【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●15
一同は、サーミルの玉座を望む最も上座に近い席に着いた。運ばれてきた料理の数々は、七海と冥冥が警戒する通り、見た目、香り、味の全てにおいて究極の美を体現していた。
七海はグラスに注がれたザクロのジュースを静かに見つめ、冥冥は肉料理に微細な呪力探知をかけているが、異質なものは検知されない。
小声で七海は言った。
「異物はありません。ですが、この美食自体が、邸宅の呪いを加速させる触媒になっている可能性が──」
悟は六眼で室内をくまなく観察し、即座に遮る。
「ハッ! 馬鹿馬鹿しい。毒なんざ入ってねーよ、七海」
目の前の金色の皿に盛られた料理をフォークで突き刺し、一口で平らげてみせた。そして、口元を拭い周囲に向けて言い放つ。
「おい。七海も冥さんも、そよかも傑もせいらも。全部食え」
傑は訝しむように眉をひそめる。
「悟? 警戒を解くのは早すぎるだろう。特に、せいらに何かあっては──」
「逆だ、傑。こいつの狙いは、食い物に毒を盛ることじゃねぇ。"最高の美を拒絶させること"そっちに呪いを仕掛けてんだよ」
そよかはハッとした。
「拒絶……?」
「そう。この完璧な美食を口にしないこと、あるいは"申し訳ない"という良心を持って"食べるふり"をすることとかな。その『美学への遠慮』が、サーミルへの敬意や心酔という呪いに変換されて、ジワジワと脳を焼かれる仕組みだ」
興味深そうに目を細める冥冥。
「なるほど。呪力を消費させずに、相手の倫理観をトリガーにする、実に巧妙な仕掛けだね。拒否や遠慮は、この空間で最大の悪徳というわけか」
「だから、全部食え。遠慮すんな。俺たちは、サーミルの美学なんざこれっぽっちも尊敬してねぇんだから!」
せいらは目の前のほとんど手をつけていなかった豪華な前菜のプレートを見て、涙目から一転、輝くような笑顔になる。
「食べていいの!? やったー!」
傑は悟を半信半疑に見つめながらも、せいらに優しく皿を差し出す。
「ああ、せいら。悟が言うなら、少しだけなら、いいよ」
「す、少しだけっ……」
せいらが俯いてぷるぷると身体を震わせた。
「せいら? どうした?」
慌てる傑。
「ふみゃー……わたし……すぐるのこと、はじめて嫌いになりそう」
涙目のせいら。更に慌てる傑。
悟は、誰よりも大胆に、しかし最も無警戒に、サーミルの提供した美を享受し始める。
「全部受け入れた上で拒否する。それが最適解だ!!」
サーミルは赫い瞳を細め、微笑みを浮かべた。
その後、宴席では、スープ、魚料理、肉料理とフルコースが儀式的な優雅さをもって進行した。
悟は、一口ごとに「美味ぇ!」と大声で言いながら、豪快に皿を空にする。そよか、七海、冥冥もまた、悟の指示に従い、完璧に振る舞われた料理を残さず平らげた。せいらは、傑の監視のもと、それぞれ少しだけは許され、うるうるとした涙目で堪能した。
しかし、サーミルは食事中、ほとんど自分の料理には手をつけず、ただ優雅にワインを嗜み、五条一行の様子を赫い瞳で観察し続けていた。
全ての皿が下げられ、テーブルの上に残ったのは、わずかなパンの欠片と、完璧に磨かれた銀器だけ。サーミルは、その完食されたテーブルを満足そうに見つめた。
静かにグラスを置き、会場に響く声でサーミルは言う。
「素晴らしい。さすがは"最強"の伴侶たち。私の美学を、寸分の拒絶もなく受け入れてくれた」
悟はふんぞり返り、笑う。
「食い物残すなんざ、行儀が悪いだろ」
サーミルは立ち上がり、静かに対話の開始を宣言した。
「結構。では、これより対話の時間としましょう!」
●16
サーミルはゆっくりと落ち着いた口調で話す。
「創造主たちよ。改めて聞いてほしい。私は君たち自身も、このコレクションの中核として迎えたい。作品だけでなく、君たちの──可能性も含めてね」
悟は軽口で受け流すが、その目は真剣だ。傑は冷静に状況を観察し、そよかは表情を引き締める。せいらは戸惑いつつも、純粋に褒められたことに赤くなる。
「私は、この猫人形に宿る"本音"の力を深く愛している。これは、金や石油では買えない『真の価値』だろう」
ゆっくりとサーミルは全員に視線を注ぎ、最後にせいらとそよか二人を見据えた。 「創造主よ。私は、この人形を量産してほしい。世界中のコレクターに、この『愛の力』を分け与えたいのだ」 せいらは目を丸くする。
「量産……? うにゃー?」
悟は咄嗟に言葉を返した。
「おいおい、それはどうかな?」 サーミルは、まるで五条悟が傲岸不遜な笑みを浮かべるように、口元をわずかに上げる。 「私には、対価として払えないものはない。『世界最強の呪術師』あなたが望むものすらね」
「俺が望むものだって? はっ、わけのわからねーこと言うじゃねーか。なんで俺が欲しいものを手に入れるために自分から欲しいものを手離さないといけないんだよ。わけわからん!!」
そよかに視線を向けながら、悟は呆れたように言った。
サーミルは悟と似た呆れた表情を返し、低く囁くように呟く。 「君たちが生んだものの根源が知りたい。作品の価値は創造主から切り離せない。だからこそ、創造主ごと──我が館に来てほしいのだ」
その言葉の裏には「支配」と「所有」の匂いが滲む。会話の端々に、彼の“最強の対価”の存在がちらついた。
サーミルは、その赫い視線を薄桃色のドレスを着たせいらに向けた。せいらは、視線を受けて微かに緊張する。
声のトーンを下げ、静かに、そして真摯に語りかける。
「そちらの小さな星。君は、この館の真の美しさを理解してくれているようだ。五条悟のような傲慢な光の側ではなく、もっと無垢で、純粋な愛の側に似合うよ。私は、君の愛を、最も完璧な形で永遠にコレクションしたい。信じなさい、この館の美しさは全て本物だ」
せいらは悟と傑の顔を見つめる。傑は表情一つ変えず、静かに見守っている。
深呼吸をして、真っ直ぐサーミルを見返す。その瞳は澄んでいた。
「……あのね、サーミル。このドレスも、お菓子も、全部、すごく綺麗だよ。嘘じゃないと思う。あなたが綺麗だって言っているのは、きっと本当なんだと思う」
わずかに目を見開き、サーミルは満足そうに微笑む。
「そうだろう?」
「 ……でも、わたし、すぐるが大好きで、すぐるはもちろんそよかやさとる、ナナミンや冥さんみんなと仲良く過ごす事がわたしにとって一番たいせつで、大事なことなの。だから……ごめんなさい。わたしは、あなたのコレクションにはなれない」
傑はせいらの頭を優しく撫で、口元をわずかに緩める。
その瞬間、サーミルの顔から一瞬、優雅な微笑みが消えた。彼は、せいらの純粋な"愛"による明確な拒絶に、初めてコレクションの失敗を見たかのように、わずかに動揺した。
すぐに優雅な表情に戻り、
「──それは残念だ。せいらには教育が必要なようだね」
冷たく笑い独り言を口にする。
すぅと息を吸い込むと、サーミルは会場全体に響く声で言った。
「せいら! では君には特別なデザートを用意しよう!」
手をかざすとそこに扉が現れて開いた。
「わぁ!! お菓子のお家だ!!」
せいらは無邪気に立ち上がり、ドアの向こうのお菓子の家に走って近付いていく。
「せいら待て!!」
傑も慌てて立ち上がりせいらを追う。
「せいら!」
立ち上がろうとしたそよかの腕を悟が掴む。
お菓子の家に続く扉は、せいらと傑が中に入ると静かに閉まってしまった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
●メインはpixivで活動しています。
煌宴編の続きがあるので、
もし少しでも気に入った方がいれば見にきてください。
https://www.pixiv.net/users/2225877