【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●15
「はぁ? そよかが一人で出かけたぁ?」
部屋に備え付けのシャワールームから出てくると、傑からそよかの不在を聞かされた。
「──ったく、一人で行動するなってあれほど言ってたのに」
「迎えに行くだろ?」
「……あぁ? まぁ、念のためな」
傑にどうこう言われる前にシャツに袖を通す。
「なんだよ」
「いや、こちらは私に任せてくれ」
含み笑いの傑を残して、俺はそよかを追った。
ホテル近くの海岸に、白いワンピース姿のそよかを見かける。
「おい! 個人行動厳禁って言ったのお前だろ!」
「──あら、心配してくれたの? 別に一人ではないけれど」
そよかが腕を上げると、白猫の姿をした呪霊が一瞬だけ姿を現して消えた。確かにあの呪霊は索敵や目眩しを得意とするところだが、だからといって一人で出歩いて良いという理由にはならないと思った。
「そういうのを屁理屈って言うんだよ。
──外の空気が吸いたいとかなら、せいらか俺か誰か誘えばいいだろ」
「そうね。でも──」
そよかは申し訳なさそうに視線を外す。
「……少し、一人になりたかったのよ」
「ふーん……」
ちらりと隣を歩くそよかを盗み見る。
月明かりに照らされたそよかの横顔は──
「綺麗だ」
「え? あぁ、月が綺麗に見えるわね。都会より空気が澄んでいるからかしら」
「バッカ! バカバカバーカ! お前なー」
「何よ? 夏目漱石のような文学的表現を悟が口にしたとでも?」
「もういい!」
少しだけ早く歩く。それでも普段のそよかなら追いついてくるはずだった。
「どうした? 足を痛めたんだな。反転術式を使えばいいだろ」
振り返り、そよかの目の前に片膝をついて庇っている方の足を見る。
「ほんの少し靴擦れが痛むだけよ。すぐに治るわ」
「へーへー」
立ち上がって肩をすくめながら、俺はそよかに背を向けた。
「それに反転術式を使って今すぐ治してしまったら、あなたの腕を借りる口実までなくなってしまうでしょう?」
片腕にそよかの温もりを感じる。
「……仕方ねーな」
波の音がいつもより近くに聞こえる。自分の胸の鼓動も。
さっきの、もし明日世界が滅ぶならなんで俺といたいと思っているのか聞いてしまいたかった。
だが、さっきの会話を聞いていたなんて知られたら大問題だ……。
「もし、俺が……お前を好きだって言ったら何か変わるのかな?」
ちらりとそよかを見る。なんとも微妙そうな顔をしていた。
「例えばの話だ。間に受けるな」
「何も変わらないわ」
「……そーかい」
撃沈。ならなんだってそよかはさっき風呂場であんなことを言ったんだ? 天内を黙らせるため?
「あなたは五条悟なのよ。今だってお見合い話は後を絶たないし、理子さんの学校であなたが姿を表していたら、さぞちやほやされていたでしょう」
「そりゃそうだろう。俺は五条悟だしな」
ハッとふざけたように笑ってみせてからの沈黙。
──じっとそよかを見つめた。俺の真剣な表情にそよかは戸惑うような表情を浮かべる。
「俺に近付いてくる奴らは、俺が五条悟だから近付いてきてると思ってるよ。でも──」
「……」
「お前は違うだろ? お前は、俺が五条悟じゃなくても側にいてくれると思ったんだ。さっき、お前は『俺がお前を好きだと言っても何も変わらない』って言ったな? 上等だ。俺はお前が、そよかが好きだ。これから毎日俺がお前を意識させる。それでいつかお前から、俺を好きだと言わせてみせる。俺は本気だ」
そよかの肩を掴んで真面目に言った。その甲斐あってか、そよかは頬を染めて俯くように俺から視線を外す。
「──ばか」
これは結構イケてるのでは? そよかの身体を抱きしめる。石けんと潮の香りが鼻腔をくすぐった。
●16
ベランダから遠く、夜の海岸近くを歩く二人の姿を見守っていた。
「あぁいうのが青春っていうのかな──」
二人の近くにいた呪霊が会話の内容を教えてくれる。不思議と自分には縁のないもののように思えた。
「すぐるー?」
せいらが目を擦りながらやってくる。
「目が覚めてしまったのかい? 朝まで寝ていても良かったのに」
「えー? 今日はねむらないでオールで過ごすって、さとるも言ってたし、楽しみにしてたんだよ」
せいらはぶーと頬を膨らます。
「わかったわかった。でも悟とそよかは、帰ってくるまでもう少しかかると思うよ」
ちらりと遠くにいる二人に視線を向けると、
「えー?」
せいらが近付いてくる。そしてベランダから二人の姿を見つけた。
「あー。これは、もしかして、もしかしました?」
にこにこと微笑むせいら。
「そうだね。もしかしたのかもしれない」
「良かったー」
遠い目をして目に涙を溜めるせいらの姿が不思議でつい見つめてしまう。
「──どうして?」
「え?」
涙の雫が頬を伝った。
「あれ……」
せいらが袖で涙を拭う。
「良かったなーと思ったら泣けてきちゃった」
えへへと恥ずかしそうに微笑むから、つい腕を引いて抱きしめてしまった。
腕の中のせいらが身じろぎして上目遣いに私を見る。
「すぐる? わたしは大丈夫だよ。ありがとう」
「……」
「心配してくれたんだよね」
心配して抱きしめたのかと自問自答する。
「──違う」
「ならどうしたの?」
「君は、誰にでも優しいね。博愛とでもいうのか──誰にでも笑顔を振りまいて、無邪気に周囲を明るくしてくれる。私の呪霊に対しても」
そうだ。せいらは誰にでも優しくて、純粋で。
「私の呪霊が喧嘩をする姿を初めて見たんだ。誰が君のところに行くかって、何を馬鹿なって思ったけど君は呪霊を呪霊として見ていないんだね。ひとつひとつを独立した個として接してくれる」
「……」
「私は生まれて初めて嫉妬した。そして思った。君の特別になってみたいって」
「……私の特別でいいの?」
せいらは困った様子で微笑んだ。
「すぐるは我慢しすぎているんだよ。笑いたい時に笑って、泣きたい時に泣いてもいいんだから。それは、私の特別にならなくても出来ることなんだよ」
彼女を独占したいと思う私の気持ちすら、せいらは赦し受け入れてくれる。私の目から涙が溢れ、片膝をついた。
せいらは優しく私を抱きしめ、耳元で囁く。
「私はずっと前からすぐるのことが大好きだよ。
だからすぐるが本当に私を選んでくれるなら、すごくすごく嬉しいことなの。だから時間をかけてゆっくり考えてみて。ね?」
目に涙を浮かべながらせいらを見る。
月光が涙によって屈折して、彼女の背に天使の翼が生えているように見えた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。