さんはフンと鼻を鳴らした。
「オマエ、呪術師に必要な最低限の素質って分かるか?」
「えっ、何かなぁ……」
うーんと考え込む。
「──呪いが"見える"ことだ」
「あ、そっか」
「一般人でも死に際とか、特殊な状況で見えることがあるけどな。私はこのダセェ眼鏡がねぇと、呪いが見えねぇし。私が使っている呪具は、初めから呪力がこもったモンで私がどうこうしているわけじゃねぇ──生まれて間もない頃は、双子は不吉だとかなんだかんだってひでぇ扱いを受けてた。禪院家っていうのは、御三家って呼ばれるエリート呪術師の家系なんだよ。だから余計に迫害されてた気がする」
なんで僕にこんな話をしてくれるんだろう。そんなことを考えながら真剣に聞いた。
「でも、そんな風に迫害されて当然っていう環境を変えてくれた人達がいたんだ。私はその人たちのことを心から尊敬してる。この大祓大会だって、旧体制を転覆させるような大改革だろ──私も暴露組に名を連ねて大暴れしたかったわ」
「真希さんは暴露組に入りたかったの!? それじゃ僕と別チームじゃ──」
ニッと悪戯っぽく真希さんは笑う。
「お飾りのオマエなんてボッコボコにしてやるぜ」
こわっ! こわーっ!
「ただ、今回は過保護な直哉おじさんがやめとけって言うから参加できなかったんだけどな」
「あぁ、あの一般クラスの先生……真希さんと同じ苗字だし親戚ってこと?」
「そうだよ。昔から男尊女卑みたいな家だし、直哉おじさんが次期当主みたいな話があるけど、どうなるかな。昔はツンケンしてて普通に嫌な奴って感じだったけど、東京で暮らすようになって丸くなったっていうか──ちょっとキモくなったな。妙に世話焼きになった気がする」
「へー」
真希さんの話を聞く内に、僕はどうして真希さんが呪術師を続けているのか聞いてみたくなった。ごくりと喉を鳴らす。
「真希さんはさ、どうして呪術師を続けているの?」
「……私は性格が悪ぃから、こんな向いてない体質でも一級術師になれるって家の連中を見返してやりたいんだ。そんでついでに内側から禪院家をブッ壊してやる」
僕にはない考え方だった。思わず感心してしまい大きく息をのむ。
「ん、だよ」
「いや、真希さんらしいと思って」
笑顔を返す。
「僕は真希さんみたいになりたいな。強く真っ直ぐ生きてみたい」
ここまでご覧いただきありがとうございました。
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幽境編の続きもオマケ付きの一気見もあるので、
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