【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


70炎陽編 5・6:愛のシステムと自己中心的な論理、永久保証の安定と邪魔な補佐官

●5

 

 夏油傑の宗教法人施設内、人目のつかない静かな場所。イベント用の大ホールだが、あえて照明を点けず薄暗い空間となっている。禪院直哉は『呪術界限定の一夫多妻・一妻多夫制』の情報を掴みやってきた。

 

「おい、夏油。聞いたで。『呪術界限定の一妻多夫』いう、おもろいルールが出来たようやな」

 傑は目を細めて、穏やかに言葉を返す。

「ああ、そうだよ。いつ死ぬかもしれない呪術師にとっては救いになのかもしれないね。最も合理的で非効率なシステムだ」

「フン。合理的やと? 冗談も大概にせぇ。それが真実なら、俺かてせいらと結婚できるわけやろ! 御三家の俺が、せいらを貰い受けるんが、世間の道理ってもんやろ! 元々せいらは五条家に名を連ねておったわけやし、正夫に相応しいのはお前やない。俺や!」

 傑は静かに微笑んでいるが、その瞳からは笑みが消えた。

「君らしい、自己中心的な論理だね。最近は似たような事を言ってせいらに迫る連中が多くて。だから正夫の私が、まずいくつかのルールを設けた。君がせいらの『二番目の夫』になるには、その条件を全てクリアする必要がある」

「ケッ、上等や。言ってみろや! お前が夜なべして考えたアホみたいな条件なんぞ、俺が一瞬で塵にしたるわ!」

 傑は一切の感情を交えず、予め定めていた『せいらの夫になる条件』を直哉に告げる。

「一つ。『せいらの安寧を乱さず、せいらを守る能力があること』これは君なら呪術師だし、クリアかな」

「…………」

「二つ。『挑戦権』として──」

 直哉に向かって手のひらを開いてみせる。

「なんぼか用意せぇってことか? 5? 50か?」

 直哉は金銭的な価値を最も容易な障壁と見なし、鼻で笑いながら言う。傑は、その傲慢な推測を静かに首を横に振って否定した。

「フフ。呪術界のトップに立つ君にとっては、500万円というリソースは特に負担にもならないだろう」

「ハァ? 500万? ケチな額やな。鼻で笑うわ。そんな金、財布の肥やしにもならんしな!」

「正直、自尊心が強い君が二番目の夫でもいいと言ってくるとは思っていなかったんだ。御三家価格でも設定しておけば良かったかな──本当にせいらとの良縁を求める要望が多くて。困っているんだ」

「次や、はよう次を言え!」

 傑は直哉の傲慢さを無視して、

「そして、三つ目──『せいらの幸福を守る』に足る実力を証明することだ」

 傑が呪力を込めた瞬間、空間の空気が一変する。

「その実力は、私の『呪霊操術』によって用意された最高の防衛者と戦うことで証明してもらおう。さあ、直哉君。君の『論理的な強さ』を見せてくれるかい? 私の愛するせいらに、誰も軽々しく触れさせはしないよ」

「チッ、お前の陰湿な呪霊なんぞ、領域展延もどきで瞬殺したる!」

 直哉の足元から、傑が操る特級クラスの呪霊が静かに這い上がってくる。直哉は禪院家の術式で猛攻を仕掛けるが、傑は次から次へと大量の呪霊を出現させ、直哉は無限に湧き出す呪霊の群れに、次第に疲弊していった。

「ハァ…ハァ…なんやこれ! 呪霊使いの雑魚が考えつく、最も非効率で陰湿な戦い方やな!」

 直哉は呪霊を倒すことが目的ではないことに気付く。

「チィ! 雑魚呪霊なんぞいくら垂れ流しても、お前の呪力リソースは尽きへん!」

 直哉は呪霊の群れを無視し、自身の術式を限界まで凝縮させ、真正面から夏油傑の本体へと突進する。

「正解は、お前自身を潰すことや!!」

 直哉の拳が傑の頬をかすめる直前、傑は一歩引いて直哉の突進を受け流した。同時に、直哉の背後から迫っていた特級呪霊が直哉を容赦なく叩きつけます。

「ぐあっ……!!」

 地面に叩きつけられ、自身の血液にまみれてぼろぼろになった直哉を見下ろし、傑は静かに微笑む。

「フフ。さすがは直哉君。『システムの構造』を理解し、『最も効率的な解決策』にたどり着くのは早かった。正解だよ。だが──」

 傑は冷たい視線で直哉を見下ろしている。

「私の『愛のシステム』は、君の『傲慢な論理』より常に一歩先にある。敗北だ、直哉。そして、実は更に条件が残っている」

「…………」

 直哉は憎々しげに地に伏したまま傑を見上げた。

「せいらは純粋で物事に疎い。私も結婚と同等の約束をしてもらうまでは苦労したんだ。そんな彼女に一妻多夫の仕組みを説明して、彼女自身に承諾させること──君には到底出来ないだろう?」

「クソが……」

「なんとでも言えよ。所詮君は負け犬さ」

 

 

●6

 

 スイス・ジュネーブ、最高級ホテルのペントハウス・スイート。窓からは雪化粧をした夜のジュネーブ市街が見下ろせる。

 

 世界呪術サミット終了後、会食をすっぽかした五条悟と、巻き込まれたそよか。七海は五条不在の穴を埋めなくてはならず別行動中。

 

「それで? そよか。今や俺は世界の五条悟となったわけだけど、いつ結婚してくれるの?」

 五条悟は、高級なソファに足を組み、片手でグラスの縁を弄びながら、にやりと笑った。世界を相手にした激しい質疑応答の後だというのに、彼の表情には疲労の色は微塵もない。

 そよかは、テーブルに置いた資料を整理しながら、その質問を完全に無視した。

「悟。建人さんには『体調不良の私を心配して部屋にいる』と伝えておいたけど……会食をすっぽかした件、明日までに世界に向けてどう釈明するかを先に考えておきなさいよ」

 悟はグラスをテーブルに置き、彼女に近づいた。その足音一つでさえ、空間の空気が変わる。

「んなこと、僕が適当に言えば誰も文句言わないよ。そよかだってさっき、世界を相手に僕の傲慢さを完璧に『技術的に困難』って変換してくれたじゃん? 最高だったよ、僕の外交官」

 彼はそよかの背後に立ち、テーブルに両手をついて彼女を囲い込むような体勢を取った。彼女の洗練されたスーツから漂う、知性とわずかな緊張の香りが、五条の鼻腔をくすぐる。

「ちょっと、悟?」

 そよかが反射的に振り返ろうとすると、五条はわずかに身をかがめ、彼女の耳元に囁いた。

「ねぇ、七海が質問を訳している間、君はずっと僕のことを見てたろ? 僕の言葉を、どう言い換えるか、じゃなくて、僕の目を見てた」

「……当たり前でしょう。あなたの次の爆弾がどこから飛んでくるか、予測しなければならなかったんだから」

 そよかは冷静さを保とうとするが、彼の甘く熱を持った声が耳朶を撫で、身体の芯がわずかに揺らぐのを感じた。

「予測? 違うね。そよかは、僕の言葉の裏にある『愛』を探してた。僕の『精神的な安定が世界平和に直結する』っていう言葉を、わざわざ通訳を放棄してまで『大事にしなきゃね』って言わせたのは──」

 悟はそこで言葉を切り、そよかの顎をそっと持ち上げた。その六眼が、彼女の理性の壁の奥を射抜く。

「君も、僕の愛が世界平和に不可欠だと思ってるからじゃないの?」

 そよかの頬に、僅かに熱が灯る。彼女は視線を逸らそうと藻掻くが、五条の強引な視線からは逃れられない。

「……悟、論点をすり替えないで。結婚は情緒的な愛だけでは成立しないわ。七海さんの提示する安定──その要素が、あなたには、まだ決定的に欠けている。私の仕事は、あなたの傲慢さと世界の期待を天秤にかけることよ」

「安定、ねぇ」

 悟はクスリと笑うと、背後の窓の外に広がる雪景色のジュネーブを指差した。

「見てごらんよ、そよか。この世界はね、僕の『不安定』の上に成り立っているんだ。僕の存在そのものが、最強の安定なの。そして、その僕が唯一心底欲しがって、手に入れられていないもの。それが、君だ」

 悟はそよかの手に自分の手を重ねた。五条の指は長く、そよかの手首まで覆い尽くしてしまうほどだ。

「僕が君を妻にすれば、僕の精神的な安定は永久保証される。これで、君の言う『安定』は確保されたんじゃない?」

「……それは、私の安定ではなく、あなたの安定でしょう」

 そよかの胸の鼓動は、今、最強の呪術師の揺るぎない愛によって、駆け足になっていた。

 フッと微笑んだ悟が顔をそよかに近付ける。

 

 ──バーンと部屋のドアが開かれる。

「お元気そうで安心しました」

 ツカツカと七海建人が近づいてきて、五条悟の肩を掴む。

「七海ぃぃ! 今さー! いい雰囲気だったわけ! 邪魔すんなよ!!」

「はぁ、五条さんはこの程度の邪魔で音を上げるんですか?」

 悟は七海とそよかの顔を交互に見て、ため息をつく。

「……わかったよ。場所は?」

 七海から紙片を受け取り凝視する。

「そよか。帰ったら続きしようね」

 悟は七海の首に片腕を回すと、目隠しを直して姿を消した。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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