【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●9
吉野順平が通う公立高校の裏手。そこは、彼にとっての処刑場だった。
母親が助かり、せいらや真人と出会ったことで、順平の心には『自分は変われるかもしれない』という小さな期待が芽生えていた。しかし、学校に戻れば相変わらずの不良グループが彼を待っている。
「おい、吉野。最近なんか顔つきが生意気なんだよ。俺たちのこと見下して、調子乗ってんじゃねえぞ」
リーダー格の男が、順平の肩を小突く。以前の順平なら、ただ俯いて嵐が過ぎるのを待っていただろう。だが今の彼には、指先に灯る「呪力」という確かな力がある。
(……やれ。やっちまえ。こんな奴ら、淀月(クラゲ)の毒で──)
順平の瞳に暗い火が灯り、背後に青い影が揺らめいた瞬間。握り締めた順平の拳を、いつの間にか隣にいた虎杖悠仁が手のひらでそっと包んだ。
「…………」
視線が合うとふっと虎杖は微笑みを浮かべる。
「なんだぁ、お前? 部外者は引っ込んでろ!」
「うーん。部外者じゃーないかな。だって順平とはクラスメイトになる予定だし」
「何言ってんだお前?」
「虎杖くん、いいんだ。これは俺の問題で──」
「いやいや、順平一人に対して複数人で圧をかけるのは良くない! ──でもだからって、力で解決しようとするのはもっと良くない」
真面目な顔で虎杖に言われて、順平は呪力を使って立ち向かおうとしたことを反省した。
「ストレス発散には身体を動かすのが一番でしょ! 俺のこと殴ってみません?」
「はぁ?」
「殴れたら殴り放題。飽きたら終わりでいいんで」
そこからは不良グループの容赦のない拳が虎杖を襲った──が、虎杖は軽いステップでひらりひらりと攻撃を避けて、時には手のひらで不良たちの身体を軽く押して地面に転がしてしまう。
「なんなんだよ! お前はよぉ!?」
「俺? うーん。身体を鍛えるのが趣味になりつつある、ただの高校生だけど……」
「チッ──覚えてろよ!!」
ありがちな捨て台詞を吐いて、不良グループは退場していった。
「……ありがとう」
「いいって……転校の手続き終わった?」
「うん!」
「よし! じゃあ行こうぜ! 呪術学園! 建物もデカいし、メシも美味いぞ!」
順平は、自分を囲んでいた狭く暗い世界が、虎杖という光によって物理的にこじ開けられるのを感じた。
──
虎杖に促され、順平が辿り着いた「呪術学園」は、深い森に囲まれた巨大な城郭のようだった。
そこはただの高校ではない。広大な敷地内には、幼等部から高等部までの校舎が点在し、歴史を感じさせる石畳の道が続いている。
「……ここが、僕の新しい学校」
「おう! 迷子になるなよ、せいらや五条先生も中で待ってるはずだぜ」
二人が正門をくぐろうとしたその時、上空から赤い彗星のような呪力の塊が猛スピードで降り注いだ。
「──悠仁ぃぃい! 私の可愛い弟よ!!」
ドゴォォォォォン!! と轟音を立てて着地したのは、鼻筋に横一文字の紋様を持つ、奇妙な中国装束の男──脹相だった。
「はああ!? 俺のこと弟って呼ぶってことは、もしかして脹相!? なんでお前がここにいんだよ!」
「中国で魂の震えを感じたのだ。お前が新しい道に進もうとしているその胎動をな。悠仁、その横にいる陰気そうな少年は誰だ? お前の新しい弟か? ならば私がまとめて愛してやろう!」
「……え、あの、虎杖くん、この、ガチの不審者は……?」
順平が引き気味に尋ねる。
「……自称・俺の兄貴。昔から文通してて、最近中国からわざわざ来たらしいんだけど、話すと長くなるから今は無視していい──」
そこへ、学園の奥から地響きのような足音が聞こえてくる。
「待てェ! "ブラザー(虎杖悠仁)"及び新入生の歓迎担当はこの俺、東堂葵だ!!」
上半身裸の巨漢・東堂が乱入し、校庭は一気にヒートアップする。
「誰だその、大陸の香りがする偽物の兄貴は! 虎杖のブラザーを名乗るなら、まずはお前の好み(タイプ)の女を言ってみろ!」
「……タイプだと? 俺は弟たちが健康で、共に鍋を囲める平和さえあれば、女など興味はない!」
「チッ、重い……! 兄貴面が重すぎるぞ貴様ぁ!!」
「血の繋がりを主張するガチ兄(脹相)」vs「魂の共鳴を主張する親友(東堂)」。
板挟みになって頭を抱える虎杖の横で、順平は呆然と立ち尽くした。
「……ねえ、呪術師って、もしかしてみんなああなの?」
いつの間にか隣に現れていた伏黒恵が、死んだ魚のような目で答える。
「……慣れろ。ここは、そういう奴らが集まる場所だ」
●10
せいらは真人を連れた任務で京都に向かうため、猫真人の入ったゲージを抱えて新幹線に乗り込んだ。
「えっとぉ、座席はー」
「せいら」
五条袈裟姿の夏油傑が、せいらが座る予定の座席の隣に座っていた。
「すぐるー!! すぐるも一緒に行ってくれるのぉ!? 嬉しい〜。サプライズだ〜」
にこにこと近づくせいらの手から、立ち上がって猫真人が入ったゲージを受け取り荷物棚にのせる傑。
「さ、座って」
「うん!」
肘置きを上げてピッタリと寄り添って嬉しそうにするせいら。
「?」
「どうした?」
「他に乗ってくる人いなかったなーって」
「あぁ、貸し切ったからね」
「貸し切り!?」
貸し切られた静かな車両。ガタンゴトンと心地よい振動だけが響く中、せいらは傑の肩に頭を預けて幸せそうに目を細めていた。
「傑と一緒に任務なんて、なんだか学生時代に戻ったみたい」
「……そうだね。あの頃と違うのは、こうして遠慮なく触れられることだ」
傑はせいらの髪を優しく撫でる。荷物棚のケージの中では、猫真人が「やれやれ、ご馳走様だねぇ」と言いたげに丸くなって寝るフリをしていた。
「ねえ、すぐる。京都に着いたら、任務の前に阿闍梨餅(あじゃりもち)買いに行かない? あと、あの有名なわらび餅のお店も行きたいな!」
「……せいら、一応これから重病人の治療に向かうんだよ? 少しは緊張感を持ったらどうだい」
傑が困ったように笑うと、せいらは悪戯っぽく微笑んで、傑の胸元を指先でつんつんする。
「大丈夫だよ。悟が真人を指名して、私たちがここに来てるんだもん。もう『治る』って決まってるようなものじゃない。それより、せっかく二人で京都なんだから、美味しいもの食べなきゃ損だよ!」
その言葉は、単なる楽観というより、確定した未来を予言する魔女のような響きがあった。彼女にとって、この世界の困難は「どう解決するか」ではなく「解決した後に何を楽しむか」の問題なのだ。
「……君には敵わないな。分かったよ、治療が終わったら、三輪くんたちも誘ってどこか美味しいお店に行こう」
「やった! じゃあ、今からお店のリサーチしなきゃ」
幸せそうにスマホを取り出すせいらの横で、傑はふと荷物棚の猫真人を見上げた。
「おい、真人も聞いただろ。せいらがあぁ言ってるんだ、失敗は許されないからな」
「ニャー(分かってるよ、ボクだって美味しい物が食べたいからね)」
せいらの纏う空気だけは、まるでピクニックにでも向かうかのように軽やかで、光に満ちていた。
「──せいら、せっかく二人きりでいるんだ。調べものは現地の人たちに任せて、今は二人の時間を楽しもうよ」
ひょいとせいらの携帯を持ち上げる。
「えぇ〜? すぐるってばー」
微笑み合う二人。そして、どちらからともなく顔を近づけ──。
しかし、新幹線が京都駅に近づくにつれ、窓の外の景色には、ドクター・ゼロのジャミングの予兆か、微かなノイズが混じり始めていた。