【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●19
「ごきげんよう、お嬢さん」
小学校からの帰り道、釘崎野薔薇は突然声をかけられた。
鈴の鳴るような可憐な声だった。
(ご、ごきげんよう!? いまごきげんようって言った!?)
「ごっごごご、ごきげんようです」
「驚かせてしまったかしら? ごめんなさいね。この辺りに少し滞在するには誰に声をかけたら良いと思う?」
白い日傘をさして、白い着物を着ているその女性は一瞬幽霊なんじゃと思うような格好をしていたけれど、その印象を吹き飛ばすほどの美しさと気品、何よりとても良い香りを纏っていた。
「えっと……」
困っている大人は普通子供には声をかけないはず。そんな風に教わっていたことを思い出して少し警戒する。
「バス停からずっと歩いてきたのだけれど、誰にもすれ違わなくてね。困っていたの……あなたが歩いてきてくれてほっとしたわ」
そうだったんだと内心ほっとする。そしてそれは困っているだろうと野薔薇は女性に同情した。
「あそこのに見える家が村長さんの家なんですけど、広い家だから泊まらせてくれたりするかも……もしかしてお姉さんって、呪──」
呪術師だったりするの? と、野薔薇が言いかけると、その女性は自身の口元に人差し指をひとつ近付けてみせる。
「そんなところよ」
(やっぱり呪術師なんだ! 任務か何かなのかな)ついその女性を野薔薇はキラキラとした瞳で見つめてしまう。
「ありがとう……あなた、困っていることがあるでしょう」
唐突に何をと野薔薇は身構えたが、心当たりがありすぎて肩の力を抜く。
「わかるの?」
「──なんとなくね」
「…………」
仲良くなったあの子のことを思い出していた。都会から引っ越してきたあの子……何故だかあの子の家族全員が村のみんなから村八分にされてて──野薔薇は視線を足もとに向けて歯を食いしばる。
「よく目を凝らしてみなさい。悪意の兆しを視認することが、あなたには出来るはずよ」
「はっ!?」
驚いて女性を見ると、そこにはもう女性の姿はなかった。
「……呪術師、ぱねぇ──」
釘崎野薔薇はその後、悪意の兆しを発見すべく目を細め人々を凝視するようになった。すると、ノミのような小さなものが人々の身体についていることを発見する。
そしてそれらは呪力を意識して潰せば駆除できると発見し、野薔薇は喜んだが──何しろ、数が多かった。
クラスメイトの身体についているものを全て駆除したとしても、次の日にはまた復活している。
(どうしろっていうのよこれ──)
頭を抱える。しかし、野薔薇は諦めなかった。
(……一度に全てを祓えばいいんだわ)
家の電話機の近くにあった村祭りのチラシ。それを手に取って息をのむ。
(これよ! このタイミングなら一度に一気に祓える!)
そうと決まればと野薔薇はお祭りの受付担当になれるようにまず動いた。危険物持ち込みしてないかの確認と言って身体に触れることにも違和感を持たれないようにして。
(よし! 順調だわ!)
「来られる人は大体来ただろうから、お祭り楽しんでおいで」と親戚のおばさんに言われて受付の紙をしばらくガン見してから会場内に走り込む。
「頑張っているみたいね」
「お姉さん!!」
数日前に声をかけてきてくれたあの神秘的な女性がいた。
「少しだけ手伝ってあげる」
なんのことかと思ったら、今はもう土地神に奉納する神楽の時間だった。いつも年寄り連中が、間の抜けた曲を奏でる中、年配の女性がくるくるとまわる芋踊りと言われるようなそんなものだったのに。
ひとつ鈴の音が聞こえると、周囲は急に静まり返った。
ふたつ鈴の音が聞こえると、神楽殿に視線が集中する。
「お姉さん……何者……」
踊り手が違うだけでこんなにも違うのかと、神々しい迫力。会場にいる人々の悪意の兆しは清々しいほどに吹き飛ばされていく。
(なら私は!!)
急いで受付まで戻る。あとは来られなかった人をどうにかすれば──。
釘崎野薔薇は悪意の兆しを見事に祓いきった。
元を探れば、身体が不自由になった村長に挨拶に行ったあの子の家族が浮かべた愛想笑いが、笑われたと勘違いして悪意の始まりとなっていたのだ。
これであの子とこの村で一緒に暮らしていけると思ったのも束の間、あの子とあの子の家族はまた引っ越さねばならない事になってしまった。
「──なんだかガッカリだわ」
「そう? あなたはよく頑張っていたし、あの子との関係もかなり良くなっていたじゃない。あの子はあなたにとても感謝していたわ」
「…………」
「もっと成長したいなら良いところがあるけど」
そうして差し出されたのは"呪術学園"の案内冊子だった。全寮制でしかも都内にあると書かれていた。
「まるで私のためにあるような学校じゃない!!」
「でしょう?」
「──ここに行けば、またあなたに会える?」
会えるとも会えないとも答えず、女性はただ静かに微笑んでみせた。
●20
五条悟、そよか、七海建人の三人で新居探し中。
「ここ、いいんじゃない?」
悟は落ち着いた声で外観を見上げながら言った。
「広いし、客間も作れるかも! ……まあ、そよかが気に入ればだけど」
「掃除の手間は増えるわね」
そよかは見取り図を見ながら小さくため息。
「でも、光の入り方は悪くなさそう」
「とりあえず内見してみましょう。五条さんが“祓えるから”と言って事故物件を候補に入れるのは、どうかと思いますけど」
七海は淡々と指摘する。
「だって安いじゃん?」
「問題のあった部屋は五条さんに回します」
「え、なんで?」
悟が眉を寄せると、そよかはすっと目を細めた。
「あなた、そういうの平気でしょ。それに……“似合う”し」
「似合う!? 俺そんなジャンル似合ってたの!?」
「最強なら大体なんでも似合うわよ」
「……五条さん。そよかさんに喧嘩を売るのは勝手ですが、巻き込まないでください」
七海がドアを開けて先に入る。
中は広いリビングで、優しい日差しが差し込んでいた。
「ふーん……いいじゃん。キッチンも広いし、寝室も三つ。そよか、こういうの好きだと思ったんだよね」
悟はゆっくり歩きながら、そよかの反応だけを伺う。
そよかは窓際に立ち、光の角度を見て静かに言う。
「……悪くないわね」
その言葉に、悟の耳がぴくっと動く。
「そよかの“悪くない”は、ほぼ“ここでいい”って意味なんだよね」
自然と後ろから抱きしめる。
今度は乱暴でなく、落ち着いた寄り添い方。
「……ちょっと、建人さん見てるんだから」
「見ていません。なるべく見ないように努力しています」
七海は即答。
そよかは少し頬を赤くし、小声で悟の腕を押す。
「……押しつけないで。あたってる」
「あ、ごめん……」
悟は真面目な声で言った後、ポケットを探ってひょいと取り出す。
「俺の(買ってきた)フランクフルト、食べる?」
「食べない!!」
そよかが0.8秒で拒否した。
七海は眉間を押さえる。
「……五条さん。物件選びに集中してください」
悟は肩をすくめて笑い、そよかの横にそっと立った。
「でも、ほんとにここいいと思うんだよね。そよかが気に入ったなら、俺はもうそれで十分」
そよかは一瞬だけ悟を見て、小さく呟く。
「……そういう言い方を最初からしなさいよ」
七海は黙って頷いた。
(それを最初からしてくれれば、私の負担も減るのですが……)