【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●9
ふかふかのベッドに潜り込んだものの、なかなか寝付けない。豪華な晩餐のおかげで、お腹は満たされているのに、何だか心がポカンと空いている感じがした。
(うにゃー……いつもの抱き枕もってくればよかったなぁ。そよかに抱きつくと何故かそよかが魘されるし……あれがないと、やっぱり寂しいよぅ……ぴえん)
眠れないこともあっていつもより聴覚が鋭くなっていた。
遠くに聞こえる小さなドアの開閉音と足音。
「すぐるだ!!」
起き上がり、小声で叫びきょろきょろする。
そっとベッドを抜け出す。そよかと冥さんは気持ちよさそうに寝息を立てている。
静かに部屋を出て、広い廊下に出た。
遠くで"カツ、カツ"と硬い靴音が響いている。すぐるの足音だ。こんな時間にどこ行くんだろ?
すぐるの呪霊に寝巻きを引っ張られる。
「大丈夫! すぐるの後を追うだけだから! 心配なら一緒に行こう!」
呪霊を抱き上げて、てちてちと薄暗い廊下を歩き始めた。
少しだけ心細くなって、足音を追いかけるように廊下を曲がる。このお屋敷は広すぎて、すぐに方向が分からなくなった。
いくつもの巨大な扉と、無駄に長い廊下。豪華すぎて、夜に見ると少し怖い。
「うにゃー……どこ? すぐるー」
広いホールを抜け、さらに奥の、少し薄暗いエリアへと迷い込む。
──そこに、ぼんやりと光る部屋があった。
「あっ……」
その部屋の壁には、オレンジ色の光で影絵が映し出されていた。幼い男の子と、手を広げて笑う王様の影。そして、その足元には二匹の猫の影が、ゆらゆらと揺れている。
「これは……誰かの思い出?」
影絵に見入っていると、背後から急に、低い声が聞こえた。
「──こんな時間に一人で散歩ですか?」
振り返ると、そこには少し肩の力が抜けた様子のサーミルが立っていた。ローブではなく、シンプルなアラビア風の寝間着のような白衣を纏っている。
彼もまた、目が覚めてしまったのか。
「ごめんなさい、すぐるの足音を追いかけていたんだけど、迷子になっちゃった!」
「構いませんよ。砂漠の夜は寒いでしょう。これをどうぞ」
羽織っていたガウンをわたしの肩にかけてくれる。
「ありがとう。サーミルさん」
「私のことはサーミルとお呼びください。せいら──さぁ、私と一緒に部屋へ戻りましょう」
優しくわたしの手を引き、出口へと案内してくれた。
──
その帰り道、きらびやかなコレクションルームの前を通った。
「あっ! わたしとそよかが作ったやつ!」
中央の台座に、せいら猫とそよか猫が並んでいる。
せいらはサーミルの手を振りほどき、猫人形の前に駆け寄った。
「…………」
「どうかしましたか?」
「あのね、サーミル。この子たち、ここで飾られているだけだと寂しそうだなって」
「寂しそう?」
サーミルの赫い瞳が、一瞬、大きく揺らぐ。彼の顔から、いつもの余裕の笑みが消えた。
「……なぜ、そう思うのですか」
「うーんとね……だって、抱っこしてもらったり撫で撫でしてもらえないと、寂しいもん! あとね、影絵の部屋もなんか寂しかった。あの王様、笑ってたけど……ほんとは一人なんじゃないかって思ったの」
せいらが彼の心の一番深い場所を突いた瞬間、廊下の角から、少し乱れた黒髪の傑が駆け寄ってきた。
「せいら! こんな時間に何をしている!」
傑は、せいらの安全を確認し、肩の白衣を直し、すぐに冷静さを取り戻した。
「すぐる!」
「──おや、失礼。彼女は、あなたを心配し探して迷子になっていましたよ。ちょうど今、お部屋までお送りするところでした」
しかし、その赫い瞳は、先ほどの動揺をわずかに残していた。
せいらの無自覚な優しさが、強靭な石油王の心に、最初の一筋のヒビを入れた瞬間だった。
「すぐる! どこ行ってたの! こんな夜中に!」
傑に近付いて、ふんふんと鼻を鳴らすせいら。
「なんか知らない人の匂いがする!」
ぐりぐりと頭を傑の脇腹に擦り付けながら、せいらは傑と手を繋いで部屋に帰っていった。
●10
──翌朝。
一行は、大理石のバルコニーで豪華な朝食を楽しんでいた。
「全部甘いのに、不思議と重たくない」
そよかが信じられないといった様子で呟く。
「おいしーぃぃぃ!! おいしーよぉぉぉ!!」
デーツ、カルダモンコーヒー、ザクロのジュース、色とりどりのフルーツにふかふかのパンケーキなどなど……陽光を受けて白く輝く邸宅と、遠くに見える砂丘の景色が美しい。
「ふにゃー! おいしかった! もう、動けない……」
せいらは大量のデザートまでも平らげ、傑の膝に頭を乗せ、完全に無力化している。
「ほどほどにしておかないと、今夜の宴席で食べられなくなるよ、せいら」
七海と冥冥は既に席を立ち、情報収集と警備状況の分析に向かっている。
悟は、そよかをエスコートしようと、そよかの顔を覗き込んだ。
「そーよかっ! せっかくアラビアまで来たんだから、デート行こうぜ」
「はぁ? デートって……。今は宴席の準備とか、情報収集があるでしょう」
「そんなのは七海や冥さんに任せとけばいいんだよ。俺たち最強はいざという時のために力と気力を溜めとくもんだろ。ほら、アラビアのロマンを体験しないと。この高級ラクダサファリのパンフレット見てみろよ。サンセットでキスとかロマンチックだろ?」
「なんでよ!? 破り捨てて!!」
悟はそよかの手を掴み、少し力を込めて引き寄せると、バルコニーを強引に出て行く。
傑(やれやれとため息をつき):「悟め。サーミル氏に先んじたい一心だろうな。七海、悟を頼む」
七海(通信機越し):「……大変迷惑ですが、五条さんの六眼がある限り、護衛は可能でしょう」
こうして、悟とそよかのアラビアン・デートが始まった。
二人がやってきたのは、砂漠のオアシス近くの高級サファリポイント。
「なんだがこの子……悟に似ているわ」
ラクダの中で一番緊張感のないラクダをそよかは選んだ。そよかが指を立てて首筋を撫でるとラクダはにんまりと笑う。
「どこが俺に似てるってー?」
間近でラクダにくしゃみをされるが、無下限呪術で唾液が空中で止まる。
「余裕って感じで澄まし顔してるところなんてそっくりじゃない?」
「そうかぁ?」
悟はラクダの背にそよかを乗せ、自分も隣のラクダに跨った。
「……ラクダって、思ったより背が高いのね」
「砂漠の船だからな。揺れが気持ちいいだろ? ほら、この景色、最高だぜ。誰にも邪魔されねぇ」
広大な砂丘を、ラクダの背に揺られながら進む二人。風の音以外は静寂に包まれ、ロマンチックなムードが漂う。
「──砂漠って、思っていたより静かね」
「だろ? まるでこの世界に二人だけみてぇじゃん。誰も邪魔しねーよ。サーミルだろうが何だろうが、俺の眼からは逃げられねぇしな」
悟は楽しそうにそよかの顔を覗き込み、一気に距離を詰める。そよかは迷惑そうに悟の口元を手で覆う。
「悟……私たちがここにいるって、もしサーミルに知られたら──」
「知られて困るか? 知られても別にいいだろ。 俺がお前を必ず守るし、そよかは俺のものだって知らしめてやる」
その言葉に、胸の奥が一瞬だけ熱くなった。
でも──今は、それを上手く言葉にはできなかった。
「誰が誰のものですって?」
そよかは悟の耳を強めに引っ張る。
「いたたたた!」
ここまでご覧いただきありがとうございました。
●メインはpixivで活動しています。
煌宴編の続きがあるので、
もし少しでも気に入った方がいれば見にきてください。
https://www.pixiv.net/users/2225877