【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●7
まだ次の予定には時間があるようだったから、どこか散歩できる場所はないか聞くと庭園に案内された。
色とりどりの花々が、己の美を競い合うように咲き誇っている。
花弁のひとつが風に舞い、光を反射して視界をかすめた。その軌跡の先に、白衣のような衣をまとった男が立っている。
日差しを受けて淡く光る衣──黒い制服を着た五条悟とは正反対の色。
けれど、不思議と似ている。
「これはこれは──奇遇ですね。そよかさん」
声の主はもちろん、
「サーミルさん」
サーミルは先ほどまでと違い戯けたように笑い肩をすくめた。どこか悟を思わせるような表情と態度だった。
「どうぞ良ければ私をサーミルとお呼びください──そよか」
不意に片手を取られ、握手でもするのかと思ったけれど──彼は私の指先に小さくキスを落とす。
その動作がひどく滑らかで、手を振り払うことも出来なかった。
「失礼、ただの挨拶です。ですが、あなたの国ではあまりしないことでしたか?」
彼の唇はとっくに指先から離れているというのに、私は自分の顔も赤いまま、心臓の鼓動すら落ち着きを取り戻せずにいる。
「──可愛いらしい方だ。頬を染めたあなた以上に美しい花はどこにもいない」
頬に彼の手のひらがそっと触れそうになった。そよかは咄嗟に避けようとしてバランスを崩し、サーミルに抱き止められる。
「おっと、大丈夫ですか?」
逞しい体躯を感じ、そよかはかなり動揺してしまう。
「──っ!?」
ふっと微笑みを浮かべ、少し距離を取るサーミル。
「大丈夫ですよ。落ち着いて」
「……ありがとう、ございます」
そよかは胸の前に手をあてて、大きく深呼吸をする。
「ここの花を気に入っていただけましたか? 良ければ後で部屋にお待ちしましょう」
「いえ、私はどちらか選べるのなら大地に根を張る花の方が好きです」
「──なるほど。それはとても善い好みですね」
「……私たちの作った猫人形を気に入ってもらえたのは良かったですが、どうしてここまで?」
「私はあの猫人形に運命を感じました。コレクターをしていると、現物を見ずとも強く惹かれることがある」
「運命?」
「私の直感は正しかった。あの猫人形には君たちの"愛"が込められていて、その"愛"は持ち主の幸せを願う尊いものだったから──」
サーミルの赫い瞳が遠い過去を見るように細められる。
「君たちの人形は、その『本物の愛の残滓』を宿していた。だから、私は君たちを招いた」
彼は再び、真っ直ぐにそよかを見つめた。
「そして、私は知りたい。その"愛"は、誰に、注がれているのか──もう一度、形にできるのかをね」
その言葉は、まるで「人形を作った愛」だけでなく、「そよかの心そのもの」を要求しているかのようだった。
サーミルの真っ直ぐな赫い瞳に捕えられてしまったようで、そよかは呼吸をすることも忘れていたが、彼の唇が自身の唇に近付いてくることに気付いて搾り出すように声を出した。
「──戻らないと」
ふと微笑みを浮かべ距離を取るサーミル。そよかは部屋に戻るべく歩き始めた。
「يا نجمة الليل الساطعة، خذي حبيبي إلى دنيا النعاس. هل في حلمك مغامر شجاع؟ أم قائد للأنام، ملك التاج؟ أحلام سعيدة تراها عيناك. الآن نامي، يا ملاكي، فداك.」
サーミルの口ずさむ異国の歌声が遠ざかる。
その歌声はどこか寂しげで、何故かそよかの胸を締め付けた。
●8
なぜかサーミルの前から走り去ることに罪悪感を感じて、泣き出しそうになりながらも廊下を走っている。
全力で走りながら、ぐちゃぐちゃした思考を整理しようとしていたから、曲がり角から現れた人物に突然抱きすくめられた時は悲鳴を上げて頬に平手打ちをしてしまった。
「──で?」
私に平手打ちされた頬を赤くした悟の前で、正座をしている私。
「ご、ごめんなさい……」
「そよかが、サーミルと遭遇して困ってんじゃないかって急いでたらさー出会い頭にマジビンタだぜー? 俺傷付いたなー」
「本当にごめんなさい……」
悟と私のやり取りを見かねて建人さんが口を開く。
「五条さん、いい加減にしてください。そよかさんは先ほどから何度も謝罪していますし、反省しています」
「七海は黙ってろ!」
「それに五条さんは六眼でそよかさんの状態も理解できたはずです。平手打ちされることだって予想していたのでは?」
悟が建人さんを睨みつけている。図星らしい。
「そよかさん、五条さんは平手打ちされたことを怒っているのではなく。サーミル氏といい雰囲気になっていたことを怒っているのですが、付き合ってもらってもいない状況でそこを追求することが出来ずイライラしているだけです」
建人さんに片手を差し出され、私は手を借りて立ち上がる。
「ちょっ──七海! この! 裏切り者!!」
「──私もそよかさんが二人きりで庭園にいると知った時は平静ではいられませんでした。話せるところだけでも良いので、どんなやり取りをしたのか教えていただけませんか?」
もう片方の手を建人さんが重ねてきて、真っ直ぐに見つめてきた。ちらりと悟を見ると同じ目をしている。
──あぁ、私はこの二人から告白されていたのだったと改めて思い出した。
「ふぅん……そよか君がアラビアの石油王と結婚? いいじゃないか。応援したくなるね」
「冥さんやめてぇ!?」
悟が悲鳴を上げる。
「使用人の人たちにもサーミルのことを聞き込んだけど、変な噂とかはなかったな。雇用主だからかもしれないけど、使用人の人たちの質も高くて聞き込みがしづらい印象だった」
「ふにぁー。マッサージ気持ち良かったぁ〜」
お肌ぷるぷるのせいらが傑の膝に座って今にも溶けそうだ。
「……でもあんな広い部屋で夜一人で寝るの嫌だよう」
「ふむ。では女性は女性でひとつの部屋に集まろうか。ソファーで寝るにしても質の良い睡眠が取れそうだからね」
せいらの発言を聞いて冥さんが反応する。冥さんは続けて私をちらりと見たので何度も頷いた。
「庭園でのやり取りから察するにサーミル氏はそよかさん、せいらさんに対して何らかのアクションを仕掛けてくるかもしれません。五条さん、夏油さんは注意してください。私と冥さんは彼の目的をもう少し深掘りしたいと思っています」
パソコンに視線を落としながら建人さんが言った。
「さて、そろそろ食事の時間だね。サーミル氏は不在ということだが、どんな食事が用意されてるのか……」
「なんかさっきからとーっても美味しそうな、いい香りがする〜」
ふんふんと鼻を鳴らすせいら。
この時はまだ、非日常で贅沢な出来事が続いていてだいぶ気が緩んでいた気がする。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
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煌宴編の続きがあるので、
もし少しでも気に入った方がいれば見にきてください。
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