【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●5
「アゲてけよ虎杖!! 俺とオマエ!! 最後のドロケイだーー!!」
真人こと"まーくん"がテンションMAXで叫ぶのと、学園のチャイムがほぼ同時に鳴った。
泥棒と警察。泥棒役のまーくんと警察役の虎杖悠仁が最後の追いかけっこをする場面だった。
「あー……またチャイムなったー」
しおしおの顔で、とぼとぼとせいらに近付く真人。
「また遊んでもらおうね〜」
よしよしと頭を撫でられて瞬時に猫の姿になる。
「また次の休み時間に遊ぼうな!」
手を振る虎杖に真人はしっぽを振って応えていた。
「せいらは教室戻らなくていいの?」
「ふにゃっ!?」
「中学も授業あるんだろ?」
近くにいた伏黒恵が、虎杖悠仁に近付いて肘で小突く。
「なんだよ」
「せいらさんは学園のOGだぞ! それに、五条先生のそよかさんとは双子!」
「えぇっ!?」
せいらはゆっくりとジト目で立ち上がる。なぜか徐々に頭身が変わって見えていった。
「ゆーじくんは、わたしがまだ中学生だと思ったんだねぇ……」
にこにこ近付きながら、うりゃっと飛び付いてサイド・ヘッドロックをキメるせいら。
「うわわ、このおぱーいは確かに大人です!! 大変失礼しましたっ!!」
「それにせいらさんは夏油傑の奥さんで、もう子供もいるぞ」
呆れ顔の伏黒恵。
「マジか!!」
──
虎杖悠仁の最初の宿儺の指回収任務は、五条悟の監視のもと、特級呪霊や呪詛師の関与が確認されていない、比較的低リスクな地方都市の廃墟に保管されている宿儺の指を回収することだった。同行するのは、伏黒恵と釘崎野薔薇。
任務は迅速に進行した。伏黒の「玉犬」が指の呪力の残穢を辿り、呪霊の妨害を排除する。虎杖は指を見つけるとすぐに体内に取り込み、そして五条悟と合流したらすぐに吐き出す。この『貯蔵』と『確認』のサイクルが、この任務の主要な流れだった。
「もうこれで三本目ってマジ? 虎杖」
野薔薇が顔をしかめる。
「宿儺の指を食って吐いて、また食って吐いてって……アンタ、かなり気持ち悪いわよ」
「うるせえな! でも、なんともない。大丈夫だ、まだ余裕!」
虎杖は明るく答えた。しかし、体内の宿儺の呪力が、確実に以前より太く、強くなっているのを感じていた。
その日の夜、四本目の指の場所として指定されたのは、とある山間部の廃病院だった。
「呪力反応はほとんどないけど、この周辺の住民が不審な『肉の塊のようなもの』を見たって通報があったんだ。呪物じゃなくて、呪霊の可能性もあるから注意してね」
五条悟からの指示は、遠隔の通信で入る。
廃病院の地下、かつて手術室だった場所には、異様な実験器具が並び、不気味な悪臭が立ち込めていた。その部屋の中央、古びたメスが置かれた手術台の上に、目的の指が置かれていた。
「よし、サクッと回収して終わらせるぞ」
虎杖が指に手を伸ばした、その瞬間だった。
部屋の隅、影になっていた場所から、甲高い笑い声が響いた。声に驚いた虎杖がうっかり宿儺の指を床に落とす。
「おや、おや、噂の『呪いの王の愛し子』ですか。まさか、自ら貴重な検体を持ってきてくれるとは、素晴らしい!」
影から現れたのは、白衣を着た小柄な男だった。しかしその顔は、複数の動物の皮膚を縫い合わせたような異形であり、顔の右半分から奇妙な触手のようなものが揺らめいている。
「誰だ、テメェ!」
野薔薇が呪具を構える。
「私はただの探求者、ドクター・ゼロとでも呼んでください。呪霊とは少々趣が異なる。私は、『肉体の可能性』を極めたいだけなのですよ」
ドクター・ゼロは、虎杖の足元に転がっている宿儺の指を見下ろした。
「その肉体は、『呪いの王』という最高の触媒を持っている。これは研究対象として理想的だ。ぜひ、私の『最高傑作』へと変身していただきましょう!」
ドクター・ゼロが手を振ると、手術室の壁と床から、いくつもの異形の管が飛び出し、虎杖めがけて殺到した。
(まずい! 指だけでも回収しないと!)
虎杖は咄嗟にしゃがみ宿儺の指を口に入れて飲み込む。
「虎杖!」
伏黒の呼びかけも間に合わず、虎杖は管に絡め取られ、手術台へと引きずり込まれた。
「やめろ、なんだこれ!体が──」
管から注入された強烈な呪力と、ドクター・ゼロの術式により、虎杖の全身の肉体が急速に変形し始める。彼の皮膚は硬化し、骨格は軋み、背中からは硬い鱗のようなものが生え出し始めた。それは、宿儺の指を取り込んでも「人間」として保たれていた彼の肉体が、強制的に呪物めいた異形へと改造されていく過程だった。
●6
五条悟は愛するそよかを抱きしめ、今まさに唇を重ねようとしていたところ。
「──あ」
悟の声に両目を閉じていたそよかが目を開く。
「どうしたのよ」
「悠仁がピンチみたい!」
「なら早く行きなさいよ!」
どむとそよかに腹パンチをくらう悟。
「キスしてからでもいいじゃん!」
「ダメよ!! 早く行け!!」
「ならせめて、いってきますのチュー!!」
そよかに強く噛みつかれながらも。
「激しめのキスをありがと」
噛みつきを激しめのキスと認識することで、ニヤニヤが止まらない五条悟。そして、噛みつき真っ最中のそよかの額に優しくキスをし、顔を赤くして噛みつきをやめた瞬間に五条悟はにっこり微笑んで姿を消した。
──
管から注入された強烈な呪力と、ドクター・ゼロの術式により、虎杖の全身の肉体が急速に変形し始める。彼の皮膚は硬化し、骨格は軋み、背中からは硬い鱗のようなものが生え出し始めた。それは、宿儺の指を取り込んでも「人間」として保たれていた彼の肉体が、強制的に呪物めいた異形へと改造されていく過程だった。
「ククク……素晴らしい!この肉体の可能性、これが呪術の進化のヒントなのですよ!両面宿儺の呪力を混ぜ合わせれば、『人間』の枠を超えた究極の存在が──」
「虎杖を離せ、このクズが!」
野薔薇は血相を変え、管の根元に『共鳴り』を打ち込むが、管は脈打つ肉の塊のようで、ダメージが通らない。
「チッ、五条先生!早く来いよ!明らかにやべえだろこれ!」
伏黒が叫ぶ。通信機器からは砂嵐のようなノイズしか聞こえず、五条悟からの応答はない。
(おかしい、呪力探知を阻害する術式でも展開しているのか!?)
伏黒は焦燥を覚える。五条先生の「一秒で駆けつける」という言葉は絶対だったはずだ。しかし、このドクター・ゼロは、五条の「六眼による全方位監視」を、何らかの手段で一時的にジャミングしているとでもいうのか?
その数秒の猶予が、虎杖にとっては永遠にも等しい時間だった。
全身の細胞が悲鳴を上げ、皮膚が裂け、骨がねじ曲がる激痛の中、虎杖の意識は遠のきかけた。脳裏に浮かんだのは、会議室でのあの会話だ。
──「想像してみなさい。願いには相応の対価がつきまとうものよ」
──「もし君が二十本すべての指を取り込み、それでも自我を保ち続けたとしたら──それは君が世界から『何か』を奪われるという対価を支払うことを意味する」
ふたりの声が響く。そして、最後の五条悟からの問いかけ。
──「命を懸けて、僕の監視下で、世界を救う鍵になるかい?」
(俺は……なんて答えたんだっけ?)
激痛が感覚を麻痺させる中、虎杖は必死に記憶を辿る。
──あの時、俺は約束したはずだ。
──「対価なんてどうでもいいです」
──「俺がもし、全てを失うことになっても──その対価を払うことで、誰かが笑って生きていけるなら。俺が全部引き受けます」
そうだ、この肉体も、この痛みも、世界を救うための対価だ。ここで屈したら、意味がない。
「う、ぅおぉぉぉお!」
虎杖は絶叫と共に、強制的な肉体変形に抵抗を試みた。その瞬間、体内の宿儺が嘲笑と共に怒鳴る。
『馬鹿め!小僧、俺の指を吐き出せばまだ助かるものを!なぜその身体を捨てるような選択をする!』
宿儺は、虎杖が指を吐き出せば肉体への負荷が減り、変形が止まることを知っていた。しかし虎杖は、あえてそれをしなかった。
「ふざけるな!俺は……吐かねえ!この指は、俺が命懸けで運ぶんだ!」
虎体の変形が進む中、虎杖の魂の核である『理(ことわり)』が、まるで燃える炎のように激しく脈動した。
「ほぅ、実に興味深い!」
ドクター・ゼロは歓喜の声を上げる。
「自らの肉体を対価として、呪いの王の力を封印する魂の理!素晴らしい!さらに変形を加速させましょう!」
ドクター・ゼロの呪力がさらに強まる。
「くそっ、間に合わないのか!先生!」
伏黒が絶望的に叫んだ、その時だった。
手術室の外、病院の屋上を覆っていた広域呪力ジャミングが、まるでガラスのように砕ける音を立てた。
「──やらせねえよ」
轟音と共に、五条悟が手術室の中心に姿を現した。五条の到着は、伏黒の絶叫から、文字通り一秒と違わないタイミングだった。しかし、彼の顔は目隠し越しでもわかるほど険しく、全身から発せられる呪力が、これまで見たこともないほど荒々しく激しい。
広域ジャミングを物理的に引き裂いて転移してきた反動が、彼の「最強の余裕」を奪っていた。
「テメェ……僕の生徒に、何してくれてんだ」
五条は、虎杖の異形に変形しつつある肉体、そしてその原因であるドクター・ゼロを一瞥した。
「チッ、貴様は五条悟!この程度のジャミングでは効果が薄かったか……良いデータが取れたぞ」
ドクター・ゼロが次の手を打とうとする前に、五条の視線が彼を射貫いた。
「──僕がこの世界を諦めない限り、僕の生徒が絶望することはないんだよ」
五条がわずかに手を動かすと、手術室内の異形の管、実験器具、そしてドクター・ゼロの肉体の「全て」が、空間ごと圧縮された。ドクター・ゼロは一瞬にして、『無限』に押し潰される感覚に囚われ、その肉体は悲鳴を上げる間もなく消滅する。
ドクター・ゼロの術式が消滅した瞬間、虎杖の肉体を蝕んでいた変形も停止した。虎杖は呼吸を荒くし、全身の皮膚は硬貨や鱗の名残でボロボロだったが、『人』の形は保たれていた。
「悠仁!大丈夫か!」
五条は一秒の約束を果たした。そして、その一秒が、虎杖悠仁の運命を決定的に分けたのだった。