【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


85宵闇編 13・14:特別授業と白き師の導き、覚醒の黒閃と水葬の庭

●13

 

「にゃんにゃーん! さとるぅ! たっだいまー!」

 京都に土産を手にした夏油傑と、せいらが猫真人を頭に置いて帰ってきた。

「おー。おかえりー」

「こうきちくん喜んでたよー」

「うん。聞いてる聞いてる。真人もありがとうね」

 猫真人は頭を撫でられそうになったが、長いしっぽで面倒そうに振り払った。

「で、次はさー」

「「次ぃ?」」

 京都から戻った傑とせいらを待っていたのは、五条悟による"特別授業"の提案だった。

 場所は呪術学園の地下深く、特殊な結界が張られた広大な演習場。

 

「恵、野薔薇。……それに順平も。君たちは強いけど、今のままじゃ『これから来る嵐』には耐えられないかもしれない」

 目隠しを外した悟の視線が、教え子たちを貫く。

 そこには、いつも軽口を叩いている"五条先生"ではなく、最強の呪術師としての冷徹な顔があった。

「覚醒(センス)は一瞬。でも、その一瞬を掴むには、生と死の境界に挑む必要がある」

「は? 本気で言ってんの!?」

 悟の合図と共に、傑が大量の特級・準特級呪霊を解き放つ。

「……死なない程度に、徹底的に追い込ませてもらうよ」

 

 数多の呪霊に囲まれ、影すら引き裂かれそうになる伏黒恵。彼はこれまで、常に"誰かのために"自分を抑えてきた。しかし、傍らで戦う釘崎や順平、そして自分を導く悟や傑の姿を見て、ふと遠い過去を思い出す──。

 

 母がいなくなった時のことはもう覚えていない。父がよく外出するようになったのは、俺がなんとか一人で大体のことが出来るようになってからだったか。いや、一人で大体のことが出来るようになったのは父がよく外出するようになったからかもしれない。

 一人で誰もいない部屋にいるのも嫌で、よく公園にいた。そんな時に、

『ごきげんよう、坊や』

「…………」

 声をかけてきた女の人がいた。返事は返さなかったが、つい視線を向けてしまった。白い服を着たきれいな女の人だった。なぜか母の面影を重ねた。

『一人で遊んでいるのね』

 こくりと頷く。女の人が手を組んで、俺に影を見せてきた。

『これなーんだ』

「わんわん?」

『正解、じゃあこれは?』

 女の人が手を組みかえると別の影が現れる。女の人が作った影を当てる遊びをしばらく続けた。

『あなたもやってみたら?』

 促されて同じように手を組んでみる。そうした俺に女の人は密やかに魔法の言葉を耳打ちした。

「ぎょくけん」

 言われた通りに言ってみると自分の影から白と黒の二匹の犬が現れる。

 

 その女の人は、これは俺だけの特別な力だから本当に困った時だけ使うのよと言っていた。そして最後に──。

 

「……ふるべ、ゆらゆら」

 

 俺がたどたどしく言葉をなぞった瞬間、背後の影がボコボコと沸き立ち、巨大で異形な、見る者を震え上がらせる最強の式神・魔虚羅がその姿を現した。

 圧倒的な殺意と威圧感。普通なら、幼い子供なら泣き出して逃げ出すような絶望。

 けれど、その女の人は怖がるどころか、巨大な魔虚羅に向かってひょいと手をかざした。

『やっと会えたわね』

 信じられないことに、最強の式神がその場で"お座り"でもするかのようにピタリと動きを止める。

『さぁ、これで最後よ』

 女の人に手招きされ、俺はおっかなびっくり魔虚羅の前に立つ。

『このこは怖い?』

「…………」

 俺は気圧されながらも、その巨体を見上げた。

「……少し」

『そう。正直ね。でもこのこもあなたと仲良くなりたいみたい。だとしたらどうする?』

「──仲良く?」

 しばらく考えた、俺はそれの身体に触れて撫でた。

 すると、その瞬間。

「──まこぉ〜〜〜……」

 最強の式神は、まるで巨大なぬいぐるみが空気を抜かれたかのように、大げさに後ろへひっくり返った。

 女の人がパチパチと拍手する。

『わぁ、すごい! これで坊やの勝ちね!』

「…………」

 俺は自分の小さな手と、地面でゴロゴロしている"まこら"を交互に見て、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

●14

 

(……そうだ。俺はあの時、式神を『使役するもの』じゃなく、『仲良くなるべき相手』だって教わったんだ)

 数多の呪霊の爪が伏黒に届こうとしたその瞬間、彼の影がかつてないほど濃く、深く広がった。

 悲壮な覚悟ではない。かつて思い出の女性に『勝ちね』と言われた時の、あの純粋な全能感。

「──布瑠部、由良、由良。……来い、魔虚羅! あの日みたいに、また派手に暴れてみせろ」

 伏黒の声に応え、影からせり上がった魔虚羅は、周囲の呪霊を塵も残さず的確に薙ぎ払った。その動きは機械的な殺戮ではなく、主を守る騎士のような忠実さを帯びている。

「……恵、あんたそんなの隠し持ってたわけ?」

 釘崎が驚愕しつつも、不敵に笑った。

「なら、私も負けてらんないわね。あのお姉さんに顔向けできないような戦い方は、もう卒業よ!」

 釘崎の脳裏にも、村祭りの夜に憧れの女性が見せたあの神々しい神楽がフラッシュバックする。

 悪意を視認し、祓う。その感覚を、今この瞬間に再現する。

「──黒閃(こくせん)!!」

 バチィィッ!! と黒い火花が演習場を駆け抜けた。

 一撃。呪霊の核を正確に貫いた釘崎の呪力は、これまでの出力を遥かに超え、周囲の空間そのものを浄化するように爆ぜた。

「ふぅ……。呪術師、ぱねぇって、こういうことでしょ!!」

 息を切らしながらも、二人は確かな手応えを感じていた。

 

 伏黒が巨大な式神を操り、野薔薇が黒い火花を散らす中、吉野順平は冷や汗を流しながら「淀月」を盾に防戦一方だった。

(……すごい。二人とも、一瞬で別次元に行っちゃったみたいだ)

 圧倒的な才能の差。それを一番近くで感じて、順平の心に暗い影が落ちる。

 けれど、その時。せいらの頭の上から、猫姿の真人が「やれやれ」と欠伸をしながら飛び降りてきた。

「ねえ順平。君、また自分を『端役』だと思ってない? せいらが君をここに呼んだのは、観客席に座らせるためじゃないよ」

 真人が人型に戻り、順平の肩に手を置く。

「魂の形を定義するのは、環境じゃない。君の『毒』だ……いじめられていた時のあのドロドロした気持ち、まだ忘れてないでしょ?」

 順平の脳裏に、あの映画館での絶望と、せいらに救われた瞬間の光景が蘇る。

(そうだ……。僕は、もう二度と、ただ見ているだけの人間にはなりたくない!)

「……淀月!!」

 順平の声に応え、クラゲの式神が変質する。

 これまでは身を守るための透明な膜だったそれが、真人の"自閉円頓裹"のヒントを得たことで、対象を閉じ込め、内部から神経毒で"強制終了させる"捕食者へと進化した。

「──『水葬の庭』」

 順平の呪力が広がり、一帯の呪霊を淀月が飲み込む。

 華やかさはない。けれど、確実な死を運ぶその術式に、傑も「ほう」と目を細める。

「いいじゃん順平! 呪術師らしくなってきたねー!」

 悟がパチパチと手を叩く。

「……ありがとうございます。でも……伏黒くんたちのあれ、何なんですか。……まこー、とか」

 覚醒したはいいものの、隣で「まこー」とゴロゴロしている巨体の式神を見て、順平はやっぱり「この学校、おかしい……」とツッコミを禁じ得なかった。

 

 その様子を、悟と傑は満足げに見守っている。

「……合格だね。これでようやく、渋谷の『特等席』に座る資格ができたかな」

 悟が再び目隠しを直し、不敵に口角を上げた。

 

 ──10月31日まで、あとわずか。

 

 子供たちは牙を研ぎ、大人たちは最悪の事態を見据える。

 物語はいよいよ、光と影が激突する舞台の幕開けへと向かうのだった。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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