【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
79宵闇編 1・2:猫のしっぽと誕生日のサプライズ、滝行修行と宿儺の指
●プロローグ
このプロローグは、まだ彼らが呪術学園の生徒だった頃の出来事である。
学生寮建替えのため、高級マンションでシェアハウスをしているメンバー達。午前六時のキッチンには、湯の沸く柔らかな音だけがあった。東の窓からはまだ薄く、冷たい光が差し込んでいる。
そよかは、湯を沸かしたばかりのポットに手を添え、いつも通りの静かな朝を始めようとしていた。その背後に、質量を持った熱がふらつきながら密着した。
「……おはようそよかぁ……」
寝癖もそのまま、精神もそのままの悟の声が、彼女の耳元で囁かれる。
「おはよう。まず顔を洗いなさい」
そよかは淡々と指示した。
「え〜? 厳しくない? 今日俺、誕生日なんだけど〜?」
拗ねた子供のように肩に顎を乗せ、甘えた声を出す。
「知ってる」
そよかは心の中で昨晩思い出したことを認めつつ、表情を変えなかった。
「心拍数上がってるけど〜?」
突如、悟の声にいたずらっぽい響きが加わり、その視線が全てを見透かしていることを示す。
「黙んなさい!!」
自身の動揺を隠すように、そよかはやや強い口調でぴしゃりと言い放った。
その反応が面白くて仕方がないといった様子で嬉しそうに笑い、さらに力を込めて悟はそよかの肩に顎を乗せた。
「今日の予定は……?」
「授業」
「えっ誕生日なのに?」
「うん、授業」
その言葉を聞いた瞬間、悟の背中からは「メンタル粉砕」という二文字が聞こえてくるようだった。背後の力がすっと抜けていく。
最強の呪術師は、まだ知らなかった。この冷たさがすべて「最高のサプライズのための演技」だということを……。
──
そして放課後。更に理不尽なおつかいを依頼された最強の男が外に出て、その背中が完全に視界から消えた瞬間、シェアハウス内の雰囲気は一変した。まるで任務の開始を告げるかのように、部屋に散らばっていた緊張感が一気に収束する。
「急いで! ケーキは冷蔵庫!!」
せいらの張り詰めた声が飛び、部屋の奥から冷たい空気を纏った大きな箱が運び出される。
「照明位置、ここで固定します」
七海は、冷静な声で指示を出し、部屋の中央に配置されたライトの角度を微調整した。
「あいつ絶対凹んでるよ」
禁煙煙草をもて遊びながら硝子は面白そうに言う。その声には、少しの同情と、大半の愉悦が混じっていた。
「悟の帰還まで残り十四分。みんな、効率良く動け!」
傑は、懐から取り出したストップウォッチを起動し、静かながら絶対的な号令を発した。
そよかは、その光景を眺めながら、帰ってきたときのあの顔を想像して、うっすらと口元に笑みを浮かべていた。
やがて廊下の向こうから、疲弊しきった足音が聞こえてきた。ドアが開く。
「……ただいま……」
掠れた、しおしおの声が暗闇に響く。最強の呪術師らしからぬ、弱々しい響きだった。
悟は、暗闇に慣れた眼で手探りで壁のスイッチに手を伸ばす。
ぱちん。
瞬間、部屋は眩い光と音に包まれた。
「悟(五条さん)! 誕生日おめでとう!!!!!」
ライトが部屋全体を染め上げ、テーブルには猫モチーフの凝ったケーキが鎮座している。宙にはクラッカーの音と、金色の紙吹雪が舞った。
悟は、その光景を呆然と見つめた。
「……待って……なんで……? 忘れてなかったの……?」
その声は震え、瞳には戸惑いと、信じられないほどの喜びが混ざっていた。
そよかは、一歩進み出て、その光の中でまっすぐに見つめた。
「忘れるわけないでしょ」
七海は冷静に事実を付け加える。
「五条さんは、愛されていますよ」
「……っ……好き……全員……」
最強の男は、その熱量に圧倒され、感情をあらわにする。
その告白に対し、全員が声を揃えて返す。
「知ってる」
日付が変わる頃、片付けが終わり、喧騒が遠のいた。悟が自室へ戻ると、枕元に小さな「箱」が置かれているのを見つけた。
箱にはそよかの直筆で、「一人になったら開けること」と書かれている。
「……え……なにこれ……」
悟は戸惑いながら箱を開ける。中には、シンプルな細いプラチナチェーンのアクセサリーが入っていた。チェーンの先には、装飾のない流線型のモチーフ。それは、まるで猫のしっぽのような、優雅な曲線だった。
一瞬、悟の脳裏にしなやかな黒猫の姿が描かれる。
そして、そよかがまるで先ほどからその場にいたかのように、どこか照れ隠し顔で部屋の隅に立っていた。
「──似合うと思って」
「……すき」
「は?」
「そよかのことが、好き!!」
悟は声にならないほどの熱を込めて呟く。
「知ってる。……それと、これも渡しとく」
無反応を装いつつも、そよかは頬を赤らめ、彼女は悟の手のひらに小さな御守りのような包みを握らせた。
「これは、お守り?」
「そう。肌身離さず持ってなさい」
悟はそよかからの素直な好意に満たされ、お守りをきつく握りしめると、満ち足りた表情で彼女を抱きしめた。
お守りを肌身離さず──悟は純粋に、そよかとの約束を守り続けるのだった。
●1
虎杖悠仁、呪術学園高等部呪術師クラス一年生。
「恵の親父さん強すぎだろ!!」
先ほどまでの手合わせを思い出して悠仁は言った。
伏黒恵、虎杖悠仁と同じクラスに所属。
「おいちょっと待て、何いきなり名前を呼び捨てにしてんだ」
「だって、伏黒! って読んだら恵のご両親もそうじゃん? あ、あとお姉さんもいるんだっけ?」
「津美紀はもう俺の姉じゃない。今は……遠い親戚みたいなもんだ」
「ふーん。でもやっとあくびされながら組み手されなくなってさ、ようやく俺も強くなれたかなって思えたんだ!!」
「……まだまだだろ」
恵は先ほどまでの悠仁との組み手中、あくびはしていなかったが背中はかいていた。つまりはまだまだそこまでということだ。しかし、自身よりもフィジカルに優れた才能をみせる悠仁を恵も認めつつあった。
「釘崎は今何してるんだっけ?」
「滝行」
「あ、そっか。そうだったそうだった。にしても凄いよなー、この呪術学園。最初の頃は村レベルだったらしいけど、今はもう完全に町じゃん? ゆくゆくは都市とかになるんじゃない!?」
「……かもな」
滝壺に水流が落ちる音が近付いてくる。
「あ! 釘崎発見!! なにしてんの?」
釘崎野薔薇、虎杖悠仁と伏黒恵と同じクラスに所属。白い着物を着て真っ青な顔で大岩に張り付いていた。
「あああ、あんた達! 滝行やばいわよ!」
「「は?」」
「こうして大岩に張り付いてた方が、あたたかく感じるんだから……! 本当よ!」
「やあ二人共!! 滝行修行にようこそ! 向こうでこれに着替えてきてくれ!」
着替えを渡されて近くの更衣室の場所が指差しで示された。彼は灰原雄、七海建人の同期で呪術学園の卒業生、任務のない日は呪術学園で教職を手伝っている。
「入学の時に説明があったと思うけど、呪術学園では呪いとの向き合い方、呪霊との関わり方、呪力の使い方を学んでいくよ!」
勢いよく滝壺に水が落ちる音に負けない大声で、灰原雄は元気に話している。虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇は滝に打たれながらぶつぶつと念仏を唱えていた。
「おーいみんな! 念仏はもっと大きな声で!」
三人の声が大きくなる。
「こ、これ……なんのために──」
悠仁は疑問を口にした。
「意識の有無をこれで確認してるって」
唇を青くした恵が答える。
「あぁ、なるほどーって……釘崎ー!!」
野薔薇が意識を失い倒れて沈んだ。
「おっといけない!」
灰原が飛び込んで救出する。悠仁も恵も野薔薇が助けられてホッとした。
「よーし! じゃあどっちが長く滝行できるか勝負しようぜ!!」
「いや、もう無理だろ──」
水圧に耐えられなくなり恵も倒れていった。
「恵ー!!」
本日の滝行修行……二名脱落で終了!!
●2
虎杖悠仁は久しぶりに仙台に帰ってきた。
伏黒恵の特級呪物回収任務に付き合ってのことだったが、回収だけなら一人でも行けるからと別行動をすることになり真っ先に向かったのは祖父が入院している病院だった。
花を買っていったら「貯金しろ」と言われた。その口ぶりすら少し懐かしさを感じる。
「……悠仁。オマエは強いから、人を助けろ。手の届く範囲でいい。救える奴は救っとけ、迷っても、感謝されなくても──とにかく助けてやれ。
オマエは大勢に囲まれて死ね。俺みたいにはなるなよ──」
「……爺ちゃん?」
そんなやり取りをしたのが数時間前。
「いやーびっくりしたよー。急に爺ちゃん黙るから死んだかと思った」
「縁起でもないことを言うな!」
虎杖悠仁の上着のポケットに入っていた携帯電話が着信する。
「あ、恵からだ」
聞き慣れない名前に祖父の眉がぴくりと動く。
「友達でも出来たのか?」
「友達!? あー……うん。友達と言えば友達……かな。今クラスに三人しかいなくてさ」
「三人!?」
「あ、その一般クラスとかは普通に結構人数いるんだけど。たまたま俺の学年の特殊クラスは三人なんだって。呪術師ってさ、結構凄いんだぜ? 恵の任務が終わったらまた顔を出しに来るから! 出来たら恵も連れてくるよ」
「どんな娘(こ)なんだ? 別に付き合い始めてからでもいいぞ?」
「──付き合ってはいるよ?(恵の任務に付き合って仙台に来ている)」
「付き合っているのか!?」
「え? そんなに驚くとこ?」
「──いや、オマエが……そうか。わかった……それより早く電話に出なくていいのか?」
「あ、行ってくる!」
携帯電話を両手で抱えて通話の出来る共用スペースに走っていく孫の姿を、祖父は目を細め静かに見守っていた。
──
虎杖悠仁の助けを借りて、所在不明だった両面宿儺の指を取り戻した伏黒恵だったが。指に呼び寄せられた呪霊たちを祓うのに必死で、指を持った虎杖悠仁への注意を怠った。
視界の隅で、虎杖悠仁は両面宿儺の指を飲みんでしまう。
「!? お前!!」
虎杖悠仁は片腕で、迫り来る呪霊を祓ってみせた。