【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
高専の校庭は、一瞬にして静寂に包まれた。夏油傑が、真希、パンダ、棘の三人を無力化するのに、時間はかからなかった。三人は倒れ伏し、周囲は彼の黒い呪力が地を照らすように揺らめいている。
「ゆぅた……逃げ、ろ」
乙骨憂太は、その光景を前に歯を食いしばった。彼は、五条先生の教えを胸に刻みながらも、その教えが通じない相手が彼の親友であるという残酷さに息を詰まらせていた。しかし、今は「暴露組総大将」として、彼の仲間を打ちのめした敵だ。
「夏油さん?」
未だ乙骨は目の前の光景を受け入れられずにいる。
「乙骨憂太。君の『純愛』は、今の呪術界の誰よりも美しい呪いだよ。だが、その強さを『お飾り』にしておくのは惜しいな」
傑は静かに微笑む。彼の周囲に、おびただしい数の特級呪霊が凝縮していく。それは、「黒の呪力」を纏い、無数の目が乙骨を捉える、おぞましい呪霊の津波だ。
「どうしても私は、君を倒さないといけないんだ……」
乙骨憂太は総大将としての責任を思い出す。
「来い!! 里香!!」
──特級過呪怨霊 祈本里香 二度目の完全顕現。
夏油傑は堪えきれない様子で笑みを浮かべる。
傑の呪霊操術によって現れた呪霊と、乙骨・里香の戦いが始まった。
──
激しい戦いの中で、乙骨憂太は急速に成長を遂げる。
「知っているかい? 特級を冠する人間は4人、呪いだと16体存在する」
「これはその内の一体、特級仮想怨霊『化身玉藻前』更に私が所持している呪いをひとつにして君にぶつける」
「呪霊操術、獄ノ番『うずまき』」
(無数の呪いをひとつに束ねて渦状に噴出する術式)
「なんでそこまで──」
「私はね。取り戻さなければならない人がいるんだ。今更出し惜しみなんてするつもりはないよ」
傑の声は静かだったが、その奥に潜む焦燥と悲願の熱が、空気を震わせた。彼の瞳は、何かを取り戻そうとする者だけが持つ狂気を宿していた。
「お前は、僕の大切な仲間を傷つけた! 許さない!」
「──そうか。君の怒りは理解できる。仲間を傷つけた私が許せない。ならば、君のその『純愛』と『怒り』は、本当に君自身のものなのか?」
傑は、凝縮した呪霊の群れの間から、哀れむような眼差しを乙骨に向けた。
「君は、真希の強さに憧れ、悟たちの愛に守られ、そして里香の呪いに依存している。他者の借り物で武装した、見事なお飾りだな」
「ちがう!」
「違う? なら証明してみろ。君は、最後まで誰かの『乙骨憂太』で終わるのか? それとも、君自身の意志で私を倒し、何者かになるのか? 君は、一体、誰の呪いを背負って私に挑んでいる?」
「──里香」
『なぁに?』
僕の全てを君に捧げる。
里香は、愛と執着のエネルギーそのものとして、校庭の空気を切り裂くような純白の呪力を放つ。その光はあまりにも強く、呪力のない甚爾の妻やせいらを核に取り込んだ、貪欲な魔女の亡霊の凄まじい力を如実に示していた。
自らを生贄とした限定解除。
「そうきたか!! 女誑しめ!!」
「──失礼だな、純愛だよ」
「そうか」
ふと夏油傑の表情から力が抜ける。
「私も、"純愛"だよ」
乙骨の「純愛」が極限に達し、里香の呪力が全て解放される。それは、黒い呪霊の津波と、それを操る夏油傑を、この世から消し去るに足る、最大火力の一撃だった。傑はそれを迎え撃つべく、掌に最大の特級呪霊を凝縮し、乙骨の純愛の呪力とぶつけ合う。
黒と白の呪力が、文字通り純愛対純愛のエネルギーとして激突する、その一瞬。
「やれやれ、最大火力同士のぶつかり合いなんてよくやるな」
パキン、と空間が軋む音がした。
黒と白の呪力が激突する、その零コンマの瞬間。その二つの力の間に、白い光の残像を残して五条悟が突然現れた。悟は"無下限呪術"の極致をもって、二つの最大火力を不可侵の力で押し留める。
悟は、その力の渦中で傑の腕を掴むと「よし、行けそうだ」とだけ囁いた。
すると、空間そのものが捻じ曲がったかのように、二人の姿は一瞬にして消え失せた。五条悟のゼロ距離転移だった。
白と黒の最大火力は、矛先を失い、激しい爆風となって高専の校庭を吹き荒れる。
「え? あれ? 今……五条先生? 夏油さんは?」
嵐の中で、乙骨は呆然と立ち尽くした。そして、彼の耳に、遠ざかる五条悟の声が、呪力に載せて届く。
『この呪霊を祈本里香だと信じることは、君にとって大事なことだ。だが、もし、本物の祈本里香が生きているとしたら? その時、君の"純愛"は、どこへ向かうかな?』
白と黒の火花が散り、焦げた匂いだけが校庭に残った。信じていたものが一瞬で剥がれ落ちた音が、乙骨の胸に響く。そして五条悟の言葉が、乙骨の存在理由の根幹を揺さぶる。
──里香が生きていたら? なら、この背後の純白の呪力を纏う存在は、一体……。
混乱と動揺で、乙骨の足元がふらついた、その時だった。
「おい、ボーッとしてんじゃねぇよ、総大将」
新たな気配と、低く刺々しい声。
乙骨が振り返ると、そこにいたのは、高専の用務員姿ではなく、黒い呪力を揺らめかせた、精悍な男だった。伏黒甚爾を乙骨は、完全に高専の用務員だと思っていた。
甚爾の手には使い込まれた三節棍が、そしてその顔には戦闘への渇望と、自身の妻との因縁を清算せんとするような鋭い眼差しが宿っていた。
「隠匿組の総大将が、そんな腑抜けたツラでいいのか? お前をぶっ倒すのが、俺の役割だ」
「ふ、伏黒さん……!?」
教師の裏切りと初恋の人の生存という二重の混乱に、用務員の正体という三段目のショックが襲いかかる。
乙骨憂太は最大の試練の始まりを悟り、三節棍を構える甚爾を前に、呆然と立ち尽くすしかなかった。
●18
物語とは、創造主が創造した姿こそが最も美しく尊いものだ。人類の誕生と共に、その社(やしろ)という組織は存在していたという。
社の地下深くに存在するメイン管制室。無数のモニターが壁面を埋め尽くし、ありとあらゆる物語の情景が映し出されていた。
数えきれないほどのモニターを、同じく数えきれないほどのエージェントが静かにデータを監視する中、一角のスクリーンが一斉に赤色の警告を発する。
「エージェントMより緊急通告! 分類は現代ダークファンタジー、国番号081、座標J-3、都内僻地の学校、通称呪術高専! ウィッチ? いえ、これはレムナント! 魔女の亡霊を視認! 魔力レベル……計測できません!!」
オペレーターの報告が響き渡ると、管制室全体に動揺が走る。
「レムナント!? 魔女の亡霊なんてページについた汚れのような物のはずだ! まさか変異種か!? 意志を持って自律行動を始めた──? なぜこの物語に!?」
「エージェントMは休暇中だろう! 何をしている!? それにエージェントのリクラメーション中の物語は、厳重なプロテクトと共に精密なスキャンがされているはずだ! レムナントがこれほど早く、しかも核となる人物の近くに介入するなんて!!」
「局長! リクラメーション中の物語への直接的な介入です! 直ちに介入コードAを発動し、討伐部隊派遣を!」
エージェントたちが騒然とする中、管制室の奥に座る局長は、微動だにしなかった。彼の前には、エージェントMが現在いる"呪術高専校庭"の映像が映し出されている。乙骨と夏油の最大火力が衝突した場所だ。
その映像に、通信のノイズ混じりでエージェントM(前田まるこ)の声が重ねられた。
『えーっと、レムナント視認しちゃいました。純白の呪力、完全に"祈本里香"の呪霊姿です。あいつ、本気でこのリクラメーションを乗っ取りに来てますよ。私、休暇中ですけどエージェントとしての仕事、しちゃいますか?』
局長は静かに首を横に振った。
「報告ご苦労。エージェントMの権限はコードRを継続。君の自由意思を優先しよう。安易な介入は、レムナントの警戒心を高めるだけだ」
局長は視線を別のモニターに移す。その映像にはそよかと共に新宿の戦況を見守る七海建人の姿が映っている。この物語でリクラメーションを受けていたエージェントだ。
「エージェントK。君のリクラメーションを一時制限解除する。この物語への理解は君が一番詳しいだろう。意見を聞きたい」
指名された七海は、新宿の高層ビルの上でそよかを強風から守るように寄り添っていた。制限が解除されて軽く眩暈を感じた。
「建人さん?」
そよかが七海を気遣うように声をかける。七海はそよかに微笑みを返した。
彼は高専時代という"物語"に組み込まれながら、それでもエージェントとしての理性の鎖を辛うじて保っている。彼の言葉は思考するだけで社の管制室に届いた。
『我々の目的は、あくまで物語の維持。レムナントは、その安定を崩壊させる最大の異物です。彼女の介入は、常に"愛する者の形"を装い、核となる人物の力を永続的に搾取し続けるのが常套手段。長期的な物語の崩壊を狙った、最も悪質なパターンです』
七海は冷静に分析を続けた。彼の脳裏には、図書室で出会ったそよかと現在のそよかの姿がよぎる。あの時の甘美な経験は、ウィッチの仕掛けた"理性の侵食"だったのではないか──。
『このレムナントは"祈本里香"という役割に完全に溶け込んでしまっている。ならば、物語に沿った手法で排除すべきです。現地の人間、特に"愛する人を救いたい"という動機を持つ者の個人的な因縁が、レムナントの核を揺さぶる最高の"手段"となりえます』
「その通りだ」
局長は結論を出した。
「レムナントはこの物語の登場人物に討伐させる。呪物魔装は弱体化、強化系のみ使用許可を出す。早急に部隊編成し、現地に派遣しろ。 役割はあくまで"祈本里香"の呪いを解放しようとする彼らの動きを、陰ながら協力し、レムナントの弱体化を促すことだ。直接討伐に動く必要はない」
七海は静かに頷き、再び静観の体勢に戻る。局長の冷徹な戦略は、物語の維持という大義名分の下、現地人の感情を道具として利用することを示していた。
局長は立ち上がると、ゆったりと管制室の出口へ向かう。
「──後の判断は副長に任せる」
「局長、どちらへ?」
「便所」──そう短く答えると、彼は無関心を装いながら最も重要な局面で現地へと単独で向かうのだった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
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幽境編の続きもオマケ付きの一気見もあるので、
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