【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


73炎陽編 11・12:脳髄の強制排出と金魚鉢の凍結、千年ものの白子と鯉の餌

●11

 

 平安時代末期、呪術が頂点を極め、魑魅魍魎が跋扈する時代。その闇の深奥で暗躍していた一人の呪詛師がいた。名を羂索(けんじゃく)という。

 

 彼はその長きにわたる活動と、自らの術式の酷使により、この世に生まれ落ちた自身の肉体の衰弱をはっきりと感じ始めていた。顔には皺が刻まれ、以前のような呪力操作の繊細さも失われつつある。人類の新たな進化という壮大な野望を成し遂げるためには、今、この肉体を捨てる時が来ていた。

 羂索は、来るべき乗り換えのため、密かにターゲットを選定していたのだ。その対象は、彼の存在を知ることなく、世の片隅で生きていた若き血縁者の呪術師である。血縁関係にある肉体は、術式の相性が最も良く、また、自身を神の如く崇める無知な血族は、抵抗も少ないだろう。

 

「この童の肉体ならば、さらに千年、私の野望を支え得る」

 羂索はそう合理的に判断し、秘匿された儀式の間に、厳重な結界を張り巡らせた。衰弱した肉体を乗り換え、新たな生を得るための、歴史上で最も重要な瞬間の準備が整った。

 闇の中、静かに、そして確信に満ちて、羂索は自らの頭部に手をかけた。

 

『──強制排出』

 童と羂索しかいないはずの空間に、一人の侵入者があった。しかし、羂索は脳脊髄液を撒き散らしながら床に脳だけ叩きつけられ、年老いた自身の身体はゆっくりと倒れていく。

『呪力で脳を覆い、自ら蓋を開けたのが運の尽きね』

 この得体の知れない侵入者は、羂索の身体からいとも簡単に脳だけを取り出し、床に叩きつけてみせたのだった。

 

『自分の血縁者まで手にかけて利用するなんて、ひどい人……』

 童にふわりと手をかざすと、羂索が入ろうとしていた頭部は綺麗に塞がってしまう。

 

 痛覚のない脳そのものの姿でありながら、羂索は激しい怒りで痛みにすら似た感覚を味わっている。

 肉体を失い、剥き出しの脳髄となった彼は、地面に倒れた自身の老体の横で、目の前の光景を認識した。

 

 そこに立っていたのは、白い質素だが上質な着物を纏い、呪術とは異なる異質な力を操る一人の女だった。

 

「誰だ、貴様……この私に、何の権利があって邪魔をする! この悪魔! いや、魔女め!」

 脳だけの状態でありながら、羂索は呪力を凝縮させ、怒号を放つ。しかし、その声は本来なら誰にも届かない無音の振動に過ぎなかった。

『ふふ……流石は謀(はかりごと)の達人ね。あながち間違っていないかもしれないわよ』

 

 女は羂索の脳を直視することもなく、ふわりと持ち上げる。重力も呪力も意味を成さない、非接触の浮遊。その手には、水と数匹の金魚が泳ぐ、素朴な金魚鉢が握られていた。

『あなたの計画は、私が預からせて貰うわ。筋書きがだいぶ歪んでしまうけど、そうした方が被害が少ないもの』

 次の瞬間、羂索の千年分の悪意と野望の詰まった脳は、"ぽちゃり"という間の抜けた水音と共に、金魚鉢の中に落とされた。水に浸された途端、脳は痺れ、思考は急速に濁っていく。

 その女の力が脳の活動そのものを凍結させたのだ。

 

 羂索の屈辱、怒り、そして呪力による抵抗の試みは、ただの水面に微かな波紋を広げるだけに終わった。

 

 

●12

 

 それから、千年近い時が流れた。

 

 羂索の意識は完全に停止したまま、透明な金魚鉢の中で、水と金魚と共に現代の東京へと持ち越されている。

 

 金魚鉢は、呪術学園の一室。

 女の管理する"科目準備室"のアンティークな棚に、奇妙なオブジェとして飾られていた。

 

 ──ある日の午後、部屋のドアが軽快なノックと共に勢いよく開き、一人の少女が入ってくる。

 その女を師と仰ぐ、名をせいらという。

 せいらは部屋に入るとその日はすぐに棚に目をやった。

「お師匠〜。そういえば、このでっかい白子みたいのなぁにー?」

 ソファで優雅に本を読んでいた女は、顔を上げずに答える。

「それはね。遠い昔は普通に生きていたけど、悪いことをしようとしたから、私が脳みそだけにした呪詛師よ」

 せいらは金魚鉢に顔を近づけ、目を丸くする。

「えぇっ!? これ脳みそなの!? キッショ!!」

 女は本を閉じ、小さくため息をついた。

「…………」

「あぁ、ごめんごめん。キッショとか言っちゃいけないね〜」

 そう言いながら、せいらは金魚鉢を撫で撫でと触った。

「焼いて食べたらどんな味がするんだろう。美味しいのかなー」

 じーっと興味津々に見つめるせいら。

 女は羂索の脳が浮遊する金魚鉢を、せいらの前に差し出した。

「せいら、これのお世話をお願い出来る? 餌は鯉の餌でいいから、あと一週間に一回は水の入れ替えをしてね」

 思わぬ指示に、せいらは一瞬だけ心底嫌そうな顔をした。

「うにゃ!? わたしがやるのぉ? やだなぁ……」

 つい本音がもれるせいら。

「これは修行よ。どんな生き物にも慈しみ大切にする心を待つためのね」

「仕方ないなー(しぶしぶ)」

 せいらはぶつぶつ文句を言いながら、金魚鉢を手にする。そして、水面でプカプカと浮かぶ羂索の脳に、視線を向けた。

「うーん。脳みそのお世話かぁ。しかも鯉の餌って、これがそれを食べるの? ホントにぃ?」

 ちょいちょいと指先で脳の表面に触れると、せいらはゾクゾクと身体を震わせる。

「うにゃあ……ぷっるぷるのぬるぬるだぁ……」

 

 後にこの羂索の脳みそは、現代におけるAI並に使えるとせいらは評価し日頃の小さな悩みの解決や宿題で横着するためのツールとしてこっそり活用していくことになる。

 

 羂索改め"けんちゃん"。それがこの金魚鉢の中に浮遊する脳みそにせいらがつけた愛称だった。

 

 ギチギチと不満そうに歯軋りをする羂索。

「はいはい、今回もありがとうね"けんちゃん"! ほら鯉の餌だよぉ〜」

 せいらの手から放たれた鯉の餌が、ぱらぱらと水面に踊った。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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