【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
『やぁ、みんな。聞こえているかい? 特級呪術師の夏油傑だよ。先ほど大画面に映った五条悟の姿を見て、みんなはどう思ったかな? ──今は私からどうこう言うつもりはないよ。ただ、今は渋谷駅の下層で囚われたそよかの心配をしてほしい。渋谷駅の中には呪霊化されつつある一般人、呪霊、呪詛師、そして正体不明の敵対組織がひしめいている。"天元の眼"天内の帳が消えたらそれらは毒のように都内に、いずれ国内に広がっていくだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。
──あぁ、最後に……もし渋谷駅の構内で五条悟らしき人物を見つけても"本人"ではないだろう。なにしろ彼は、愛するそよかを犠牲に助かった卑怯者だ。命をかけて渋谷駅の構内に戻るなんて、当然しなくてもいいことだからね』
メカ丸印の通信機を切り、小さくため息をつく夏油傑。
「相変わらず、ねちっこい物言いじゃな!」
両手を空にかざして、特殊な帳を維持している天内理子が声をかけた。
「そうかい? 絶妙な具合だったと思うけどな。五条悟が裏切り者のレッテルを貼られてしまった以上、私まで疑いの目を向けられる事だけは回避しなければならない。五条悟を信じる者、信じない者──理子ちゃんはどう考える?」
「馬鹿者っ!!妾を見くびるでないわ!! 五条はそよかにラブラブ2000%じゃった! そよかが五条を犠牲にすることはあっても……あるか? 逆はないに当っ然! 決まっておる!!」
天内の物言いに夏油はフッと微笑んでみせる。
「みんながみんな、そう思ってくれたら助かるんだけど……あの画像は、あまりにも出来すぎていた。あんなものを即座に用意できるのは周到に準備をしていた奴らだけだ。一介の呪詛師に出来ることじゃない。そろそろ黒幕が姿を現す頃合いだろう。まるで我々の味方だとでも主張するようにね……」
【虎杖班:渋谷駅・構内】(虎杖悠仁、伏黒恵、吉野順平)
「……夏油さん、何を言ってるんだよ……!」
駅のホームへと続く階段で、順平が震える声で呟いた。虎杖悠仁が所持していたメカ丸印の通信機から流れた夏油傑の言葉は、五条を信じる彼らにはあまりに毒が強すぎた。
「順平、前を見ろ。立ち止まるな」
伏黒が冷徹に告げる。その手は影を作り、常に周囲を警戒している。
「夏油さんは俺たちに『五条先生の心配は後回しに、お前たちがまずは目の前の敵を叩け』と言ってるんだ。……虎杖、行くぞ!」
「おう! 先生を陥れた奴、あんな映像作った奴なんて、俺が絶対に見つけてぶっ飛ばしてやる!」
虎杖が拳を握り込み、地下から溢れ出す改造人間の群れへ突っ込んでいった。
【禪院班:明治通り付近】(禪院直毘人、禪院真希、釘崎野薔薇)
直毘人は傑の放送を聞き、鼻で笑った。
「夏油の小僧、上手いこと言いおる。五条を『卑怯者』として切り捨て、組織の体裁を整えるか」
「……夏油さんらしいな。けど、私には切り捨てたようには聞こえなかった」
真希には直毘人の言い方の方が気に入らなかった。隣にいる野薔薇は、手早く負傷者の応急処置を終え立ち上がる。
「でも、今は夏油さんの『嘘』に乗るのが、五条先生を一番自由に動かせる方法よね」
野薔薇は周囲の状況を確認する。渋谷の街はまだまだ混沌としていた。
【日下部班:道玄坂付近】(日下部篤也、パンダ、狗巻棘)
一般人の誘導を終えたばかりの狗巻が、拡声器を片手に傑の放送を聴き、険しい顔で俯く。
「……ツナ、マヨ」
「棘の言う通りだ。夏油さん、随分と思い切ったことを言う。だが、これで五条先生を捕まえろという『命令』は現場には下りにくくなった。五条先生がここから既に逃げたことになってるなら、わざわざ探す必要もないからな」
パンダが冷静に分析する横で、日下部はこれ幸いと肩をすくめた。
「……だな。最強が卑怯者で逃亡中なら、俺たちが地下の激戦区に行く義理もねえってわけだ。……と言いたいが、そうもいかねえか。パンダ、あそこを見ろ」
日下部が指差す駅の暗い入り口。そこに数機の「白銀のドローン」が滑り込むように入っていく。エンジン音すらしない。呪力も全く感じられない。だが、その洗練された流線型のボディは、呪詛師の杜撰な工作物とは一線を画す、圧倒的な「資本力」を感じさせた。
「……ありゃマズい。呪術の理屈が通じない『何か』が、五条たちを追って駅に潜り込んだぞ。……パンダ、俺はやっぱりここで待機していたいんだが……」
「そうもいかないだろ!! 棘、行くぞ! 誰かが後ろから五条先生を刺そうとしてる!」
「シャケ!」
●18
【冥冥班:明治通り交差点】(冥冥、憂憂)
鴉(カラス)を操り、空からの視界を共有する冥冥は、明治通り交差点の片隅で傑の放送を聴き終えた。隣では、憂憂が姉を崇拝する瞳で見つめている。
「……五条悟が『卑怯者』──ね。夏油くんも大胆な賭けに出た。これで五条家の株価は暴落、呪術界の勢力図は書き換えられる。憂憂、投げ売りされている五条家関連の銘柄を、今のうちに全て買い集めておきなさい」
「えっ、姉様? 暴落しているものを買うのですか?」
冥冥は不敵に笑い、巨大な斧の刃を指でなぞった。
「安く買って高く売る。投資の基本だよ、憂憂。彼が地獄から戻ってきた時、その価値は今の数百倍に跳ね上がる……それより憂憂、あの空を飛んでいる機械(ドローン)を見てごらん。呪力もないのに、術師の動きを正確に追っている。呪詛師の道具にしては洗練されすぎているね……一体どこの資本がこれほどのおもちゃを投入しているのかな」
冥冥にとって、それは「得体の知れない、だが金になりそうな新勢力」に過ぎなかった。
【単独行動班:青山街道】(灰原雄、伏黒甚爾)
「……夏油の奴、相変わらず口だけは回るな」
灰原の背後の闇から、伏黒甚爾が姿を現す。
「甚爾さん……恵くん、駅の方へ向かいましたよ。行かなくていいんですか?」
「あ? 恵ならさっき見た。ガキどもとつるんで必死にやってるなら、俺の出る幕じゃねえ」
甚爾は、不気味に空を舞うドローンを睨みつける。
「……それより灰原。お前、知ってんだろ。あそこで蠅みたいに飛んでる機械や、地下に潜んでる『呪力のない殺し屋』どもの正体を」
灰原は一瞬だけ表情を曇らせ、空を仰いだ。
「そうですね……彼らはそよかさんやせいらさんの師匠から聞かされた例の"彼ら"でしょう。本来の名前を口にしたら、それこそ僕らも狙われかねない──注意して動かないと……まぁでも、怪しいから間違えて切っちゃいましたー!! とかはありですよね!」
灰原はハハハと快活に笑う。
「──呪力のない俺からすりゃ、呪詛師も奴らも胸糞悪いのは変わりねえが、あいつらの『殺し方』は合理的すぎて反吐が出る」
甚爾が特級呪具を肩に担ぎ直す。
「報酬は後で夏油やその師匠とやらに高く請求してやる。俺は、あの無機質な連中をまずはぶっ壊しに行ってくるからな」
「はーい! 僕も頑張ります!」
【せいら率いる呪霊班:渋谷駅・構内】(せいら、禪院直哉、真人、漏瑚、花御)
「ふむふむ。いい感じのアナウンスだったね。なおちゃんはどう思った?」
「はぁ? どうもこうもあるかいな。五条悟があんな阿呆な真似するわけないやろ」
「うん。私もそう思う」
「それで俺らはどこに向かっとるん? まさかそよかを助けに行くんちゃうやろな?」
「わたしたちは、強制的に姿を変えさせられた人たちの救助とー。野良呪霊も助けていくよー」
えいえいおーと片手を掲げるせいら。
「その作業、終わりはあるんかいな──」
呆れ顔の直哉を無視して、せいらは無邪気に突っ走る。
「おや? 君はもしかして野良呪霊かな? お困りなら一緒に行かない?」
白い布を被ったタコのような姿をした呪霊を前に、物怖じせず声をかけていくのだった。
【地下:最短ルートの闇】(五条悟、七海建人)
傑の放送は、地下に潜る二人の耳にも届いていた。
「……傑のやつ、相変わらず一言多いな」
暗闇の中、悟が皮肉げに笑う。六眼は、目前の空間に走る微かな違和感を捉えていた。
「……はい。ですが、おかげで五条さんは表向き『いないはずの男』として暴れられます」
七海が鉈を構え、ネクタイを手に巻きつける。
「──五条さん、この先にいる敵はどうやら私が相手をしなければならない相手のようです。無下限で上手く通過してください」
七海の真面目な物言いに、悟は何も言い返せなかった。
「わかった。気をつけろよ」
悟の姿が消えるのを確認して、七海は一歩その空間に足を踏み入れた。黒い喪服を思わせるようなスーツを着た一人の男がいた。
「──ダメじゃないか……ルール違反は」
「ルール違反? ──人のリクラメーションに土足で踏み入れる。あなたこそルール違反でしょう」
同種の気配を察知した時点で、意識が急速に外部の記憶とリンクする。手にした武器を構え直すと、七海建人の存在は社のエージェントとして置き換わった。
「リクラメーション中の逸脱は、罪に問われないとでも? 逸脱を正すのは、我々の最もシンプルで尊重しなければならない使命だろ。史実通りに君をここで終わりにしようか」
男が片腕を振るうと一瞬大きく炎が揺れた。
(呪物魔装まで持ち込んでいる……だとしたらこの物語に囚われた状態の私が勝てるのか?)
ガタンと大きく物が倒れる音がした。
「あ──」
物影から、補助監督の前田まるこが丸見えになっていた。
「前田さん……あなたは、なんでまたこんなところに──」
「いやー。ちょっと怪しい人を見かけたもので!」
「怪しい人……」
ちらりと男に視線を向ける七海。しかし、怪しさでいうなら前田まるこも負けてはいなかったが、当人は当然気にする様子もなく。
「とうとうしっぽを出したなこの悪党! 七海さんが見逃しても! この前田まるこが見逃しませんからね!! 泣いて謝るなら今のうちですよこんチキショー!!」
調整者の放った炎が、冷たい地下の壁を舐めるように燃え上がる。
呪力とは異なる、物語の「消去」を伴う熱。七海は鉈を低く構え、前田まるこの前に立ちはだかった。
「前田さん、下がってください。休暇中のあなたが私情で動けば、それこそあなたの立場が危うい」
「七海さん……あなた知らないでしょう。優秀なエージェントは"妄想劇場"で休暇を楽しめるんですよ! この物語はエージェントのリクラメーションであると同時に私の"妄想劇場"でもあるわけです!!」
前田が懐から取り出したのは、社から支給されたデバイスか、あるいはこの物語の「小道具」か。
「楽しい妄想が終わる時間はまだまだ先でしょ!? 私はもっと萌えを浴びたいし供給したいんです!! そよかさんとの新婚生活……赤裸々に語ってくれますよね!? これなら協力します(クソ真面目な顔)」
調整者が不快そうに目を細めた。
「……エージェントM。君まで逸脱に加担するか。ならば、君もろとも再請求の対象とする……魔女の亡霊(レムナント)に毒された哀れな末路として、この頁に刻んでやろう」
「へっ、言ってろ三下ぁ!! 七海さん、行きますよ!!」
ここまでご覧いただきありがとうございました。
あとがきの下の方にオリキャラのイラストを掲載しました。
イラストと同じ場所にはキャラクター説明っぽいものがあります。
●メインはpixivで活動しています。
https://www.pixiv.net/users/2225877