【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


55幽境編 21(完結)★黄泉竈食の境界線と家族の解呪、帰還した純愛と魔女が残した運命の余白

●21

 

「混ざってる」

「…………」

 せいらの作っていたカレーをみんなで食べることになった。その前に少しだけ話がしたいと悟に連れられて、家の外へ──開口一番、悟はそう言った。

 視線は自身の指先に、目元を覆っていた包帯を外し無造作にまとめられたものをくるくると巻いている。

 詳しく聞かなくても察することは出来た。黄泉竈食(よもつへぐい)黄泉の国の食べ物を口にすれば、二度と戻れない。それは神話だけの話ではなく、この世界の理もまた同じだ。呪霊の作り出した空間で過ごすことは、少しずつ呪いと混ざっていくということ。

 多く混ざれば混ざるほど、外に出た時の反動が大きくなる。悟はそう言いたいんだろう。

「一番多く混ざってるのは、わかるよな?」

「──あぁ、わかるよ。でもだからっていなかったことになんて出来ないじゃないか」

 悟は六眼を私に向けた。

「…………」

 ニッと笑う悟。

「そうだよな……わかってるよ。親友」

 悟は私の首に腕を回して言った。

 

 ──

 

「お待たせー。いやー美味そうだねぇ」

「でしょー? 食べて食べてー」

「さっきはごめんねー」

 先ほどモップを振り回していた女性は、伏黒甚爾さんの奥さんであることが判明した。

 ほどなくして6名の老若男女が帰ってくる。

「あれ? もしかして新入りさんですか?」

 その中に、祈本里香の面影のある女性。

「あぁ、君が祈本里香?」

「そうでーす」

 ひらひらと両手を振る。

「僕、今憂太の担任してるんだけどさ。憂太、君のこと見たらひっくり返って驚くと思うよ」

「えー? でもそれぐらい驚いてくれないと……でも憂太が私のこと見たら──なんて、もしかしてとうとうここから出られるの!?」

「そうだよって言ったら」

「やったー!!」

 祈本里香はピョーンとジャンプして喜びを表現している。

「…………」

 せいらの膝の上に座る男の子"すー"の表情が暗くなっていることに気付いて、話しかけた。ちなみにすーちゃんとせいらは彼を呼んでいたが正式な名前は私と考えようと思っていたようで"すー(仮名)"という扱いにしているそうだ。

「外の世界に、あまり良いイメージがないかな?」

「…………」

「そ、そんなことないよね?」

 せいらにぎゅっと抱き付きながら私を見つめる視線は少し鋭い。

「厳しいことを言うけれど、この世界はもう長くは続かない。あの白い髪のおじさんの目は特別でね。呪術のことに関しては知りたくないことまでわかってしまうんだ。でもね──」

「…………」

「私もせいらも君のためならなんでもするよ。必ず君の力になる。だから少しぐらいは安心してもらえたらと思っているんだけど」

 せいらに抱っこされて顔を埋めている。なかなか難しいかな……よしよしとすーの頭を撫でるが、嫌がりはしなかった。

「……ウソつき」

 すーの体から、呪力が一瞬で膨れ上がる。その力は、間違いなくこの世界と紐づく何かだ。私でも感じることが出来る。

「パパは、ボクのセカイを壊しに来たんだ!」

 すーがせいらの膝から飛び降りる。その幼い背中からは、先ほど見せた呪霊操術とは比べ物にならない、おびただしい数の呪霊が召喚された。呪霊たちはリビングの天井を突き破らんばかりに巨大化し、私と悟を睥睨する。

「パパなんかいらない! ママの愛は、ボクだけのものなんだ!」

 独占欲に支配された魂の叫びだった。彼の体は、この呪霊の核そのもの。純白の霧のような呪力が渦巻いていく。

「すーちゃん!!」

 せいらはすーと呪霊の前に立ちはだかった。

「せいら! 下がれ!」

 私は、せいらを抱き寄せ、静かにすーの目を見つめる。悟が"無下限呪術"を展開し、呪霊の攻撃を一手に引き受けていた。

「すー。君はママの愛を独り占めしたいのか」

「そうだよ! パパがいたら、ママはパパのことばかり見るでしょ!」

「違う」私は断言した。

「ママの愛は、独り占めするものではないんだ。ママはパパを愛して、パパもママを愛している。そして、二人分の愛の結晶として、君が生まれた」

 私は、呪霊の群れを前にしながら、真剣にただ父の顔で語りかける。

「君が今見ている世界は、愛を独占したいという呪いの世界だ。それは、君とママの愛が永遠に続くと錯覚させるだけの、偽りの檻だ」

「ウソだ!! ここがボクのセカイだ!!」

 すーの足元の呪霊が、私目掛けて突進してくる。

「傑!?」

「いいんだ!!」

 残り少ない呪霊を手のひらに凝縮して攻撃を受ける。たとえ腕がひしゃげても、これは私が受けなければならない呪いだ。

 私はせいらを背に、息子に向かって一歩踏み出した。

「すー。もし君が本当にママの愛を望むなら、どうか──パパの愛も受け取ってくれ」

 私は自らの呪力を解き放つ。それは、里香の呪いと同じ純粋な呪力。ただし、その本質は、殺意でも独占欲でもなく、尽きることのない『家族への愛』だった。

 呪力が、すーの体から溢れ出す呪いの霧と混ざり合う。

「君は呪いじゃない。私の、私たちの息子だ」

 私の呪力が、すーの体に深く根付いていた魔女の亡霊の"愛の渇望"を溶解させていく。

「…………いやだ……ボクの、セカイが……」

 すーの体から、純白の呪力が悲鳴を上げて霧散した。それは、愛の独占という呪いが、親の真の愛によって解呪された瞬間だった。

 呪いの核が消滅した。

 その瞬間、純白の街全体が激しく揺らぎ始める。時空間が軋む音。領域が現実世界へと還元される、崩壊の兆候だ。

「傑! よくやった! 早く来い!」

 悟は虚式"茈"を上空の領域の壁に叩きつけ、脱出用の穴を開けた。

「すー! せいら!」

 私は意識を失った息子を抱きかかえ、せいらの手を強く引いた。周囲にいた里香や伏黒の奥さんたちも、呪いの領域から解放され、現実世界へと引き戻されていく。

 夏油傑は家族と共に、最大火力の激突によって開けられた零コンマの特異点へと飛び込んだ。

 黒と白の呪力が激突し、光が収束する。

 その光の中で最強の二人の術師と、呪いを解かれた人々の姿は完全に消え失せていた。

 

 

●エピローグ

 

「──憂太」

 優しく鼻をつままれる感覚。

「!?」

 驚いて上体を起こす。

「おはよう憂太。久しぶり」

 しゃがんで微笑む里香ちゃんがいた。

「里香ちゃん!!」

「憂太〜。甚爾さん、強かったろー」

 五条先生まで……そして自分が今の今まで気を失っていたことに気付いた。

「──僕が里香ちゃんだと思っていた呪霊はどうなったんですか?」

「内側から核を分離させて無力化したよ。なんとか人質全員助けることが出来た。君のおかげだよ憂太」

「僕?」

「そうだよ憂太。憂太があの呪霊を私だと思って真剣に愛してくれたから助かったの!」

 里香ちゃんが僕の腕の中に飛び込んでくる。

「え? あ──」

 もう何がなんだか──でも真希さんもパンダ君も棘君も今はもう大丈夫みたいだし、良かった。

「あ!!」

 五条先生が大きな声を上げる。

「?」

「憂太が気を失ってたみたいだし、こりゃ隠匿組の負けだね」

 ハハハと五条先生が笑う。頭から冷や水をかけられたような寒気を感じた。

「青い顔して、大丈夫大丈夫。僕がなんとかするよ」

 五条先生は頭の後ろで腕を組む。

 先生の視線の先には夏油さんと、ふわふわとした金髪の女性が夏油さんに似た雰囲気の子供を抱いて寄り添いあっていた。

 

旅する物語 五条悟との邂逅 幽境編 終幕

 

 

──

 

●幽境編あとがき……ではない何か

 

 呪術高専の一室に向かって、せいらが猫のようなしなやかな動きで向かっている。

「にゃー!! 到着〜ぅ!」

 リズミカルにドアをノックして返事を待たずに開く。

「お師匠! せいら! 無事に帰ってきたよぉぉー!」

 にゃんにゃんとユリにまとわりつくせいら。

「──おかえりなさい。大変だったわね」

 手にしていたお茶の入ったポットを空中に固定させて、ユリはせいらの頭をそっと優しく撫でた。

「うにゃうにゃ! ごろごろ!」

 ユリの手に頭を押し付けるせいら。

「……うにゃ?」

 そしてようやくユリのいるこの部屋に見覚えのない年配男性がいることに気付いた。

「お師匠、誰このおじさんー?」

 遠慮も躊躇いもなく人差し指で指差すせいら。

「あれは社の局長の──」

「社の局長ぅぅぅ!?」

 せいらは反射的に距離を取り身構えた。

「敵じゃん!! 何お茶の準備とかしてんの!!」

 せいらの髪の毛が逆立ち、瞳孔が細くなる。

「いいのよせいら」

「いいのよ!? いいわけないじゃん!! すぐるはわたしが守るんだからー!!」

「せいら」

 ユリの一瞥と共にせいらの呪力は一気に萎んだ。

「ふにゃあ──」

 ぱたりと倒れるせいら。

「社の局長の消滅ともなれば、どうなるか……想像できないとは言わせないわよ。それに、初めから私たちを害するつもりなら、こんな風にもてなしたりするものですか。今この空間は物語とは別の切り取られた次元に存在しているの。武力介入は私が許さない。推奨行動は対話のみよ」

 局長は椅子に深く座ったままニヤリと笑う。その笑みは、畏怖か、あるいは興奮か。

「いいねぇ、流石は魔女様だ。安心しなお嬢ちゃん。今は危害を加えるつもりはないし、この場所を俺から他言するつもりも当然ない。魔女といえば社とは対立関係にあったが、この魔女様は──別格。エージェントの中でも特別視している奴がいるぐらいだ」

 

 ──魔女とは。創造主が作り出した物語を歪める悪しき者とされていた。

 歪めるという行為は、ただ物語の流れに異常を齎すもの。それは暴力と同じでとても受け入れられるものではなかった。

 

「しかし、ある時から変わった魔女が生まれたりもする。助けた亀に連れられて、竜宮城に行ったりな」

「うにゃ? 浦島太郎?」

「川から桃が流れてきて──」

「それは桃太郎だよね?」

「ありえないことが物語の中に定着してしまい、俺たちでも元に戻せなくなっちまったわけだなぁ」

 はっはっはと笑う局長。

 せいらはユリを見る。

「お師匠がやったのー?」

「違うわ。もっと古くからいる魔女よ。魔女っていうのはね。長く存在し続けられれば、それだけ影響力のある強力な存在になれる」

「──そう。だからこそ、魔女とは早期に決着を着けるのが定石なわけだ」

 机の上を指先でトントンと音を立てて局長は言った。

「…………」

 せいらは疑るようなジト目で局長を見ている。

「だが、お前さんは違う。今までの魔女とは違う何かだと思わせる余白をあえて残しているだろう? その余白は何だ?」

 つられてせいらもユリを見た。

 フッとユリは口元に微笑みを浮かべる。

「それは私が口にすべきことではないわ」

「っはー! これだよお嬢ちゃん。お前さんからもなんとか言ってくれ」

 べべべと舌を出すせいら、むーと真顔になりつつぽつりと。

「結局、おじさんはお師匠のこと好きなんでしょー?」

「おいおい、シンプルな言葉で呪うなよ……」

 局長の眼差しからは、敵意とは真逆の雰囲気を感じてせいらは益々もやもやした。

「お師匠に手を出したらお師匠のきょーじゅろーが許さないんだからね!!」

 ぷぅと頬を膨らませてせいらは局長を威嚇する。

「──そうだな。そういうところも他の魔女とは違うところだ。魔女は大胆で派手な存在だ。物語に関わろうものなら普通は主役を喰うものだからな。それなのに、なんだよ煉獄杏寿郎を味方につけるって……」

「杏寿郎は、私の運命だから」

 頬をうっすらと染めて微笑むユリの美しさに、局長は信じられないといった様子で目を見開き息を呑む。

「おじさーーんんん!! その顔!! アウトだからーー!!」

 局長はゴホンと咳払いをして立ち上がった。

「──この物語は魔女の亡霊による揺らぎを観測し、完結した。エージェントの個性修復としては不安定なものになってはいるが……それが恋愛という性質上、修復の必要はないと判断する」

「エージェントぉぉ? 誰のことよー!」

 せいらが局長に絡もうとするが、ユリは片手でせいらを黙らせる。

「少し長居しすぎたかな。そろそろ帰るぜ」

「…………」

 無言で静かに視線を伏せるユリ。ベーと舌を出して帰れ帰れと急かすように手を動かすせいら。

「俺たちはいつでも見ている。それを忘れるな」

 局長の一言に、ユリはふっと口元を緩める。

「観客は多い方が良いでしょう? 一人ぼっちの観劇なんて寂しいもの」

 局長はユリの物言いに肩をすくめ、静かに部屋を後にした。

 

おしまい

 

──

 

●幽境編おまけ:せいらの帰還を祝う会 in 武道館

 

 せいらの帰還イベントは、なぜか武道館を貸切にしたワンマンライブとなった。

 会場内の花道までも歌いながら走り回るせいら。

 会場内のテンションも天井知らずである。

 

「すー。ご覧、君のママは凄いだろう? これだけの人から愛され、その愛を受け止めて平等に振り撒くことの出来る素晴らしい人なんだ」

 我が子のすーを膝の上にのせて、私はせいらのステージを少し高いところから見つめていた。

「…………」

 すーは沢山の熱狂する人々に緊張し、母を応援したいという気持ちよりもこの場から離れたいという気持ちが強いようだ。私が彼に渡した昔、せいらが作った猫人形を胸に抱きしめなおしじっと母を視線で追う。

 

 彼女という存在は、人々の心も取り憑いている呪霊すらも影響を与える。

「そろそろかな──」

 客席に向かって手を翳すと、いくつもの呪霊玉が生成できた。

「何をしているの?」

「呪霊を取り込むための準備さ」

 すーはきょとんとした顔をしている。

「君だって呪霊操術を使っていただろう? 同じようにするんじゃないのか?」

 彼は立ち上がると両手を空に翳すように手を上げた。

「なにっ!?」

 細かい粒子となった呪力がすーに向かって集まってくる。

「君は、皮膚から……毛穴から呪霊を取り込んでいるのかっ!?」

 まさかの事実に驚いて膝をつく。息子は呪霊を取り込む動作を無意識に簡略化している──恐ろしいほどの才能だった。

 ──すー……素晴らしい。

 その才能は、私が味わった苦痛を伴わない。だが、だからこそ危険だ。君の力は、私たちが作ったこの平和な世界を守るためだけに使おう。私とせいらで、君の成長を正しく見守るよ。そして静かに微笑む。

 

『みんなーー!! ありがとにゃーーーん!!』

 

 ステージのせいらがにこにこと手を振っている。

 せいら帰還を祝う狂乱の宴は、まだまだ終わらない──。

 

おしまい

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。

●メインはpixivで活動しています。
 幽境編の続きもオマケ付きの一気見もあるので、
 もし少しでも気に入った方がいれば見にきてください。
https://www.pixiv.net/users/2225877
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