【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●13
ちゃぷん! ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ……!!
羂索入りの水槽を頭に乗せて、せいらは高専(呪術学園の高等部の校舎)内の廊下を軽やかに走る。
「にゃーん! 到着しましたー!」
そよかの執務室、部屋の中には五条袈裟姿の夏油傑。
「すぐるー!」
ぴょーんと傑に抱きつこうとするせいらの頭から、まずは水槽をひょいと受け取り机の上へ。そしてせいらをにこやかに抱きしめる。
そして、灰原雄。
「うわぁ、これが例の羂索さんですか? 本当に脳みそだけなんですねぇ……うわっ! なんか口みたいなのある……もしかしてこれが人類の進化なんでしょうか……」
しげしげと水槽を眺めつつ、引き攣った笑みを浮かべていた。
「…………(水槽の中の羂索が、嫌そうに泡をぶくぶくと浮かべた気がする。)」
「これで全員ですか?」
「妾も参戦じゃ!」
ずざっと天内理子が駆けつけて、一部屋規模の帳を瞬時に下ろす。
「わぁ、だいぶ慣れましたね?」
関心したように灰原は周囲を見回した。
「うむ! 今では誰より帳が上手いと自負しておるぞー!」
両手を胸の前で組んで、むふふと笑みをこぼす。
「つまらねぇことで呼びつけるなよな」
ぬっと伏黒甚爾も登場し、
「なんじゃあ!? ガンたれるでない!! 相変わらず目付きの悪い奴め!!」
理子は殺されそうになった恨みとばかりに未だに甚爾に食ってかかる。
「…………」
甚爾は面倒そうな顔で耳穴をほじる。
「皆、集まったわね──」
そよかが白猫を抱いて後から登場する。
そよかとせいら、そして二人のお師匠様。
更に天内理子、伏黒甚爾、灰原雄、夏油傑。
そして──水槽の中の羂索。
「今から大事な話をします。来年のハロウィン……渋谷で起きることよ」
そよかの腕の中で、目を閉じていた白猫がゆっくりと目を開くと "あなた" と視線が合う。
一同が何かやり取りしていたという漠然とした記憶を植え付けられ"あなた"の意識は次のシーンに向けられるのだった。
呪術学園に帰ろうとしたところで声がかかる。
「あれっ? 七海じゃーん。めずらし! 今日はそよかのお守り休みなの?」
顔をしかめて七海建人はため息をついた。
「私向けの任務が入ったので緊急対応です。
──そよかさんのお守りという言い方は相応しくありません。そよかさんはお一人でも効率良く業務を遂行されますし、護衛という点でも命に関わるような危機はご自身で回避できますから」
「知ってるよー。ただ珍しいから声かけただけだって」
「私が別行動する際の護衛は、何人かあてがあるので」
「今日は灰原あたり?」
「正解です」
「ふーん」
わざと説明を省くみたいに、五条悟が目隠しをずらして片目だけで七海を見てニヤつく。
「なんですか? 包帯から目隠しに変えたんですね」
「そうそう。いや、別に……ねぇ?」
口元をゆるめる五条。そんな五条のニヤけた表情を、七海は心底嫌そうに見返した。
七海は眼鏡の位置を直しながら、「そういう、わかってるけどあえて言わない様子……それが一番嫌いなんですが」と低く呟く。まともな内容に発展しないまま二人の会話は終わるのだった。
『そよか──』
一通りの説明と意見交換が終わり一人と一匹だけになった部屋で、白猫が語りかける。
『あの二人との関係も、今のうちに決着なさい。覚悟は既に決まっているのでしょう?』
そよかは驚きの表情で、小さく声にならない悲鳴を上げる。
しかし、キリと表情を引き締めると、こくりと大きく頷いてみせた。
●14
七海建人が帰宅すると部屋の明かりが消えていた。
まだそよかは帰ってきていないのかと心配しながらも明かりをつけると、ぼんやりとそよかがリビングに座っている。
「そよかさん?」
「あ、お帰りなさい。考え事をしていたら部屋が暗くなっていたわ……食事は済ませてきた? 何か作りましょうか」
立ち上がろうとしたそよかに対して七海は手のひらを下にして、そっと片手をかざした。
「食事は大丈夫です。済ませてきましたから」
そう言葉を返しながらも、自分がさっき送ったメッセージも見ていなかったのかなと心の奥が少しざわついていた。
「そう……建人さん、私──」
思い詰めたようなそよか表情。
少し俯いて、口を噤む。
「そよかさん──」
眼鏡を外して近付く。
「……私、あなたにも悟にも笑顔でいてほしい」
言った瞬間、そよかは自分の言葉がどれほど矛盾しているかを、誰より理解しているような眼をした。
そよかのその言葉は、"論理的な安寧の維持"という自己の目標を、"関係者全員の感情的な幸福"という最も困難な非論理的な目標へと拡張させる、究極の"我儘(わがまま)"であり、"覚悟"の表明だった。
「……そよかさん。その言葉、縛りは……あなたの安寧にとって、本当に論理的な選択なのですか?」
七海の問いに、そよかは真っ直ぐに見つめ返し、先ほど伝えた言葉がどれほど本気なのかを示す。
その瞳には、混乱ではなく、自らの感情的な矛盾を受け入れたことによる固い決意が宿っていた。
その究極の我儘に、七海は一瞬言葉を失う。しかし、そよかの涙のあとを残した真剣な表情を見て、彼女の"覚悟"が本物であることを理解する。
("誰も犠牲にしない"という、最も五条さんに近い、非論理的な理想……しかし、そよかさんが苦しまないという論理においては、これが最善の道なのか……)
七海は思考し、深く、重い溜息をつく。
「……分かりました。そよかさん。あなたの覚悟は、私にとって、最も重い論理です。五条さんと私、両方に笑顔を、ですか。それは極めて非効率で、私自身の感情的な領域に深刻な問題をもたらすでしょう」
七海はほんの僅かに拳を握りしめ──その非論理を、自分の中で飲み込んだ。
そよかを失望させないようにゆっくりと、落ち着いて言葉を選び。
「ですが、あなたの安寧が、その形でしか維持できないのであれば……私は、あなたの論理的な防波堤として、その非論理的な縛りを、受け入れましょう」
ふと微笑んで、七海建人はそよかの身体を抱き締めた。
七海建人は、そよかの究極の我儘を"論理的な献身"によって受け入れた。ここに、"呪術界限定の一妻多夫"という非論理的な"縛り"が、二人の間で成立したのであった。
「正直、後ろめたい気持ちもなくそよかさんと抱き合う事ができるのは嬉しいです……が、あの五条さんがなんと言うでしょうか」
「…………」
そよかも少し俯いて真剣に考え込む。
「私が心配なのは自棄になったあの人が、そよかさんを監禁するのではないかと……いけませんね。そんな風にあなたを心配するあまり、あの人を貶めるようなことを口にしては」
「建人さん……」
微笑み合い自然と顔が近付いていくと、唇同士が重なる瞬間そよかの携帯電話がけたたましく着信した。