【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●3
「やっ! 皆さんおはようございます」
にこにこと片手を上げて、教室にラフな格好をした夏油さんが入ってきた。
僕らの教室には僕こと乙骨憂太、パンダ君、狗巻君、真希さん、そして里香ちゃん。本当は人数がもっといるんだけど、任務とか色々あってこのメンバーが揃うことが多い。
「おっはようございますー!」
せいらさんという夏油さんの奥さんも続いて元気に入ってくる。僕たちも朝の挨拶を返した。
二人は教壇に立ち、僕たちを見回し──
「今週は私たちが君たちの指導を担当します」
「担当しまぁす!」
「えっ、五条先生は?」
「五条先生は先日の記者会見の内容を全世界の人々に説明してまわることになっていてね。そよかや七海も一緒に世界旅行さ」
「楽しそうだよねー。わたしも行きたかったー」
少し驚いた顔をしてせいらさんを見る夏油さん。
「そんなこと一言も言ってなかったじゃないか。今からでも連絡するかい?」
「行かないよ。すぐるとすーちゃんと離れるの嫌だもーん」
にっこり顔の夏油さん。パンダ君もそんな表情をしていた。
「あ! はいはーい!」
隣の席の里香ちゃんが立ち上がって手を上げる。
祈本里香こと里香ちゃんは、6年前のあの日事故に遭うところをせいらさんに助けてもらっていた。しかし強力な呪霊にそのタイミングを狙われ、取り込まれて死を偽装されていたのだ。呪霊の精神世界で成長した里香ちゃんは二級術師に相当する実力があることが先日証明され、僕たちと同じクラスの仲間となった。
夏油さんが祈本さんどうぞと声をかけると、
「すーちゃんの名前! 決まったんですか?」
授業とは関係のない質問で一同ずっこける。里香ちゃんはせいらさんやすーくんと、彼が生まれた時から一緒にいるから特別に思うところがあるのかもしれない。
「すーの名前は、私の名前を継いでもらおうと思って。だから傑ジュニア、すー、すーちゃんといった感じで呼んでもらえたらと思います」
「わかりましたー!」
にこにこと里香ちゃんが着席する。
「みんな朝ごはんはちゃんと食べてきたよね? 一、二時間目は実技にするから着替えてくれるかな」
一同、動きやすい格好に着替えて校庭に集合する。
「まずはこれを乙骨君に返すよ」
夏油さんが手を翳すと現れたのは里香ちゃんだと思い込んでいた呪霊だった。ぞくりとする気配にみんなも少しだけ身構える。
「返すって、僕は呪霊操術は使えないですけど……」
「うん。しかし、この呪霊は君に対する思い入れが強いからね。取り憑かせる要領で君に返したいと思って」
「……はぁ」
すーっと僕の背後に移動してきた。
「それから、その呪霊は今は中身がない状態だから今まで通りの使い方をするには一工夫必要なんだ」
「一工夫?」
「祈本さん、ちょっといいかい?」
里香ちゃんをちょいちょいと手招きする夏油さん。
「は、はい!」
ととっと近付いた里香ちゃんの腰のあたりを持って、僕の後ろに近付けると……。
「わっ!? わわっ!!」
里香ちゃんの身体は呪霊の中に吸い込まれていった。
「りっ!? 里香ちゃん!?」
『あ、あれぇ?』
呪霊が驚いたように自分の両手を握ったり開いたり、不思議そうにしている。
「中身を入れてしまえば今まで通り使える。ただ基本的な使用は3分、長くても10分内で済ませることをおすすめするよ。馴染んでしまったら帰ってこられなくなるからね」
「なんの説明もなしにやらないでもらえますか!?」
「あれ? おかしいな。このことに関しては悟が先に説明しておくと言っていたんだが。行き違いがあったようだ。申し訳ない」
自分の顎を片手で撫で付けるようにして夏油さんが謝ってくれたけど、正直それどころじゃない。
「り、里香ちゃん! 大丈夫? 苦しかったりしない?」
『憂太ぁ。大丈夫だよぉ。なんだか着ぐるみの中にいるみたい〜』
「里香ちゃん! とりあえず出てこよう! なんかすごく心配だから! お願い!」
呪霊の身体がぶるぶる震えて、ぴょんと里香ちゃんが飛び出てきたので抱きとめる。彼女の身体の重みと感触を感じて安堵の息をもらした。
●4
スイス・ジュネーブ、国際会議場。世界各国の政府・軍事・呪術関係の代表者約100名が集う。壇上には五条悟、その両隣に七海建人とそよかが立っている。
五条悟が世界に向けて「呪術界の情報公開と、各国への協力体制」を発表した後の、質疑応答セッション。
静まり返った会場に、議長の声が響く。
「……以上で五条氏の基調講演を終了します。これより、各国代表による質疑応答に移ります。まず、アメリカ合衆国代表団、国防総省のマクレガー大佐」
会場後方から、マクレガー大佐が立ち上がった。
「五条氏。貴殿の主張は理解した。しかし、貴殿が主張する『特級』レベルの呪霊がもしニューヨークに出現した場合、貴殿一人で対処可能だと? 我々のデータでは、そのレベルの脅威を一人で『無害化』することは非現実的だ」
七海建人がマクレガー大佐の言葉を淀みなく訳す。五条はマイクを手に、軽く肩をすくめた。
「ああ、可能だよ。非現実的? ふーん。君らの持ってるデータが古すぎるんだよ。僕の術式はね、『非現実』を『現実』にするためのものだから」
七海は一瞬目を閉じて深呼吸し、英語に訳す。
「──(訳)彼は、『無下限呪術』によって、その脅威を即座に無力化できると主張しています。従来のデータは彼の能力を適切に評価していない、と……」
七海が通訳を終え、会場がざわつく中、次に中華人民共和国代表団の李氏が立ち上がった。
「我々が懸念するのは、貴殿の能力の『再現性』だ。貴殿は、その『最強の術式』を、他者に伝授または共有するつもりはあるか? 我が国の安全保障に関わる問題だ」
李氏の質問を、今度はそよかが通訳する。彼女の英語は、流れるような発音と、完璧な語彙、そして何よりも質問者の意図を的確に捉えた外交的なニュアンスに満ちていた。
会場の視線が、五条から、その隣に立つそよかに向けられる。
各国代表の脳裏に、同じ驚愕が走った。
特に、女性閣僚や熟練の外交官たちは、彼女の比類なき言語センスと、いかなる感情も読み取らせない冷静な表情、そして「五条悟の隣に立つ」という重圧をものともしない並外れた胆力に目を奪われた。
(「(彼女は)単なる通訳ではない。彼の発言の裏にある意図を完全に理解し、必要に応じて『調整』している……!」)
(「これほどの言語能力と洞察力を持つ人材が、これまで日本の呪術界に隠されていたとは……」)
彼女の知的な輝きは、洗練されたスーツ姿から溢れ出ていた。引き締まったウエストと、優雅な曲線を描くヒップラインは、東洋的な美しさと現代的なキャリアウーマンの凛々しさを兼ね備えている。
特に、時折見せる伏し目がちな横顔は、その知的な印象をさらに引き立て、一瞬の憂いさえ感じさせ、「あの五条悟が選んだ女性」という事実が、その魅力を一層特別なものにしていた。
五条は腕を組み、ニヤリと笑う。
「再現性? それはちょっと難しいかな。だってこれ、僕の『個性』だからさ。努力とか才能とかいうレベルの話じゃなくて、『五条悟』にしか使えないようにできてるんだよね。残念だけど、君らには『最強の遺伝子』が足りないってこと」
そよかは顔色一つ変えず、この「世界への煽り」を穏やかな英語に変換しなければならない。彼女は数秒の沈黙の後、優雅に通訳した。
「(訳)この術式は、五条家相伝のものであり、彼個人の特異な遺伝的要素に強く依存しています。そのため、現時点では第三者への移植や訓練による習得は技術的に困難である、とのことです」
その巧みな言葉選びは、五条の傲慢な本意を損なわない程度に、国際会議の場で許容される範囲へと見事に軟着陸させた。会場に、再び感嘆のざわめきが広がる。
(「……まさか、あの五条悟を、言葉の力で『操っている』とでもいうのか?」)
(「彼女は、日本の外交にとって、あるいは呪術界にとって、五条悟と同等、いやそれ以上に危険で、かつ不可欠な存在となるやもしれん……」)
七海はそよかの「外交的修正(オブラート)」に、わずかに感謝の視線を送った。五条はそれに気づかず、続けて付け足す。
「そよか、言葉が丸くなってるぞ。まあいいけど。とにかく、僕の力は『ワンオペ』で十分だってこと。君らが心配しなきゃいけないのは、僕が機嫌を損ねて、誰も守ってあげたくなくなることだけだね」
そよかはここで通訳を放棄し、五条の脇腹を誰にも見えないように鋭い肘鉄で突いた。
「(…悟、外交会議よ。プロポーズの記者会見じゃないの。自制して)」
五条は「言って!」と口パクで訴えたが、すぐに表情を戻した。
「失礼。つまり、僕の精神的な安定が、世界平和に直結するってこと。そのためにも、僕の婚約者は大事にしなきゃね」
そよかの腰を抱き寄せにやりと笑う。
七海が眼鏡を押し上げ、ため息を隠しながら、最後の質問者に視線を向ける。
「最後に、フランス共和国代表団より、デュボア氏」
デュボア氏の質問は、より哲学的だった。
「五条氏。貴殿は、呪術が『人類の負の感情』から生まれると説きました。貴殿の結婚、そして世界への情報公開は、一見平和的ですが、人類の集合的な嫉妬や憎悪を、かえって増幅させる危険性はないか? 最強の光は、最強の闇を生むのではないか?」
この深遠な問いに、五条は静かに答えた。彼のふざけた表情は消えていた。
「闇は、光がなくても生まれる。それが人の性だ。僕が結婚しようが、世界が平和になろうが、人間は妬むし、恨むし、呪い合う。それは止められない。だからこそ、僕がいるんだ」
七海がその言葉を訳し終えると、五条はそよかと七海の肩にそれぞれ腕を回した。
「僕がここにいるのは、『最強の闇』を完全に潰すためじゃない。それは無理だ。僕の使命は、『僕の家族』や『僕の教え子』や『僕が愛した全ての世界』が、その闇に負けて、絶望しないようにする。ただ、それだけだ」
彼の言葉は、傲慢さと純粋な献身が入り混じっており、その場にいるすべての代表者に、最強の呪術師の『本質』を突きつけるのだった。
会場を出ると、外は静かに雪が降っていた。
──白い街灯が、ゆっくりと舞い落ちる雪に反射している。
「……イルミネーション、見に行こっか」
その言葉に、そよかは小さく笑う。
「五条さん……この後は会食です」
はぁと大きめのため息と共に、七海が五条の肩をがっしりと掴んだ。
「お前、空気よめよぉー!!」