【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


80宵闇編 3・4:精神世界の炎魂と古の既視感、指の吐出と過酷な対価

●3

 

 現世を生きる矮小な小僧が、俺の指を取り込んだ。

 小僧の視界が共有され、光も音もなかった世界に変化が生まれる。

(──いい時代になったものだな。女も子供も、蛆のように湧いている)

 

『なるほど、その思考。間違いない。君が両面宿儺だな』

 

 声のした方に視線を向けると、そこには一人の男が立っていた。炎のように鮮烈な、派手な髪色をした男だ。

 奴が纏っている羽織は、白を基調としながらも、裾に向かって黄色と朱色に染め上げられた、見るからに目障りな紋様だ。黒い装束の上から雑に羽織られている。随分と整った顔立ちをしているが、俺から見ればただの雑音にすぎん。

 そして何より特徴的なのは、真っ直ぐに俺を見据えるその瞳(め)だった。

 

 ──遠い昔、同じような目をした人物と邂逅していたことを思い出す。

 

 

 強者として生まれ、生きる日々ほど退屈なものはなかった。

 生意気だと立ち向かうような者はことごとく鏖殺し、逆らう者はいなくなった。

 向けられる感情は畏怖、次に崇拝。

 

 呪術師の家を転々とする女がいると噂に聞いた。

 なんでもひどく美しく、言葉を交わした者は誰でも好意を持ってしまうという。まるで俺と正反対の生き方をする女だった。

 この俺が興味など持つはずもなく、呪術師の家を転々としているのならその内、俺の前にもやってくるのだろうと思っていたが……その時は、俺が出向いてやるまで訪れることはなかった。

 

 女が滞在している呪術師の家を訪れる。この俺を止められるはずもなく、女のいる場所に顔の半分を赤黒く変色させた家主が案内した。

「…………」

 眼前にいる女は眉目が整っていて、山の山頂で大きく息を吸い込んだ時のような澄んだ冷たい空気を纏っている。

 俺は女から声をかけるのを待ってやった。

 長い長い沈黙が、場を支配する。

 耐えかねた家主が声をかけようとしたので、俺はもう片方の頬を叩いて壁面に叩きつけた。

 しかし──この女は何だ? 俺の呪力を見ても、殴打を見ても、その瞳に何の感情も揺らがない。俺に恐怖しない。まるで俺の存在を認めていないかのような、徹底した無関心を装っている。

 

 俺は目の前の白い絢爛な衣装の女に向け、獰猛な笑みを浮かべた。

「俺を崇拝するのか畏怖するのか、どちらかを選べ。この世界で俺に無関心でいられる道理はないだろう!」

 女は俺の咆哮をまるで遠吠えのように聞き流し、ただつまらなそうにため息をついた。

「それはあなたの考える道理でしょう? 誰も彼も思い通りになるなんて、知性を疑われるわよ」

 俺の怒りが沸騰する。千年にも及ぶ自らの絶対性を、一介の女に嘲笑されたのだ。反射的に女を殴りつけようと手を伸ばす。

 しかし、俺の腕は、女に辿り着く寸前で、何もない空間に存在する見えない壁に阻まれて動きが止まった。それは呪力ではない、異質の概念的な障壁だった。

 女は動きを止めた俺の腕を冷たい目で一瞥し、静かに吐き捨てる。

「思い通りにならなければ暴力で解決しようとするの? 知恵の浅い猿ね……あぁ、そんなことを言ったら猿に失礼かしら」

 女はふわりと動くと家主の身体に手をかざした。

 赤黒く変色した皮膚が、変形した骨があるべき場所に治されていく。その治癒もまた呪力ではない異質な理の力だった。

 

 

「──あぁ、そうか。お前はあの女の関係者か」

 瞬間強く身体を引き摺り出されるような圧を感じた。

 

──

 

「……おぇっ」

 ころりと虎杖悠仁の口から、両面宿儺の指が吐き出される。

「本当に……吐き出せた」

「言ったろ? だから厄介なもんを口にした時に吐き出すやり方は聞いてたんだって」

「聞いてたって誰にだ?」

「えぇー? えっとー」

 視線を泳がせる虎杖悠仁。

「はーい。みんな大好き五条先生登場だよー。あ、宿儺の指見つかったんだね。良かった良かったー」

 ひょいと五条悟が突然現れた。

「「…………」」

 虎杖悠仁と伏黒恵は床に落ちたままの宿儺の指を凝視する。

「なんで落としたままにしてんの?」

「どうぞ、持っていってください」

「えぇっ、なんか嫌だなぁ。まぁいいか」

 無下限呪術で手を使わずに持ち上げる。

「じゃあこれ、僕が学園に持ち帰るから二人は適当に帰ってね」

 再び姿を消した五条悟。静かになった虎杖悠仁と二人きりの空間に伏黒恵のため息だけが大きく響いた。

 

 

●4

 

 呪術学園の特別会議室。虎杖悠仁は、五条悟、そして彼の妻であるそよかの三人がそれぞれ向かい合っていた。五条は、先ほど回収した指を透明なケースに入れ、机の上に置いている。

「さて、悠仁」

 五条は真面目なトーンで切り出した。

「君の件で、呪術界の上層部は今、大混乱だ。宿儺の指を食べても自我を保ち、挙句の果てに『吐き出せる』なんて、彼らの常識を根底から覆したからね」

「まあ、そうでしょうね。あの後、恵にこっぴどく叱られましたから……」

 虎杖は自分が規格外の存在となってしまったことを自覚していた。

「指は全部で二十本ある。バラバラに放置しておけば、いつ、誰が、何本集めて、何を企むか分からない。でも、君が指を取り込み、僕の管理下に置くことができるなら、リスクは一点に集中する。その一点(君)は、僕が最強として責任を持って監視できる」

「え? 俺、そんな役割でいいの? でも、真希先輩みたいに呪具持って戦ったりとか何か協力とか出来ないかな? 甚爾さんにもせっかく稽古してもらってるのに──」

「ん? 甚爾さん? あー、あのフィジカルの鬼に稽古をつけてもらったなら、そりゃあ戦いたくなる気持ちもわかるよ」

 五条は表情を引き締める。

「でもね、悠仁。今はちょっとだけ我慢。真希や恵、野薔薇には『祓う』っていう役割がある。君の役割は『封印して運ぶ』。これは誰も、僕ですら君に代わることはできない。真希の呪具で戦うより、君のその『胃袋』の方が、今はよっぽど世界を救う最高等級のアイテムなんだよ」

 五条は続ける。

「それに、心配しなくてもいい。君のそのフィジカルと、甚爾さんに叩き込まれた武術(ブツ)は、いずれ訪れるデカい戦いのために取っておくんだ。僕が全部の指を集めさせるのは、必ず何か戦いが起きるってことだ。君が主役で大暴れできる舞台は、必ず用意される。これはそのための、最強の『準備期間』だと思って、引き受けてくれる?」

 そよかは口を開いた。

「悟……あなた、ちゃんと考えているの? 両面宿儠の指を狙う誰かに虎杖くんが捕まってしまったらそれで終わりじゃない。彼にも自衛できるぐらいの鍛錬をした方が現実的だと思うわ」

 五条は「君の言いたいことはよくわかる」と認め、自衛のための鍛錬は並行して行うと約束した。

「それにね、この呪術学園の倉庫って本当に安全なのかしら……先日せいらが"まーくん"と追いかけっこで遊んでいたら保管倉庫の中にまで侵入していたらしいわよ」

 呆れ顔のそよかに五条の表情が固まった。結界を破られたという事実は、指を分散させておくリスクが極限まで高まったことを意味する。

「そよかの言う通りだ。学園の倉庫は、もはや安全とは言えない。指を分散させておくリスクが、今、結界を破られたことで一気に跳ね上がった」

 五条は虎杖に、決意を促す前に最後の警告を投げかけた。

「悠仁、君の回収任務は『猶予』じゃない。これは、『最優先で安全を確保する』ための作戦だ」

 そよかは鋭い視線を五条に向ける。

「悟、ちゃんとリスクを説明しなさい。両面宿儺の指を体内に蓄えるということは、それだけ危ないことなんだから」

 五条は改めて虎杖に向き直り、冷静なトーンで説明を始めた。

「指は全部で二十本ある。君が指を取り込むたびに、宿儺の呪力は君の体内で飛躍的に強大化していく。十本、あるいはそれ以上を取り込んだ場合、君の『吐き出す理』が耐えきれず、君の自我が完全に消滅し、宿儺に身体の主導権を奪われる可能性がある。そうなれば、僕が君を祓わざるを得なくなる」

 そよかは、五条の言葉に付け加えるように、運命の重さを説いた。

「──想像してみなさい。願いには相応の対価がつきまとうものよ。呪術、いえ、この世の『理(ことわり)』は、一方的な恩恵を許さない。あなたが宿儺を体内に封印し、その上で世界を救うという『願い』を叶えようとするなら、必ず相応の対価を要求されることになるわ」

「もし君が二十本すべての指を取り込み、それでも自我を保ち続けたとしたら──それは君が世界から『何か』を奪われるという対価を支払うことを意味する。それは肉体かもしれないし、君の未来の自由かもしれない。あるいは、君の最も大切な『何か』かもしれない」

 そよかは最後に、虎杖の覚悟を問うた。

「『全てを手に入れる願い』を叶えるために、『全てを失う対価』を支払う覚悟があるか。その『覚悟』こそが、君の魂を宿儺から守る最後の砦になるわ」

 五条悟は身を乗り出し、真っ直ぐに虎杖を見据えた。

「これが、君の背負う運命だ。呪いの王、両面宿儺の指を、残り全部回収する任務。やる気ある?」

 

「それは──五条先生がもしそよかさんといい雰囲気になっていても、俺の中の宿儺の指が狙われていたら助けに来てくれるんですよね?」

 五条悟は、一瞬、虎杖の予想外の質問に目を丸くしましたが、すぐに口元に悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ははっ! 悠仁、君、最高だな」

 五条は片手を上げ、そよかの顔をちらりと確認しましたが、そよかは呆れたような、それでいてどこか少し微笑ましいような表情で、静かに成り行きを見守っていた。

「いいかい、悠仁。僕とそよかは、いつだっていい雰囲気だよ?」

 五条はそう言ってそよかにウィンクを一つ送り、そよかは軽く肩をすくめ。

「でも、安心していい。僕が最強なのは、プライベートと仕事の切り替えが世界一速いからだ。君の体内にある宿儺の指は、僕の『結界』と同じくらい大切なものなんだ」

 五条は、軽く人差し指を立てて、自信満々に断言する。

「もし、君の体内の指が狙われたら、たとえ僕がそよかと──」

 五条は、あえて言葉を切り、そよかをちらりと見て、その後に続く言葉を少し過激なものにした。

「──たとえ、そよかと一番いいところだったとしても、一秒で駆けつける。それが僕の『六眼』と『無下限呪術』の保証だ。それに、僕の愛する妻は、緊急時に僕を拘束するほど野暮じゃないよ」

 五条は、茶目っ気たっぷりに笑った。

「だから安心していい。君が死ぬのは、僕がこの世界を諦めた時だけだ。さあ、どうする? 命を懸けて、僕の監視下で、世界を救う鍵になるかい?」




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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