【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●11
京都駅の改札を出ると、そこには補助監督と三輪霞が大きな紙袋を抱えて待っていた。
「あ、夏油さん、せいらさん! お疲れ様です! これ、せいらさんが仰ってた阿闍梨餅、売り切れる前に確保しておきました!」
「みわちゃーん! さっすがー!! 気が利く〜! ありがとー!!」
三輪の快活な出迎えに、せいらは新幹線でのしっとりした空気から一転、ぱぁっと表情を明るくした。
一行はそのまま楽巌寺学長との(形式上の)対面を済ませ、与幸吉が待つ地下室へと向かう。
──治療は一瞬だった。
人型に戻った真人が「はい、できたよ」と軽く触れるだけで、長年与を縛り付けていた呪いは解け、モニター越しではない、血の通った「青年・与幸吉」がその場に立ち上がった。
その後、服を身につけて京都校の土を踏む与幸吉。
「……三輪。みんな……。……ありがとう」
震える声で感謝を述べる与。三輪は涙を流して喜び、京都校の面々も歓喜に沸く。
「よーし!! 今夜は京都で盛大にお祝いだー!! みわちゃん! お店予約できた?」
「もちろんです! せいらさんが言っていたお店をバッチリ予約してます!」
「……与くん、君が主役だ」
夏油にぽんと肩を叩かれて、与は涙を浮かべて微笑んでいる。
その日の夜 ──老舗料亭の座敷にて
「さあさあ、みんな飲んで食べて! まーくんもお疲れ様! 色々食べていいよ!」
せいらの音頭で宴が始まる。豪華な京料理が次々と運ばれ、東堂(なぜかいる)が大声で笑い、真依が呆れ、三輪が与に甲斐甲斐しく料理を取り分けようとしていたが……与の前には──静かに一椀の器が置かれた。
「……あの、せいらさん。僕の分は、これ……?」
与が困惑した表情で指差したのは、豪華な刺身でも天ぷらでもなく、さらさらと出汁が注がれた「ぶぶ漬け(お茶漬け)」だった。
「こうきちくん、ずっとチューブで栄養摂ってたんでしょ? いきなり脂っこいもの食べたら、胃がびっくりして明日から寝込んじゃうよ」
「せいらの言う通りだ。まずは胃を慣らさないとね」
傑も優しく、だが断固として頷く。
三輪が「はい、与くん。あーんして!」とスプーン(?)を差し出す姿を見て、与は幸せなのか、それとも早く豪華な料理が食べたいのか、複雑な表情で「……美味しいです」と呟くしかなかった。
宴もたけなわ。せいらが笑い、傑がそれを見守り、与がぶぶ漬けを啜る平和な(?)お座敷。
東堂の天板宴会芸が披露されようとしたところで、せいらの膝の上にいた猫真人の耳がピクリと動く。
「……ねえ。外、なんか変だよ」
真人の言葉と同時に、せいらの携帯の画面が激しく乱れ、京都の街を覆うような広域ジャミングの不協和音が、静かな座敷にまで響き始めた。
●12
料亭の美しい庭園に、無機質な金属音が響き渡る。
広域ジャミングの影響で、せいらの携帯は砂嵐を映し出し、楽しい宴の空気は一瞬で戦闘の緊張感へと塗り替えられた。
「──三輪。俺の後ろに」
ぶぶ漬けを啜っていた与幸吉が、器を置いて立ち上がる。
その顔に迷いはない。生身の体で初めて練り上げる呪力は、かつての痛みに耐えながら絞り出していたものとは違い、驚くほど澄んでいて力強かった。
「不粋だな。せいらとゆっくり京都の夜を楽しむつもりだったんだが」
傑が立ち上がり、首筋を鳴らす。
庭に降り立ったのは、ドクター・ゼロ作成の自律型戦闘ドール。感情のない瞳で、彼らは標的である与幸吉へ一斉に突撃を開始した。
「まーくんも一緒に戦ってくれる?」
「もちろんだよ、せいら」
せいらが猫真人の背中を優しく撫でると、真人は軽やかに庭へ飛び出し、人型へと膨れ上がる。
「君たち、魂がないんだね。ボクの術式は効かないけど──物理的に壊すのは得意だよ!」
真人の変形する腕がドールの装甲を紙のように引き裂き、傑の呼び出した特級呪霊が空間ごとドールを押し潰す。
そして何より、与幸吉がその指先で直接「究極メカ丸・絶対形態」の遠隔操作(シンクロ)を開始した。
「今までの僕とは違う。……今の僕は、守るべき人の隣にいるんだ!!」
料亭の屋根を飛び越え、巨大な鋼鉄の拳がドールを粉砕する。
与幸吉の隣には三輪が刀を構えて寄り添い、傑とせいらがその後ろ盾として君臨している。京都校の面々も思い思いに立ち上がり、戦意を剥き出しにしていた。ドクター・ゼロの放った暗殺部隊は、この「最強の布陣」を前にして、文字通り手も足も出ないまま解体されていく。
「──ふーん。やっぱり出来損ないじゃ良いデータは取れないみたいね」
庭園の奥、まだ煙が燻る闇の中から、その「影」はゆっくりと姿を現した。
三輪や京都校の面々が息を呑み、与が目を見開く。傑の隣にいるはずのせいらが、もう一人、そこに立っていた。
「ふにゃっ!?」
びっくりした様子で傑の五条袈裟を鷲掴みするせいら。
もう一人のせいらは衣装も、髪型も、そして本物以上に優雅なその微笑みも。
しかし、その瞳だけが違った。本物のせいらが世界を慈しむような光を宿しているのに対し、現れた「ドール」の瞳には、飢えた獣のような執着が渦巻いている。
「ねえ、すぐる。そっちの私は、そんなに大切? ……私のほうが、もっとあなたのことを分かっているわ。だって私は、あなたに愛されるためだけに生まれたんだもの」
ドールのせいらが、縋るような手つきで傑の方へ歩を進める。
「すぐる、私を見て。私はあなたを否定しない。あなたの理想も、あなたの苦悩も、全部私が受け止めてあげる。……だから、お願い。私を、愛して」
その声は、電子信号の組み合わせとは思えないほど切実で、震えていた。
本物のせいらやそよかは、満たされているからこそ「愛して」と叫ぶ必要がない。対してこのドールは、完璧な容姿を持ちながら、中身が空っぽであるという恐怖に突き動かされ、本物以上に強烈に、狂おしいほどの「愛」を渇望しているように見えた。
「──気持ち悪いな」
傑の声は、かつてないほど低く、冷たかった。
愛する者の姿を使い、愛という言葉を汚す人形。傑の足元から、黒い泥のような呪力が溢れ出し、料亭の庭を飲み込んでいく。
「せいらはね、そんな風に私に縋ったりしない。彼女は自分の足で立ち、堂々と私と並んで歩く人だ。……君の言う『愛』なんて、ただのプログラムのバグだよ」
「……バグ? ひどい……。私は、こんなに苦しいのに!」
ドールの表情が、一瞬で深い絶望と憎悪に塗り替えられる。彼女の指先から、ドクター・ゼロの技術を凝縮した高密度の呪力レーザーが放たれた。
「もー! 苦しいのは少しは同情するけど! すぐるはわたしのすぐるなんだから!」
本物のせいらが、両手を広げてドドンと傑の前に出る。
「愛されたいんだったら、まずは自分を愛さないとなんだよ! ……まーくん、終わらせてあげて」
「了解。──魂のない愛なんて、ボクには毒にもならないよ」
真人が愉悦を湛えながら跳躍する。
本物以上に愛を叫ぶ偽物と、その偽物を断固として認めない本物。皮肉な対比の中、京都の夜はさらに深い闇へと沈んでいく──。
──
──その頃。
京都から遠く離れたどこかで、もう一人の「鏡の住人」が月を見上げていた。
「せいらは失敗したみたい。……でも、私の番はまだ先だもの。ねえ、悟?」
「そよかのドール」が、愛おしそうに五条悟の写真を撫でる。
物語は、平穏な日常の皮を被ったまま、運命の日──10月31日へと、加速度を上げて進み始める。