【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●19
高専校庭から、黒と白の最大火力が激突する零コンマの瞬間に消え失せた五条悟と夏油傑は、「無下限呪術」によるゼロ距離転移によって、全く別の空間に立っていた。
そこは純白の呪力が霧のように満たされた、薄暗く、静かな空港のロビーだった。
「やれやれ、ギリギリセーフ。乙骨憂太の本気を引き出せって俺言ったけどさ。あそこで"うずまき"をぶっ放すかねぇ、フツー。あとさ、俺の茶番戦闘用にって何南米系の術師まで手配してんの? 変に苦戦して間に合わなかったら今頃お前死んでたよ?」
悟は転移の反動でわずかに体勢を崩した傑の肩を支える。
「悪かったよ。でも君だから出来ただろ?」
「まぁな。俺、最強だし」
傑は周囲の景色を見て、すぐに理解した。
ロビーの窓の外には、色彩も音もない、純白の呪力の霧が満ちた街並みが広がっている。ロビー内には、スーツケースを持った者やベンチに座る者がいるが、彼らはすべて人間の姿をしてはいるものの、中身のないハリボテのようだ。
「まるで領域の中みたいだ……作り物の街、この中にきっとあの呪霊が捕らえた人たちが、ハリボテの模造品と共存しているんだろう──」
「そうだ。そして、この街全体が“祈本里香の心臓部”。伏黒甚爾の奥さんやせいらを含めた“人質”は、ここに閉じ込められている。解放のルートはここだけだ」
悟は祈本里香が過去に乙骨に語ったであろう甘い言葉が、呪力の粒子として空間に漂っているのを感じた。
「しかし、この街の中でどこに人質がいるのか……我々だっていつまでもここにいられないだろう?」
「それはそうだ。俺たちはこの街に無断で入り込んだ異物。気付かれたら追い出される。かといっていきなり全てを打ち壊し始めたら追い出されるのも早いだろうな」
悟はやれやれと肩を竦める。
「傑。ここにせいらがいるのは確定事項だ。……愛の奇跡ってやつ、見せてみろよ」
「…………」
傑は、静かに頷いた。彼の瞳には、私欲と悲願が混ざり合った、複雑な光が宿っている。
「──あれ? 本気にした?」
悟が言いかけた、その時だった。
空港ロビーの片隅。ハリボテの人間たちの影で、5歳ほどの男の子ひとり。二人をじっと見つめていることに気がついた。
男の子は、周囲のハリボテと同じく純白の呪力でできているように見えたが、その黒い瞳の鋭さは、どこか生きた人間の意志を感じさせる。
「傑、あれ」
悟が指差した先を、傑は言葉を失って見つめた。男の子は、夏油傑の幼い頃の面影を宿し、せいらに似た穏やかな眼差しをしていた。
「まさか……」
傑の瞳が大きく見開かれる。
動揺する傑に構わず、男の子はこの静寂な空間に響かせた。
『だれ? このセカイをこわしにきたの?』
男の子は、傑の悲願そのものだった。傑が"取り戻さなければならない人"とは、せいらだけでなく、この子も含めた家族すべてを意味していたのだ。
男の子が背を向けて走り出す。
二人は何か言葉を交わす前に走り出していた。
──
「ダーーッ!! 速すぎんだろうがっ!! しかもなんだあの持久力!!」
空港を出てひたすら走り続け、公園で見失った。
悟が大の字に倒れ込む。私は公園内をきょろきょろと見回している。
「しかし、この街のルールがわかったぜ。この街はあの呪いが作り上げた偽りの領域だ。目的は、ただ一人に真剣に愛されること。そのため、この街は"取り込んだ人間が愛を感じた瞬間"を何度も何度も繰り返すための舞台なんだ」
悟は静かに断言する。
「この街路は、あの呪いが望む"愛の物語"を完成させるために必要な情報を探している。ハリボテは、その愛の瞬間に生きる記録映像のようなものだろう」
私はゾッとした。
「つまり、私たちが今辿っているのは、あの呪いが最も美しく、最も強く愛されたいと願う道筋だとでもいうのか!?」
この公園には、いくつかの大きな土管が並べられていた。周囲の風景と同じく、純白の呪力でできているが、その形だけは妙に生々しく、鮮明に見えた。
「ここ……」
私は思い出した。悟もその異変に気がつく。
「どうした、傑。どこかで見覚えでも?」
──脳裏に、懐かしい雨の日の記憶が蘇る。
まだ幼い頃、子猫を飼いたいと親に頼んだけど受け入れてもらえず……なぜだかとても悲しくなって、この公園の土管の中で一人泣いていた。
その内雨が降ってきて、涙もなぜか止まらなくて、そんな時に初めてせいらに会ったんだ。
せいらは土管を覗き込んでにっこりと笑ってた。
『──きみは?』
せいらは土管の中に飛び込んできて私に抱きつく。
『きみ、びしょぬれじゃないか! だいじょうぶ?』
私の全身に鳥肌が立った。
「悟……ここは私がせいらと初めて出会った場所だ。この土管の中で……」
悟は周囲の呪力の流れが、この公園を中心にさらに濃密になっているのを察知した。土管の先に広がる純白の街路を見つめ、私は確信を持って呟いた。
「次の場所は、もしかして私の実家じゃないか? せいらとは幼い頃何日か一緒に暮らしているし、行方不明になる前に私の両親にも挨拶しに行ったりしたんだ。多分この世界の私の実家には、せいらがいる気がする……」
二人は、最も愛しい記憶へと繋がる、次の街路へと走り出した。
●20
ほどなくして、私たちは私の実家とよく似た一軒家の前に到着した。
「よくここまでたどり着いたな不審者め!」
短い黒髪にパーカーを羽織り、全体的に動きやすい格好をした女性がモップを構えこちらを威嚇してくる。
「待ってよ。不審者? なんで僕たちが不審者になるの?」
悟が肩を竦める。
「この場所は一人ずつ人が増えていって、その都度世界が書き換わるんだ。あんた達はいきなり二人で現れて世界も書き換わらない。つまりは異物ってこと!」
モップを振り回しながら突っ込んできた。
「傑、ここは俺に任せて先に行け!」
女性に怪我をさせないように上手く悟が引きつけてくれる。
「わかった! すまない!」
「くぉら! 待て!」
ぶんぶんとモップを振り回す。
「はいはいお姉さん。あなたの相手は僕がします」
やんわりとモップを押さえながら悟が言う。
「胡散臭い包帯男が! ハロウィンは先月終わっただろうが!」
「いやいや、目元にだけ包帯巻いてるだけでハロウィンにカテゴライズするわけ!?」
目元の包帯をずらして六眼を見せるとその美貌に、少しだけモップに入る力が軽くなったようだった。
──
「さしすせそ〜。砂糖にお塩にお醤油ーぅ?
──うにゃ? なんか外が騒がしいような……」
ぐつぐつと鍋の中身を煮立てながら、おたまでかき混ぜる手を止めるせいら。
バタバタと走ってくる足音にびくりと身構える。
「──!!」
「!?」
台所に滑り込んでくる傑。そして、その傑と視線を合わせたせいら。
「すぐるー!!」
秒で抱きついていた。
先ほどまで鍋を混ぜていたおたまを手に持ったままだった。
五条袈裟が汚れるとかそんなことすら思い付きもせず傑の腕の中に飛び込んだ。
そして傑もまたせいらを受け入れた。
手におたまを持ってると、気付かなかったかと問われれば気付いていたと答えるが。そんなことは些細なことだった。
「やっと、やっと会えた──」
「うん、うん……」
二人の目に涙が滲む。
「はなれろ!!」
傑が先ほど空港で見かけた男の子が、気がつくとリビングに立っていた。
「「!?」」
「ママからはなれろ!!」
「すーちゃ──」
ざわざわと空気が震える。男の子の足下から呪霊たちが姿を現す。
「呪霊操術!?」
「おい! 呪霊操術は使うなって言って──」
悟が遅れてやってくる。
「傑! お前じゃないのか!」
「そうだ! 私じゃない! あの子が──」
「すーちゃん!! いいの!! パパだよ!! あの人はパパ!!」
せいらが慌てて呪霊たちをかき分けて男の子に近付いていき抱き締めた。
「ぱぱ?」
「そう。パパだよ。わたし達のこと迎えに来てくれるんだって話していたでしょ?」
「……パパ」
せいらに抱きしめられながら、男の子はじっと傑を見つめていた。
「──でも、このセカイを……こわしにきたんでしょ?」
この子は、この純白の呪力の中で誕生し、育った。彼にとって、この偽りの安寧こそが世界そのものであり、傑という異物は、存在の根幹を揺るがす脅威なのだ。
傑は真実の愛を望む妻と、世界を壊されるのを恐れる息子を同時に目の前にして、言葉を失った。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
お気に入り・しおり・評価数の合計5つごとに活動報告でおまけ公開企画ですが……現状14みたいですね。15になったら余燼編のおまけが公開されますので、良ければご一考ください。お気に入り登録ありがとうございます。
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幽境編の続きもオマケ付きの一気見もあるので、
もし少しでも気に入った方がいれば見にきてください。
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