【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
傑とせいらが「お菓子の家」の扉に消え、扉が閉まった直後。宴席に残されたのは、悟、そよか、七海、冥冥、そしてサーミル。静寂が、シャンデリアの輝きを圧し潰すように重く広がる。
サーミルは静かに笑う。
「五条悟。これで、君の味方は二人減った。残ったのは、呪術界の"金銭の価値を知る者"と"優秀な補佐官"そして"愛着の創造主"だ」
サーミルは、赫い瞳を冥冥に向けた。
「冥冥さん、あなたの噂は聞いている。あなたは、価値あるものにしか従わない。そして、あなたにとって最大の価値は"金銭"。私はあなたの"金銭哲学"に心底敬意を払いたい」
冥冥はワイングラスを揺らしながら応える。
「ふふ。その通りだよ。では、対価だ。君が提示したものが、私がこの館を出た後の"長期的な安定収入"を上回るなら、話に乗ろう。ちなみに、提示額の最初の桁が十億ドルに満たないなら、話すだけ無駄だがね」
サーミルは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「長期的な安定収入? もう必要ないでしょう。私はあなたに、数百年分の富を一瞬で与えます。あなたが今まで続けてきた"呪霊との関わり"など、やめてしまうといい。そのかわりあなたの知る情報を、五条悟の"無下限呪術"の解析データを私に提供してください。それが、あなたへの提案だ」
クスリと、上品に笑う冥冥。
「サーミル。君は富の価値は知っているが、物事の価値までは理解出来ていないようだね」
冥冥はゆっくりとグラスをテーブルに戻し、首を横に振る。
「君の提示した額は、私の"今夜のディナー代"としては申し分ない。だが、"対価"としては、まるで釣り合わない。五条悟、彼は"最強"という市場で、無限の安定収益を生み出す"唯一の存在"なんだ。つまりは"金の卵を生んでくれるガチョウ"ってことだよ」
悟はガチョウっぽい顔をして、隣の席のそよかを笑わせている。
「そして何より、サーミル。君は理解していない。ある界隈では"五条悟の恨み"は、一国の石油利権よりも遥かに重い。それは、金では決して買えない"死のリスク"と同等のものだよ。私は、五条君や夏油君から目をつけられず、安定した高収入を生む、今のビジネスモデルが好きなんだ。私は"最強の二人"という最大の株主にベットしようかな」
ニヤリと笑い、冥冥に拍手を贈る悟。
「フッ。賢明だ、冥さん」
サーミルは初めて、明確に不満を顔に浮かべ、その赫い瞳に苛立ちが滲む。
「……ふむ。合理性も、行き過ぎれば臆病にもなるか。では、最後に創造主。君とも話しがしたい」
悟はサーミルの言葉を遮るように、静かに、しかし明確な怒りを込めて言った。
「お前のやってることは、ただの金にまかせた悪趣味だ」
その瞬間、サーミルの微笑が消える。
「悪趣味だと? 君は“全て”を持っているからそう言える。だが、私には金で買えないものが理解できているよ。私の母は日本人だった。彼女は早くに亡くなり、私はその優しさと故郷の愛着を得られずに育った。──私の収集は、その失われた愛を取り戻すための儀式なのさ」
サーミルは感情を排した顔で、そよかへ視線を向けた。
「特に君の揺るがない知性と、その瞳の奥の寂しさは──」(私の愛しい人の影を重ねさせる)
自らの右の指先を、そよかの顔から離した空間で滑らせる。まるで、手の届かない宝石の輪郭を、遠くからそっとなぞるかのように。
●18
会場の音楽が変わる。古風だが情熱的な、アラビアの舞曲だ。
「ダンスを一曲──創造主への敬意として」
サーミルは自身の胸に右手をあててから、そよかに向かって手を差し伸べた。
悟が制止しかけるが、そよかは悟の腕に添えていた手を離し、彼をまっすぐに見つめ、静かに頷く。
「悟、私たちは彼のことを知らなすぎると思うの……あなたがいてくれるんだもの、きっと大丈夫。でしょう?」
サーミルが優雅に曲げた腕に、そよかは手を添える。二人が踊り始めると、金の光が床に揺れた。
──会場が静止したような一瞬。
サーミルの口から放たれた音の波が、そよかの周囲を包む薄金色の呪力の膜として悟の視界に焼き付いた。
「أنتِ مَلاكي(アンティ・マラーキー)」
(──私の天使よ)
それは、周囲には愛の囁きにしか聞こえないが、六眼には通常の呪言ではない、心象を侵す暗示波として見えた。微細な光の糸が、サーミルの声に同期して、そよかの胸に入り込む“侵入の軌跡”。
悟の世界が、一瞬だけ“赫”色に染まった。
「──今、何が……?」
七海が異常を感じ取り周囲を見回す。
悟がグラスを握る手に力がこもり、パリンと音がする。液体が手を伝って床に滴り落ちる。六眼には、そよかの心臓の鼓動が乱れて見えた。まるで何か“別の感情”が挿し込まれたように。
「五条さん、落ち着いてください。ここは戦闘区域ではありません」
「落ち着いてるよ。ただ、“今のは”は許せねぇ!」
七海に小声で囁く冥冥。
「時間稼ぎだね。この暗示波、かなり厄介だよ。私たちとそよかを遠ざけ、彼女の心の中で"取引"を成立させるつもりだ」
七海は周囲を素早く見回し、サーミルが用意したであろう非常口や脱出経路の呪術的痕跡を探す。
「交渉は決裂ですね──五条さんはそよかさんを頼みます。我々はまず脱出経路を確保しなくてはならない。冥冥さん、あの「お菓子の家」の扉から、夏油さんとせいらさんが無事に戻れるルートを探してください」
「わかったよ。最高の利ザヤを確保するためにも、この状況は長く続けさせない」
七海は、ダンスを続けるサーミルとそよかを警戒しつつ、会場の壁や柱に施された呪術的痕跡の解析を静かに開始した。
そよかの瞳から光が消える。
「──私、は」
サーミルは柔らかな照明の中、甘く低く囁く。
「私の母は、日本の出身でね。彼女はよく、夕暮れの紫がかった青い光を見て“帰りたくなる”と言っていた。……君の瞳も、あの光に似ている」
そよかの言葉の端に、かすかに自分の意識とは違うものが混じる──まるで自分の声じゃないような感覚。
「──そう、だったのね」
「君がいれば、私の心は満たされる」
その瞬間、そよかの胸奥に"温かさ"が流れ込む。
それは愛ではなく、支配の模倣。理性が拒絶を試みるが、足先は彼のリードをなぞるように動く。
「そよか、君は私を選んでくれるね?」
七海はサーミルから悟へ視線を移し、その握りしめられた掌の血を見る。
「ここからが、本当の“戦い”のようですね──」
ここまでご覧いただきありがとうございました。
●メインはpixivで活動しています。
煌宴編の続きがあるので、
もし少しでも気に入った方がいれば見にきてください。
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