【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
90落陽編 1・2:赫き執着の再会、泥濘に沈む蒼き夢
●プロローグ
回想。呪術学園高等部、科目準備室。
『──ようこそ、物語の外側を知る者たちよ。私は、この物語を好き勝手に改変する悪い魔女』
室内のほぼ全員が、思い思いに引き攣った笑みを浮かべた。
「お師匠様。その言い方は、あまりにも過激すぎます……」
「そーだよ! なんでわざわざ自分のことを悪い魔女なんて言うの! お師匠は誰より優しくて、わたしたちの味方になってくれてるじゃん!!」
そよかとせいらの物言いにも動じず。
『既存の物語を改変するようなモノは、どうあっても悪なのよ……悪だと思わないでいてくれる存在が、少しでもいてくれるだけでありがたいとは思うわ』
「それで? その悪い魔女は俺たちにどんな入れ知恵をするつもりだよ。俺としては金になるような内容だと助かるけどな」
史実では覚醒した五条悟に殺された伏黒甚爾が不敵に笑う。
「まったくお主は相変わらずな奴じゃな! このお方にそのような口の利き方をして、よほど命が惜しくないと見える!」
腕を組みフンと鼻息荒く甚爾に声をかける天内理子。彼女もまた史実では伏黒甚爾に殺されていたが、"元星漿体"今は"天元の眼"として活躍している。
「まぁまぁ、穏便に。話しを先に進めてもらいましょう」
せいらの夫、夏油傑。史実では乙骨憂太との戦いで深手を負い呪詛師として五条悟に殺された。
「僕の心は燃えています! この日のためにどれだけ鍛錬を続けてきたか!!」
鼻息荒く拳を掲げる灰原雄。彼もまた史実では土地神クラスの呪霊との戦いで命を落としていた。
『まず、最初に注意しておくけれど。あなた達は改変されなければこの場にいられない者たちであることを忘れないで。特に伏黒甚爾、あなたの奥さんもいずれは子供も改変を絶対悪とする者たちに気付かれでもしたら簡単に消されるわよ』
「チッ……マジかよ」
はいっと灰原が手をあげる。
「もしかしてそれは僕の親友、七海もですか?」
『彼はまた特別な事情があるから……これから起きる渋谷の一件が終わってから、話す機会を設けましょう』
ちらりとそよかに視線を向けた。
「…………」
『せいら、準備をして』
「はいはーい!」
せいらが机の上に置いてあった剥き出しの脳みその浮いた水槽にスピーカーを取り付ける。
「にゃんにゃん! カチッとな!!」
全員が、あ……それ使うんだといった表情になった。
『羂索、現在の状況から推測される最悪のシナリオを話して聞かせて』
「結局、羂索ってなんなんですか?」
ひそひそと夏油に耳打ちする灰原。
「なんでも平安時代の呪詛師らしい」
「うげぇ、マジですか!? それはかなりの年代物ですね……」
──『麗しき、慈悲深い、運命の導き手……貴女様の一助となれること、我が身に余る光栄に存じます』
『前置きはいいわ。完結に』
──『承りました。私という害悪が取り除かれたこの世界は、新たな黒幕を生み出すことでしょう。そして、その黒幕がまず目指すことは──』
──『持たぬ者の守護を生涯の枷とした……五条悟の盤面からの排除でございます』
『その根拠も話しなさい』
──『五条悟の守護を掻い潜り、この世界の変革を遂げる事は不可能に等しい。そして五条悟を知らぬ者は既にこの世界には存在しません。ともすれば、五条悟の排除は計画の序盤で行われると推測されます』
●1
──悟の身代わりになる。
その「縛り」は、まだ青い春の真っ只中、科目準備室の古ぼけた空気の中で決めたことだった。
「えぇ? そよかってば、さとるの身代わりになるのぉ?」
窓際で、せいらが心底意外そうに声を上げる。隣では、お師匠様が白猫の姿で静かにこちらの覚悟を値踏みしていた。
「なによ。悪い?」
「でもさぁ、理子ちゃんの護衛任務の時もだけど……さとる、庇われたりするのに弱いでしょ? 自分が傷つくより、誰かが傷つくのを見る方が明らかにメンタル削れるじゃん」
「……そこは、せいらがフォローしてよ」
「出来るわけないでしょー! わたしだってさとるのあの顔は見たくないもん!!」
軽口を叩き合ったあの日々。しかし、その裏で私たちが共有していたのは"五条悟という最強を、独りにさせない"という、呪いにも似た決意だった。
渋谷のハロウィン、血の匂いが混じる雑踏。
悟を指名しての呼び出しには、裏がある。羂索が予見した最悪の事態──悟の排除──を遠ざけるためには、誰かが「運命の歯車」に指を突っ込み、その回転を狂わせる必要があった。
建人さんのすぐ近くで負傷者の対応をしていた。その瞬間、空間が歪み、胃の底を掴まれるような強烈な眩暈に襲われた。
弾かれたように目を開いた先。そこにいたのは、驚いた自分の顔……ではなく、自分と全く同じ形をした"何か"だった。
「「…………」」
お互い無言でしばらく見つめ合う。
その間に私は自分の身体が獄門疆という呪具に囚われかけていることに気付いた。
(抵抗すればするほど、拘束が強くなるというわけね──)
「私の姿で悟を誘惑しようとでも思ったの? 残念ね。悟は眼がいいから効かなかったでしょ」
「そんなことないわ。傷付いているふりをしたらちゃんと私の心配をしてくれた」
偽物が、うっとりと自分の頬に手を当てる。
「優しい人ね──素敵。ねぇ、あなた。悟を私に頂戴よ」
はぁ? と思わずほんの一瞬、自分の表情が怒りに歪んでしまった。
「悟があなたを選ぶなら喜んであげるわよ。でもね、あなたは私そっくりに作られているのに、少し話しただけで本質がまったく違うって言い切れる」
その言葉が、偽物の逆鱗に触れた。滑らかな肌が怒りで引き攣り、その美しい顔が崩れかけた、その時。
「──そのぐらいにしておきなさい」
冷徹な、しかし音楽のように整ったテノールが闇から響く。
一歩、また一歩。磨き上げられた靴音が、そよかの心音を侵食するように近づいてくる。
「本人を目の前にすることは、混沌を覗き込むようなものだ。あまりの供給過多に処理落ちしてしまうぞ」
それまで恋する乙女のようだった偽物が、瞬時に感情を消し、敬虔な信徒のようにその場へ跪いた。
現れた男は、漆黒の髪を夜風になびかせ、慈悲深い神のような微笑を浮かべていた。
「久しいね。そよか──まともにお別れの挨拶も出来ないまま帰ってしまったから心配していたんだ」
「あなた……サーミル!!」
黒幕候補の一人だった。
(まさか──あの頃からずっと、この時に向けて準備していたというの?)
「五条悟と最後の挨拶を──そう思って色々考えてはいたけれど、まさか君に最後の挨拶をすることになるとはね」
サーミルはそよかの目の前で膝をつき、まるで愛の告白でもするかのように、その赫い瞳を細めた。
「どうだろうかそよか、今からでも私を選ばないか?」
「選ぶわけないでしょう」
「即答か。相変わらずだね、君は」
サーミルの微笑みから熱が消えた。彼は立ち上がり、容赦のない冷徹な眼差しで、立方体の檻を見下ろした。
『獄門疆──閉門』
その瞬間、そよかの視界が赤黒い肉壁に覆われ、四つの目が同時に閉じられる。
「──おやすみ、そよか。孤独な暗闇の中で、私を選ばなかった事を後悔するといい。君の愛する男が立場を奪われ堕ちていく様を、特等席で見せてあげましょう」
そよかの意識は、果てしない泥のような闇へと沈んでいった。
──
苦しくてじたばたともがいていると、急に視界が開いた。
「ちょっとちょっとそよか? 寒いからって布団かけすぎだし、顔まで被ってたら窒息しちゃうでしょ」
さらさらの白い髪、きらきらと輝く蒼い瞳。悟は私が被っていた掛け布団をひょいと取り上げた。
「ちょ、寒っ……」
「一人で寝ると寒いんだったら夫を頼れよなー! 俺が一番おすすめだけど……七海もいるだろ!」
私はむぅと渋い顔をする。
「なんだよその顔。はいはい、俺の奥さんはどんな顔してても一番可愛いよ」
悟が笑って、私もつられて笑った。
──
──そよかは獄門疆の中で眠り続ける。
時折差し込む光を刺激に、幸せな夢を思い出しながら。
●2
静謐な空気が満ちる書斎。
夏油傑は、五条袈裟の袖を机に広げたまま、並べられた呪術師たちの名簿と数多の資料を前に、深く眉間に皺を寄せていた。
それは、来るべき"その時"──世界の落陽に抗うための、あまりにも繊細で残酷なパズルだった。
「うにゃーん?」
不意に背後から、柔らかい重みと体温が傑の背中に預けられる。
せいらが、考えに耽る夫の背中を大胆にも独占するように寄りかかってきた。
「こらこら、せいら。いま大事な考え中だから」
「それって今度やる作戦説明会の人選だよねー」
背中越しに伝わるせいらの声は、どこまでも能天気で、それでいて確信を突いている。傑は筆を止め、苦笑混じりにため息をついた。
「あぁ、そうだよ。正直、どこまでをメンバーに加えるべきか悩んでいてね。……これは、彼らの人生を『改変』という名の闇に引き摺り込むことでもある」
「んっとねー。この人とこの人はなしかな。だって、すっごく口が軽いんだもん。あとこの人も、自分の命より情報を優先しちゃうタイプだよね」
せいらが傑の肩越しに細い指を伸ばし、名簿の数名を迷いなく指差す。
それは、傑が「能力は高いが、性格的な危うさがある」と保留にしていた人物たちと、完璧に一致していた。
「……よく知っているね」
「お師匠がいざという時のために、一人一人の個性や特徴を理解しておけと常々言っていたのです。舞台(物語)の登場人物には『役割』があるんだよーって!」
せいらは傑からひょいと離れると、その場でくるりと回り、両手で小さな輪っかを作って、それを双眼鏡のように覗き込む格好で目の前にかざした。
その仕草は一見すれば子供の遊びのようだが、その指の隙間から覗く瞳は、まるですべてを見透かすお師匠様のそれと同じ鋭い光を宿している。
「どれだけ強くても、物語を壊しちゃうような人は選んじゃダメ。……私たちが守りたいのは、みんなの『明日』でしょ? だから、内緒話がちゃんと守れる、いい子を選ばないとね」
せいらの無邪気な断言に、傑は肩の力が抜けるのを感じた。
自らの大義に殉じ、一度は独りで歩もうとした男にとって、この「メタ的な視点」を持つ妻の言葉は、暗闇を照らす確かな灯火だった。
「……そうだね。君の言う通りだ。技術的な優劣よりも、この『嘘の世界』を共に背負えるかどうか。……それが基準だ」
傑は再び筆を執り、せいらが弾いた名簿から数名を消し、新たな「協力者候補」の名を書き加える。
そこには、表向きには死んだことになっている者や、歴史の影に隠された者の名が、密かに連なっていった。
──
断絶の夜が明けきる前に。
名簿を閉じ、傑は集まった術師たちを見渡した。
会議室に満ちていたのは、重苦しい絶望だ。ドクター・ゼロが突如として世界各地に出現させた『隔離槽(タンク)』。その中に閉じ込められた人々を救う術はなく、あまつさえ、かつての最強・五条悟がその実行犯として「殺害対象」に指定された。
「上層部、および国際連盟からの指令は以上だ。各自、明日からは『五条悟抹殺』を前提とした配置に就いてもらう。……彼を倒すための術式構成、連携のシミュレーション。抜かりなく準備してくれ。合わせて『そよか救出』の調査も行ってほしい。渋谷の地下で彼女の残穢は途切れていた。そこから想定される可能性をまずは洗い出してくれ」
傑の冷徹な言葉に、術師たちが沈痛な面持ちで席を立つ。椅子を引く音だけが、虚しく響いた。
解散の空気が流れる中、傑はふと思い出したように、出口へ向かう背中たちへ声をかけた。
「ああ、それと──」
その足が止まる。
「これから先、さらに寒くなるだろうから……『馬鹿みたいに甘いコーヒー』について話して聞かせている人がいたら残ってほしい。私はどうも、苦味を残してしまうようでね」
その言葉に、ほとんどの術師や補助監督は、「何をこの期に及んで」と困惑や軽蔑を瞳に宿して去っていった。だが、数名だけが、まるで磁石に引き寄せられたかのようにその場に踏みとどまる。
伊地知潔高は震える手で資料を抱え、夜蛾正道はドアノブを掴んだまま、静かに、しかし熱い視線を傑へ投げ返した。
部屋に残ったのは、ほんの数名。
傑は隣にいた天内理子に、短く目配せを送る。
「任せるのじゃ!」
理子が凛とした声で応じると、彼女の手によって幾重もの「帳」が降ろされた。外側の喧騒も、上層部の聞き耳も届かない、完全なる密室。
そこでようやく、傑は張り詰めていた肩の力を抜き、わずかに「夏油傑」としての顔を見せた。
「……残ってくれたのか。さすがだね、伊地知。君ならレシピのメモまで持っていそうだ」
「夏油さん……いまのお話は、つまり」
伊地知の声が裏返る。その瞳には、恐怖ではなく、微かな、だが消えない希望の火が灯っていた。
傑は椅子に深く腰掛け、隠していた「本当の瞳」で彼らを見据える。
「五条悟に関する率直な意見を聞かせてくれないか?」
「は、はい! 五条さんがそよかさんを見捨てて離反する事には……何も、何の意味もありません!」
伊地知が叫ぶように言った。五条の我が儘に最も近くで振り回され、誰よりも彼の「身勝手なまでの深い情」を知っている男の言葉だ。
「──そうだね。その通りだ」
傑が、満足げに目を細めた。
「あいつが何の意味もなく、あんな呪詛師の下に付くはずがない。今の『五条悟』という物語は、あまりにも整合性が取れなさすぎる。……そうだろう?」
帳に閉ざされた室内で、傑の口元に不敵な笑みが浮かぶ。それはかつて、共に最強を謳歌した青い春の日のような、信頼に満ちた笑みだった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
あとがきの下の方にオリキャラのイラストを掲載しました。
イラストと同じ場所にはキャラクター説明っぽいものがあります。
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