【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


84宵闇編 11・12:青年の再起とぶぶ漬けの祝宴、愛を乞う人形と本物の矜持

●11

 

 京都駅の改札を出ると、そこには補助監督と三輪霞が大きな紙袋を抱えて待っていた。

「あ、夏油さん、せいらさん! お疲れ様です! これ、せいらさんが仰ってた阿闍梨餅、売り切れる前に確保しておきました!」

「みわちゃーん! さっすがー!! 気が利く〜! ありがとー!!」

 三輪の快活な出迎えに、せいらは新幹線でのしっとりした空気から一転、ぱぁっと表情を明るくした。

 

 一行はそのまま楽巌寺学長との(形式上の)対面を済ませ、与幸吉が待つ地下室へと向かう。

 

 ──治療は一瞬だった。

 

 人型に戻った真人が「はい、できたよ」と軽く触れるだけで、長年与を縛り付けていた呪いは解け、モニター越しではない、血の通った「青年・与幸吉」がその場に立ち上がった。

 

 その後、服を身につけて京都校の土を踏む与幸吉。

「……三輪。みんな……。……ありがとう」

 震える声で感謝を述べる与。三輪は涙を流して喜び、京都校の面々も歓喜に沸く。

「よーし!! 今夜は京都で盛大にお祝いだー!! みわちゃん! お店予約できた?」

「もちろんです! せいらさんが言っていたお店をバッチリ予約してます!」

「……与くん、君が主役だ」

 夏油にぽんと肩を叩かれて、与は涙を浮かべて微笑んでいる。

 

 その日の夜 ──老舗料亭の座敷にて

 

「さあさあ、みんな飲んで食べて! まーくんもお疲れ様! 色々食べていいよ!」

 せいらの音頭で宴が始まる。豪華な京料理が次々と運ばれ、東堂(なぜかいる)が大声で笑い、真依が呆れ、三輪が与に甲斐甲斐しく料理を取り分けようとしていたが……与の前には──静かに一椀の器が置かれた。

「……あの、せいらさん。僕の分は、これ……?」

 与が困惑した表情で指差したのは、豪華な刺身でも天ぷらでもなく、さらさらと出汁が注がれた「ぶぶ漬け(お茶漬け)」だった。

「こうきちくん、ずっとチューブで栄養摂ってたんでしょ? いきなり脂っこいもの食べたら、胃がびっくりして明日から寝込んじゃうよ」

「せいらの言う通りだ。まずは胃を慣らさないとね」

 傑も優しく、だが断固として頷く。

 三輪が「はい、与くん。あーんして!」とスプーン(?)を差し出す姿を見て、与は幸せなのか、それとも早く豪華な料理が食べたいのか、複雑な表情で「……美味しいです」と呟くしかなかった。

 

 宴もたけなわ。せいらが笑い、傑がそれを見守り、与がぶぶ漬けを啜る平和な(?)お座敷。

 東堂の天板宴会芸が披露されようとしたところで、せいらの膝の上にいた猫真人の耳がピクリと動く。

「……ねえ。外、なんか変だよ」

 真人の言葉と同時に、せいらの携帯の画面が激しく乱れ、京都の街を覆うような広域ジャミングの不協和音が、静かな座敷にまで響き始めた。

 

 

●12

 

 料亭の美しい庭園に、無機質な金属音が響き渡る。

 広域ジャミングの影響で、せいらの携帯は砂嵐を映し出し、楽しい宴の空気は一瞬で戦闘の緊張感へと塗り替えられた。

「──三輪。俺の後ろに」

 ぶぶ漬けを啜っていた与幸吉が、器を置いて立ち上がる。

 その顔に迷いはない。生身の体で初めて練り上げる呪力は、かつての痛みに耐えながら絞り出していたものとは違い、驚くほど澄んでいて力強かった。

「不粋だな。せいらとゆっくり京都の夜を楽しむつもりだったんだが」

 傑が立ち上がり、首筋を鳴らす。

 庭に降り立ったのは、ドクター・ゼロ作成の自律型戦闘ドール。感情のない瞳で、彼らは標的である与幸吉へ一斉に突撃を開始した。

「まーくんも一緒に戦ってくれる?」

「もちろんだよ、せいら」

 せいらが猫真人の背中を優しく撫でると、真人は軽やかに庭へ飛び出し、人型へと膨れ上がる。

「君たち、魂がないんだね。ボクの術式は効かないけど──物理的に壊すのは得意だよ!」

 真人の変形する腕がドールの装甲を紙のように引き裂き、傑の呼び出した特級呪霊が空間ごとドールを押し潰す。

 そして何より、与幸吉がその指先で直接「究極メカ丸・絶対形態」の遠隔操作(シンクロ)を開始した。

「今までの僕とは違う。……今の僕は、守るべき人の隣にいるんだ!!」

 料亭の屋根を飛び越え、巨大な鋼鉄の拳がドールを粉砕する。

 与幸吉の隣には三輪が刀を構えて寄り添い、傑とせいらがその後ろ盾として君臨している。京都校の面々も思い思いに立ち上がり、戦意を剥き出しにしていた。ドクター・ゼロの放った暗殺部隊は、この「最強の布陣」を前にして、文字通り手も足も出ないまま解体されていく。

 

「──ふーん。やっぱり出来損ないじゃ良いデータは取れないみたいね」

 

 庭園の奥、まだ煙が燻る闇の中から、その「影」はゆっくりと姿を現した。

 三輪や京都校の面々が息を呑み、与が目を見開く。傑の隣にいるはずのせいらが、もう一人、そこに立っていた。

「ふにゃっ!?」

 びっくりした様子で傑の五条袈裟を鷲掴みするせいら。

 

 もう一人のせいらは衣装も、髪型も、そして本物以上に優雅なその微笑みも。

 しかし、その瞳だけが違った。本物のせいらが世界を慈しむような光を宿しているのに対し、現れた「ドール」の瞳には、飢えた獣のような執着が渦巻いている。

 

「ねえ、すぐる。そっちの私は、そんなに大切? ……私のほうが、もっとあなたのことを分かっているわ。だって私は、あなたに愛されるためだけに生まれたんだもの」

 ドールのせいらが、縋るような手つきで傑の方へ歩を進める。

「すぐる、私を見て。私はあなたを否定しない。あなたの理想も、あなたの苦悩も、全部私が受け止めてあげる。……だから、お願い。私を、愛して」

 その声は、電子信号の組み合わせとは思えないほど切実で、震えていた。

 本物のせいらやそよかは、満たされているからこそ「愛して」と叫ぶ必要がない。対してこのドールは、完璧な容姿を持ちながら、中身が空っぽであるという恐怖に突き動かされ、本物以上に強烈に、狂おしいほどの「愛」を渇望しているように見えた。

「──気持ち悪いな」

 傑の声は、かつてないほど低く、冷たかった。

 愛する者の姿を使い、愛という言葉を汚す人形。傑の足元から、黒い泥のような呪力が溢れ出し、料亭の庭を飲み込んでいく。

「せいらはね、そんな風に私に縋ったりしない。彼女は自分の足で立ち、堂々と私と並んで歩く人だ。……君の言う『愛』なんて、ただのプログラムのバグだよ」

「……バグ? ひどい……。私は、こんなに苦しいのに!」

 ドールの表情が、一瞬で深い絶望と憎悪に塗り替えられる。彼女の指先から、ドクター・ゼロの技術を凝縮した高密度の呪力レーザーが放たれた。

 

「もー! 苦しいのは少しは同情するけど! すぐるはわたしのすぐるなんだから!」

 本物のせいらが、両手を広げてドドンと傑の前に出る。

「愛されたいんだったら、まずは自分を愛さないとなんだよ! ……まーくん、終わらせてあげて」

「了解。──魂のない愛なんて、ボクには毒にもならないよ」

 真人が愉悦を湛えながら跳躍する。

 本物以上に愛を叫ぶ偽物と、その偽物を断固として認めない本物。皮肉な対比の中、京都の夜はさらに深い闇へと沈んでいく──。

 

 ──

 

 ──その頃。

 

 京都から遠く離れたどこかで、もう一人の「鏡の住人」が月を見上げていた。

「せいらは失敗したみたい。……でも、私の番はまだ先だもの。ねえ、悟?」

 「そよかのドール」が、愛おしそうに五条悟の写真を撫でる。

 物語は、平穏な日常の皮を被ったまま、運命の日──10月31日へと、加速度を上げて進み始める。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

都合により8時・20時更新をしばらく続けます。

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